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ピルの相談から処方までオンラインで解決。ネクイノが取り組むフェムテック

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コロナ禍以降、スマートフォンやPCなどを活用したオンライン診察が全国に広がっている。通院にかかる時間や、病院での待ち時間を短縮できる点はもちろん、定期的に薬の処方が必要な人にとっても便利な仕組みといえる。

婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォームを手がけるのが、株式会社ネクイノ(以下、ネクイノ)だ。オンライン・ピル処方サービス「smaluna(スマルナ)」をはじめた経緯について、代表取締役の石井 健一さんに話を聞いた。

石井 健一(いしい けんいち)さん プロフィール

2001年に帝京大学薬学部卒業後、外資系製薬会社アストラゼネカ株式会社に入社。2005年より、ノバルティスファーマ株式会社の医療情報担当者として、臓器移植のプロジェクトなどに従事。2013年に関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科院を卒業後、医療系コンサルティングファームを経て、2016年6月、「世界中の医療空間と体験をRe▷design(サイテイギ)する」というミッションのもと、株式会社ネクイノ(旧ネクストイノベーション株式会社)を創業。

オンラインピル処方サービス「スマルナ」

「smaluna(スマルナ)」は、オンライン診察により経口避妊薬(以下、ピル)を処方するサービスだ。診察を受けたいと思っているユーザーと、スマルナに参加している医師のマッチングにより、ユーザーはアプリ上で医師の診察を受けられる。診察は、全国各地の医療機関や病院で働く産婦人科医師のほか、他科の医師も連携。どの医師が担当しても同品質の診察をおこなえる体制を整えている。また、処方された薬は直接自宅に届くため、ユーザーが薬局へ処方箋を持っていく必要もない。

「産婦人科の先生から、『病院に来れば救えるかもしれないのに、なかなか来てもらえない。一度診察しても、また来なくなってしまうのが悩み』という話をよく聞きます。女性特有の課題を解決できるプラットフォームがあればお役に立てるのではと思い、スマルナをつくりました」

サービス利用時に使用するアプリの総ダウンロード数は130万を超える。オンライン診察を担当する医師は75名(2024年12月時点)所属しており、診察の申込時に女性医師を選ぶことも可能だ。

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ニーズを捉えたサービスが、SNSでも話題に

2018年6月にサービスを開始したスマルナ。当時、Twitter(現X)でプレスリリース記事が引用拡散され、「本当にピルが届いた」と話題になったそう。当時、「ピル 通販」で月間検索クエリが150万以上あったことから、潜在的ニーズを捉えたサービスといえる。

「コロナの影響により、各メディアでオンライン診察が取り上げられ認知度が上がりました。ピル服用前の相談や、どのピルが合っているかなど、処方を迷っている方もカバーできるのがスマルナの強みです」

スマルナのサービスは大きく分けて2つある。ピル処方のためのオンライン診察と、助産師や薬剤師がチャットで相談にのってくれる医療相談室だ。月経についての悩みや薬の飲み合わせなどをアプリで気軽に相談できる点が好評だという。

「2018〜2019年頃は、フェムテックに関する女性起業家が目立ちはじめた時期です。当時は私のような男性がフェムテック領域に参入することが珍しかったようですが、産婦人科には男性医師も多い。経験を積むことで共感も理解もできると先生方にうかがい、励みになりました。先入観や偏見で理解するのではなく、女性特有の課題を正しく知ることが大切だと感じています」

インターン生の入社がきっかけで、婦人科領域へアプローチ

このように女性向けのサービスを提供しているネクイノだが、創業当初は花粉症や男性のコンプレックス領域に関するサービス提供を進めていたという。なぜ、婦人科領域へと方針を変えたのだろう。

「創業時は女性メンバーがいなかっため、男性向けサービスの展開を進めていました。しかし、2017年頃、大学の看護学部に通うインターン生が当社に入社したことが大きな転機となります。彼女はピルを実際に利用していて、そのメリットを感じていたんです。この実体験を元に、女性特有の課題を解決する手助けがしたいと思いました」

石井さんはインターン生をペルソナに設定し、その友人や知人を紹介してもらいながら、月経やピルの使用について話を聞いた。実体験に基づくグループディスカッションを重ねたことで、マーケティングプランの早期確立につながったという。

「日本の医療水準は非常に高いので、適切な診療を受ければ症状の改善が見込めます。とはいえ、一定数の方は医療にたどり着けていません。その方たちをどう医療機関につなげていくのかを創業時から考えていました」

製薬会社のMR(医薬情報担当者)時代の人脈を活かして医師に声をかけたところ、石井さんの想いに賛同してくれる医師が次々と増えていった。プラットフォームをつくり、プロダクトソリューションが確立したタイミングでアプリをリリースしたという。アプリの役割について、石井さんは以下のように語る。

「ユーザーの顧客体験最適化に向いているのはアプリです。リリースからこれまで自社で開発をおこなっています。薬を販売することが目的ではなく、リアルの医療機関では体験できないことをプラットフォームの中に入れて医療全体の質を向上させることが大事。スマルナが、医療と人々をつなぐ架け橋になればと思います」

婦人科医の人手不足解消と、医療品質を担保する仕組み

「医療資源には限りがあるため、その限られたリソースを集約することで、医師が本来の業務に専念する時間を捻出できる」と石井さんは語る。

「スマルナをリリースした2018年頃、国内の低用量ピル服用率は対象人口の3%ほどでした。ところが現在は6%を超え、年々服用率は上昇しています。産婦人科の待ち時間もますます増えていくことが予想されます。

提供:ネクイノ

海外では、ピルのようなバースコントロールや生理痛緩和は産婦人科の領域ではなく、内科や助産師に権限移譲されているケースも多いんです。一方で、日本は専門医志向が高いので、今後ピルの利用者が増えると産婦人科医不足が懸念されます。われわれのプラットフォームを活用することにより、一定の品質を保ちながら、ITの力で医療の普及を加速させる手助けができると考えています」

オンライン診察を担当する医師は輪番制だ。医師を自分で選びたいユーザーと早く診察を受けたいユーザー、両者のニーズを満たすために、時間単位で診察枠を設定。365日診察可能な仕組みを構築している。

また、医師の審査にも明確なルールがある。ネクイノでは、実際に病院を訪問して直接医師と面談をおこない、思想などをヒアリングする。医師免許証や所属の確認はもちろん、厚生労働省が実施するオンライン診療研修も修了していることが条件だ。

「医師とユーザーのコミュニケーションはもちろん、医療的な品質も大切にしています。専門の医師に集まっていただいて学会のような組織をつくり、プラットフォーム内の基本的な考えをつねにアップデートしてもらうんです。たとえば、明確な診療ガイドラインがない事象の場合は、個別の医師の考えを尊重しつつ、組織の中で話し合ってルールを決めていただくことにより医療品質を担保しています」

ライフステージの変化に寄り添うサービスを展開したい

スマルナのサービス開始から6年が経った現在、アプリのダウンロード数は130万を超え、さらなる利用ユーザー拡大を目指す。ネクイノが見据えるターゲット層は国内の生殖女性人口(15歳〜49歳)で、対象者は約2000万人1 にものぼる。

「今後は妊活の支援・更年期のケアなど、ユーザーのライフステージの変化に合わせた課題を解決するサービスを開発したいですね。ユーザーのパートナーの健康リテラシーを高める方法や、パートナーシップをよりよくしていくご提案についても検討したいと考えています」

ネクイノが手掛けるのは、スマルナだけではない。2024年5月には、生理用ナプキン無料化サービス「toreluna(トレルナ)」を本格リリース。アプリとトイレ内のディスペンサーを連動させ、トイレの個室内で無料で生理用ナプキンを受け取れる仕組みだ。また、スマルナの法人向けサービス「スマルナ for Biz」は累計100社ほどの導入実績を持つ。石井さんに、フェムテック領域に注力する理由を最後に聞いた。

「多くの方は組織や学校に所属していますので、女性特有の課題は組織レベルで対応すべきだと思うんです。コミュニティの中にスマルナのようなサービスを取り入れることにより、一定の価値が生まれ、福利厚生の充実や女性の働きやすさにつながります。ICTの力で社会やユーザーが抱える課題を解決し、リアルを超えたサービスのメリットを感じていただきたいです」

  1. 総務省統計局 各1日現在人口
    2024年(令和6年)10月報(2024年(令和6年)5月確定値、2024年(令和6年)10月概算
    値)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202410.pdf ↩︎

株式会社ネクイノ

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執筆

香川けいこ

大阪市在住のフリーライター。暮らし・食・登山に関する執筆や取材、編集に携わる。趣味は街歩きと山登り、アニメ鑑賞。
HP:https://yoiko.site/

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