量子コンピュータとは? 仕組みや実用化についてわかりやすく解説

量子コンピュータとは、量子物理学にもとづく新しいタイプのコンピュータです。2021年3月、住友商事がデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環に量子コンピュータを活用することがニュースになりました。(参考:日本経済新聞  住商、倉庫作業をDX 量子コンピューター活用

量子技術の活用により、社会の変革が期待されています。しかし量子コンピュータについての詳細は知らない方も多いと思います。

量子コンピュータについて、オックスフォード大学物理学科量子コンピュータ専攻博士課程のジェシカ・ポインティング氏が、わかりやすく解説。Sansan株式会社が開催した「Sansan Innovation Project 2021」に登壇した内容をまとめました。

(Potential Quantum computing~誰もが知るべき、量子コンピュータがもたらす驚きの未来~ Sansan Innovation Project 2021 )

(Potential Quantum computing~誰もが知るべき、量子コンピュータがもたらす驚きの未来~ Sansan Innovation Project 2021 )

量子コンピュータとは

量子コンピュータとは、量子物理学にもとづく新しいタイプのコンピュータです。すべてのものは、原子で構成されています。

量子物理学は、その原子の挙動を説明する分野です。超伝導体の原子の挙動を解明できれば、室温や室圧で機能する超伝導体の開発に必要な知見を得られるかもしれません。量子コンピュータによって超伝導体の素晴らしい可能性が開かれるかもしれません。

量子コンピュータの進化

超伝導体の実験をはじめて目にしたのは2009年でした。私が13歳のときです。課外授業で英国レディングにあるMicrosoftのオフィスを訪れたときのことでした。会場のディスプレイには、爆発、液体窒素、超伝導体などの目をみはる実験の数々が映し出されていました。

現実とは思えないものの、世界の仕組みについて納得させられました。このときと現在を比べると、量子コンピューティングの進化は凄まじいです。量子コンピューティングが世界を変える、と私は信じています。

量子コンピューティングの可能性を認め、量子コンピューティングの力を解明し、大きな進歩を遂げてきました。量子コンピューティングによって世界がどう変わるのか説明します。

量子コンピュータで可能になること

量子コンピュータで可能になること

量子コンピュータで何が可能になるのでしょうか。3つの可能性を紹介します。

1つめは、検索と因数分解です。

量子コンピュータで可能になること「検索」

量子コンピュータで可能になること「検索」

袋に4個のボールを入れます。そのうち3個は白色で、1個は紫色です。袋を混ぜて、この中から紫のボールを探すとします。中は見えません。その場合、紫が出るまで1個ずつボールを取り出していきます。この従来のやり方をするコンピュータを「古典コンピュータ」と呼びましょう。

量子コンピュータの場合、1個ずつボールを取り出さなくても1回めで紫のボールを探せます。量子コンピュータはこのような処理を高速化します。

これは実現可能です。量子アルゴリズムがすでに発明されています。グローバーという研究者がこのアルゴリズムを発明しました。グローバーは非構造化検索の高速化が可能であることを証明しました。

データベース内にn個のエントリーがあるとしましょう。古典コンピュータで特定のエントリーを見つけるには、n回の試行が必要です。量子コンピュータなら、最大ルートn回で見つけられます。

このように量子コンピューティングは、非構造化検索を高速化します。

量子コンピュータで可能になること「因数分解」

量子コンピュータで可能になること「因数分解」

続いて、因数分解の話です。複雑な617桁の数字があるとします。その積を求める2つの数字を見つける処理は、古典コンピュータだと最大10億年かかるといわれています。しかし、量子コンピュータでは100秒で計算できる予想です。ありえないスピードです。

MITのピーター・ショア教授がアルゴリズムを発明し、これが可能であると証明されていますが、重大な問題もあります。それは、この計算が暗号化に使われているからです。

暗号化によってクレジットカードや銀行口座の機密情報が守られています。古典コンピュータでは、このような2つの数字を特定できなければ、データを復号できません。つまり、安全です。

ところが、量子コンピュータの計算能力なら、この2つの数字を見つけられます。データを復号できるのです。これは重大な問題であり、対策が必要です。これほどの処理が可能な量子コンピュータは、2021年のいまはまだ存在しませんが、いつかは実現します。量子コンピュータに対抗できる新たな暗号化方式を考えることが必要です。この分野をポスト量子暗号といいます。新たな方式が模索されていて、すでにいくつか発明されています。問題になる前に課題解決すべきです。

量子コンピュータで広がる可能性「自然の解明」

2つめの可能性は、「自然の解明」です。この世界のあらゆるものは原子で構成され、量子物理学の法則に従っています。そのため、量子系である量子コンピュータを使用し、シミュレーションがおこなわれるでしょう。

これが実現すれば、さまざまな応用が可能です。医薬品で考えてみましょう。体内の分子に作用し、なんらかの問題を治癒する新薬を開発する場合、量子コンピュータを使えば分子のシミュレーションが効率化されます。創薬プロセスが高速化し、新薬の発見にもつながるかもしれません。

量子コンピュータで可能になること「自然の解明」

ワクチンはどうでしょうか。ワクチン開発には時間がかかります。しかし、量子コンピュータで分子のシミュレーションが加速されれば、ワクチン開発を加速できるかもしれません。

材料科学はどうでしょうか。この分野も、分子と原子の世界です。シミュレーションが可能になれば、携帯電話やノートPCに使える軽量で高強度の材料を見つけられるかもしれません。

このようにさまざまな応用が利きます。

量子コンピュータで広がる可能性「機械学習とAI」

量子コンピュータで可能になること「機械学習とAI」

3つめの可能性は機械学習とAIです。コンピュータの目覚ましい発展と共にAIも進歩してきました。量子コンピュータもAIの進歩に貢献するかもしれません。量子機械学習という分野があります。バズワードのようですが、基礎となる数学に注目するとピタッとはまります。

量子コンピューティングの基本は、大量のベクトルと行列です。機械学習も非常に似ており、ベクトルと行列の世界です。この2つをマッピングできます。

以上、3つの可能性を紹介しました。量子コンピュータによって、いまは解決できない問題が解決できるかもしれません。これはとても重要なことです。世界が変わる可能性があります。

量子コンピュータの仕組み

量子コンピュータの仕組み

友人にメッセージを送るとき、古典コンピュータでは裏側で何が起こっているでしょうか。わかりやすいように、ドーナツを使って見ていきましょう。

私たちが英語や日本語を使うように、コンピュータもバイナリという言語を使っています。メッセージは0と1の羅列からなるバイナリに変換されます。この0や1がビットと呼ばれるものです。これが古典コンピュータにおけるビットの概念です。

量子ビットとは

量子ビットとは

量子ビットとは

では、量子コンピュータではどうでしょうか。

量子コンピュータが使う量子ビットも0と1です。ただし、量子物理学にもとづいているため、アクセスできる量子ビットの数が増えます。主な量子効果の1つに「重ね合わせ」という概念があります。0と1が組み合わさった状態です。

回転しているドーナツを想像してください。0も1も見える状態です。この重ね合わせが非常に強力です。たとえばドーナツの箱を2つ開け、2つのドーナツを見るとします。両方ともプレーンな面が上であれば「00」です。プレーン面とコーティング面なら「01」、コーティング面とプレーン面なら「10」、両方コーティング面なら「11」となります。

古典コンピュータでは、一度にいずれかの組み合わせしか確認できません。

古典コンピュータでは、一度にいずれかの組み合わせしか確認できませ

量子コンピュータでは、一度に4通りすべての組み合わせを確認できます。

量子コンピュータでは、一度に4通りすべての組み合わせを確認できます

なんとなく量子コンピューティングの力の概念が伝わったでしょうか。

量子ゲートとは

量子ゲートとは

古典コンピュータのゲートは、論理ゲートを使います。0のビットを「NOTゲート」という論理ゲートに通すと、1に反転して出力されます。これがコンピュータの基本です。論理ゲートから基本的なモジュールを構成し、それを回路チップ、回路、コンピュータへと組み立てます。簡単に示すとこのようになっています。

量子コンピュータも同様です。量子ゲートを使います。量子ゲートは、量子ビットの挙動を変えます。量子コンピュータにもNOTゲートがあり、0のビットをNOTゲートに通すと1に反転されるのです。逆に1のビットをNOTゲートに通すと0に反転されます。ここまでは、古典コンピュータでも可能であり、量子効果はありません。

特別なのは「アダマールゲート」という量子ゲートです。アダマールゲートは量子ビットを重ね合わせの状態に変換します。

アダマールゲート

つまり、回転するのです。量子効果のある量子ゲートは他にもあります。

ケーキ作りを例に考えます。

量子コンピュータにおいて、量子ゲートはどのような位置づけでしょうか。ケーキ作りを例に考えます。

ケーキを作るとき、レシピには泡立て器などの調理器具で卵などの材料を変化させ、ケーキを仕上げるまでの手順が書かれています。量子コンピュータもこのような構造です。

レシピは量子アルゴリズムに相当します。調理器具は量子ゲート。材料は量子ビットです。量子ゲートは量子ビットを変化させて解を導きます。

レシピは量子アルゴリズムに相当します。調理器具は量子ゲート。材料は量子ビット

量子コンピュータのプログラミング方法

昔は古典コンピュータも科学者しか使えませんでした。ところが1970年代になると、コンピュータは誰でも自宅で使えるものに変化し、テクノロジーの可能性が模索されました。量子コンピュータも同じです。科学者しか使えないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。2016年、IBMはクラウドから誰でも使える量子コンピュータをリリースしました。

量子コンピュータのプログラミングには、量子ゲートを使います。IBM Quantum Experienceで、誰でもインターネットから利用できます。

IBM Quantum Experience

IBM Quantum Experienceを見ると2つのラインがあり、上のラインが量子ビットに相当します。量子ビットを重ね合わせの状態に変換する場合は、アダマールゲートを該当の量子ビットにドラッグし、右上のRunをクリックしてください。すると、量子コンピュータ上で実行されます。

現状は量子コンピュータに限界があるため小規模なユースケースです。しかし、さまざまな応用ができます。たとえば実際の量子デバイス上に量子ニューラルネットワークを構築することや、バス路線の最適化なども可能です。

量子アルゴリズムや量子アプリケーションの量子効果を利用した新しい方法で問題を解決し、より素早く良い結果を導くことを目指しています。

以上が、量子ビット、量子ゲート、量子コンピュータのプログラミング方法です。

量子コンピュータの進歩

量子コンピュータの進歩

続いて量子コンピュータの進歩について説明します。ここではハードウェア面に注目します。

古典コンピュータの場合、おもなビルディングブロックは0と1のビットです。ここにトランジスタを適用します。電子の流れを制御して、ビットを機能させるものです。トランジスタ以外に真空管なども使われていたことがあります。

しかし、トランジスタのほうが安価で拡張性や利便性、信頼性も高いため、現在はトランジスタが使われています。このように古典コンピュータの構築方法が1つではないように、量子コンピュータもさまざまな方法で構築可能です。

構築可能な方法

超伝導体を使って量子ビットを構築できます。正味電荷を空間内に閉じ込めた原子である補足イオンや、光子やダイヤモンドも使用可能です。それぞれの方法に強みと弱みがあります。現在は古典コンピュータにおけるトランジスタに匹敵するものを探している段階です。量子コンピュータを構築するだけではなく、拡張して信頼性を上げ、コストを下げる方法を探っています。

量子コンピュータの重大な進歩

続いて2019年に起きた重大な進歩を紹介します。2019年以前にも量子コンピュータはありましたが、量子コンピュータでできることは古典コンピュータでもできました。量子である必要がなかったのです。そこでGoogleが、量子コンピュータで世界最高の古典コンピュータ「スーパーコンピュータ」を超えるための実験をしました。

問題を構成して量子コンピュータ上で実行したところ、200秒かかりました。世界最高のスパコンの所要時間を計算したところ1万年でした。驚愕の数字です。

厳密な数字については異論もありますが、原則は同じです。量子コンピュータが古典コンピュータを超える可能性があると実証されました。ただし、このケースでは用意した数学の問題が使われました。実世界ではあまり応用が利きません。次に目指す大きな目標は、「量子アドバンテージ」と呼ばれるものです。

量子アドバンテージとは

量子アドバンテージとは、量子超越性の実験にもとづく実用化を意味します。ビジネスや人々に影響を与えることを目指します。これが量子コンピューティング分野における次の大きな目標です。

この目標に向けてさまざまな研究がおこなわれており、とくにハードウェアの向上とアルゴリズム開発が進められています。ソフトウェア理論や応用アルゴリズムのみを研究している組織もあれば、ハードウェア構築や応用の研究をしている組織もあります。上場企業では、Google、Microsoft、IBM、Alibaba、NECなどです。大学では上海大学、東北大学、MIT、ハーバード大学などが研究に取り組んでいます。今後が楽しみです。

量子コンピュータ まとめ

量子コンピュータ まとめ

量子コンピューティングの可能性について紹介しました。

新たな可能性が開かれれば、量子コンピュータへの参入が増えてエコシステムが構築されます。世界が変わるのも時間の問題です。

 

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