ふるさと納税で地域に人を呼び込む仕組み「店舗型ふるさと納税® ふるさとズ」とは?

「ふるさと納税」といえば、インターネットをとおして寄付した自治体の返礼品が、後日送られてくるのが一般的だ。ところが、福岡県久留米市の株式会社サンカクキカク(以下、サンカクキカク)が開発した「店舗型ふるさと納税® ふるさとズ」(以下、ふるさとズ)は、毛色が異なる。地域店でのショッピングの支払いに、ふるさと納税が利用できるのだ。2021年11月のサービス開始から約1年5か月で寄付総額2億円突破、全国20自治体が導入するなど、広がりを見せる「ふるさとズ」。開発の経緯や背景について、代表取締役の宇佐川桂吾さんに話を聞いた。

※「店舗型ふるさと納税」は株式会社サンカクキカクの登録商標。「ふるさとズ」はビジネスモデル登録特許(特許第7282417号)。

宇佐川 桂吾(うさがわ けいご)さん プロフィール
1984年生まれ、福岡県久留米市出身。千葉大学デザイン工学科卒業、千葉大学大学院工学研究科デザイン専攻修了。2012年より久留米市にてデザイン企画事務所「サンカクキカク」を創業。「面白い日常をつくる」を企業理念に、地域に根付いたブランディングを中心としたホームページデザイン、グラフィックデザインの制作や企画をおこなう。IT導入補助支援事業者として ECサイト構築を支援。2021年11月、つくばみらい市にて店舗型ふるさと納税サービス「ふるさとズ」をリリース。2023年7月1日現在20自治体で導入済み。

発送できる商品がなくても参画できるように

「ふるさとズ」を一言でいうと、“店舗型のふるさと納税”だ。提携している自治体の各店舗では、ふるさと納税の返礼品のそばに二次元コードが設置されている。それをスマートフォンなどで読みとってポータルサイトへアクセス。商品を選択し、決済情報など必要事項を入力すれば寄付が完了する。その後、指定の画面を店舗のレジスタッフに提示すると、その場で商品を持ち帰ることができる仕組みだ。開発のきっかけは、なんだったのだろうか?

「ふるさとズ」のポータルサイト

「サンカクキカクは、地域課題をデザインの力で解決することを目的に、2012年に3人で始めました。現在は40人ほどのスタッフが在籍しており、動画・Webサイト・冊子などの制作をおこなっています。観光サイトの制作や地域のプロモーション活動のお手伝いをしていたご縁から、ふるさと納税の管理業務に携わるようになりました。自治体や店舗事業者のみなさんと話をするなかで、ふるさと納税に参加したいけど、体験型サービスや生ものなどを扱っていて“発送できる”商品がないから関われないという事業者がいることに気づいたのです。そこから、地域店の利用料金をふるさと納税で支払える仕組みがあるといいなと、着想しました」

モバイルと対面のよいところを掛け合わせた

「構想を始めたのは、2021年1月からです。当時は新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、テイクアウト需要が増えているときでした。そこにヒントを得て、モバイルで寄付を済ませて地域店で商品を受け取るスタイルを考えました。これなら、いつでもどこでも寄付ができるし、対面のコミュニケーションも生まれます。さらに、地域店にチャネルを置いて、現地でも寄付ができるようにしました。こうすれば、ショッピングの支払い感覚でふるさと納税を利用することができます。また、検索からの導線だと“発送ありき”と思われる心配もあるし、大手ポータルサイトとの競争になってしまうので、検索以外の導線にこだわりました」

地域店に二次元コードを載せた POP を設置。「お支払いは、ふるさと納税で!」との呼びかけと合わせて、ふるさと納税についても案内している

2022年度のふるさと納税利用者は、日本全体で740万人。これは、納税義務者5,900万人の約12.5%に過ぎない(※)。利用していない人のなかには、「寄付の方法がわからない」という方も少なからずいるのではないだろうか。その点、「ふるさとズ」では対面のコミュニケーションがあるため、現地でのサポートが可能になり、利用促進も期待できる。

 

開発段階では、自治体や店舗事業者のフィードバックを受けながら、サービスをつくり込んでいったという宇佐川さん。いまでも日々現場の声を聞いて改善を続けている。

 

「社内にエンジニアもデザイナーもいますので、ご要望に合わせて細かな対応ができるのが我々の強みです。これは、すべての DX においていえることですが、なにかを変えようとするときには、まず“変えてはいけないこと”を決める必要があります。そのうえで、変えてもよいところを1つずつ変えていく。それで、やってみて違うと思ったら元に戻せばいいんです。周囲の理解を得ながら進めていくには、『0』か『100』かではなく、『1』や『-1』の単位で話をしていくことが大切ですね」

(※)出典:「ふるさと納税の利用者はたった13%…どうすれば利用率を上げられるか」経済学部生が考えた具体策3つ | PRESIDENT WOMAN Online

地域の魅力を掘り起こす長期的な支援を

「ふるさとズ」のユニークな点は、現地での飲食やレジャー料金の支払いにも、ふるさと納税が使えることだ。

 

「旅の途中で地域の魅力にふれて、そこでの体験にふるさと納税を利用する。ゆくゆくは、そんな使い方ができるように、地域の観光協会や自治体と協力して、観光と掛け合わせたメニューをつくっていきたいですね。私たちの想いとしては、やっぱり現地に来てもらって自然の美しさや文化に触れてほしいです。『どれだけ寄付が集まったか』という短期的な成果を追うのではなく、『関係人口を増やす』という地域課題に対しての長期的支援を目指しています」

 

そのため、いまはユーザーを増やすよりも、地域店の支援に力を入れているという。DX への理解を深めてもらうため、事業説明会で ITツールの活用方法などもレクチャーしている。

 

「『ふるさとズ』の導線を店舗に置いておくだけでは寄付は増えませんし、地域の活性化も見込めません。大切なのは地域や店舗に来てもらうことです。だから、現在はユーザーを増やすよりも先に、店舗の Webサイトをつくったり、返礼品を一緒に考えたりといった事業者の支援に力を入れています」

地域も事業者も元気になる仕組みに育てたい

「寄付はあくまでも入口」と語る宇佐川さん。今後はどんな事業展望を描いているのだろうか。

 

「いまは店舗を起点とした集客が中心ですが、地域店の整備ができたらオンラインによる集客も進めていく予定です。そこから各地域の観光客を増やしていきたいですね。

そのために、地域のプレイヤーの方々とつながって、イベントを仕掛けていくことも考えています。過去にも、地域のお寺を借りて音楽イベントを開催したことがありました。こういったイベントを企画することで、新しい観光客を呼び込むことができ、地域の魅力に気づいてもらえるんです。そしてその地域のファンになったら、その場で地域を応援するための寄付をしていただける。そんなふうにサービスを発展させていきたいですね。

 

現在のふるさと納税は、納税者と地域の関係が一過的になっている気がします。そうではなく、地域の魅力を知ったうえで寄付をし、地域に貢献できたことを実感できることが理想だと思うんです。たとえば、寄付によってイベントやコミュニティの場が生まれるなど、カネとモノのやりとりだけではない関係性をつくることで、もっと地域や事業者が元気になっていくのではないでしょうか。その役割を担えるような事業に『ふるさとズ』を成長させていきたいですね。」

 

株式会社サンカクキカク