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羽田空港でAIキャラクターが観光案内! SpiralAIが挑む、生成AIによる“人間らしさ”の再現

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友達のように、自然な会話をAIキャラクターと楽しめる。そんな漫画のような未来に近づいている。大規模言語モデルなどのAI技術を用いたサービス開発をおこなうSpiralAI株式会社(以下、SpiralAI)では、2024年11月12日から多言語に対応した生成AIキャラクター「ケンゾウ」を活用し、ヤマトホールディングス株式会社との実証実験を羽田空港で実施した。本取り組みについて、SpiralAIの深沢さん、橋本さん、運営Mさんに話を聞いた。

深沢 由斗(ふかざわ よしと)さん プロフィール

SpiralAI セールスマネージャー
2018年、新卒でレイス株式会社に入社。SMB〜MM〜GBマーケットの企業経営者(代表取締役)に対して経営改善の企画・提案を担当し、入社2年目で同期最速でチームリーダーへと昇格。その後、2021年に弁護士ドットコム株式会社へと転籍し、電子契約SaaS『クラウドサイン』のフィールドセールス・新人社員向けのコンテンツ作成の企画・推進を担当。2023年、株式会社エクサウィザーズに入社。画像解析AIを活用した介護向けSaaS『トルト』のBizdev、PMM、PLG推進に当たっての企画・進行管理を担当。2024年にSpiralAI株式会社に入社。Bizdevの1人目メンバーとしてジョインし、独自LLMを活用したエンタープライズ企業向けサービスの事業責任者として従事。
本取り組みでは、プロジェクトの全体統括を担当。

橋本 雅弘(はしもと まさひろ)さん プロフィール

SpiralAI ディレクター
2022年、株式会社マネーフォワードに入社。リスティング広告を中心とした広告運用や、コンテンツの企画・ディレクションなど、デジタルマーケティングの戦略立案から実施まで幅広く担当。2024年、SpiralAI株式会社に入社。ディレクターとしてマーケティング・広報・新規事業開発・プロジェクトマネジメントなどに従事。名鉄グループとヤマト運輸のプロジェクトではPMを担当。

運営Mさん プロフィール

株式会社YostarおよびYostar Picturesにて広報・PRを担当。ゲームタイトル「アズールレーン」では、生放送企画や宣伝施策の立案・実行を担当し、ユーザーに寄り添った広報活動を展開。2024年、SpiralAI株式会社に入社。企業広報として、プレスリリースやメディア対応、全社的な広報戦略を推進。ヤマト運輸のプロジェクトでは広報業務を担当。

エンターテインメント性のあるAIキャラクター事業が強み

AIの利活用が進むなか、「法人向けにAIサービスを提供する会社の多くは『ビジネスに特化している』用途を想定しているところが多い」と広報担当の運営Mさんは語る。対して、SpiralAIが目指しているのは、キャラクター性を重視したエンターテインメント性のあるAIの利活用だ。AI技術の発達を見て、同社代表が「“ドラえもん”を現実化できる時代が来る」と思ったというエピソードからも、SpiralAIがAIを使って実現したい世界観が伺える。

過去には名鉄グループと共同で、AIキャラクターを土産物店の集客・販売促進に活用する実証実験もおこなった。日本の強みでもあるキャラクターの可能性を、AIを活用することで広めたいというのが同社の想いだ。社員のなかには、AIに長けたエンジニアというだけではなく、キャラクターやエンターテインメントが好きな人が多いのだという。

深沢 由斗さん

現状、キャラクターをAIに活用している企業は少ないと深沢さんは語る。サイネージ上に選択肢を提示し、決められたセリフをしゃべらせるだけであれば、他社でも取り組み事例がある。しかし、既存のキャラクターをAI化して人と自由会話できるようにするには、キャラクターの口癖や口調まで再現する必要があり、そこにこだわれる企業はまだまだ少ないのだという。

では、自由度の高いオリジナルキャラクターを作ればいいのではないかという話もあるが、そのためには自社でキャラクターを生み出さなくてはならず、また別のハードルがある。

「弊社の社員の多くは、キャラクターやエンターテインメントに関心が高く、お客さまへの伴走を得意とするコンサルタント出身者が多いことから、オリジナルキャラクターの制作から取り組めるのが強みです。一方、既存キャラクターや芸能人をAIコンテンツにする開発力もあるため、AIキャラクター事業を幅広く展開できるのです」(深沢さん)

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スタートから2か月ほどでオリジナルキャラクターを作り、実証実験へ

同社が開発したAIキャラクター「ケンゾウ」は、おもに訪日観光客に向けて観光案内や荷物の送り方を案内する。羽田空港の第2・第3旅客ターミナルにあるヤマト運輸の国際線手荷物カウンターにて、2024年11月に実証実験がおこなわれた。

「ケンゾウ」の取り組みは、当初よりヤマトホールディングスと、独立系ベンチャーキャピタル大手のグローバル・ブレインと共同で運営するCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund(以下「KIF」)」ともにおこなわれた。KIFに取り組みを紹介した際に尋ねられたのは、「物流業界の効率化にAIキャラクターを活用できる余地があるか」。訪日観光客に向けて「宅急便」の認知度を高めたいというニーズがあったという。そこから具体的に話が動き始め、現場社員へもヒアリングをおこなうことになった。

「羽田空港で働く方たちからは『多言語対応が難しい』『訪日観光客が多く訪れる場所なため、鉄道の乗り方などのお問い合わせが多い』と具体的な声が寄せられました。そういった課題の解決にAIキャラクターを活用できるのではないかと思ったんです」(深沢さん)

ヤマトグループといえば黒猫のイメージがあるが、今回の取り組みでは2社がワークショップを開き、イチからオリジナルキャラクターを作ることになった。コストと時間をかけて既存キャラクターをAI化するよりも、自由度の高いオリジナルキャラクターを作ることで、より現場に即したニーズに対応できるAIキャラクターを開発することの方が重要だと考えたのだ。

プロジェクトのスタートは2024年の8月。その後、2社によるワークショップでキャラクターのイメージを固めたのち、2か月ほどでキャラクターを作り上げ、年内の実証実験にこぎ着けている。

ワークショップは、同社から5名、ヤマトグループから5名ほどが参加しておこなわれた。当時のSpiralAIには日本人社員しかいなかったため、オール日本人となったが、ヤマトグループからは韓国籍と中国籍の社員の参加があり、「大変多くの学びがあった」と深沢さんは言う。

「日本人だけで話し合うと、どうしても日本人目線で『良い』と思う要素ばかりになってしまい、訪日外国人の目線が入りにくくなってしまいます。見た目は丸みを帯びているほうがいいのか、尖っているほうがいいのか、色合いは何がいいのか……。バックボーンが異なるメンバーから意見を募れた有意義なワークショップになりましたね。それらの要素を吟味し、ケンゾウくんのビジュアルを決めていきました」(深沢さん)

「ケンゾウくん」のビジュアル検討時のラフ。最終的には中央上部の忍者風のキャラクターに決定した

開発側のチャレンジとなったのは、「カメラを搭載し、人を認識して会話を開始できる仕様にしたことだった」と橋本さんは振り返る。これまでは画面に触れながら話す仕組みだったが、人間らしさを追求するには、立った人に話しかける形を目指したかったという。

橋本 雅弘さん

「人によって身長が異なるため、AIが相手を認識する際には考慮が必要です。また、その人が荷物を待っているのか、それともAIキャラクターと話したいのかを判別する必要もあります。そこで、顔がケンゾウくんのほうを向いていたら『話し相手』だと認識する機能を開発しました。また、『AIキャラクターと話す』という経験は、まだ一般的なものではないため、会話の自然な動線を設定するのも難しかったです。

あとはデバイスも検討を重ねました。にぎやかな場所に設置するため、ケンゾウくんの声は届いても、話者の声がケンゾウくんに届かないことがあるのが課題で、マイクは何を使うのか、どこに設置すればいいのかを試行錯誤しましたね。まずはオフィス内のパソコンで開発を進めていったのですが、パソコン上でもサイネージ上でも、数え切れないぐらいケンゾウくんと話しました(笑)」(橋本さん)

目指すは「AI友達」の実現。これからも「人間らしさ」を追求

実証実験中にもらったフィードバックを受け、適宜改善していったという。そのうちの1つが、第2・第3という2つの旅客ターミナルにいるケンゾウのデータを分離させることだった。

「データが1つだったため、発話自体は間違っていないものの、場所によっては内容がずれてしまうことがありました。あとは空港内のレストランの場所など、質問内容への回答データの追加も随時おこないました。プロンプト(AIへの指示)を調整することで対応できることはすぐに実施できましたので」(橋本さん)

「思っていた以上にしゃべっていただけた」と深沢さん。期間中、ケンゾウの発話回数は2,400回に上る。そのうちのすべてが案内ではなく、ふつうの会話も含まれていた。子どもたちからの反応もよく、AIキャラクターの可能性を感じられたという。一方、実際に子どもたちから話しかけられることで見えてきた課題もある。

「想定以上に幼い子どもたちが話しかけてくれたことで、身長的にカメラやマイクの位置を調整する必要があるとわかりました。また、子どもたちは動き回るので、途中で会話が終わった扱いになってしまい、再び『はじめまして』となってしまうことも課題でした。難しいところではありますが、生きたキャラクターとしてよりコミュニケーションが自然な形になるよう、今後もアップデートしていきたいです」(橋本さん)

実証実験期間を終え、一旦役目を終えたケンゾウ。継続した取り組みとなるかどうかは、今後の相談次第だ。本取り組みを通じて、「賢いだけではなく、エンタメ性に富んだAI実装に今後も注力したいです。ケンゾウくんによる気づきや学びを活かし、また他社とコラボレーションし、エンタメコンテンツを届けたいですね」と深沢さんは意気込む。

運営Mさんは「エンタメ性を高めることで、AIの良さを知ってもらいたい」と語る。

運営Mさん

「AIに対して漠然とした不安を抱く方も多く、『仕事のあり方が変わるのではないか』と考える方もいるかもしれません。でも、それは使い方次第です。例えばAIが単純作業をサポートすることで、人がより創造的で付加価値の高い仕事に集中できるようになります。そして、AIは業務の効率化だけでなく、人とのコミュニケーションやエンターテインメントの分野でも可能性を広げられる存在だと考えています。AIキャラクターのように楽しいものを打ち出すことで、ポジティブな使い方を広めていきたいです。『目指せAI友達』を掲げ、日本のキャラクター文化の強みも活かしていきたいですね」(運営Mさん)

「当社は、『人間らしさに、技術の力で挑戦する。』というチャレンジを掲げています。AIやカメラ、マイクという技術によって、耳、目、頭に近い機能の開発は進んでいます。あとは“人間らしさ”です。人間らしい会話体験にはまだまだ程遠いので、今後も『人間っぽい会話って何だっけ?』を突き詰めながら、プロダクトに落とし込んでいきたいです」(橋本さん)

3人ともが「ケンゾウくん」と「くん付け」で親しげに話題に出すのが印象的だった本取材。ただの機械としてのAIではなく、「AI友達」を目指していることが伺えた。AIアシスタント機能を持った機器に、エアコンや照明を消してもらうことが自然になっていったように、AIキャラクターと会話することが自然になる日も遠くないのかもしれない。

SpiralAI株式会社

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執筆

卯岡 若菜

さいたま市在住フリーライター。企業HP掲載用の社員インタビュー記事、顧客事例インタビュー記事を始めとしたWEB用の記事制作を多く手掛ける。取材先はベンチャー・大企業・自治体や教育機関など多岐に渡る。温泉・サウナ・岩盤浴好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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