完全無人の「セルフ駅そば」はどうやって生まれた? JR東日本グループが挑む、お客さま第一のDX

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上野駅の常磐線ホームに、ちょっと変わった駅そばがあるのをご存じだろうか。一見普通の立ち食いそば屋のように見える店内には、少し大きな自販機が置いてあり、交通系電子マネーで料金を支払うと、90秒で作りたてのそばが提供される。筆者も利用してみたが、自販機で作ったと思えないほどアツアツで、有人店の駅そばと比べても遜色ない味に驚いた。

 

このセルフ駅そばを実証実験として開店したのが、株式会社 JR東日本クロスステーション(以下、JR東日本クロスステーション)だ。同社のフーズカンパニーではJR東日本の飲食・食品製造事業を担い、駅構内店舗でおなじみの「いろり庵きらく」や「ベックスコーヒーショップ」などを運営している。セルフ駅そば誕生の背景や、積極的にDXに挑む理由について、営業開発部の米良 優さんに聞いた。

米良 優さん(めら ゆう)さん プロフィール

株式会社JR東日本クロスステーション 営業開発部所属。店舗での勤務を経て商品開発部に配属。約10年間、そば業態やおにぎり業態の商品開発を担当したのち、営業開発部に異動。現在は自動調理自販機設置店舗のプロジェクトチームに参加。

目標対比最大250%の大盛況!話題のセルフ駅そばのメリットは?

「セルフ駅そば 上野常磐ホーム店」の外観(提供:JR東日本クロスステーション)

「セルフ駅そば 上野常磐ホーム店」は2023年6月20日、上野駅11番・12番線ホームに誕生した。オープン時には数多くのメディアに取り上げられたため、ニュースで見覚えのある人も少なくないだろう。当時の反響は想像以上だったと米良さんは話す。

 

「オープンから1か月は目標の250%もの食数を達成し、大変多くのお客さまにご利用いただきました。ブームが少し落ち着いたあとでも、毎月の食数は目標の90%前後を推移し、実証実験として一定の成果を確認できています」

 

一過性の話題作りとならず、開店から1年弱経ったいまでも若年層を中心に継続利用されているというセルフ駅そば。どんな背景から開発され、なぜ上野駅常磐線での開店に至ったのだろうか。

 

「アフターコロナにおける人材不足の深刻化を念頭におき、新しい飲食店のあり方を模索するなかで、このプロジェクトがスタートしました。これまで当社のそば業態では、調理に『そばロボット』を導入したり、提供で『呼出しシステム』を活用したりと、部分的にDXをおこなっています。しかし、調理から提供まで、完全自動でのセルフ店舗は初めての試みでしたね。実証実験の場所は、毎日の通勤利用者数が多く、都心からベットタウンへの起点となる上野駅の常磐線ホームを選定しました」

店内に設置されている自動調理自販機(提供:JR東日本クロスステーション)

同社でも初めての試みとなる、完全自動の調理とセルフサービスでの提供。人材不足の解消や人件費の削減だけでなく、非接触による衛生面の担保や、営業時間を調整しやすい点などがメリットとして挙げられる。営業時間に人的な制限がないセルフ店舗ならではの将来展開について、米良さんは語る。

 

「理想は24時間営業です。現在のセルフ駅そばは22時まで(平日の場合)の営業ですが、施設との調整がつけば営業時間を延長し、有人店舗が閉まっている時間の需要も狙っていきたいですね。また、駅は終電後もたくさんの方々が働いています。営業時間が調整できたあかつきには、掃除のスタッフや車掌の皆さまにもアツアツの駅そばを食べてもらえたらと思っています。次のステップとしては、駅だけでなく24時間稼働しているような工場や現業機関などで自動調理自販機を設置し、飲食店が空いていない時間に働く方へそばを提供していきたいです」

 

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従来の「そば自販機」との違いは? おいしさの秘訣は冷凍技術にあり

自動調理自販機で調理したそば(提供:JR東日本クロスステーション )

セルフそばと聞いて、サービスエリアに置いてあるような昔懐かしい「そば自販機」を想起した人も多いだろう。上野駅のセルフ駅そばは従来の自販機と比較してなにが違うのか、米良さんに聞いた。

 

「従来の自販機は給食でおなじみのソフト麺を使った簡単な仕組みでした。当初は従来の自販機の導入も検討しましたが、当社の衛生基準に合致しなかったり、味の品質担保が難しかったりしたことから断念しました。そもそも、現在もあの自販機を製造・販売している業者はなかったんですよね。米国のYo-Kai Express Inc.が唯一、そば自販機の開発をしていたので(現在はソフトバンクロボティクス株式会社が事業継承)、最新の自動調理自販機を導入することになりました」

「当社のセルフ駅そばは、自社工場で打った麺を冷凍し、自動調理自販機にて90秒で解凍から調理までをおこなって、麺とつゆ、具材を一体にて提供しています。調理工程が従来の自販機とは大きく異なりますね。試行錯誤の結果、有人店舗の駅そばの味に近づけることに成功しました」

 

「いろり庵きらく」などの駅そば店舗で長年そばを提供してきた同社であっても、自動調理用のそば開発は容易ではなかった。自動調理で味や見た目の品質を高めるうえで、一番苦労したのは「冷凍」の工程だという。

 

「他社でこの機械を使った『ラーメン自販機』の前例はありましたが、そばの提供を実現した例はありませんでした。そばは麺類のなかでも冷凍の難易度が高く、風味や食感を保つのが難しい食材です。商品開発チームと密に連携し、冷凍温度や時間、解凍方法などの検証を繰り返した結果、冷凍でもおいしいそばの開発に成功しました。また、具材についても冷凍に耐えうる食材を探し、おいしさや見た目の美しさを保てるものを選定しています」

セルフ駅そばの提供メニュー例(提供:JR東日本クロスステーション )

同社の冷凍技術はそばだけでなく、駅弁やおにぎりなどにも活用されてきた。冷凍に適した改良を加えて開発された「冷凍駅弁アソート6食セット」はECサイトにて販売中で、ギフトとしても人気だ。

 

駅そばだけに限らない、あらゆる食品事業を展開しているからこそ、業態間の連携を強め、全体の技術向上を目指している。「冷凍技術は全社を挙げてもっと勉強し、磨いていきたい領域のひとつです」と米良さんは意気込む。

どんなDXも、最終ゴールはお客さま

JR東日本クロスステーションの取り組んできたDX事例は、セルフ駅そばだけにとどまらない。そばやかつ丼の自動調理ロボットから、カフェ「ベックスコーヒーショップ」でのモバイルオーダーまで、多数の実証実験を展開中だ。積極的にDXに取り組む姿勢は、どんな想いからくるものなのだろうか。

 

「キーワードは『人手不足解消と調理技術の安定化』です。たとえば、かつ丼を作るにしても、ほかの業務をしながらちょうどいい火加減で卵をとろっとさせるのは、熟練の技術が必要です。しかし、そのような熟練の技術をもった高齢の方は辞めていき、新しい人材がなかなか集まらないという課題がありました。当社ではここに着目して、これまで属人的な技術に頼ってきたものをいかに自動化できるか、というベクトルでDXを推し進めています。DXによって浮いた時間は、より元気に『いらっしゃいませ』とご挨拶したり、店内清掃に力を入れたりと、お客さまが心地よく使っていただけるような業務に割きたいですね」

 

米良さんは「どんなDXも結局、『お客さま第一』であり、最終ゴールはそれ以外ない」と語った。お客さま第一のDXを実現するにあたって大切なのが、実証実験を繰り返すことだという。

 

「数々の実証実験をおこなっている私たちですが、簡単にうまくいくことのほうが少ないです。成功したぶん、その倍以上は失敗していると思います。どんなに私たちや機械のメーカー側がお客さまのことをイメージしても、やはり机上の空論にすぎず、実際の利用シーンや利用方法を見誤ってしまうことはあるんですよね。だからこそ、実際にお客さまに使っていただく実証実験が重要です。また、実証実験は裏付けをもって社内を説得する材料としても有効です。手段と目的が入れ替わり『DXを導入して終わり』になってしまわないよう、売上や人件費などの数値目標を示し、実証実験で試してみたうえで実用化しています」

 

お客さま満足度向上に向け、実証実験を繰り返しながらPDCAを回し、あらゆる場所でDXに取り組むJR東日本クロスステーション。2024年4月には、セルフ駅そばの自動調理自販機を新しいバージョンに刷新し、より安定的な稼働を目指すという。自販機の機能を活かした割引キャンペーンの実施や、付加価値の高い新メニューの開発、上野駅以外での出店など、今後も意欲的な挑戦は続く。上野駅で降りたときは、そばを食べながら挑戦を見守っていこう。

 

株式会社 JR東日本クロスステーション

 

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