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さくらインターネットではエンジニアの採用を積極的におこなっています。今回は、2024年12月に入社したクラウド事業本部 亀澤 寛之にインタビューを実施しました。インタビュアーは、一足早くさくらインターネットへ入社したクラウド事業本部 田籠 聡。エンジニアならではの視点で、これまでの経歴やさくらインターネットへの転職理由、これからやりたいことなどについて切り込んでもらいました。
亀澤 寛之(かめざわ ひろゆき) プロフィール
さくらインターネット クラウド事業本部
2003年に富士通株式会社へ入社し、Linuxのカーネル開発に従事。その後、ボードメンバーとしてCNCF(Cloud Native Computing Foundation)の活動や、SaaSサービスの立ち上げなどにも携わる。2024年12月にさくらインターネットへ入社。
聞き手:田籠 聡(たごもり さとし) プロフィール
さくらインターネット クラウド事業本部
大学卒業後、インターネットサービスプロバイダ、ITインフラ系のSIerで働いたのち株式会社ライブドアに入社し、インフラ担当やデータ分析関連を担当するプログラマーとして勤務。その後、トレジャーデータ株式会社に参画し、バイアウトなどを経験したあと離職。フリーランスとして技術顧問や個人サービス開発などに数年携わったのち、2024年8月にさくらインターネットに入社。
前職ではLinuxのカーネル開発に従事
最初に亀澤さんのこれまでの経歴を簡単に教えてください。
30歳くらいまでは大学でOSの自作をしていました。その後2003年に富士通株式会社(以下、富士通)に入社して、Linuxのカーネル開発に11~12年ほど携わっていました。その後、富士通からCloud Native Computing Foundation(以下、CNCF)(非営利の技術コンソーシアム)の活動にも参加しています。 おもにボード(いわゆる理事会)とのやりとりなどを担当していました。それから2019年には、富士通社内のインキュベーション的な取り組みとして、SaaSのサービスを立ち上げに企画からかかわりました。今年で5年目になるというタイミングで、ご縁があってさくらインターネットに入社しました。
「Linuxのカーネル開発」では具体的にはどういった仕事をしていたのでしょうか。
最初は「Linuxをエンタープライズに適用するぞ」というので、当時のチームでスケジューラからドライバまでさまざまな取り組みをしたのですが、私はおもにメモリー管理ですね。一旦適用が始まったあと、さらにエンハンスをというのでLinuxカーネルの資源管理機能「cgroup(Control Group)」におけるメモリー管理の部分の開発を担当していました。その際には2年くらいはメンテナーも経験しました。
そもそもどういう経緯で富士通に入社して、その仕事をするようになったのでしょうか。
入社当時の2003年は、そのときIA(インテルアーキテクチャ)サーバーはまだ勢いはなくて。あんなのオモチャじゃないかっていう声もあったぐらいでした。それに対してインテルと協力して、富士通のフラッグシップサーバーである「PRIMEQUEST」を立ち上げることになったんです。それが、IA-64(1994年にインテルとヒューレット・パッカードが共同開発した、64ビットマイクロプロセッサの命令セットアーキテクチャ)だったんですよ(笑)。
お、おお……。懐かしのIA-64ですね。
入社するとき面接で「うちのPRIMEQUESTは、メモリーやCPUのボードがオンラインで引っこ抜けるんだよ」って言われて。それで興味を持って富士通に入社したんです。そうしたら入社後に「カーネルはまだ開発中だから担当してほしい」と言われまして。それでメモリー管理部分の開発を担当することになったんです。
なるほど。それを結果的にそのままLinuxに取り込んでもらって使えるようにしたと。
正直メモリを引っこ抜くっていうのは、やってる人はほぼいないと思うんですよ。ただちょうどそのとき、SGI(シリコングラフィックス)やIBMと協力してページマイグレーションをかなりやったんですよね。
ページマイグレーションというのは、メモリーのページを物理的に別の場所に移すという機能ですよね。
そうです。あれのおかげでいま、NUMA(Non-Uniform Memory Access。メモリを分割し個々のプロセッサに紐付け、メモリアクセスのコストを制御する技術)対応や自動ヒュージページ(HugePage。1ページのサイズを大幅に拡張する機能)もできるようになったし、世の中に貢献できたのかなと思います。
あと、僕の(亀澤さんと共通の)知り合いの方が言うには、「cgroup」は亀澤さんが作ったようなもんだみたいな……。
いやいや、あれはGoogleのエンジニアの功績ですよ(笑)。
なるほど(笑)。このあたりの技術はコンテナでもがっつり使われていますよね。
そうですね。ただ、いまは「cgroup v2」というバージョンになっていて、僕のコードは跡形もないんですよ。もとのコンセプト自体は残っているかもしれないけど、コードはもう断片くらいじゃないですかね。
なにか最近気になっている技術や活動はありますか?
相変わらずコンテナまわりの技術は好きです。あとは、Go言語(Googleのエンジニアが、信頼性が高く効率的なソフトウェアを作成するために開発した、汎用のオープンソースプログラミング言語)が好きですね。 前職でSaaSを作る役目になったときに、Go言語をイチからチーム全員で勉強したことがあって。やはりどの言語を選択するかで、かなり生産性が違ってくるので、そのあたりは気にするようにしています。
業界のトレンドは、なぜ流行っているのかという裏側にある理由も含めて気になりますよね。
はい。カンファレンスなどでいい発表を聞くとうれしくなっちゃいますね。「すぐ試したい!」って。
Goを好きな人ってコンテナも好き、というケースが不思議と多い気がします。1つ聞きたいのですが、Goはlibcに依存しないので、バイナリさえあればほとんどのLinuxやWindows環境で動作しますよね。一方、コンテナは必要なライブラリも含めてイメージにまとめてしまいます。だから「Goを使うならコンテナは不要なのでは?」と思うこともありますが、その点についてどう思いますか?
前職での話でいうと、開発環境ではコンテナ単品でも意味があるんですけど、プロダクション(本番環境)ではk8s(Kubernetes。デプロイやスケーリングを自動化したり、コンテナ化されたアプリケーションを管理したりするための、オープンソースのシステム)がたいしたもんで、サービスを作るのには便利に使えると思います。ただ頻繁なバージョンアップなど苦労するポイントもありますが……。
実際、前職ではどんなふうにGoを使っていたんですか?
運用はコンテナでやっていても、オペレーションのCLIツール(コマンドラインツール)などもあるので、そのあたりはGoを使っていましたね。あとは社内からひっぱってきたライブラリが全部Python2系で書かれてて、それが嫌になって全部Goで書き直すなんてこともしました(笑)。
いろいろなことをされていたんですね。
はい。あとは趣味の範囲にはなりますが、GoのファイルにJavaScriptのファイルを入れてシングルバイナリでGUIまでやる、というのが好きでやってました。
Goで書かれてGoにリンクできるJavaScriptランタイムがあるみたいな話ですか?
GoでWebサーバーを組むときにEmbedという機能を使って、Goのバイナリのなかへ生のファイルをたくさん埋め込めるんですよ。ですから、Vueなどをビルドした結果をGoのバイナリにそのままバインドしてビルドすると、そのバイナリ1つでGUIを提供できるんです。
なるほど。そのバイナリ内のファイルをそのままデータソースとしても使ってJavaScriptとかを配信できるということですね。おもしろいです!
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さくらインターネット転職の決め手は「ガバメントクラウド」というチャレンジングな取り組み
さくらインターネットには、2024年12月1日から僕(田籠)と同じくクラウド事業本部付で入社いただきました。どんな業務を担当するのか、もう決まっているんでしょうか?
……なんとなく(笑)。
(笑) 。なんとなくでも構いませんので、教えてください。
クラウド事業本部付ではありますが、おもにかかわるのはバックエンドで、中で動いている仮想マシンのコントロール、iSCSIの接続、あとはパケットフィルターやルーター、スイッチのコントロールまわりなどを担当しているチームに入っています。とくにIaaSと呼ばれる部分の基盤まわりをやるんだと理解しています。
これまでの経験を活かせそうですね。長く大企業に在籍していた亀澤さんが、なぜこのタイミングでさくらインターネットへの転職を決断したのかも気になります。
これまで、だいたい5~7年くらいの周期でやることが変わっていて。前職で最後に取り組んでいたSaaS開発もかかわり始めてちょうど5年だったんですよね。だからそろそろ次を探そうというところで、社内での転職制度を活用する選択肢も含め、フラットに次の場所を探していました。
さくらインターネットを選んだ決め手は2つあります。1つはさくらのクラウドがガバメントクラウドに条件付きで認定された1ことを知って、「こんな気概のある会社が日本にあるのか!」と思ったこと。もう1つは、会社として全力で投資しているプロジェクトに加わったら楽しいに違いないと思ったことです。やっぱり投資されてるプロジェクトやチャレンジングな環境って、楽しいじゃないですか。
わかります、楽しいですよね!
「このビッグウェーブに」じゃないですけど、「ガバメントクラウド」というチャレンジングなことに全社を挙げて取り組んでいてとても楽しそうだし、しかもインフラのコードをばりばり書いていくという自分の好きな仕事ができる会社だと感じたんです。それでさくらインターネットへの転職を決めました。
同じく最近入社した身として、とても共感できます。
入社して感じたコミュニケーションの課題
なにか入社後に感じたギャップはありますか?
基本全部Slackでのコミュニケーションなので、「こんなにメール飛んでこないんだ!」って正直びっくりしました。
たしかに、全社宛の連絡とかも全部Slackで来るし、メールを使う機会があんまりないですよね。
あとは基本リモートワークで直接メンバーに会う機会が少ないので、年齢とかも含めて、相手のイメージがなかなか湧かないということはあります。ただ、そのあたりは半年から1年くらいでだんだん解消されてくるかなと思っています。
オンラインだとつねに人の名前が見えているから、がんばってその人のことを覚える努力をしなくても仕事ができてしまうんですよね。もうちょっと努力しないとなと僕も感じています。
チームによると思いますが、あまりペアプロ(ペアプログラミング。2人のプログラマーが1台のマシンを操作してプログラミングをする手法)などはやっていないようなので、リモートワークだからこそ、もう少しそういった手法を取り入れてもいいのかなとも思いました。
たしかに「こういうプラクティスをやろう」みたいなムーブメントは全体的にあまり強くないかもしれないですね。そのあたりはぜひ亀澤さんにリードしていただきたいです。
追い追いですね。はい。
なにかを始めるときに「やろうぜ」と前向きに言い合えるチームへ
まだ入社して数週間なので、現状把握をしているような段階だと思うんですが、さくらインターネットやさくらのクラウドに関して、課題に感じている部分や改善のアイデアなどはありますか?
人によっていろんな意見はあると思うんですけど、やっぱりレガシーがだいぶ残っている部分があると思っていて。そういうのをちょっとずつアップデートしていくっていくのは好きな仕事でもあるんで、まずやってみようかなと考えています。ただ乱暴にひっぺがすと壊れてしまうので……(笑)。ほかのメンバーとと相談しながら進めるべきだと思っています。
また、現在ガバメントクラウドの本認定を得るために開発を進めている要件に関しても、少し余裕が出てきたらほかのチームへのヒアリングから始めていきたいです。ただ、まず全体を理解しないとどうしようもないので、とりあえずレガシーコードを理解して、それをモダナイズすることを中心にがんばろうと思っています。もちろん社内から「この機能足りないから作ってよ」という要望があれば、あわせて取り組んでいきたいです。
いま、さくらインターネットには、亀澤さんも含め、どんどん新しいメンバーが集まってきています。これからのさくらインターネットはどんなふうになってほしいと期待していますか。
社員みんなが元気で活気のある会社だと感じていて。だからこのままみんな元気でいてほしいと思っています(笑)。あとはこれからさらに社員が増えそうなので、個人だけではなく、「チームの元気」をどう作っていくかについても考えていく必要があるかなと。チーム作りは私がこれまで20年間やってきたことなので、なにか役に立てたらいいなと思っています。
たとえば、どんなことをするとチームが活気づくんでしょうか。
私が初めてLinuxにパッチを投稿したときの経験談なんですが、金曜日くらいに投稿したものですから、土日を挟んでしまってなかなか返事がこなかったんです。それで悶々としていたら、メモリー管理のメンテナーのAndrew Morton(Linuxカーネルの主任開発者の1人)という人からメールが来て。その内容が、Linus(Linuxカーネルの開発者)のコメントを引用して、”Go ahead(どうぞ)”という2ワードだけのメールだったんです。とてもうれしかったのを覚えています。そこから結局マージされるまでには、バージョン10くらいまでかかったんですけれど(笑)。
やっぱり、なにか始めるというときに、“Go ahead”、「やろうぜ!」と言い合える環境って、モチベーションが上がるしチームが活気づきますよね。
そういう環境を作るためにも、新しいチャレンジを妨げる、しがらみのようなレガシーは取り除いていく必要があると思っているんです。新しいチャレンジやアクションに対し、チームとしての技術的な判断として「やろうぜ」とGoを出せる。そういうチームの一員になれると、幸せなというとおかしいですけれど、いいエンジニア生活になるんじゃないかなと思います。
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(撮影:ナカムラヨシノーブ)
- さくらインターネット、ガバメントクラウドサービス提供事業者に選定(2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定) ↩︎