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目的は「世界を変えること」。社内ビジコンで優勝した「Pen」とは?

さくらインターネットの新規事業創出プロジェクト「さくら満開プロジェクト」の一環として、第1回さくらビジネスプランコンテスト(以下、ビジコン)の最終選考会が、2022年1月に開催されました。

そこで優勝したのが、新卒入社5年目の熊谷将也です。さくらインターネット研究所で研究員として働きながら、理化学研究所の客員研究員、京都大学の特定助教としても活動しています。さくらインターネットに入社した経緯や、ビジコンで発表した事業内容についてまで話を聞きました。

目的は「世界を変えること」。社内ビジコンで優勝した「Pen」とは?

熊谷 将也(くまがい まさや)プロフィール

さくらインターネット研究所所属。舞鶴工業高等専門学校を卒業後、大阪大学大学院工学研究科へ入学。卒業後の2017年にさくらインターネット入社。理化学研究所 革新知能統合研究センターの客員研究員としても活動開始。2020年からはクロスアポイントメントで京都大学 複合原子力科学研究所の特定助教としても活動している。

社内ビジコン「さくら満開プロジェクト」で優勝

社内ビジコン「さくら満開プロジェクト」で優勝

 

――ビジコン優勝おめでとうございます! 発表した「Pen」は、材料工学と情報工学を研究している熊谷さんだからこそのプロダクトですね。あらためてPenの内容を説明してください。

 

ありがとうございます。

Penは電子実験ノートSaaSです。「Personal Experiment Notebook」を略してPenと名付けました。Penのミッションは「実験科学DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現」です。

 

ビジコンでプレゼンする熊谷

ビジコンでプレゼンする熊谷

 

このプロダクトを思いついた背景をお話しします。

僕はこれまで材料工学をはじめとした、実験科学の研究をしてきました。研究では、エビデンスのためにも実験ノートを必ず書かなくてはなりません。でも、未だに実験ノートには紙が使われていることがほとんどです。

一方で、世界的にデータ科学の発展や研究不正防止などを目的としたオープンデータ化の流れになってきています。日本でも国の研究費でおこなった研究については、論文とその論文のエビデンスを原則公開する状況になってきています。

ただ、現状ではエクセルやパワーポイント、pdfなど、いろいろなフォーマットでデータがオープン化されています。この状況は、私が思う理想的なオープンデータの世界ではない気がしていました。

そこで、これまで紙の実験ノートに書いていた時と同じ感覚で記録ができると同時に、知らぬ間にデータ科学に使える形でデータが体系的にまとまり、いつでもオープン化ができる電子実験ノートを作りたい。そういう思いで、Penが生まれました。

 

――今回のビジコンの取り組みには「さくら満開プロジェクト」というプロジェクト名がついています。これは公募され、熊谷さんの案が採用されました。

 

「さくら満開プロジェクト」は妻と一緒に考えました。字面がいいなと思っています。ひらがな、漢字、カタカナをバランスよく使えました。社内からたくさんの新規事業を生み出していきたいというビジョンがあったので、アイデアが咲いて満開になればいいなと思って名付けました。

「満開」って言葉はキャッチーで面白くないですか?

さくらインターネットに新卒入社

さくらインターネットに新卒入社

 

――確かに「満開」って普段使わないし、縁起のいい感じもします。熊谷さんは新卒でさくらインターネットに入りました。ほかの会社からも内定をもらっていたそうですが、どうしてさくらインターネットを選んだのでしょうか?

 

理由は4つあります。1つめは縁を感じたこと。さくらインターネット代表の田中さんとは通っていた学校が中学・高専と同じです。高専では、田中さんが創設したロボコンの部活に所属していました。高専生は高専出身者というだけで、すごく親近感を持つんです。同じ中学、同じ高専、同じ部活の田中さんには強い縁を感じました。

2つめは、さくらインターネットへの就職を考える前から、さくらのサービスを使っていたからです。大学院生のころにさくらのVPSを使って、Webサイトを作っていました。

3つめは、自分の成長につながると考えたからです。就職するときに、研究はやめてフロントエンジニアとして生きていこうと考えていました。さくらインターネットでフロントエンジニアをしていれば、あまり得意ではなかったサーバーサイドも学べると考えました。

4つめは、インターンを経験して会社の雰囲気の良さを感じたからです。

パラレルキャリアを実践中

――熊谷さんは新卒入社のときからさくらインターネットのほかに、理化学研究所の客員研究員として活動しています。さらに2020年からは京都大学の特定助教としても活動しています。これらについては、ほかの取材でもお話されていますが、ほかにも活動していることがあるとうかがいました。

 

昨年から「E4M」という、材料科学のためのWebサイトを運営しています。このサイトは「材料研究(Materials)を支える要素(Elements)を提供したい」という思いから、“E4M (Elements for Materials)”と名付けました。

 

E4MのWebサイト

E4MのWebサイト

 

このWebサイトは趣味として運営していますが、ライフワークのように感じています。

電子実験ノートSaaS「Pen」について

電子実験ノートSaaS「Pen」について

 

――Penについてのお話に戻ります。実験ノートは紙がほとんどだとうかがいましたが、実験ノートって、高いんですね! 1冊1000円くらいで、2000円を超えているものもあります。

 

そうですね。実験ノートにはランクがあって、しっかりしているものはさらに高くなります。実験ノートは普通のノートとは少し違って、改ざん防止機能があり発明を守ってくれるものです。書き方にもレギュレーションがあります。たとえば、空白を残すのであれば「この後ろは空白です」と書いたり、日付は絶対書くなどです。第三者に読んでもらって署名してもらうこともあります。

時代的な流れもあって、いまの若者は紙のノートよりも電子上でメモを取ることに慣れていますし、僕も紙のノートに書くのは好きではありませんでした。実験結果の多くは、装置からデータが出てきて、そのデータをエクセルで処理します。そのプロセスや結果を紙のノートに書くとなると、二度手間だと感じてしまいます。なので、電子実験ノートが普及すれば、研究の効率が上がり、研究者を助けることにつながると考えています。

電子実験ノートを提供するアメリカのBenchlingは評価額が40億ドル

――電子実験ノートを出している企業はどのくらいあるのでしょうか?

 

生物、有機化学系では知っている範囲で数十種類あり注目されています。2012年に創業されたアメリカのBenchlingは、2021年に3億ドルを調達して累計調達額は4億1190万ドルになりました。評価額は40億ドルをつけ、ユニコーン企業となっています。

ただ、それ以外の分野にはほとんど存在しません。

 

――どうして生物、有機化学系以外では、電子実験ノートがほとんど存在しないのでしょうか?

 

一番の理由は資金力ではないかと予想しています。生物、有機化学系は、化粧品や医療と関係するので他分野と比べて資金力があり、電子実験ノートのビジネスが成立すると判断されているのではないかと考えられます。また、不正に対してシビアであることや特許の重要度が高いことなど、分野の特性上実験ノートへの関心が高いことも理由だと考えられます。

もちろん、他の分野も不正や特許に対して関心はありますが、ビジネス的にいうとニッチな市場です。そのため生物、有機化学系以外の分野に電子実験ノートを投入しても、それほど売上につながらないと判断されているのではないでしょうか。

因果の連鎖を体系的にデータ化

因果の連鎖を体系的にデータ化

 

――そうした理由があるのですね。他社のプロダクトと比べたPenの強みを教えてください。

 

因果の連鎖を、直感的なUIで体系的にデータ化できる点です。すでにプロトタイプは完成しており、いくつかの研究機関で実証実験とユーザーフィードバックを得ています。実験において”順番”は重要です。

しかし、ほとんどの実験ノートやデータを記録するシステムは、実験の順番を厳密に記録していません。「この条件ならこの結果」と箇条書き的に記録されているかもしれませんが、それがグラフ構造として厳密に紐づいた形で保存されてはいないと思います。

なぜ順番が重要かというと、たとえば料理には「さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)」があります。これらは入れる順番を変えるだけで、味が変わってしまいますよね。

材料工学も同じです。同じ材料を使っても、順番が違うと結果が変わります。このように、順番(プロセス)に重要な意味を持つ分野は、他にもたくさん存在します。

 

Penを使えば、ノードとエッジで構成されたグラフ構造で、実験の流れもデータ化して保存可能です。

Penを研究者の方に見ていただいたときに、感動してくださいました。

研究者はフローが頭の中にあるんですよ。「この装置の次はこの装置使うよね」といったことが、当たり前のように頭の中にあります。でも当たり前になるまでは、その当たり前を知っている先輩から口伝えで順番を教えてもらうんです。フローを書き出すことはそんなにありません。

 

――口伝えですか。意外とアナログなんですね。

 

そうなんです。口伝えなので、微妙に食い違うこともあります。誰かが言ったことが間違って伝わることも実際にありました。僕自身、大学院の研究室で仲の良い先輩から研究方法を教えてもらっていたのですが、ゼロの状態から教わっていたので、それが正しいと思っていたんですね。

その方法を別の先輩に見てもらったときに、「そんな研究していたらダメだぞ」と注意されて、びっくりしました。きっとその先輩たちも先輩からの口伝えで教わり、少しずつ違いが出てきたんだろうと思います。

この出来事で、人によってフローが違うと知りました。これが可視化できていたら、過去のデータが見られるので間違えなくてすみます。先輩や先生も手取り足取り教える必要がなくなって、自分の研究に専念できるんです。このようにナレッジマネジメントツールとしても活用できます。

Penをどのようにしていきたいか

Penをどのようにしていきたいか

 

――今後、Penをどうしていきたいと考えていますか?

 

多くの人に普及させたいです。はじめは研究者に向けて出していき、次に企業向け、最終的には個人にも広げていきたいと考えています。研究者だけに絞ってしまうと、市場が小さいので上限が決まってしまいます。料理やプラモ製作など、プロセスが重要な分野でいろんな人に使ってもらいたいです。

普及の目的はお金儲けではなく、世界を変えることです。みんなが電子実験ノートを使う世界を作ることが楽しそうだなと思っています。

ブロックチェーンやNFTとも関連付けられるかもしれません。電子実験ノートは、タイムスタンプが重要になります。これとブロックチェーンは、親和性が非常に高いです。かつ、そこに暗号通貨やNFTを紐付けられると、個人がデータを作ることへのインセンティブが出てきます。データをアップすることでトークンが発行されたり……。まだ頭の中でまとまっていませんが、可能性はたくさんあると思います。

 

――社内ビジコンで優勝ということで、事業化もありえると思います。もしかしたら、社内ベンチャーとして起業もあるのかもしれませんね。

 

私の目的はPenを普及して世界を変えることですので、それが達成できるのであれば、さくらのサービス、プラナスソリューションズ(さくらインターネットのグループ企業)のような社内起業、どちらの選択肢も考えていきたいです。

今はひとりでPenを開発していますが、今回のビジコンを機にチームを作りたいと考えています。メンバーは、社内外問わず集めていきたいと考えていますので、Penに共感してくださる方がもしいらっしゃれば、ぜひお声がけいただきたいです! 一緒にPenで世界を変えていきたいですね。

 

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執筆

川崎 博則

1986年生まれ。2019年4月に中途でさくらインターネット株式会社に入社。さくマガ立ち上げメンバー。さくマガ編集長を務める。WEBマーケティングの仕事に10年以上たずさわっている。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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