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社会的課題解決のための手法の1つとして、少しずつ浸透している有償ボランティア。医療、福祉、介護の有資格者と、そのサポートが必要な人がつながり合うプラットフォーム「さぽんて」も、有償ボランティアで成立しているサービスだ。同サービスを運営する特定非営利活動法人あえりあの代表理事である高橋亜由美さんに、サービス開発の背景と経緯を聞いた。

高橋 亜由美(たかはし あゆみ)さん プロフィール
特定非営利活動法人あえりあ代表理事。2009年北海道大学医学部保健学科看護学専攻卒業後、大学病院のICU、人工呼吸器特化の病院、訪問看護などで経験を積み、現在は医療的ケア児や重症心身障害児が通うデイサービスにも勤務している。2021年にNPO法人あえりあを設立し、代表理事に就任。
リクエストはオンライン、サポートはリアルで

NPO法人あえりあは、2021年に設立された、札幌市を中心に活動をおこなう法人だ。「さぽんて」の運営のほか、健康教室や、介護・福祉関連のイベントセミナーを実施している。
「さぽんて」は、医療、福祉、介護の有資格者と、そのサポートを必要とする人がつながることができるプラットフォームだ。「さぽメン(サポートするメンバー)」に対し、そのサポートを必要とする「リクさぽ(サポートをリクエストしたい個人)」や、医療、福祉、介護施設などの法人がサポートをリクエストする。
「リクさぽ」と法人は、サポートしてほしい内容を掲示板に投稿。それに対応できる「さぽメン」が手を挙げ、サポート内容や報酬のすり合わせをおこなったのちに、サポートを実施するという流れだ。
サポート内容は一緒に外出、休息の間の見守り、用事を済ませる間の留守番などがあり、医師の指示書があれば医療的ケアも可能。障害児や高齢者だけでなく、きょうだい児(障がいや病気を持つ子のきょうだい)もリクエスト対象だ。基本的には有償ボランティアであり、1時間あたりの報酬の目安は千円から2千円だ。しかし、交渉次第で、同行してもらうライブのチケット代やランチ代を支払うといったように、金銭によらない報酬もある。
活動範囲は札幌が中心だが、札幌市外の人(リクさぽ)が札幌市を訪問する際にサポートを求めたり、札幌市在住の人(リクさぽ)が東京を訪問する際に、東京の「さぽメン」がサポートしたりするといった利用も想定している。
2025年6月時点での登録数は、「さぽメン(サポートするメンバー)」が132人、「リクさぽ(サポートをリクエストしたい個人)」が20人、法人が5法人だ。
「昔であれば、困ったときは町内会やご近所さん同士で助け合っていました。いまの時代はそれが難しくなっていますが、『お手伝いをしたい』と思っている人はたくさんいます。『さぽんて』というオンライン上のプラットフォームと、リアルな場でのお手伝いのハイブリッドで、昔ながらの支え合う社会を再現したいと考えています」(高橋さん、以下同)
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仕事を通じて医療の隙間を埋めるアイデアを発想

看護師免許を持ち、現在も看護師として週4日働いている高橋さん。学生時代には3年間、脳性麻痺の方を対象とした有償ボランティアをおこなっていた。卒業後からいまに至るまでは、札幌市独自の介助制度である「パーソナルアシスタンス制度」に登録。同制度の活動をするほか、先天性疾患のある長女と、脳出血で倒れた父を持つ知人家族を、複数の看護師等と一緒に個人的にサポートしていた経験を持つ。これらの経験を通じて、月に1、2回程度でもよければサポートをしたい人や医療保険や介護保険、勤務先のルールの範囲内でしか患者やその家族の要望に沿えないことに、もどかしさを感じている人が多くいることを知ったという。個人事業主や民間企業が提供する自費サービスもあるが、決して安くはなく、すべての人が気軽に利用できるわけではない。
こうした経験から、医療・福祉・介護の制度の隙間を埋める必要性を感じ、「さぽんて」の構想を徐々に練るようになっていた。
試行錯誤の結果、自身で特定非営利活動法人を設立
当初はアクセラレータープログラムやスタートアップスタジオに応募し、サービス展開を考えていた。ところが、それらを利用するには、利益を出さなければいけないという制約があった。
「医療、福祉、介護のサポートを受けることは、嗜好品ではありません。ですから、サポート提供で大きな利益を出すことに違和感を覚えました」
そこで、医療的ケア児、重症心身障害児向けデイサービスを提供しており、現在も高橋さんが勤務する医療的ケア児や重症心身障害児が通うデイサービスに、「さぽんて」の素案を提案。すると、「他人の法人だと、いずれビジョンが実現できなくなるから、自身で法人を立ち上げたほうがいい」と背中を押され、特定非営利活動法人の立ち上げを決意した。
そして、資金調達のために2021年6月にクラウドファンディングを実施。設立前にもかかわらず、計246人から261万8千円が集まり、目標金額を達成した。
「看護師として長く働くうちに、日々の業務のなかで、仕事への希望や楽しさを忘れてしまう人もいます。もし、職場以外で看護師の能力やそれ以外の特技を発揮できる環境があれば、やりがいにつながったり、新しいことに挑戦したりでき、本業の離職も減らせるかもしれないと考えました」
有償ボランティアにしたのにも理由がある。サポートを受ける「リクさぽ」目線からすると、自費サービスを利用する経済的な余裕はないが、無償で繰り返しお願いすることもまた、抵抗があると感じる人が多いからだ。有資格者からすると、無償よりは継続するモチベーションを維持しやすく、責任も生まれるだろう。
リアルイベントを通じて、登録者数が増加

サービス提供開始直後は、「さぽメン」「リクさぽ」が思うようにつながらないこともあった。一方で、うまくつながった例を見ると、高橋さんともともとつながりがある人が中心だったという。そこに目を向けた高橋さんは、登録者が参加できる「さぽメン」交流会、健康教室、介護・福祉関連のイベントセミナーなどを実施し、参加者同士の連携を深めるとともに、サービスの認知度を高めた。
「リアルでのイベントでいい人間関係を構築できることが、『さぽんて』の活性化につながっています。オンライン上のプラットフォームではありますが、リアルでの交流とセットです。最近では、私の知人以外の登録とつながることが増えており、手応えを感じています」
実際に「さぽんて」を利用した人の意見はどうだろうか。「リクさぽ」からは、「医療的ケア児のサポートを『さぽメン』にお願いしたことで、きょうだい児に我慢をさせずに、思いっきり遊ばせることができた」「医療職の資格を持つ『さぽメン』に依頼できたおかげで、障がいを持つ子どもの状況をずれなく理解してもらえて助かった」などの声が上がっている。
また、「さぽメン」からは「看護師の資格を活かしながら、本職につながる縁や知識が増やせ、貴重な経験を積めた」といった声がある。これらの評価から、高橋さんのねらいどおりに運用されているといえるだろう。
「お互いがgiver」の関係の輪が広がることを願って

現在は札幌市が拠点だが、今後は活動拠点を広げることや、増やすことも検討しているという。
「『さぽんて』が多くの人の刺激になり、『自分たちの地域でもやってみよう』と思ってもらえるのが理想です。『リクさぽ』はサポートをしてもらえる、『さぽメン』は仕事ではできないことような経験や発見がある。そういった『お互いがgiver』という助け合いの輪が広がることを祈っています」
最後に高橋さんから、家族の医療、福祉、介護をサポートする人に向けてメッセージをもらった。
「以前『リクさぽ』の方から、『一人で介護を頑張らなくてもいいんだと思えた』と、感動を伝える手紙をいただいたことが印象に残っています。そのことから私が伝えたいのは、「家族だけで、サポートを頑張らなくていい」ということです。世の中には保険制度内サービス、民間サービス、ボランティア団体などあり、頼れるところは複数あると安心です。『さぽんて』もぜひその選択肢の1つとして、覚えていただけるとうれしいです」
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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