世界は不安定で複雑になっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、その原因であり解決策でもあります。
予測不可能な世界で、組織が成功するためのデジタルを活用する方法について、IMDのマイケル・ウェイド教授が、自身の考えと最新の研究結果を紹介。さらに、組織がトランスフォーメーションする際に犯しがちな失敗について説明し、それを克服するための方法を提案してくれました。
Sansan株式会社が開催した「Sansan Evolution Week 2022」の講演内容をもとにお届けします。
ブラックスワンと灰色のサイ
世界は、ますます予測が難しく、複雑で不安定になってきています。その理由のひとつが「ブラックスワン現象」です。滅多に起こらない現象ですが、起きた場合には大きなインパクトがあります。最近ですと新型コロナによるパンデミックが挙げられます。この事態を誰が想像したでしょうか?
このように予測が非常に難しく、発生すると壊滅的な被害が出るのが、ブラックスワン現象です。
ブラックスワン現象以外にも、懸念すべき「灰色のサイ」があります。灰色のサイは、さほど珍しい事象ではありません。よくある事象で、大抵は静かに進行します。そのため、誰も気にしません。しかし暴走し始めたり、攻撃してきたら大きな問題となります。サイは非常に強く、ゾウと戦っても勝てるほどです。
灰色のサイについて考えてみましょう。地政学が、そのひとつです。世界の超大国が争いを繰り広げています。現在、ロシアがおこなっていることを考えてみてください。
地球温暖化も灰色のサイといえます。いつどのような影響が起こるのか、わかっていません。火山の噴火や地震といった自然災害も灰色のサイです。
サイバーセキュリティという灰色のサイもあります。サイバー攻撃は、さらに深刻になっています。もはや日常の問題です。いつ大きな攻撃がやってきて、私たちにどのような被害を与えるのでしょうか?
このような予測不能な事象が、世界を不安定にする要因となります。
ブラックスワンや灰色のサイに対応するには、どうすれば良いでしょう? 多くの人は、自分を変えていくことで対応します。
そこでお伝えしたいのが「DX」です。
DX=組織改革プロジェクト
私たちが定義するDXとは、デジタルツールやビジネスモデルなどを活用して組織を変え、パフォーマンスを改善することです。
パフォーマンス上のメリットがあるうえ、組織の変革も達成していきます。これは、単なるITや技術プロジェクトではありません。デジタルプロジェクトでもなく、組織変革プロジェクトなのです。
DXとデジタル化は違います。デジタル化は、物理的なものをデジタルにすること。つまり、物理的なプロセスをデジタル化することです。たとえば、紙ベース資料の電子化。これは非常に価値のあることですが、同じプロセスを効率よくするだけです。
一方、DXはさらに困難といえます。DXは、お客さまのために「価値を創造する新しい方法を見つけ出す」ことなのです。
私はスイスのビジネススクール「IMD」でDXの研究センターを運営しています。そこでコロナによるDXへの変化を調査してみました。
「あなたの組織ではDXを重視していますか?」と質問したところ、パンデミック以前は、68%が「重視している」と回答しました。ところが、パンデミック後の昨年には、90%の組織が「重視している」と回答しています。みなさんの組織でも、同じように感じているのではないでしょうか。
パンデミック以前にデジタル化の推進に投資した組織は、デジタル化が進んでいない組織よりも業績が優れていました。デジタル成熟度が高いほど、利益があったのです。
ただ残念なことに、DXが困難であることもデータが示しています。非常に難しいうえ、失敗する確率も高いのです。研究所だけではなく、ほかからも情報を集めました。結果、87%がうまくいっていないとわかりました。
なぜ失敗率が高いのか? 失敗を避けるにはどうすればいいのか?
IMDが発表したデジタル競争力ランキングで、日本は64か国中28位という結果でした。しかも、この2年で順位は下がっています。2019年は23位、2020年は27位でした。
もう少しデータを深堀りします。日本の技術そのものは優れています。しかし、デジタル競争力という点では懸念される分野があります。それは「ビジネス・アジリティ」です。ビジネス・アジリティは64か国中、53位となっています。アジリティは「機敏性」という意味です。
少々ネガティブに聞こえますが、デジタルに関してはポジティブな面もあります。デジタルの世界で活躍している、素晴らしい企業もあります。DX推進の際に組織が陥りやすい3つの間違いに基づき、失敗を避ける工夫を考えてみましょう。
組織が陥りやすい間違い その1.誤った目標設定
まずはじめに、実現目標は合理的でしょうか? たとえば「デジタル化をさらに進める」という目標は妥当に見えます。ただ、妥当に見えても危険な場合があります。なぜなら、DXに関連する技術そのものに注目し過ぎて、組織にもたらされる価値を見失ってしまうからです。最も大切なのは業績の向上ですが、進めたデジタル技術が業績に貢献するとは限りません。
業務効率化を目標に掲げるケースもよくあります。これは「デジタル化のためのデジタル化」です。
目標を達成するための戦略が明確でないと、中途半端な状態になってしまいます。しっかりと管理されたデジタル戦略があれば、デジタル面と財政面において向上するとわかっています。
では、DXにおいて優れた目標とはなんでしょうか? 私たちは5つの要素を取り上げています。
- Precise(正確)
- Realistic(現実的)
- Inclusive(包括的)
- Succinct(簡潔)
- Measurable(測定可能)
残念ながら大抵の目標には、5つの要素がありません。この目標設定を意識してください。
組織が陥りやすい間違い その2.孤立したサイロ内でDXを管理
組織がサイロ化していると、DXもサイロの中で進んでしまいます。ところが、デジタルツールや技術の恩恵は、規模によって増幅されます。規模が大きいほど恩恵も増え、インパクトが大きくなるのです。規模を広げるために、孤立したサイロから自由に移動する必要があります。
私たちは、これを説明するための枠組みを「DXオーケストラ」と呼んでいます。
オーケストラでは、ひとつの楽器だけを聴きたいわけではなく、複数の楽器のハーモニーを聴きたいと思うはずです。成功したDXの事例を見てみると典型的な特徴があります。そこには、10個の要素が考慮されているのです。それぞれのセクションごとに説明します。
「GO-TO-MARKET」セクション
お客さまに売る製品やサービスに関して、適切に組み合わせてください。また、お客さまに届けるチャネルはあるでしょうか。
「ENGAGEMENT」セクション
お客さまや従業員とはパートナーのような関係を築くことが大事です。デジタルツールを活用して、より効果的な関係づくりが可能か考えましょう。
「OPERATIN」セクション
物事の進め方について考える必要があります。プロセスを標準化し、調和させ、さらに簡素化、デジタル化できるか考えてください。また、DXを支えるために必要なIT基盤があるでしょうか。
「ORGANIZATION」セクション
このセクションは最大にして最重要ポイントです。組織の構造である部門や部署など、ビジネスラインはどのように組み立てられているでしょうか。インセンティブについても考えましょう。DXの成功に必要な報酬を与えていなければ、うまくいきません。
企業文化は、変革に必要な変化を受け入れる準備ができているでしょうか。簡単ではありませんが、必要なことです。
組織が陥りやすい間違い その3.戦略のアジリティよりもプランに注力
3年後や5年後の戦略を考えている組織は多いと思います。しかし残念ながら、こうした計画はかつてのように有効ではありません。なぜなら、いまの世界は予測不能だからです。いまのパンデミックを予測していた人は、ほぼいないはずです。変化に対応するための調整が必要になります。この調整こそが戦略のアジリティなのです。戦略の重要性は失われ、アジリティが重要になっていきます。
アジリティとは3つの能力であると結論付けました。
1つめの能力が「察知力」です。私たちを取り巻く世界を感じ、理解して内外での新しい機会や脅威を発見することです。
さらにその情報を活用して行動しなければなりません。それが2つめの能力「情報に基づく意思決定」です。察知力から得たエビデンスに基づいて、意思決定をおこなうのです。しかし、それでも足りません。決定したことを迅速に行動に移すことが大事です。
これが3つめの能力「迅速な実行」です。多くの企業が、この点で苦労しています。日本企業の多くは、実行までが遅いのです。これから成功するのは、戦略のアジリティをしっかり備えている企業だと思います。
あなたの組織は、これらの間違いに陥っていませんか? 陥っているとしたら、どのように対処できるでしょうか? 考えてみてください。
まとめ
DXは本当に難しい課題です。過去でも現在でも、未来においても難しい問題なのです。DXにおける最大の課題は、技術的なものではありません。最大の課題は組織にあります。「人材」「過程」「企業文化」に関わるものです。
DXはプロジェクトのように、始まりと終わりがあるわけではありません。変化と適応を続けながら、つねに予測不能である世界を映し出していくプロセスです。
私はこれまでに多くの成功事例を見てきました。DXがみなさんにもたらす事業の価値や利益を見つけましょう。
成功できない理由はどこにもありません。
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