
AIを導入するよう指示されたものの、何から始めればいいかわからない——そのような悩みを抱えていませんか。近年、全国の自治体ではAI活用が急速に進んでおり、業務効率化や住民サービス向上で着実に成果を上げています。
本記事では、総務省の最新ガイドブックや先進自治体の成功事例をもとに、自治体におけるAI活用の現状や導入の進め方、直面しやすい課題とその解決策までを詳しく解説します。
予算や人材に限りがあっても、小規模から始めて成果を出している自治体も多く存在します。ぜひ本記事を参考に、AI活用の第一歩を踏み出してみてください。
1.自治体でAI導入が進む背景
自治体におけるAI導入は、「検討段階」から「本格運用段階」へと進みつつあります。この流れを後押ししているのは、深刻な人手不足と国による支援施策の2つです。
1-1. 2040年問題と人手不足への対応
人口減少と高齢化で、自治体は将来的に職員を十分に確保することが難しくなると予測されています。一方で、医療・福祉、インフラ維持などの行政ニーズは増加する見込みです。
「自治体戦略2040構想研究会」の資料でも、「労働力制約(人手不足)」が強まることを前提に、従来の半分の職員でも自治体機能を維持できる仕組みが必要だと指摘されています。
そのため、議事録作成や問い合わせ対応といった定型業務はAIで自動化・効率化し、職員は判断や住民対応など、より付加価値の高い業務に注力できる環境づくりが求められています。
参考:自治体戦略2040構想研究会 第一次・第二次報告について|総務省 自治行政局行政経営支援室
1-2. 国のガイドラインと支援制度
総務省は2025年12月、「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」」を公表しました。同ガイドブックは、AI導入の検討から計画立案、調達、導入、運用までを5つのステップで体系的に解説しており、初めてAI導入に取り組む自治体でも活用しやすい構成です。
また、「自治体AI共同開発推進事業」では、複数自治体が共同でAIを開発・導入する取り組みを支援しています。共同調達によるコスト削減やノウハウの共有が可能となり、小規模自治体でも導入しやすい環境が整いつつあります。
2.自治体におけるAI導入の現状
全国の自治体ではどの程度AIが普及しているのでしょうか。総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」から解説します。
参考:自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)|総務省情報流通行政局地域通信振興課自治行政局 行政経営支援室
2-1. 都道府県・市区町村別の導入状況
総務省が2025年6月に発表した調査によると、生成AIを「導入済み」とした自治体の割合は以下のとおりです。
- 都道府県:87.2%
- 指定都市:90.0%
実証実験中・検討中も含めると、ほぼ100%の大規模自治体がAI活用になんらかの形で取り組んでいる状況です。
一方、上記以外の市区町村では「導入済み」がわずか29.9%です。検討中までを含めても51%にとどまり、大規模自治体との間に大きな差があることが示されています。
この背景には、小規模自治体特有の予算制約やAI専門人材の不足があります。
しかし、生成AIは従来のAIに比べて導入のハードルが低く、今後は無料ツールや共同調達の仕組みを活用した導入が中小自治体にも広がると期待されています。
2-2. 自治体で活用されているAI機能とツール
よく使われているAI機能と用途
とくに導入率が高い機能とその用途の例は以下のとおりです。
- 音声認識・文字認識
会議音声の文字起こし、紙文書のデジタル化 - チャットボット
問い合わせ対応の自動化、24時間対応体制の構築 - 生成AI(文章作成)
あいさつ文、議事録要約、企画書やメールの文案作成 - その他
ローコード開発、画像生成によるチラシ・ポスター作成
こうした多様な活用方法により、AIは職員の負担軽減と業務の効率化に大きく寄与しています。
導入されているおもなAIツール
自治体で導入されているおもなツールは以下のとおりです。
- LoGoAIアシスタント
- ChatGPT無料版
- 自治体AI zevo
- Microsoft Copilot など
無料版から試用し、効果が確認できた段階で有料版へ移行する自治体や、業務ごとに複数ツールを使い分ける自治体も増えています。
3. AI導入の成功事例|3つの自治体の取り組み
ここでは、実際にAI導入で成果を上げている3つの自治体事例をご紹介します。
3-1. 横須賀市|全庁的なChatGPT活用で職員の8割が効率化を実感
神奈川県横須賀市では、2023年4月から全国に先駆けて全庁的なChatGPT活用を開始しました。約1か月間の実証実験では約半数の職員が活用し、アンケート回答者の約8割が業務効率の向上を実感しており、継続利用を希望しました。利用者ヒアリング調査でも、業務の時間短縮効果が確認されています。
同市の特徴は、市長主導によるトップダウンの迅速な体制整備です。全職員がすぐに使える環境を整えたことで、活用がスムーズに広がりました。
また、60以上の自治体からの問い合わせに対応し、得られたノウハウを積極的に公開しています。さらに研修の実施などを通じ、全国の自治体のAI導入を後押ししています。
3-2. 品川区|戸籍業務へのAI検索で作業時間を半減
東京都品川区では、専門的な法令知識を要する戸籍業務にAIを導入し、月間調査時間を77時間から40時間に削減しました。約330冊に及ぶ戸籍専門書籍をAIに学習させ、職員が質問を入力するだけで瞬時に必要な情報を検索できる仕組みを構築したのです。
このAIシステムにより、職員の作業負担軽減と住民対応の迅速化が実現されました。
この事例は、専門知識が属人化しやすい業務こそAIによるナレッジ管理が効果を発揮することを示しています。
3-3. 福岡市|生成AIの活用で作業時間を最大50%削減
福岡市では、職員が生成AI(QT-GenAI)を使い、企画書や広報資料の作成、文章校正、翻訳、FAQ作成、議事録要約などの業務で効果を検証しました。
実証実験のアンケートでは、半数以上の職員が10〜30%の作業時間削減を実感し、一部では50%の大幅削減を実感したとの報告もあります。
まずは文章作成や要約など成果が出やすい業務から始めることで、庁内全体への展開がスムーズになります。また、こうした成功事例の共有が、職員の関心を高め、理解を深めるきっかけにもなっています。
4. AI導入に伴う課題と解決のヒント
成功事例がある一方で、AI導入には課題も存在します。しかし、多くの先行自治体がこれらを乗り越えてきており、効果的な解決策も見えています。
4-1.人材・予算・セキュリティーの3つの壁
前述の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」から、自治体が直面している代表的な課題を紹介します。
人材不足
自治体が挙げたもっとも多い課題は、「AIに取り組むための人材がいない/不足している」というものです。
とくに小規模自治体では、AIやICTに詳しい専門人材を確保することが難しく、「何から始めればいいか分からない」という声も少なくありません。
なかには、情報政策担当者が不足している自治体もあり、日常業務に追われてAI導入の検討まで手が回らないという現状も多く見られます。
予算確保の難しさ
次に多い課題は、「AI導入にかかるコストが高く、予算の獲得が難しい」という点です。
ツールの導入費用だけでなく、システム改修・研修・運用・保守などの見えにくいコストも加わるため、議会での説明が難航しやすいという課題もあります。
セキュリティーへの懸念
セキュリティーの面でも導入に障壁があります。自治体では住民の個人情報を多く扱うため、生成AIへの情報入力可否や、クラウド上でのデータ保存・外部流出リスクなど、セキュリティーへの懸念が導入を躊躇させる要因になっています。
4-2. 課題の乗り越え方|スモールスタート&説明責任
こうした課題への有効なアプローチは、「スモールスタートで実績をつくる」こと、そして「説明責任をていねいに果たす」ことです。
まずは小さな取り組みから始める
まずは一部の職員・業務から導入を始め、効果を数値で可視化することで、庁内への展開や予算獲得がしやすくなります。
例:
- 議事録作成を30分短縮
- 問い合わせ対応時間を40%削減
小さな成功の積み重ねが、職員の理解・関心を引き出し、自然と「次はこの業務にも使えそう」という提案が生まれる土台になります。
人材不足には外部連携を活用
人材の不足には、地域単位での連携や外部支援制度の活用が有効です。
- 都道府県と市町村が合同で研修を実施する
- 総務省の「地域情報化アドバイザー派遣制度」を活用する
このアドバイザー制度では、AI・ICTに精通した外部専門家が自治体に派遣され、導入計画の策定から運用時の課題解決に向けた専門的な助言や支援をしてくれます。
さらに、横須賀市が運営する「自治体AI活用マガジン」など、先行自治体との情報共有ネットワークに参加するのも効果的です。
説明責任をていねいに果たすには
議会や首長への説明では、導入目的、費用対効果、スケジュールなどを明示したAI導入計画書を作成し、抽象的な説明ではなく具体的な成果を示すことが重要です。
「AIで何ができるのか」という抽象的な説明ではなく、「AIチャットボットを導入し、住民からの問い合わせ対応を自動化することで、年間500時間の業務削減と24時間対応を実現し、住民満足度を向上させる」といった具体的な業務課題と解決策、効果を明示することで、理解を得やすくなります。
5. ガバメントクラウド時代の自治体AI運用基盤
AIを導入・活用するにあたり、どのようなインフラ環境で運用するかも重要な検討ポイントです。近年では、国が推進する「ガバメントクラウド」への移行が、自治体にとって大きな転換点となっています。
5-1. ガバメントクラウド移行で求められるセキュリティー基準
政府は現在、全国の自治体が使用する基幹業務システムを「ガバメントクラウド」へ移行することを推奨しています。ガバメントクラウドとは、政府が整備する共通のクラウド基盤で、自治体の基幹業務システムの統一・標準化が目的です。
対象となる業務には以下が含まれます。
- 住民基本台帳
- 戸籍
- 税
- 国民健康保険
- 介護保険
- 児童手当
- 生活保護 など、計20の業務
これらの標準化対象業務は、原則として2025年度末までにガバメントクラウド上での運用に移行する方針が示されています。
また、以下の理由により2026年度以降の移行となる場合、「特定移行支援システム」としておおむね5年以内まで延長支援を受けることができます。
- 現行システムがメインフレームで運用されているもの
- 現行システムがパッケージシステムではない個別開発システムで運用されているもの
- 現行事業者が標準準拠システムの開発をおこなわないとしているシステムであり、かつ代替システム調達の見込みが立たないもの
- 事業者のリソースひっ迫による開発または移行作業等の遅延の影響を受けるもの など
参考:地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化|デジタル庁
安全性を示す指標「ISMAP(イスマップ)」
ガバメントクラウド移行においてとくに重視されるのが、クラウド環境のセキュリティー確保です。そのため、「ISMAP(イスマップ)」という制度が鍵になります。
ISMAPは、政府が定めたセキュリティー基準を満たすクラウドサービスを審査・登録する仕組みで、「ISMAPクラウドサービスリスト」に掲載されたサービスは、一定の安全性が国によって認定されているという信頼の証となります。
生成AIなどの新しい技術を扱う場合でも、ISMAPに対応したクラウド基盤で運用することが望ましく、とくに個人情報を扱う業務では必須といえます。
5-2. 国内完結型の生成AI環境という選択肢
ガバメントクラウドへの移行が進むなかで、AI導入時に重視すべきなのは、「利便性」と同時に「安全性」です。
とくに、データの取り扱いや保存場所に慎重になる必要がある自治体業務では、クラウド基盤の選定が成果を左右します。
国内で完結する環境で生成AIを使いたい場合の選択肢として、さくらインターネットの「さくらのAIソリューション」があります。
- 生成AIの基盤モデル
- 業務アプリケーション
- 導入支援・PoC(実証実験)・運用サポート
これらを一体型で提供しており、導入から運用までを安心して進めることができます。
データはすべて国内のデータセンターで処理・保存されるため、セキュリティーやデータガバナンスの面でも信頼性が高く、自治体業務にも適した環境といえます。
AI導入の際は、ぜひさくらのAIソリューションもご検討ください。
まとめ
全国の自治体では、人手不足という大きな課題に対応するため、AIの導入が本格化しています。
議事録作成や問い合わせ対応、文章の作成・要約といった成果が見えやすい業務から着手することで、限られた予算・人材のなかでも着実な改善が実現可能です。
また今後は、AI導入に加え、ガバメントクラウドへの移行やインフラ整備も重要なテーマになってきます。とくに個人情報を扱う業務では、セキュリティー基準(ISMAPなど)を満たすクラウド環境の選定が不可欠です。
こうした前提を踏まえ、AIの導入から運用までを包括的に支援する「さくらのAIソリューション」のような国内完結型のサービスも、検討に値する選択肢となります。とくに「どこにデータが保存されるか分からない不安」や「海外サービスへの懸念」がある場合、国内データセンターで運用され、導入支援から運用サポートまで一貫して受けられるサービスは、自治体にとって安心して第一歩を踏み出せる環境といえるでしょう。
ぜひ、ご検討の一助となれば幸いです。
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