DXを支援するための社内教育。さくらのDX Journey 担当社員インタビュー

DX Journey(ジャーニー) とは、さくらインターネットが、お客さまのDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する企業として、社内でDXを実践できる人を増やすための取り組みです。

2021年10月に第1期 DX Journey がはじまり、20名の社員がプログラムに参加。週1回の講義や課題提出におよそ4か月にわたって取り組みました。プログラム終了後、参加者からの「学んだ内容が業務に活かせた」といった声や、定員を超える多数の希望者がいたことを受け、今年8月より第2期 DX Journey がはじまります。

第1期より、DX  Journey のプログラム作成や講師を担当した前佛 雅人。「社内全体で学びやすい雰囲気づくりをしたい」と言う前佛が、DX Journey に取り組む中で苦労したことや、今後の社内教育について語りました。 


社外に向けてDXを支援するための社内教育。さくらのDX Journey 担当社員インタビュー

前佛 雅人(ぜんぶつ まさひと)プロフィール

クラウド事業本部 カスタマーリライアビリティ部所属。社外向けセミナー講演やプログラミング教育支援、ハンズオン運営の経験などから、社内教育に関わってほしいと打診を受け、DX Journey のプログラム作成や講義運営など全般に関わる。

「技術を活用できること」に気づくきっかけづくり

――前佛さんが DX Journey に取り組むことになったきっかけについて教えてください。

 

私はもともと、「さくらの学校支援プロジェクト」や、社外向けのセミナー講演・ハンズオンの運営に取り組んでいました。その経験から、「社内教育に関わってほしい」と当時のES本部長にお声かけいただいたのがきっかけです。

もともと、さくらインターネットの経営層から、DXを支援するIT企業として社内にいるのであれば、プログラミングをはじめとする技術スキルの習得は大前提という話がありました。それで、2021年10月から中長期の目標としてスタートしたという経緯です。

業務的な意味ではほとんどの方がコンピューターを利用していますが、コンピューターや技術を活用するという意味では、経験のない方が多いと思います。そういった方に、学びの機会を提供したいと考えています。

DXという言葉はすでにバズワード化していますが、単なるシステムやサービスの導入ではありません。プログラミング学習やセミナー受講自体を目的にせず、コンピューター、プログラミング、インターネットを「道具として活用する」ことで、私たち自身の業務を変える力にしないといけません。

さくらインターネットは、「やりたいことをできるに変える」を掲げています。社外に向けてDXを支援するだけではなく、私たち自身が、社内でもDXを実践できる人を増やす必要があります。

 

――DX Journey の第1期が終了しました。とくに苦労された点はどのようなことでしょうか。

DX Journey 『コンピュータとプログラミングの基礎』

業務の時間内で参加できるよう、1週間のうち90分間の講義を受けてもらうようなかたちで進めました。限られた枠でどれだけいろいろ経験してもらうか、どれだけ考えを深めてもらうか、とても悩みました。

第1期生の方々には、普段の業務で「技術を活用できることに気づく」ことができるよう、意識しました。どういった内容の講義を受けていただいたら、学んだことが業務の効率化や自動化につながるか、「もしかしたらこの技術が使えるかも」と思ってもらえるか。そういった設計をするのが難しかったですね。

単純にプログラミングや手順を教えるだけなら、敢えて業務の時間を使ってやる必要はありません。講義のあと、普段の業務を変えていくためのヒントをちりばめたつもりです。どちらかというと、考え方やきっかけづくりのために時間を費やしました。

 

――講義はオンラインだったんですよね。

 

はい。毎回、最大で15、6名の方にリアルタイムで参加いただきました。講義自体は、オンラインで大きな問題はありませんでした。

ただ、教える側としてはすごく難しかったです。というのも、対面のときは非言語コミュニケーションがとりやすいと思うんです。私は社外向けセミナーなどの登壇経験もあり、相手の視線や身振りなどから、話していることが通じているかどうかを感じ取るのが得意です。でも、オンラインだとそれが活かせないんですよね。

そういったなかで、どうやって参加者の理解度を高めるか。これまでと違ったノウハウが必要とされました。私にとってはいいチャレンジになりましたね。

講義の当日は、ラーニングコーチとして6名の方にサポートしていただきました。1期生の方々を各チーム5、6名ごとにわけて、それぞれのチームについてもらいました。ラーニングコーチのサポートで、ディスカッションや質問ができるような場をつくることができ、非常に助かりました。

 

――1期生の中で、業務に活かせた事例はありますか?

 

Slackのワークフロー

Slackのワークフローなど、Slackでできる自動化処理をいくつか紹介しました。比較的普段の業務で取り入れやすいので、実践できたという声は聞きましたね。

学びやすい雰囲気づくり

学びやすい雰囲気づくり

 

――第2期に向けて実現したいことについて教えてください。

 

教えること、教わることのハードルが高くなってきていると感じています。できれば、DX Journey にもう少しかかわってくれる人が増えて、社内全体で学びやすい雰囲気づくりができればいいなと思います。

世間的にも、とくにコンピューターやインターネットに対するハードルが高い気がするんです。

たとえば、地方に住む人にとっては車は必需品です。なので、車が好きか嫌いかにかかわらず、18歳になると免許をとる方が大半です。車に乗るのは当たり前のことで、苦手であるとかは関係ありません。

私は地方出身で、30歳前に東京に出たのですが、都市部だと車の免許を持っていない人も結構いてとても驚きました。都市部では、そもそも車に乗る機会も少ないですし、車に対するハードルも高いのかもしれません。

コンピューターやインターネットも似ています。いまもコンピューターやインターネットについてはなにを勉強していいかわからない、そもそもプログラミングは難しそう、という方もいるでしょう。

でも、多くの方はスマホを当たり前に使っていますよね。仕事でもコンピューターを使っている。スマホやコンピューターを使えば、ちょっと工夫するだけで仕事が楽になったり、私たちの生活がより便利になるはずです。にも関わらず、なぜこんなにコンピューターに対するハードルが高いのでしょうか。そこに、課題を感じています。

地方において当たり前のように車の免許をとるように、コンピューターやインターネットも、普段の生活の中に浸透しています。これを活用しない手はありません。

これを踏まえて、DX Journey の講義では、わからないことがあればなんでも質問してくださいと言い続けています。

 

――こんな簡単な質問していいんだろうか、と思ってしまうこともありますよね。

 

はい。質問に対するハードルを下げて、もっと気楽に聞いていいのではないでしょうか。

ITの業界には、なんとなく背中を見て学ぶ雰囲気が残っています。いま、エンジニア人口が少ないといわれていますが、新しい人が入って来にくい雰囲気を作ってしまっているのではないかと危惧しています。プログラミングを何年かやっていないと現場に出られない、なんて言わずに、みんなで人を育てればいいのではないかと思います。

昭和から平成にかけてのコンピューター黎明期は、自宅にコンピューターがある、学校で学ぶ機会があった、あるいはまわりに教えてくれる大人がいた、といった限られた人しかコンピューターに触れられませんでした。

そういう意味では、じつは私も学び損ねています。小学校の時に自宅にパソコンはあったのですが、本を読んでも意味がわからず、まわりに使い方を教えてくれる人がいなくて、活用する方法がわからなかったんです。

その一方で、私と同世代でも都市部に住んでいた方は、教えられる方がまわりにいたり、秋葉原にも足を運びやすかったのではないでしょうか。とてもうらやましいですし、とても悔しいです。私の世代は私と同じような感覚をお持ちの方が結構多いかもしれません。

自分の意志でコンピューターに触れられるようになったのは高専入学後の16歳のときです。図書館にいけば本もあり、先輩や先生にいろいろ教えてもらえました。私は電気科専攻だったので、全然関係なかったのですが(笑)。

いろいろな方に教えてもらえた経験があるからこそ思うのですが、どれだけ独学でやっても、いろいろな方に教えてもらうことにはかないません。みんなで学び合うことで、新しいものが生まれるきっかけや、チャレンジできるような心構え、マインドが育つのではないでしょうか。

社内にもみんなで一緒に学べる環境をつくって、社会全体にも広げていきたいです。

私が子どものころに比べれば、学ぶハードルはとても下がっています。首都圏にいなくても、学ぼうと思えば学べるようになりました。

学ぶこともただの手段で、世の中をかえていくことが本来のDXです。学びもショートカットできるのであればどんどんすればいい。いろいろな人が集まって、世の中を変えられる力を持った人をどんどん増やしていく必要があります。

技術を使って「何をしたいか」が大事

――今後の社内教育について、前佛さんのご意見を聞かせてください。

 

学びの機会をもっと増やす必要があると思います。これまでは、ひとつの職種に絞って進路を選んできた人が多いでしょう。でも、これからはいろいろな人生のステージがでてくるなかで、一度なにかを学んで終わり、ということはないと気づいている方は多いと思います。

では、ステップアップするにはどうするか考えたとき、転職をするしかないという雰囲気がありますよね。これは、社内に限ったことではなく業界全体でそうだと思うのですが、それを変えるためのきっかけづくりも必要かもしれません。

 

――これから技術を学ぶ初心者に対して、なにかアドバイスはありますか?

 

まずは興味を持ってください。そのうえで、プログラミングやコンピューターを使うのが目的ではなく、あくまで手段であると意識してほしいです。DX Journey でもこれを強調していました。

自動車学校にいって免許をとったり、車を買うことが目的ではありません。車を使ってどんな体験をしたいかが肝心です。コンピューターやプログラミングも同じで、専門職であれば深く学ぶ領域や分野はありますが、まずは「使う」ことを頑張るのではなく、使って「何をしたいか」に気づいてもらいたいです。

どんな仕組みがあれば、あるいはプログラミング言語やソフトを使うといまより便利になるかな、どうしたら楽しく働けるかな、ということに意識を向けていただきたいですね。