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全産業向けの大規模解析支援サービス「さくらONE」始動! スパコン世界ランキングに「内製」で挑む理由とは

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さくらインターネットは2025年9月30日からマネージドスーパーコンピュータ「さくらONE」の提供を開始しました。さくらONEは、大規模LLMの開発用にさくらインターネットが自社構築したマネージド型HPCクラスタ計算機です。同サービスの提供に至るまでには、幾度もの挑戦を経てきており、国際的なスーパーコンピュータの処理性能ランキング「TOP500」で49位を獲得したことはその大きな成果のひとつとして挙げられます。

今回はさくらONEの立役者であるさくらインターネット研究所兼AI事業推進室の小西史一と、インフラ開発を担当したクラウド事業本部 クラウドサービス部の黒澤潔裕にサービスの魅力と、当時の技術的挑戦を振り返っていただきました。

医療LLM向けシステムから全産業向けへ展開

さくらONEとは、どのようなサービスですか?

小西史一(以下、小西)

さくらONEは、当社のGPUサーバー「高火力 PHY」を基盤に、LLMの開発・学習に最適なアーキテクチャを構築したマネージドHPCクラスタです。原点にあるのは、2024年の内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で進めた、日本語版医療LLMの開発システムです。このプロジェクトは、日本語医療LLMを臨床現場で社会実装するまでを目的にしていました。さくらインターネットはこのなかで、計算基盤としてベアメタル型のGPU環境「高火力 PHY」をベースに、LLMの開発に最適化したクラスタ環境を構築しました。

さくらONEは、このプログラムの完了後、当社がこのシステムを全面的に再構築し、LLM開発環境の商用利用ができるようにしたものです。

お二方はそのプロジェクトのなかで、どのような部分を担当されたのでしょうか?

小西

私はユーザーとして、医療LLMプロジェクトの研究開発責任者という立場で「高火力 PHY」を利用しました。LLMが開発できるようなHPCクラスタとしてシステムを構成し、提供側であるさくらインターネットのインフラチームと連携して、全体を調整する役割を担っていました。現在は「さくらインターネット研究所」と「AI事業推進室」を兼務し、提供側でもあり、かつユーザーでもあるという立場でいます。さくらONEではおもに、ユーザーに最適な環境を提案する提供者、という役割です。

黒澤潔裕(以下、黒澤)

私は、高火力 PHYの提供者という立場です。さくらONEの開発では、過去のOpen NetworkingやSONiCの知見を活かし、ホワイトボックススイッチを全面採用したGPUインフラのネットワークに初期設計から参画、OSSを用いた運用の自動化まで一貫して手がけました。TOP500でスコアを取った際のネットワーク設計も担当しています。

開発のきっかけは医療LLMとのことですが、全産業向けへと展開したのはなぜですか?

小西

LLMの需要は、医療や創薬に限らず、すべての業界にあります。しかし、「富岳」や「ABCI」といったスパコンには公共設備ならではの利用の制約があり、順番待ちが発生したり、成果を公表する義務があったりします。

一方でさくらONEは、当社が自社で構築し、商用サービスとして提供するものなので、公共利用の制約がありません。順番待ちで困っている方や、研究成果を公表せずに自分たちの事業のため徹底的にAIのチューニングをしていきたい方にとって便利なサービスだと思います。LLMの並列処理や継続的な事前学習、AIのファインチューニングといった用途にはすでに実績があり、安心して使い始めていただけると考えています。

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「インフラの総合格闘技」HPC世界ランク49位を獲得、その舞台裏

2025年6月に、「さくらONE」が国際的なスパコンの処理性能ランキング「TOP500」で世界49位になりましたね。

黒澤

HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の分野でハイスコアを出すには、CPUやGPUといった計算リソースの確保はもちろん、ネットワーク、ストレージ、ソフトウェア、電源、冷却……といったインフラ全体を、同時に最適化する必要があります。どこか一か所だけに注力して設計すると、必ず全体に無理や無駄が生じてしまう。いわば「インフラの総合格闘技」とも言われる世界です。その世界でこの結果を出せたことは誇りですね。

小西

とくにHPCの分野では、システムをつねに100%の電力で限界まで稼働しつづけるのが一般的です。そのため、電源、ネットワーク、冷却の各リソースを十分に確保することが、非常に重要です。

われわれのセールスポイントは、GPUの持つポテンシャルを最大限発揮できる、それらの環境作りです。700Wの電源を確保し、ほかのサービスで起きがちな電源によるキャッピングを回避しています。そのため、安定して優れた処理性能を発揮できました。

現在のさくらONEは、TOP500にランクインした当時の技術を元にして再構築したものです。 GPUリソースをさらに強力にし、「NVIDIA H200 GPU」を8基搭載したサーバーを最大で55台(GPUリソース440基分)同時に活用できるようになっています。

さくらONEのノード使用状況を可視化したもの、「赤ければ赤いほどフルで稼働している」(小西)

ほかのスパコンたちと 「さくらONE」の違いは、電源容量ということでしょうか?

黒澤

もっとも大きな違いとして「一貫してシステムを内製している点」があります。サーバーからファシリティまで一貫した設計をすることで、GPUサーバーの電源を制約をせず、性能を引きだせる環境が実現できました。

また、より高い価値を提供するため、新技術の採用に積極的なことも特徴です。現在、GPUサーバーに必要なネットワークを作るときに使われるスイッチは限定されがちです。しかし、われわれはベンダーニュートラルでオープンな技術を追求し、オープンソースソフトウェア(OSS)を中心としたシステムを構築しました。

具体的には、OSSベースのネットワークOS「SONiC」とホワイトボックススイッチを採用しました。TOP500に入る上位100システムのうち、同OSを採用しているのは当社だけです。

これらの取り組みが注目され、The Linux Foundationと呼ばれる、OSSの世界を支える国際的な団体に本事例を寄稿、成功事例として掲載されました。これは大変名誉なことだと思っています。

小西

LLM開発の現場で重要となるのは、ノード間の効率的なデータ転送です。さくらONEは高火力 PHYの改良版をベースにしており、GPU間のデータ通信における、ボトルネックを抑制する「Rail-Optimized」という構成を採用しています。これによって、ほかのノードから受ける影響を抑え、それぞれのGPUが独立した高速なネットワーク接続を持ち、LLM開発で定期的に発生する一斉データ処理(AllReduce)を効率的に実行できます。

さらにストレージ用のネットワークも分離しているため、データ書き込みがほかの計算処理に与える影響も限定的になります。オーバーヘッドを気にせず、安心して高速な処理ができる構造になっています。

すぐ先の未来も見通せないなかで、AI開発の民主化を進めたい

今後のHPC分野の展望についてお聞かせください。

小西

今後はあらゆる研究でLLMが使われるようになると考えています。さくらインターネットがそのベースのインフラとして機能し、LLMの継続事前学習やファインチューニングを広く提供する「LLMファクトリー」の役割を担えれば、とてもうれしいですね。

黒澤

正直、HPCの分野の発展は、本当に先が見えません。1年先にどのようなパラダイムシフトが起きるかも予測できませんし、ゴールも見えない。終わらない戦いになると思っています。サーバーやGPU、ネットワークのアーキテクチャも急速に進化するなかで、われわれの強みである「内製する文化と技術」を活かし、つねに最新の技術をキャッチアップしていく必要があります。

そして、その最新のコンピューティングリソースの民主化も進めます。「巨大な設備を買える人しかAI開発ができない世界」ではなく、誰もが気軽に使えるような環境を作っていきたいですね。安定的な電力供給や、日本のユーザーに合わせたローカライズといった強みも活用して、これからも「インフラの総合格闘技」を勝ち抜いていきたいと考えています。

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執筆

StudioKOKS

「ただしく、よみやすく、わかりやすく」文・理をつなぐテクニカルライター 。 高専出身、開発者を経てフリーライターとして独立し、メディア編集記者などを兼業しつつ技術系取材を中心に活動中。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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