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廃棄パソコン・電子機器が社会課題を解決する。ピープルポートが描く未来

私たちの日常は電子機器が必需品となっている。現代ではめまぐるしく技術革新がおき、そのたびに最新機器が生まれ、消費される。一方で、古くなった電子機器が日々処分され、環境負荷を与えていることも事実だ。その有効活用は持続可能な未来にとって最も望まれることの 1つだろう。そうした電子機器の再資源化のみならず、事業を通して社会課題の解決を目指す企業がピープルポート株式会社(以下、ピープルポート)だ。このビジネスモデルが生まれた背景、現在の取り組みについて、代表の青山 明弘さんに聞いた。

青山 明弘(あおやま あきひろ)さん プロフィール

1990年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学法学部卒。祖父母から戦争の話を聞いて育ち、「自分の大切な人が理不尽に奪われる戦争・紛争」に課題意識を持つようになる。カンボジアで、内戦経験者へインタビューしたことをきっかけに、ソーシャルビジネスでの戦争・紛争解決、および被害者の支援を志す。新卒で株式会社ボーダレス・ジャパンに入社。東京のボーダレスハウス事業部で 1年半、その後ボーダレスハウス台湾支店の立ち上げへ。2年で黒字化し、帰国後日本へ逃れてきた難民のために、ピープルポートを創業。環境負荷ゼロ、難民ゼロを目指すエシカルパソコン「ZERO PC」の販売を通じて、事業の拡大を図っている。

カンボジアで目にした戦禍の爪痕

神奈川県横浜市。菊名駅からほど近いピープルポートのオフィスには、日々多くのパソコンなどの電子機器が運び込まれている。同社では企業・個人から不要となった電子機器を回収、リユース・リサイクルを施す。なかでも再利用可能なパソコンは修理・アップデートしたエシカルパソコン「ZERO PC」として販売している。

提供:ピープルポート

ピープルポートの注目すべき点は、電子機器をリユース・リサイクルするだけではなく、事業を通じた社会課題の解決を目指していることだ。具体的には、同社は紛争などで母国を逃れた難民を、「ZERO PC」の製造を担う人材として直接雇用。さらに売上の一部を、貧困や虐待に苦しむ子どもに居場所と教育機会を支援する団体へと寄付している。製造・販売のプロセスで環境問題と難民問題、そして子どもの貧困・教育の問題にアプローチするビジネスモデルを構築しているのだ。

提供:ピープルポート

ピープルポートのように事業そのもので社会課題の解決を目指す、いわゆるソーシャルビジネスは現在、日本でも注目を集めている。では、そのようなビジネスモデルとした原体験はどのようなものだろうか。同社代表を務める青山さんに尋ねた。

 

「幼少期から祖父母に戦争体験を聞いていたことが、私のベースになっていると思います。そのときはよくわからないこともありましたが、戦中戦後を経験し、人間の理不尽さを味わった当事者の話はとても印象深いものでした。

じつは、小さい頃本当に怖がりで(笑)。おばけを本気で信じていて、小学生くらいまでは1人で外を出歩くことも怖がっていたくらいだったんです。それを見た祖母から『本当に怖いのはおばけなんかじゃない。人間のほうだよ』といわれたことをよく覚えています。内戦や紛争という、理不尽な暴力に晒され故郷を追われた難民への関心は、いま思えば祖父母の影響が大きいと感じています」

 

祖父母から聞いた戦争体験は、青山さんの脳裏に残り続けた。大学生時代、青山さんは内戦の爪痕の残るカンボジアに向かった。悲惨な歴史はなぜ起こり、この地に生きる人は、いま何を思うのか。その記録をドキュメンタリー映画にするためだった。そこで目にし、耳にしたのは、当事者の視点から見た戦争の「複雑さ」だった。

 

「実際にその現場にいる人にとって、戦争は正義と悪で分けられるような単純なものではないんです。むしろ善悪が複雑であるからこそ多くの人が巻き込まれ、加害者にも被害者にもなりえる。それに、誰だって加害者にはなりたくないんです。そのような背景は、現地に行って話をしなければ知り得ないことでしたね」

 

現地で話した人々の中には、かつて戦禍に巻き込まれ、自らも人を殺めた経験のある人もいたという。そして、その爪痕は貧困というかたちで未来を担う子どもにも影響し続けていた。不幸の連鎖をいかに断ち切るべきか。青山さんは帰国後も自身ができることを模索していた。

起業を決意させた「2つの出会い」

就職活動の時期になっても、青山さんには答えが見つからなかった。説明会や面接に参加しても、自身の考えと事業が噛み合うと思える企業とは巡り会えない。そんなとき、ある出会いがあった。

 

「偶然ですが、日本に来ている難民当事者と会う機会があったんです。正直、当時は日本にも難民が逃れて来ていることを知りませんでした。日本であれば安全で、安心して暮らせているのだろうと話を聞いてみると、『けっしてそうではない』と。

日本に来た難民を支援している団体の方にも現状を聞きました。それでわかったのが、日本には難民の方々が逃れてきた直後のファーストエイドの支援がしっかりと存在し、各団体の皆さまが本当に懸命な働きをされていることでした。たとえば最初の衣食住の確保といった、明日を生き抜いていくための支援です。

しかし、難民の『その先』をどうするのかについては、限界があるとわかりました。つまり、日本で暮らし、働き、社会の一員として幸せに生きるための支援です。その空白は誰かが埋めなければならない。『だったら自分がやるしかない』と思って、起業を意識するようになりました」

 

ビジネスという領域よりも、NGO や NPO の事業として難民問題に取り組むという選択肢もあったのではないか。この疑問を率直に投げかけると、青山さんは民間企業として起業する意図は 2つあると話す。

 

「まず 1つめは、ビジネスモデルとして明確な価値提供をおこなうことで、自分たちで安定した収益を確保するためです。やはり社会課題の解決には非営利の支援団体の存在が不可欠であり、活動維持には寄付が非常に重要になります。しかし、寄付は非常に流動的でコントロールしづらいものです。たとえば、自然災害などが起これば寄付は災害復興に集中し、自ずと他事業の寄付額は減少します。

私としては、利便性や経済合理性というところで価値を創出し、なるべく資金面をコントローラブルなものとする仕組みを確立したいと考えました。そのためには民間企業として事業をやっていくほうがいいと思ったんです。

もう 1つが、事業の本丸として社会課題の解決に取り組んでいくことが非常に重要だと思ったからです。現在でこそソーシャルビジネスは注目されていますが、当時はあまり認知度が高くありませんでした。『会社であっても社会課題の解決に取り組むことができるんだ』というのを、社会に見せていかなければならないと思いました」

 

たしかに、事業の中心に社会課題の解決を据えることのメリットは大きい。事業の発展がすなわち、より大きなインパクトとなり当事者へと還元されるためだ。

 

「ビジネスのほうが比較的スケールしやすい一方で、最初の年商1億から 10億円ぐらいのところでは NPO や NGO の予算と変わりません。むしろ助成金なども受けられるので、予算額としては NPOや NGO のほうが大きいかもしれません。

ただ、日本の寄付マーケットは海外と比べて小規模です。その先にもっと大きなインパクトを出していこうとすると、やはりビジネスには大きな可能性があると考えています」

 

起業を決意した青山さんに、もう 1つの転機が訪れた。ソーシャルビジネスを専業とし、起業家の育成を手がけるボーダレス・ジャパンとの出会いだ。同社は 2007年の創業、日本のソーシャルビジネスの事業創出・起業支援におけるリーディングカンパニーであり、国内外でジャンルを問わず多数のソーシャルビジネスを展開している。ピープルポートも同社の事業群「ボーダレスグループ」を構成する一社だ。

 

「ボーダレス・ジャパンの特徴的な点は、『ソーシャルコンセプト』という解決すべき課題と解決後の理想像を決めてから、ビジネスコンセプトやビジネスモデルを組み上げていくというプロセスをとることです。マーケティングに近いものですが、対象は社会課題の当事者、現在困難な状況にいる方々に絞っています。

先述の通り、通常の営利企業のやり方では社会課題の解決を軸に置くことはできないという実感がありました。そのような中で、ボーダレス・ジャパンの考え方や展開する事業に触れ、大きな可能性を感じましたね」

 

面接では副社長、社長に直接、自身の経験や考えをぶつけた。「自身の想いをビジネスモデルに落とし込みたい」。そういった切実な気持ちから、青山さんは同社の門を叩いた。

あえて新品パソコンの購買層をターゲットにする

入社後、ボーダレスジャパンのシェアハウス事業や台湾支店の立ち上げに従事しながら、自身のソーシャルコンセプト、ビジネスモデルを練っていった。その間、すでに起業に成功した事業や経営者たちに触れ、刺激を受けながら徐々に自身がすべき事業の姿もクリアになっていった。

 

「現在、難民という背景を持つ当事者が、安定的に働けないという明確な課題があります。言語的ハードルは高く、差別意識もある。 難民認定をされていないので国からの支援もない状況です。そのような現実の中で、なんとか日本で生きていかなければならない。なので、私たちの事業におけるソーシャルコンセプトは、『難民の方々に日本語が話せなくても働ける場所を創出すること』としました」

 

しかし、雇用を創出しても、事業として確立できなければ、生活基盤を形成する機会が再度失われることになってしまう。事業としての持続可能性の高さが求められるなかで、なぜ現在のようなビジネスモデルとなったのだろうか。

 

「いろいろアイデアを考えたときに、2つの考えに至りました。1つは日本語が話せなくても働けて、世界中で使えるスキルを身につけられる事業をおこなうこと。もう 1つは、事業を通して日本における社会課題の解決に貢献できることです。

難民の方々は現在さまざまな事情によって故郷から逃れてきていますが、いつかは母国に帰りたいという希望を持っている人もいます。だからこそ世界中で共通するスキルが獲得できる事業を展開すべきです。また、日本社会に目を向けると『難民』という言葉に対して、『怖い』というネガティブなイメージがあったり、 そもそも関心がないというのが実情です。それをどのように変えていくかを考えたとき、当事者が働ける場所をつくり、給料が上がって、いい生活を送れるようになっただけでは十分ではありません。

やはり、自分たちの生活を安定させていく過程で、社会や地域の課題の解決に貢献していく必要があるんです。そして、実際に解決していくことで、『頑張ってるね。日本に来てくれてありがとう』と思っていただけるような事業体にしなければならない。そういったことを考え、具体的なアイデアに落とし込んでいくうちに、現在のようなパソコンや電子機器のリユース・リサイクルに行きつきました」

パソコンの組み立て作業をおこなうスタッフ(提供:ピープルポート)

 

パソコンや電子機器を選んだことにも理由があるという。ハードウェアの各パーツは国際規格があり、表記も英語だ。基本的な構造が共通する部分も多いので、修理や組み立ての技術はまさに「世界中で共通するスキルが獲得できる」仕事になる。しかし、具体的なビジネスモデルを定めたものの、青山さんはじめ創業メンバーは全員文系出身。当初はハードやソフトの知識を持ち合わせていなかった。

 

「パソコンを操作したことはもちろんありましたが、中身を開いたことはありません。まず部品の名前を知ることから始めました(笑)。しかし、最初に自分でやってみてよかったのは、ユニバーサルな知識であることをよく理解できたことでしたね。たとえば、日本語で情報がなくても、英語で調べれば資料があります。また、現在では YouTube にも解説動画がアップされているので、言語やメディアを横断して幅広い知識が得られるとわかりました。

現在ではハードウェアにくわしいメンバーや専門家のアドバイザーも参画していますが、そういったプロセスを歩むことで、自分たちがする事業のスコープがより明確になったと思います」

 

こうして誕生したのが、冒頭に紹介した「ZERO PC」だ。

「ZERO PC」はスペックごとにシリーズ分けがされている(提供:ピープルポート)

しかし、中古パソコンは市場としてすでに成熟しており、ECサイトでも無数に商品が販売されている。新規参入の立場でまだ広く認知されていなかったピープルポートにとって、販売開始時点で大きな壁が立ち塞がっていた。

 

「私たちのビジネスモデルは、パソコンなどをお引き取りし、整備して販売するというもの。どれだけ集まっても、売れなければ収益になりません。最初の売上を立てるところは、本当に苦労しましたね。中古パソコンを専門でやっている企業は多く、私たちとしてもそこで勝負をするとなると、確実に価格競争に巻き込まれます。なので、中古パソコンを求めている購買層はターゲットにしないことにしました。つまり、新品のパソコンの購入を検討している購買層にターゲットを絞り、価値を訴求するようにしたんです」

 

厳密にいえば、「ZERO PC」は中古パソコンではない。回収したパソコンのパーツを一部新品に入れ替え、必要に応じて OS などのアップデートを施し、スペック上は新品と遜色ない状態にして販売する「リファービッシュ(再生品)」に属する。たしかに安価さを売りにしてしまっては作業コストや原価としても採算が合いにくい。一方で、新品パソコンの購買層の場合、スペック以上に品質保証サポートなどのサービス面を重視する場合も多い。

 

「新品パソコンの購買層を調べてみると、実店舗でしか買わない人たちがいることがわかりました。これは実物を見て検討したいというニーズもありますが、店員にスペックや購入後のサポートなどについて説明してもらえるからです。そういったメリットがあるため、Web で検索することもなければ、そもそも中古やリファービッシュ品を購入するという選択肢もありません。

そこで、私たちはあえて、ポップアップストアへ出店することにしました。実際にリアルの場で商品を並べて、『ZERO PC』の特長と同時に、私たちの取り組みについて説明することにしました。『ZERO PC』を買うメリットは 2つあります。1つは『品質 × アフターサポート』です。リファービッシュ品だからこそスペックや性能は新品と遜色ありません。また、すべての商品には 1年間の無償修理補償や修理中の代機貸し出し、電話でのテクニカルサポートなどが標準でつきます。品質もさることながら、サポート面でも他社に負けない手厚さにしています。

もう 1つは、やはりソーシャルグッドな製品である点です。ポップアップショップに出店して実感したのは、すでに寄付活動をされている方、あるいは環境問題に対して何かしたいと思う方など、エシカル消費に関心を持つ方は想定以上に多かったことです。『ZERO PC』は新品のおよそ半額以下で性能もいい。そして買うことが環境負荷を下げることにつながり、難民の働く場の創出にもつながる。さらに、『ZERO PC』の原資となる不要になったパソコンの回収時の買取金額相当は、子どもへの支援にもつながります。そういった点は多くの方に共感していただき、事業の黒字化につながるとともに、認知向上としてもとても有効な取り組みでした」

「共感」と「連携」が社会課題解決を推進する

ポップアップストアでの販売、認知向上の取り組みは草の根的であったが、確実にピープルポートのビジネスモデルと「ZERO PC」への注目と共感を集めた。現在では「ZERO PC」を同社ECサイトで購入する消費者も増えているという。

購入メニューを見ると、興味深いオプションが用意されている。「想うプロジェクト支援先」と記載されたメニューをクリックすると、50近くの支援団体の選択肢が用意されている。「想うプロジェクト」とは、同社ECサイトから「ZERO PC」を購入すると、購入価格の 3% が NPO に寄付されるプロジェクトだ。消費者はこのオプションメニューから寄付先を選択できるようになっている。青山さんは、選択肢を用意することは「NPOにとってもメリットがある」と説明する。

 

「じつは、『想うプロジェクト』に参加している NPO の皆さまに『ZERO PC』を告知していただいています。NPO の視点に立つと、マーケティングとして新たに寄付をいただける方も重要ですが、すでに寄付をいただいているサポーターの方の寄付額を増やすことも重要です。こうすることで、パソコンの買い替えついでに寄付をするという新しい応援のあり方を提供でき、寄付の増額にもつながります。

もちろん特定の NPO に寄付したことのない方も『ZERO PC』をご購入いただいているので、新たなサポーターの獲得のお役に立てるかもしれない。私たちとしても告知によって、より多くの方に『ZERO PC』を認知いただいているので、Win-Win の関係が構築できています」

「想うプロジェクト」に参加する NPO(一部、提供:ピープルポート)

一方で、ピープルポートの事業に賛同するのは NPO だけではない。「パソコン処分で参加する社会貢献活動」という同社のメッセージに共感した民間企業を中心とする「子ども支援プロジェクト」には現在、約200法人が参加している。このプロジェクトは法人ですでに使われず、廃棄待ちとなっている大量のパソコンや電子機器を無料で回収、台数や機種に応じて一定額を子どもの教育支援をおこなう NPO に寄付するものだ。

 

「パソコンや電子機器には耐用年数がありますので、企業では定期的な買い替えがおこなわれます。私たちにとってはパソコンのリユースやリサイクルも重要ですが、それは回収があってこそ。しかし、事業を継続させるためだけでなく、回収をご依頼いただける法人の方々にとっても、未来に資する意義深いものでありたいと考えたんです。

現在では大手企業から中小企業まで、幅広い方々に参加していただいています。直近の目標は 500法人を掲げていますが、最終目標を 10,000法人としています。ぜひ多くの企業に参加していただき、回収をご依頼いただければと考えています」

 

機密情報の保護にも余念がない。回収された機器のデータは専用のソフトウェアを使い消去するだけでなく、磁気破壊や物理破壊によって完全消去をおこない、法人にはデータ消去の証明書も発行している。参加企業に上場企業や金融機関が名を連ねているのは、事業として、プロジェクトとしての誠実性を担保しているためだ。

2023年8月、ピープルポートは新たな取り組みを始めた。企業との協働により CO2排出量と電子ゴミ削減を目指す「エシカルチャレンジ2023」だ。「ZERO PC」は新品のパソコンに比べて、CO2排出量を 1台当たり 85%(ピープルポート調べ)削減できる。企業の「ZERO PC」導入とパソコンの回収により、CO2排出量と電子ゴミの両面を削減する試みだ。ピープルポートは同年 10月末までに CO2排出量で 42トン、電子ゴミでは 15トンの削減を目指す。

難民問題の解決を起点として、環境問題、子どもの貧困と教育問題に取り組むピープルポート。その共感は少しずつ伝播し、より大きなインパクトをもたらそうとしている。では、同社は今後どのような展望を持っているのだろうか。

 

「私たちの構想には大きく 3つのステップがあります。1つめが現在取り組んでいる、日本語が話せない難民の方々に働ける場所をつくること。2つめがビザの書き換え。昨今報道されている通り、日本における難民認定率は非常に低いです。ピープルポートが正規雇用することによって、労働者としてビザを書き換えていくことは、有効な手段だと考えています。そのためにも、ビザの書き換えがしやすいとされるソフトウェア事業の立ち上げを予定しています。

その先にある 3つめが海外展開です。これは、難民認定も労働者としてのビザも許可されなかった方のサードプレイスのようなものです。日本語の難しさや文化的背景の複雑さを考えれば、英語圏やフランス語圏といった、言語的なハードルの低い場所で働ける場を用意できればと考えています。そうなったとき、ソフトウェア事業は時差を使った開発などが可能になるため、ポジティブに機能していくでしょう」

 

ピープルポートでは、企業としての成長のマイルストーンを従業員100名とし、現在本社がある横浜を中心に、新事業と国内外での拠点開設を目指す。ただし、同社では自社の成長だけを見据えているわけではないという。最後に、同社が実現したい未来像を聞いた。

 

「私たちがビジョンに掲げていることでもありますが、まずは難民という故郷を強制的に追われてしまった方々に安心を提供すること。そしてその人たちの自己実現ができる社会をつくり、難民というイメージそのものを変えていきたいです。そのためにも本人たちの能力を活かし、会社として地域に貢献できる集団であることを目指しています。

しかし、そういった未来を実現するためには、自社だけの成長だけでは時間がかかってしまうので、難民が能力を活かし社会に参加する受け皿を増やしていく必要性も感じています。2022年時点で、世界の難民総数は 1億人を超えました。この上昇トレンドに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際協力機構(JICA)は危機を表明しています。この問題は政治や行政だけで解決できる問題ではなく、民間も含めてどのように解決していくべきかを考える必要があります。現に 2023年6月には Microsoft や Amazon などの企業40社が、今後3年間でヨーロッパの難民25万人に就労支援と機会創出をしていくと発表しました。

こういった取り組みは 1社だけではできないものであり、ピープルポートはまだ小さな会社です。だからこそ、今後も自社の成長にコミットしていくとともに、産官民を問わず多くの方々と連携し、社会課題の解決に向けて大きなインパクトをつくっていきたいですね」

 

ピープルポート

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

執筆

川島 大雅

編集者・ライター。ビジネス系のコンテンツ制作をメインに行っています。大学では美術史専攻。一時ワイン屋に就職してたくらいにはワイン好き(詳しくはない)。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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