大友啓史監督が語る「限られた時間でクリエイティブを生み出す方法」

大河ドラマ『龍馬伝』や映画『るろうに剣心』シリーズなど、数々の作品を世に送り出した大友啓史監督が、Sansan株式会社主催の「Sansan Innovation Project 2021」に登壇。

映画製作とビジネスの共通点や人材の発掘方法、クリエイティブを生み出す方法について語ってくれました。

(創造の作法~DXの前にEX(エンターテイメント・トランスフォーメーション)?!~ Sansan Innovation Project 2021 )

創造の作法~DX(デジタルトランスフォーメーション)の前にEX(エンターテイメント・トランスフォーメーション)?!~ Sansan Innovation Project 2021

映画製作とビジネスは似ている

映画製作はおもしろいですよ。1本の映画を創るたびにチームが変わります。

監督もそうですけど、プロデューサーもそれぞれ得意なジャンルや個性があるので、プロジェクトに合わせた個性が集まってくるんです。人、モノ、コスト、それぞれ必要なものを必要なときに集めます。専門性を持ち寄ってお客さんに届ける1つの作品を創っていきます。そう考えると映画は作品であり、アートでもあるけれど、ビジネスで作っている商品やサービスともいえるのではないでしょうか。

監督というのは、自分の好きな作品を創りたいものです。でも、作品がどのようにお客さんに届けられるかを考えていくと、企画やマーケティングも必要だと思います。

脚本を作品にしていくので、文学的な感性と映像的な感性が重要です。でも感性だけではダメで、具体化していく職人や技術者たちの技術、お客さんに届けるためのシステムが必要になります。ビジネスとつながっていると思いますね。

映画は集団芸術といわれます。ビジネスのプロジェクトに置き換えると、ビジネスリーダーがいて、その下にいろいろなスタッフが集められます。ビジネスでは集団の総合力が問われると思いますが、映画製作も同じです。

事業計画書と脚本

映画製作の際、脚本とは別に事業計画書のようなものもあります。企画を創り上げていくうえでのターゲットやキャスティング、なぜこの映画が必要か、なぜこの企画が必要かをまとめるんです。

脚本は映画における設計図といえます。脚本が映像になったとき、どのようなビジュアルになるのかは「ある程度」は事前にわかる術もあるんです。やり方は監督や現場によって違いますが。

ただ、映画の最終形を最初から完全に想定することは、はっきり言って難しいと思います。創っていく過程でどんどん成長していくというか、どんどん変わっていくのがおもしろいです。人と人が一緒に作品創りをしているので、「こうやったら前よりおもしろいんじゃない?」という刺激やアイデアが生まれることもあります。

『るろうに剣心』は、2作で製作に7-8か月かかりました。撮影の間に天気や季節など、製作する諸条件や前提含めて変わる場合があります。

人材の発掘方法。俳優を選ぶときに何を考えるか

人材の発掘方法。俳優を選ぶときに何を考えるか

キャスティングには、いろいろな側面があります。

シンプルにこの人が見たい! というキャスティング方法も当然ありだと思うんですね。と同時に、僕らは基本的にフィクションを創っているので、その俳優にとっても僕にとっても、いわば他者の人生を創り上げていくわけですよ。

坂本龍馬という僕たちが知らない時代に生きた歴史上の人物や、緋村剣心という漫画の人物だとしても、登場人物の生き方にしっかりと向き合ってくれる俳優が僕は好みです。ビジネスのプロジェクトでいうと、しっかりとプロジェクトに向き合ってくれる方といえます。

『るろうに剣心』の剣心って超神速ですから、神の速さのアクションが必要なわけです。みんな最初は、VFXやモーションキャプチャーでやるんじゃないかと言っていました。原作ファンからは「人間が剣心の動きをやるのは無理だ」と言われましたよ。ただ僕は、肉体的なアクションを撮りたいし、必要だと思ったんです。

VFXに流れていく時代の中で、逆に肉体的なアクションを自分の体でやるアクションは、やっぱりおもしろいだろうと。

剣心を演じるにあたって、神速を真面目に実現しようと思って練習に取り組むか「そんなの無理だよ」と思って取り組むかで差が出ると僕は思うんです。

フィクションの人物を演じるときに、漫画と似ている似ていないという議論がされます。もちろん似ていたほうがいいと思います。でも、努力していけば不思議なもので、似ていなくても似てくるんですよ。

『龍馬伝』で岩崎弥太郎を演じた香川照之さんは、写真を見ると顔の輪郭から何から岩崎弥太郎とは全然違います。ところが岩崎弥太郎の人生を生きはじめて、その人物の感情にちゃんと即してその人物の生き方をトレースしているうちに、似てくるんです。俳優って不思議ですね。

だから、役にしっかりと向き合ってくれる人がものすごく大事なんです。

チームコミュニケーションのコツ

1人ひとりのスタッフがクリエイター、アーティストだと思って向き合うようにしています。映画製作においては「おもしろいことを言った奴が勝ち」なんです。

僕は自分だけの考えで創るより、50人100人のアイデアが集まったほうがおもしろい作品になると思っています。

たくさんのアイデアが出やすい環境を作ることは意識しています。アイデアに対してのスタンスとしては、すべてに対して平等でいたいです。どんな立場からどんな人がどんな意見を出しても、おもしろくて自分が撮りたいものであれば、その人の意見を尊重します。

アイデアは世の中に出尽くしています。でも、そこに何か新しい視点を入れることでガラッと変わるので、スタッフにはその視点を求めています。「どんどんアイデア言ってよ」と間口を広げながらやっているつもりです。

クリエイティブと働き方改革

クリエイティブと働き方改革

クリエイティブは個人的な想いと重なると思っています。「ワガママ」と言い変えてもいいです。クリエイティブにこだわればこだわるほど、切り替えが難しくなります。昔は「24時間戦えますか」というメッセージのCMがありましたが、それが難しい時代になってきました。

逆にいうと、仕事の後に自分の時間が取れるようになりました。自分の時間に仕事とは関係ないことに触れることで、全然違うインプットやアイデアが出てくることがたくさんあります。

時間的な区切りやオンオフの感覚は、すごく必要だと思いますね。

常にクリエイティブなことを考えても、何もいいことない気がするんです。頭を全然使わないで、美味しいものを食べたり、全然どうでもいいTV番組を見たり、音楽を聞いたりしたほうが、違うアイデアや考え方につながることが多いと思っています。僕みたいな人間は、作品やクリエイティブのことばかりを考えているように思われるけど、撮りながら全然違うことを考えたりしていますから。

『るろうに剣心』を撮っているときに、それだけを考えていたかというと、そんなことはないです。まったく関係ない映画を見たり、まったく関係ないことをすることで、自分の作品に対して第三者的な視点を得られて、スタッフからの意見やアイデアを取り入れられるようになったりするんです。

もう1人の自分を何人か外側に置いて、頭の中に入れておけるか。そういう感覚も必要な気がしています。

コンテンツ配信の変化

コロナ禍において、急速にネットフリックスを見る人が増えたと思います。

初期のネットフリックスは、日本の電気メーカーに働きかけをしていました。リモコンのスイッチにネットフリックスボタンを入れるような取り組みに、ものすごい情熱と時間と予算をかけていたんです。

ネットフリックスは、こしたコンテンツを流通させるための動きをしていました。その違いはすごく大きいと思います。自分たちが市場開拓するときに、環境を整えることにすべてを惜しまず注力してきたことが、芽吹いたわけです。

コロナ禍において、お客さんが家にこもりはじめた。そこからはじめても、こんなに広まりません。

僕らも日本発のおもしろい作品を、ネットフリックスを起点にして世界に届けられます。しかし一方で、それは世界のソフトと戦うことなんですよ。いい作品として世界の人に見てもらえるものを創るには、世界に負けないクオリティやアイデアが必要です。

先日、先行してアメリカで『るろうに剣心』が公開されたのですが、世界で4位の視聴数を取っています。コンテンツとしての強さと、映画作品としての強さ。流通していくこと、作品として人の心を動かすものであること。これらが大切です。ただし、僕ら映像を創る人間にとっては、「作品」を創る意識が「商品」を創る意識以上に大切になります。

さいごに

作品には思想や哲学があります。製作手法は変わっても、そこはブレないことが大事です。そうしなければ、映画作りは最後までたどりつけません。

僕にとっては、映画を劇場の大画面で観ていただける喜びが一番大きいです。できるだけ多くの人に観てもらいたいと思っています。

 

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