ナレッジマネジメントとは、個人が持つ知識やノウハウを可視化して、会社や組織全体で共有する経営手法です。
あらたな知識やノウハウを得た際に、蓄積して共有します。それを活用することで、業務改善や生産性向上を促進します。 2020年からリモートワークが増えてきました。対面で情報共有する機会が減ったため、いままで以上にナレッジマネジメントが必要になるでしょう。
この記事ではナレッジマネジメントの意味や、導入することによるメリット、実際の導入事例などについて、わかりやすく簡単に解説していきます。
- ナレッジマネジメントとは
- ナレッジマネジメントのメリット3つをご紹介
- ナレッジマネジメントのフレームワーク SECIモデル
- ナレッジマネジメントを導入した企業の事例
- ナレッジマネジメントに活用できるツールの紹介
- ナレッジマネジメントは企業が成長するために必要
ナレッジマネジメントとは
「この仕事は、ベテランの◯◯さんでないとできないな」
「あの案件については、担当者の◯◯さんしかわからないよ」
仕事をしていると、そんな話が聞こえてくることもあります。しかし、会社という組織で仕事をするうえでは、特定の人しか仕事の内容や進め方がわからないことはリスクにもなります。そこで効果的なのが、ナレッジマネジメントです。
ナレッジマネジメントは経営学者の野中郁次郎氏、竹内弘高氏によって広められました。KM(Knowledge Management)と略されることもあります。日本語では「知識管理」「知識経営」と訳せますが「知識創造の経営」まで踏み込む必要がある、といわれます。
ナレッジマネジメントは企業によってさまざまな形で導入されますが、基本となる「知識・ノウハウの共有」という目的は変わりません。
そのため、前提として社内のコミュニケーションが円滑におこなわれている必要があります。もし社内のコミュニケーションがうまくいっていない場合は、その改善からはじめたほうがいいでしょう。
ナレッジマネジメントにおける形式知と暗黙知
ナレッジマネジメントは、業務改善や生産性向上以外にも、事業計画やプロジェクトの進行を円滑にしてくれます。
たとえば、会社や組織にいる人間がそれぞれまったく違った事業構想を持っていると、計画がなかなか決まらなかったり、全員の意見を反映するのが困難になります。こういったトラブルを回避するためにも、ナレッジマネジメントが重要です。
また、ナレッジマネジメントの最終的なゴールは「企業そのものの成長」にあります。知識やノウハウをまとめても企業の業績が伸びない場合、ナレッジマネジメントが成功したとはいえません。
ナレッジマネジメントを成功させるためには「どのような知識・ノウハウをまとめれば、会社にとって有益なのか」をしっかり判断することが大切です。ナレッジマネジメントにおける知識は、「形式知」と「暗黙知」の2つのタイプにわけられます。
形式知
形式知というのは、言葉や図を用いて明示的に表現された知識のことです。入社時に配布されるマニュアルには、基礎的な業務の流れを図や言葉を駆使してわかりやすく書いてあります。これは共有しやすい知識タイプであるといえます。
暗黙知
一方で暗黙知というのは、ある一定の人物が持つ知識やスキルのことを指します。たとえば、野球選手からスイングのコツを聞こうと思ったとき、野球選手に直接自分の手や腕を動かしてもらえれば、体で動作を覚えられるでしょう。
しかし、それらの動作を言葉や図で完璧に伝えるとなると難しいです。そのため形式知とは、対照的に共有するのが難しい知識タイプといえます。ナレッジマネジメントでは、この暗黙知をいかにして形式知として完成させられるかが重要になります。
ナレッジマネジメントのメリット3つをご紹介
ナレッジマネジメントのメリットを具体的に解説します。
ナレッジマネジメントのメリットその1
ナレッジマネジメント導入のメリット1つめは「業務や事業の属人化を避けられる」です。企業にとって優秀な人材がいれば心強いですが、企業にとっては業務の属人化が懸念点となります。
属人化とは「この人がいないと誰も業務を進められない」状態。事業が軌道に乗った際、中核を担っていた社員が抜けたことで業績が右肩下がりになることは、属人化が引き起こした失敗の典型的な例だといえます。
この場合、中核を担っていた優秀な人材が持っている知識や技術を図や言葉で解説した資料を残しておけば、それを見て別の社員が代わりに業務をこなせるようになっていた可能性もあります。
ナレッジマネジメントを導入し「優秀な人材のナレッジ」をまとめることでほかの社員がナレッジを吸収すれば、業務の属人化を防ぐことが可能です。
ナレッジマネジメントのメリットその2
ナレッジマネジメントのメリット2つめは「情報収集がスムーズになる」です。単純に情報を収集する手段としてITを活用している方は少なくないですが、一方で「探している情報が見つからない」と困った経験がある方も多いのではないでしょうか。
とくに会社や組織内でのローカルな知識や情報となると、情報源としてインターネットを頼るのは難しいです。しかし、わからないことがあるたびに上司や同僚に聞くのも、お互いに手間がかかります。そこで役に立つのが、ナレッジマネジメントです。
会社・組織の中でナレッジがまとめられていれば、その資料・ツールを参照するだけで不明点や疑問点をスムーズに解消できます。結果として、情報を探す手間や時間を短縮できるというわけです。
さくらインターネットでは「Confluence」というナレッジ管理ツールを使用しています。のちほどツールの紹介でくわしく紹介します。
ナレッジマネジメントのメリットその3
メリット3つめは「イノベーションにつながる」です。まとめられたナレッジが、イノベーションのきっかけになることもめずらしくありません。ナレッジは単純に情報や知識財産として扱える一方、各々の意見や情報を共有する場としても利用できます。
リアルタイムで知識・情報を共有していくことで、自分の知らない知見に触れる機会が生まれ、新たな発想のきっかけになるのです。そのため、ナレッジマネジメントによってイノベーションにつながる可能性もあります。
ナレッジマネジメントのフレームワーク SECIモデル
ナレッジマネジメントにおいては属人化を避けるため、ひとりのメンバーが持つ共有しづらい暗黙知を言語化・図式化することで形式知にし、共有することが重要になります。そのために知っておきたいのが、「SECIモデル(SECIプロセス)」というナレッジマネジメントのフレームワークです。
SECIとは、4つある工程の頭文字を取った略称です。
- Socialization(共同化)
- Externalization(表出化)
- Combination(連結化)
- Internalization(内面化)
このSECIモデル通りにナレッジを作っていくことが、ナレッジマネジメント導入の方法のひとつでもあります。SECIは単なるサイクルではなく、スパイラルです。
Socialization(共同化)
初期段階のSocialization(共同化)は、特定の人物が有する暗黙知を他者が体験し、共有する工程です。この段階では、暗黙知をそのまま組織内で共有することになります。
Externalization(表出化)
Externalization(表出化)は、共同化のプロセスで共有した暗黙知を、実際に言葉や図で表現してみる工程です。
ひとりでは暗黙知を言葉や図で示すのが難しくても、複数人が集まればひとりでは思いつかなかった言葉や図での表現方法が生まれることもあります。そのためのプロセスであるといえるでしょう。
Combination(連結化)
Combination(連結化)は、表出化して形式知に直した知識を、既存の形式知と合わせて体系的なナレッジにする工程です。表出化の段階でひとつのナレッジとして完成させることはできますが、既存の内容とは違った言葉や図を使って説明されたり、矛盾が生じていたりする場合があります。
そうなると、あとからナレッジを閲覧する際に理解しづらくなる可能性が高いです。連結化ではそういったトラブルを避けるため、「全体のナレッジのひとつとして完成させる」ことを目的にしています。
Internalization(内面化)
Internalization(内面化)は、ナレッジマネジメントにおいて最も重要とも呼べるプロセスです。ここでは、連結化までのプロセスで完成させた形式知を、組織のメンバーが暗黙知として習得することになります。ナレッジがあるからといって、ことあるごとにナレッジの内容を参考にするようでは、生産性が上がりません。内面化ではメンバーのスキルアップが目的になるため、企業自らが「どのように暗黙知を習得させるか」を工夫すべきでしょう。
ナレッジマネジメントを導入した企業の事例
ナレッジマネジメントを導入した企業の事例を2つ紹介します。
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
1つめに紹介するのが、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社(旧:富士ゼロックス)です(こちらの会社では「ナレッジマネジメント」ではなく「ナレッジイニシアティブ」という言葉を使っています)。
富士フイルムビジネスイノベーションは、イントラネット上に大人数が情報を共有する「Z-EIS」と名付けた知識共有システムを構築しました。さらに開発プロセスの工程担当者が3次元画像モデルを観ながら対話する「全員設計ルーム」を設けました。
以前の富士フイルムビジネスイノベーションでは、製品開発を複数の段階にわけていたものの、工程の後半で担当スタッフからの意見を反映し、設計のやり直しをしていたことから開発期間の延長が相次いでいました。この問題の原因は「担当スタッフの意見を初期段階で共有していないから」だとし、その解決策としてと打ち出されたのがZ-EISです。
「はじめから担当スタッフが重視すべきだと考えるポイントや知識をまとめておけばどうだろうか」という意見をもとに、SECIモデルを意識したナレッジ作りがされました。
Z-EISを作ったことにより、各担当スタッフの意向に合わせた設計が可能となり、開発後半で担当スタッフから意見が挙がる頻度も減りました。この事例は、ナレッジマネジメント導入の代表的な成功事例だといえるでしょう。
株式会社良品計画(無印良品)
2つめに紹介するのが、株式会社良品計画(以下、良品計画)です。良品計画が運営する無印良品では、店舗で使っているマニュアル「MUJIGRAM」と、あらゆる本部業務のマニュアル「業務基準書」があります。この2つのマニュアルにはすべてのノウハウが集約されているそうです。しかも、このマニュアルは毎月更新されるので、常に改善が繰り返されます。
それこそが国内479店舗、海外550店舗(2020年8月期末時点)で変わらない水準のサービスを提供できる理由です。
「MUJIGRAM」「業務基準書」という、独自の名前にも理由があります。日本ではマニュアルという言葉にネガティブなイメージがあります。マニュアル以外のことはしてはならない画一的なイメージです。そのイメージが目的とは合わないため、独自の名前をつけたそうです。
無印良品で特徴的なのが、マニュアルを使う人がつくること。多くの会社で特定の部署がマニュアルをつくり、現場に渡すケースがあるのではないでしょうか。一方的ではなく、従業員全体でマニュアルづくりを進めることで成功するようです。
ナレッジマネジメントに活用できるツールの紹介
先ほど紹介しましたが、さくらインターネットでは全社的に「Confluence(コンフルエンス)」という、ナレッジ管理ツールを使用しています。数多くの情報が掲載されたサービスとしてWikipediaは有名ですが、Confluenceは「企業版Wikipedia」とイメージしてください。
Confluenceは、ページ単位で情報を書き込めるので一元管理が可能です。さくらインターネットでは個人単位、部署単位、プロジェクト単位でさまざまなナレッジが蓄積され、情報共有されています。ログインが必要なので、社内限定でナレッジ共有ができます。
Confluenceは検索機能もついているた、め見たい情報へのアクセスがしやすいです。社内ではよく「先ほどの情報はコンフル(コンフルエンスの略)にまとめています」「コンフルに入力しておいて」といった会話がされています。データや議事録もConfluenceにまとめておくことが多いです。可視化しておくことで、属人化を防げます。
このようにして、ナレッジマネジメントに取り組んでいます。
ナレッジマネジメントは企業が成長するために必要
ナレッジマネジメントは「知識を共有する」ことですが、単に知識をまとめるだけではありません。まとめたナレッジを社員一人ひとりが有効活用することで、はじめてナレッジマネジメントが成功します。知識があっても実行しなければ意味がありません。
ナレッジマネジメントが成功すれば、企業の事業が成功することも多くなるでしょう。企業を成長するためにも、重視しておきたい経営手法のひとつです。
≫ 【導入事例やサービス紹介も】さくらインターネット お役立ち資料ダウンロードページ
(参考)
野中郁次郎(著),竹内弘高(著),梅本勝博(翻訳) ,1996『知識創造企業』東洋経済新報社
野中郁次郎(著),西原文乃(著),2017『イノベーションを起こす組織』日経BP
松井忠三,2013『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』KADOKAWA