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旅人×地方創生が出会う場をデザインする。SAGOJOが見る日本の未来像

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働き方が多様化する現在。地方都市に移住してリモートワークをするビジネスパーソンや、フリーランスとなり働く場や時間を制限されないワークスタイルを実践する人も増えている。そのようななか、旅先で仕事を受けることで、その地域とより深く関わり旅を楽しみながら地方創生に貢献する、新しい旅と仕事の形を提案する企業が株式会社SAGOJO(以下、SAGOJO)だ。仕事や生き方、そして地方創生のあり方をデザインする同社の取り組みについて、代表取締役の新 拓也さんに聞いた。

新 拓也(しん たくや)さん プロフィール

株式会社SAGOJO 代表取締役。1987年生まれ、愛知県知立市出身。バックパッカーとしてアジアを中心に世界を旅し、大学卒業後に旅メディア『Travelers Box』を立ち上げる。大手非鉄金属メーカーでレアメタルの調達業務に携わったのち、株式会社LIGに入社。メディア事業部に所属し、編集者としてWebメディアの立ち上げやコンテンツ制作に従事。2015年、「旅の社会的価値を高め、この世界を旅する人を増やしたい」との想いからSAGOJOを創業。

「旅人を増やしたい」から始まった事業アイデア

「旅人という生き方をつくる」。

SAGOJOが掲げるミッションだ。同社は旅人と旅先の企業や自治体をマッチングし、旅をしながら地域の仕事に貢献することで報酬を得るサービス「SAGOJO」を中心に事業を展開している。私たちは旅をすることで未知の場所や人、文化、価値観と出会い、世界との新たなつながりをつくっていく。

旅という体験は一人ひとりにとって価値あるものだが、同社サービスでは、さらに旅を社会貢献につなげる。そして、地域への貢献によって報酬を得ることで、旅そのものが「生き方」になる。このような事業が生まれたのも、代表の新さんの実体験と、旅への想いがあったからだという。

「学生のころに初めてひとり旅をして、東南アジアやインドを周りました。そのときの体験や出会いが、自分の人生を変えたんです。ただ、それは大学4年生で就活が終わったあとのことだったので、帰国後は普通に就職をしました。

一方で、旅先での得難い経験が忘れられず、世界に旅する人を増やすことが世の中をより良くすると信じるようになりました。それで、会社員のかたわら『Travelers Box』というメディアを運営していました。

大手企業に入社したのは、いつか海外で働きたいと考えてのことでした。しかし、企業の仕組みの中での仕事は、自分自身が世の中に対して自分らしい価値を提供している実感が持てませんでした。一方で、自分がメディアで発信する記事を読んで喜んでくださる方や、書籍出版に関わる機会にも恵まれて買ってくださる方もいました。私としては、そちらのほうが自分が価値を提供している、働いていると実感できたんです」

旅をテーマに仕事をしたい。そんな想いが、新さんの胸に日に日に募っていったという。当初は自身のメディアを伸ばしていくことも考えたが、個人では限界を感じるとともに、そこでの収入だけで生活を賄うのは厳しかった。より深くメディアについて学びたいと考えた新さんは、Webメディアの運営やコンテンツ制作を手がける、株式会社LIGへの転職を決意する。同社でメディアの立ち上げやコンテンツ制作を担当するうちに、現在の事業アイデアが培われていったという。

「LIGでの経験や『Travelrs Box』の運営を通して考えたことは大きく2つあります。

1つは、『新しく旅人になる人をもっと増やしたい』ということ。ノウハウが身につくにつれてメディアも伸びてきましたが、検索やSNSを通じて集まる読者はすでに旅が好きな人たちがほとんどです。旅好きな人たちだけではなく、はじめて旅に出る人を増やすようなアプローチをしたいと思いました。

もう1つは、旅の魅力を発信するだけではなく、旅そのものが価値を生み出すことで、おもしろい仕事につながるのではないかということです。そう考えたのも、LIGで携わった旅のメディアの仕事のなかで、仲間の旅人たちと協力して新しい企画をつくれたことがきっかけでした。

旅の魅力を発信して旅する人を増やす。これは多くの人がすでに取り組んでいるアプローチだと思います。それであれば自分は、旅したいけどなかなか一歩を踏み出せない方の背中を押したり、そもそも旅の価値を感じていない方でも価値を認識できるような体験を提供したりしたいと考えました。ただ、そういう人たちを巻き込むためには、メディアだけでは難しい。そこから、現在のSAGOJOの礎となる事業アイデアを思いつきました」

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地域との深い関わりが自分ごとを生む

新さんは、自らのアイデアを実現すべく、サービス開発に乗り出した。しかし、このような事業アイデアは前例がなく、どの程度受け入れられるかは未知数。「当初は会社を立ち上げることは考えていなかった」と語る。

「会社にするかどうかは、最初は全然こだわっていなかったんです。『Travelers Box』の仲間たちとともにサービスをつくっていき運営していこうと考えていました。ただ、サービスをローンチする前にティザーサイトを公開し、無料登録できるようにしたところ、その時点で一気に3,500人ほどのユーザーが集まったんです。

ティザーサイトがバズったこともあり、想定以上にニーズがあることを確信しました。同時に、多くの方に拡散してしまったうえに、サービスのリリース月を宣言していたので、きちんと形にしなければならないと強く思いました。そのため、サービス自体の開発を急ピッチで進めていくのにあわせて、会社としてしっかり事業を維持・成長させていくことを決意しました」

新さんは2015年12月、SAGOJOを創業。続く2016年4月に、同社の名を冠したサービス「SAGOJO」をリリースした。では、SAGOJOは具体的にどのようなサービスなのか。

「SAGOJOは旅と仕事を結びつける『旅と仕事のマッチングサービス』です。利用者は、ただの観光客や消費者としてではなく、自身のスキルを活かし、社会に対して価値を提供しながら旅をします。具体的には、地域や旅が好きな副業人材やフリーランスと、地域のニーズをマッチングするんです。クリエイティブ系のスキルが発揮できる仕事から、農作業や畑作業のお手伝いを中心とした仕事まで、幅広いマッチングをおこなっているサービスです」

少子高齢化により地域の人手不足が加速する現在、地方自治体では地域の魅力を発信することも重要だが、同時に地場産業の働き手を補う必要もある。SAGOJOは地域のニーズを汲みつつも、より密接な地域とのつながりや、関係人口1の増加を生み出すサービスといえる。

「サービスのリリース当初は、私自身が東京在住だったこともあり、都市部の企業からの依頼が多かったです。転機になったのは、地方自治体に向けたピッチイベントへの参加でした。ピッチを聞いて興味を持ってくださった自治体の方々から、地域で抱えているニーズや課題を直接お話しいただいたんです。そこでつながった地域の方々とともに地域活性化を形にしていこうということになり、サービスの広がりが生まれていきました」

2024年現在、SAGOJOの登録ユーザーは2万8,000人を超えた。年齢層の中心は20代後半から30代だが、10代の学生から70代のシニア層まで年齢や職種も多様なユーザーが揃う。幅広い背景を持つ旅人が集まるからこそ、地域のニーズにより深く携わることができるのもSAGOJOの特徴だ。

「地域と旅人たちが生み出したすばらしい事例として、福島県の浜通りにある富岡町での商品企画があります。当地は東日本大震災の被災地であり、復興と地域創生が深刻な課題となっている地域です。地域創生の一環として、地域でつくる日本酒の新商品『萌 – KIZASHI – 』を開発するプロジェクトをSAGOJOで担当しました。旅人たちには、コンセプトづくりやラベルのデザイン、サイト制作、マーケティングなどに携わってもらい、自身が持つスキルを持ち寄って商品の企画や魅力を発信する形をつくることができました。

結果として『萌 – KIZASHI – 』は非常に多くの方に購入いただけました。商品が発売開始になった際は、開発に関わった旅人自身が商品の魅力を伝える側となり、積極的に紹介してくれました。ただ旅先を訪れるだけでなく現地の方々とともに課題に取り組み、より深く関わる。それによって地域の魅力を自分ごととして発信できることこそ、SAGOJOの魅力だと思います」

地域と旅人がより深い関係性を構築する新サービス

2019年には、地域のお手伝い体験(ミッション)に取り組みつつ現地での宿泊を無償提供するサービス「TENJIKU」をリリースした。TENJIKUはより密接な地域との関係性を生む。とくにコロナ禍以降にリモートワークが普及したことで、場所を選ばない働き方の選択肢が生まれたことから、ユーザー側のニーズも高まっているという。

「TENJIKUは地域のミッションに取り組むことで、現地の方々ともより密接に関わりながら地域を知ることができる滞在体験を提供します。現地での宿泊費が無料になり、自分の力を生かしながら旅を気軽に味わってもらえる入り口となるサービスです。

TENJIKUの旅人と地域の方のお手伝い/交流の様子(すべてTENJIKU吉野のもの、提供:SAGOJO)

現在ではワーケーションのほかに、地方移住を検討する方もいます。たとえば、初めてTENJIKUの拠点を置いた奈良県吉野町には、現在年間60名ほどの旅人がTENJIKUを経由して訪れていますが、そこでの滞在をきっかけに移住した方が増えてきています。

地方移住のネックの1つは、やはり地域コミュニティに溶け込めるかだと思います。TENJIKUを活用すれば、あらかじめ地域コミュニティとのつながりをつくったうえで移住を検討できる。それだけでなく、つながりができた方々に空き家になっている物件を紹介してもらえるなど、地域の方々しか知らない情報を得られることにもメリットがあります。今後は、このような事例を全国各地で増やしていきたいですね」

そうしたTENJIKU活用のあり方について、新さんは「リリース当初は予想していなかった展開でした」と笑う。認知が進むごとに地域での人材の流動性は増え、移住者をも生み出していることは、サービスが成長し地域と旅人の両者から信頼を得ている証左ともいえる。

このような地域と旅人とのつながりをより強化するため、SAGOJOでは2024年に新たな取り組みを始めた。地域と旅人の関係を可視化し深める地域NFT「KIN-TOWN」だ。

「SAGOJOのサービスにおいて、企画段階から旅人を巻き込んだ地域プロジェクトは盛んにおこなわれています。『KIN-TOWN』もその文脈から生まれたもので、そこで生まれた関係性を可視化し、そして継続的なものにしていくと考えたときに、NFTは相性がいいと考えました」

KIN-TOWNのロゴ+NFTアートワーク(提供:SAGOJO)

NFTのテクノロジー部分はKDDI社のサービスを活用し、デザインや購入によって得られる体験などはSAGOJOと旅人、そして地域事業者との共創によって生まれた。このプロジェクトは、第一弾として和歌山県 紀の川市と北海道 中標津町で2024年2月にスタートしている。

「我々の狙いとしては、地域とSAGOJOと旅人が一緒になってつくることで、旅人の仕事や体験にもつながる。さらに、つくったものをユーザーに販売することを通して、地域にも経済的な還元を生み出すことができる。そして、NFTを通して地域と旅人との関係をさらに深め、継続的な関係性を持つユーザーを広めていく。『KIN-TOWN』はそういった関係性の構築を見据えて提供しています」

持続可能な地方創生のためにも、事業成長が必要

SAGOJOとTENJIKU、そしてKIN-TOWNと新たなサービスを創出し、それぞれ着実に実績を生んでいる。会社として、今後はどのような展望を描いているのだろうか。

「現状、各サービスでよい事例をつくれるようになってきて、同時に時代的な追い風を感じてもいます。前提として、今後は旅人も企業や自治体の数もより広げていきたい。そのうえで、お任せいただけるプロジェクトをより大きくしていき、旅人にお支払いする単価やリターンの内容も充実させていきたいと思っています。

一方で、よりライトなマッチングの需要も高い。高単価なプロジェクトとライトなプロジェクト両方を実現するためにも、最近ではダイレクトマッチング機能も立ち上げて、プラットフォーム型のマッチングの仕組みも今後は拡大させていく予定です。また、現状は国内でのマッチングが中心ですが、今後はより海外でのマッチングも拡大させていきたいと考えています」

旅に魅了され、まさに全国各地で「旅人としての生き方をつくる」事業を創出する新さん。最後に、新さんの視点から見た地方創生のあり方はどのようなものか聞いた。

「日本全体で人が減っていくなかでも継続的な街づくりをしていくためには、人の流動性を高めること、そして関係人口をシェアすることが重要ではないでしょうか。私は、日本の美しさや強みの1つが地方の多様性であり、それが国力につながるものと考えています。

都市に人口を集約し維持していくのも、アイデアの1つかもしれません。一方で、人の流動性を高めることで地域を持続可能にできると思いますし、経済的な効果も大きい。人の働き方や暮らし方という面でも、それを望む人たちが増えてきている。こうした世界観を絵に描いた餅ではなく本当に実現する存在として、SAGOJOをより大きく成長させたいですね」

株式会社SAGOJO

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

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  1. 仕事で訪問することがある人、親族が住んでいる人、短期滞在している人など、地域と多様な形で流動的・継続的に関わる人々を指す言葉 ↩︎

執筆

川島 大雅

編集者・ライター。ビジネス系のコンテンツ制作をメインに行っています。大学では美術史専攻。一時ワイン屋に就職してたくらいにはワイン好き(詳しくはない)。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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