さくらインターネットの「高専支援プロジェクト」――高知高専の客員准教授に就任した社員のIT教育にかける想い

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さくらインターネットがこれから成長していくための注力テーマの 1つとして掲げている「教育」。クラウド事業者としてどうすれば次世代に貢献できるか、試行錯誤しながら活動を広げています。「高専支援プロジェクト」はその取り組みの1つです。2023年3月に独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)と協定を締結し、6月には「高専支援プロジェクト」のメンバーである ES本部 ES部 前佛 雅人が、高知工業高等専門学校(以下、高知高専)の客員准教授に就任しました。

ニュースリリース:さくらインターネットの社員が、高専機構との包括連携協定の一環として高知工業高等専門学校の客員准教授に就任

本稿では、「高専支援プロジェクト」をはじめとするさくらインターネットの教育に関する取り組みをご紹介するとともに、前佛に客員准教授としての意気込みや IT教育にかける想いを聞きました。

さくらインターネットの「教育」の取り組み

プログラミング教室「KidsVenture」の様子

インターネットの普及によって社会は急速に発展を遂げ、そのスピードは今後ますます加速していくことが予想されます。変化の激しい時代でありながらも、多くの人が「やりたいこと」を「できる」に変えられるような社会をインターネットとともにつくっていく。その目的のため、さくらインターネットでは、注力する4つのテーマ「デジタル化」「地方創生」「教育」「スタートアップ」を掲げています。

その中の「教育」において、社内の活動としては、社員に向けて階層に合わせた一般的な研修制度を導入するだけではなく、エンジニア以外のバックオフィス業務をしている社員などを対象に「DX Journey」という研修を実施しています。これは ITインフラなどの技術に関する専用の研修で、お客さまの DX を支援する企業として、社内で DX を実践できる人を増やすためのものです。

一方で、社外の活動として、「プログラミングの楽しさを知り、高い ITスキルを身に付けて社会で活躍してほしい」という想いから、子どもたちや学生を対象に、以下のような教育支援をおこなっています。

 

KidsVenture

「子どもたちに電子工作やプログラミングに触れるきっかけを与えたい」と意気投合した IT企業6社で、プログラミング教室「KidsVenture」を運営しています。パソコンの組み立て、ロボット制御などを題材に「つくる楽しさ」「学ぶ喜び」を感じられる機会を提供するものです。おもなワークショップの内容は、IchigoJam というプログラミング専用の子どもパソコンをはんだごてを使って組み立てる電子工作と、組み立てた IchigoJam を使ったゲームプログラミングです。

・高専支援プロジェクト

全国の高等専門学校(高専)の学生向けに教育支援活動をしています。クラウド・IoTサービスの体験学習や石狩データセンター見学ツアー、さくらインターネットのサービスを用いた教材の共同制作などを実施。ほかにも、全国高等専門学校プログラミングコンテストに 10年以上協賛しています。

さくらの学校支援プロジェクト

2020年に小学校でのプログラミング教育が必須となったことを受け、2017年より石狩市の小学校と教育委員会への支援を実施。教育委員会や有志の先生が主導してプログラミング教育に取り組める体制を構築しました。
その結果、北海道内の各自治体からもご要望いただくようになり、2019年から「さくらの学校支援プロジェクト」と名称を改め、活動を広げていきました。広く国民の科学技術に関する関心および理解の増進などに寄与したことが認められ、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(理解増進部門)を受賞しています。
現在は一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)が主催する「ワクワクする学び場創造研究会」に参画するなど、引き続き学校でのプログラミング教育および ICT活用教育への支援をおこなっています。

 

このほか、学習環境の向上を目指して、教育関連のコミュニティーへの協賛などを通じた支援をおこなっています。

高いスキルを持った IT人材の不足が社会全体の課題となっている中、将来の IT人材創出に向け、クラウド事業者としてどうすれば次世代に貢献できるか、試行錯誤しながら活動を広げています。

 

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高専機構と包括連携協定を締結。新たな高専支援の取り組みを開始

(左)さくらインターネットの代表取締役社長 田中 邦裕、(右)高専機構の理事長 谷口 功 氏

前述の「高専支援プロジェクト」において、新しい取り組みが始まりました。

当社と独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)が、DX の推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を2023年3月23日に締結。

本協定は、さくらインターネットと高専機構が相互に人材・技術・資源などを活用することで社会貢献を図り、ひいては産業発展を目指すことを目的としています。インターンシップなどを通じた人材交流や、高専機構の授業に講師としてさくらインターネットの社員を起用いただいたり、高専機構の学生に研修環境としてサービスを無料で提供するなどの活動を計画しています。

 

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この高専機構との協定の一環で、「高専支援プロジェクト」のメンバーである ES本部 ES部 前佛 雅人が、2023年6月1日より、高知高専の客員准教授に就任。実際に講義をおこなうこととなりました。

前佛に聞く、客員准教授としての意気込みと IT教育にかける想い

客員准教授として取り組んでいきたいことや IT教育にかける想い、そして「高専支援プロジェクト」が今後目指していくことについて、前佛に聞きました。

ES本部 ES部 前佛 雅人

 

――客員准教授として、どのようなことに取り組まれていくか、教えてください。

今年度は、クラウドやセキュリティに関する出前授業を数回ほど実施します。具体的には、「さくらのクラウド」などの計算資源を利用し、クラウドを使った開発や構築、ネットワーク、セキュリティについて、学生の皆さまに学んでいただきます。授業実施に向けては、高知高専の先生方と協議しながら計画を進めていますね。来年度からは、半年または通年での講義・実習の実施も想定しています。

今回の授業計画にあたり、単にさくらインターネットが提供したいクラウドサービスの技術などを、一方的に学生に伝えるものにならないように気を付けています。学生の皆さまには、社会で実践できる技術を教えていきたいのです。授業や実習では、土台である計算機科学や情報処理の領域に関する知識はもちろん重要です。それに加えて、新しい技術や、これらの知識を活かした社会での実践を意識した講義を目指します。

たとえば、日本でクラウドコンピューティングの認知や普及が始まったのは 2010年代であり、まだ 10年少々しか経っていません。さらに、クラウドネイティブと呼ばれる領域のコンテナ技術も、やはりこの 10年で登場して普及途上です。学生の皆さまには、世の中の技術を素早くキャッチアップし、本質的な部分を抽出して、深く考え、発展的な考え方を得て、実践できるような学びの機会を提供したいですね。

また、地方の学生を応援したいという気持ちもあります。私自身、「富山工業高等専門学校」(当時)*1で学んだ地方出身者です。インターネットが普及した現在、日本のどこに住んでいても、日本中、世界中の情報にアクセスしたり発信したりできる環境になりました。地方にいることを「できない」言い訳にするのではなく、地方でも「できる」ような活動を後押ししたいです。

 

――客員准教授の打診を受けたときの率直なお気持ちは?

私は教育における専門家ではないので、「私でよいのだろうか?」と少し不安もありました。しかし、生成系AI  に代表されるように、日々進歩が著しい情報技術分野において、誰も答えを知らないパラダイムシフトが起こりつつある時代です。私の経験を活かしながら、私自身の新しい学びやチャレンジを続けるためのよい機会だと考えています。

 

――前佛さんは、「高専支援プロジェクト」のほか、「さくらの学校支援プロジェクト」にも関わり、そして社内に向けても「DX Journey」の講師をされるなど、IT教育に熱心に取り組まれています。IT教育はどうあるべきとお考えでしょうか。

理論も必要ですが、何よりも自ら手を動かす実践力も必要と考えています。いわゆる「IT」の領域は、すでに特別な訓練や教育を受けた者だけが扱うような技術ではなく、インターネットやスマートフォンの普及にみられるように、私たちの日常生活からは切ろうとしても切れない領域になりつつあります。

もちろん、土台となる知識は重要です。一方で、これらの知識を活かした社会での実践が何より欠かせないと考えています。単に技術や理論を知るだけではなく、社会での課題解決も意識する教育を進めたいです。

これだけ情報が溢れる世の中ですから、「見たこと」「聞いたこと」で満足しがちですよね。そうではなく、目の前の課題に対して、コンピュータやインターネットの力で立ち向かい、問題解決に挑める仲間を増やしたいと思っています。

 

――「高専支援プロジェクト」として、今後目指していきたいことを教えてください。

「技術を通した学び合いの文化」を広めたいです。

領域は異なりますが、たとえば「自動車の運転」は、決して一部の人間に対する特権的なものではありません。車の運転がしたければ、運転免許を取得する一連のプロセスを経るだけです。交通法規を学び、車の仕組みを最低限理解し、車上教習をおこない、試験を受ける。晴れて免許を得たら、車さえあえれば、自分が手にするハンドルとペダルで、どこでも好きなところに行けるのです。

それと同じように、コンピュータやインターネットも、決して特別な技術・スキルではなくなったと思っています。もちろん、車でいうと整備士や開発者のように、作り、維持する人々も必要です。しかし、多くの人たちにとって必要なのは、技術的な仕組みよりも「車を使った問題解決」ではないでしょうか。たとえば、家族や友人と旅行に行く、気晴らしに運転する、でも構いません。

さくらインターネットの理念は「『やりたいこと』を『できる』に変える」です。コンピュータやインターネットについても、利用者のハードルをもっと下げて、「やりたいことをできる」人たちを増やし、それを支える技術者も増やしていく。そのために、知識やスキルを属人的なものと特別視せず、シェア・発展できるような文化作りに貢献していきたいです。

学生の知識と技術を向上させ、その成果を全国の高専へ

前佛の高知高専の客員准教授就任について、高知高専の江口 忠臣 校長より以下コメントをいただいています。

高知高専の江口 忠臣 校長

独立行政法人国立高等専門学校機構は、さくらインターネット株式会社さまと DX の推進およびデジタル分野の人材育成と教育に関する包括連携協定を 2023年3月23日に締結しました。

本協定締結は、相互に人材・技術・資源などを活用することで社会貢献を図り、ひいては産業発展を目指すことを目的としています。そして、学生の技術および知識の向上を図る教育活動およびデジタル社会における人材育成と教育基盤の底上げが期待されています。

この協定締結を受けて、本校が全国に先駆けてさくらインターネットさまと新しい教育実践をおこないます。

本校は、2016年度より学科改組により情報セキュリティコースを設置しています。同時にサイバーセキュリティ人材育成事業の拠点校として、サイバーセキュリティ教育やデジタル教育に取り組んでまいりました。サイバーセキュリティ教育では技術の進展への対応のため、実務者の知見を教育に活かす必要性を強く認識しております。

そのような状況において、今回のさくらインターネットさまとの連携により、本校の当分野の教育チームと協働でプログラムを作成し、実践する予定です。

このたび、実務家教員による教育実践のため、前佛雅人氏に客員准教授に就いていただきました。前佛氏の豊富な経験とスキルを活かした授業内容で、学生の知識および技術の向上を図るとともに、その成果を全国の高専に展開する基礎を作っていきたいと考えています。

 

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*1:現在は、「富山工業高等専門学校」と「富山商船高等専門学校」が統合して「富山高等専門学校」という名称になっている。