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草取りの解決で、農業に革命が起きる。雑草対策ロボット開発

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安心してお米を食べてもらいたいし、栽培時には環境負荷を与えたくない。除草剤を使わなくてもいいのであれば、使いたくない。そう思う農家は多いそうだ。しかし、除草剤を使わないという選択に踏み切るのは、なかなか難しい。その要因の 1つとして、雑草駆除の負担が挙げられる。夏に向けて生い茂る雑草の生命力には、目を見張るものがある。

 

そんな雑草に立ち向かうために開発されたのが「ミズニゴール」。ラジコンで操作し、田んぼを駆け巡らせることで、除草ができるロボットだ。

 

ミズニゴールを開発したのは、長野県塩尻市を拠点とする株式会社ハタケホットケ(以下、ハタケホットケ)。「ミズニゴールで、除草剤を使わずに育てられる田んぼが広まっていくかもしれない。今後は完全自動化を目指したい」と、2022年~2023年にかけておこなった実証実験を通して、手応えを掴んでいる。

 

代表の日吉 有為さんにミズニゴールの開発経緯や、期待できる効果、さらにはミズニゴールで叶えたい持続可能な農業などについて聞いた。

日吉 有為(ひよし ゆうい)さん プロフィール

株式会社ハタケホットケ代表。東京都出身。コロナ禍をきっかけに 2020年5月に東京を離れて長野県塩尻市に移住。人生で初めて農業体験をしたことから、農業の地域課題を身近に感じるようになり、2021年に起業に至る。

知らなかった草取りの大変さ。「自動化できないのか?」

2020年5月に東京から長野県塩尻市に移住した日吉さん。友人の米作りを手伝ったことが、ミズニゴール着想のきっかけだ。5月末の田植えから、6〜7月に草取り、10月に稲を収穫する、一通りの作業をして驚いたのは、農作業の大変さである。

 

「東京では、スーパーに並んでいるお米しか意識することがありません。田んぼも見かけないし、農業にまったく関わらない生活をしていました。しかし、2019年に子どもが生まれて、一気に食べ物への関心が高まったんです。“農薬や除草剤を使わないほうが身体に良さそうだよね” なんて思っていたところ、友人から誘われて手伝ったのが、農薬や除草剤不使用の田んぼでした」

 

農作業を体験するなかでとくに大変だったのは、夏至を挟んで暑いタイミングでおこなう草取り。雑草に栄養が取られてしまえば米は育たないので、1週間に 2回ほど足場の悪い田んぼに入る。日吉さんは「翌年も同じ思いはしたくない」と強く感じた。

 

そんなときに教えてもらったのは、土を削ることで除草できる棒状の農機具「けずっ太郎」。導入することで、1年目よりは少ない労力で済んだ。ほかにも翌年に向けて、チェーンを引っ張って水を濁らせることで光合成を遮り、除草できる「チェーン除草」も教えてもらった。

 

「そのときに考えたのが、除草の自動化です。チェーンを引っ張って水を濁らせればいいなら、ラジコンでロボットを走らせて、水を濁らせればいいんじゃないかと、ロボット開発のために動き出しました」

東京では味わえなかった農作業。大変だが、自分たちの手で育てたお米は美味しかったと日吉さんはいう(写真提供:ハタケホットケ)

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補助金申請をきっかけに想定外の事業化へ

ロボット実現の立役者は、日吉さんの友人で長野県在住のケンジ・ホフマンさん。もともと開発を生業としていて、多数の特許を持つ開発者だ。ホフマンさんの協力のもと、ベビーカーのタイヤ 4輪を用いた、ミズニゴールの試作機が完成した。

 

「田んぼのなかに入れてみたら、水を濁らせながら走るわけですよ。これは期待できるのではないか、と話していました」

 

しかし、左右にタイヤを動かす際に、土にはまってしまった。「3輪にすればいい」というホフマンさんのアイディアから、さらに試行錯誤していったという。

試作機第一号は4輪だった(写真提供:ハタケホットケ)

そんななか、日吉さんが訪れたのが、多くの起業家や事業者が在籍する、塩尻市にあるコミュニティスペースである「スナバ」。ロボットについて運営スタッフに話していたとき、提案されたのが「ソーシャルビジネス創業支援金」という補助金の活用だった。そのときには、申請の締め切りが 2日後に迫っていた。初めての申請で、わからないことばかりでありながらも無事通過し、補助金を受けられることになった。

 

「自分たちの田んぼのためにロボットを作っていたので、事業にする気はありませんでしたが、これを契機にして 2021年10月25日、株式会社ハタケホットケが塩尻市に誕生しました」

実証実験を通して改良を続ける

1号機の開発は 2021年9月。先述のとおり4輪タイヤで、タッパーウェアのなかに基盤を入れた。2号機の完成は 2022年1月、3輪にしてモーターを 2つに増やした。

 

2022年4月にはクラウドファンディングに挑戦。目標金額の 50万円を大幅に上回る 128万円が集まり、周囲からの期待を実感した。同時に、長野県内で実証実験に参加してくれる農家を 5組募集。2022年春の田植え後から自社の田んぼ 7反+近隣の田んぼ 3反、協力農家5戸の田んぼで、実証実験がスタートした。結果は、ミズニゴールを走らせるだけで、約70%の田んぼの抑草・除草が実現した。

※1反=約1,000平方メートル

 

参加者のなかには、アイガモを田んぼに放飼することによって、除草の効果が得られる合鴨農法を採用している農家もいたので、合鴨農法との比較もできた。

「従来の合鴨農法の隣で、ミズニゴールの実証実験をしたので、同じような環境で試すことができたんです。合鴨農法では、アイガモがいても、場合によっては人が田んぼに入って草取りする必要がありました。ミズニゴールを使えば、人が 1回も田んぼに入らずに済みます。また、アイガモは集団で同じ場所にいることが多いので、稲が折れてしまうこともあるそうです。稲へのダメージを軽減できる傾向にあります」

 

費用や労力も減少した。たとえば合鴨農法の場合は、アイガモ 80羽を用意するのに 8万円ほどかかっていた。そしてアイガモを天敵から守るために、田んぼを高さ1.8mのフェンスで囲み、さらにテグスを格子状に張るなどの対策が必要になる。1枚4反の田んぼの対策に丸2週間もかかるが、それでも天敵に襲われて、7月までにアイガモが 1匹も残らない年もあるそうだ。

2023年版のミズニゴールが田んぼを走る(写真提供:ハタケホットケ)

2023年も実証実験がおこなわれて、協力農家は 30戸に増えた。「草取りの頻度が減った」「まったく草取りをしなくて済んだ」などの嬉しいフィードバックが寄せられた。

 

また、実証実験をおこなっていくなかで、水を濁らせることに加えて、物理的に土を引っ掻いて除草することが有効だとわかった。水を濁らせても、時間が経ったら土も落ち着いてしまう。そのため、ブラシを付けて草が抜けるようにしたところ、根こそぎ草が抜けた。イネの生長の妨げになる草の生育を妨害できたという。

 

「3日から 5日に 1回、二葉になる前くらいが、走らせるのに適したタイミングです。そのタイミングで走らせると、小さい白い髭みたいな根っこから、どわっと浮いてくるんです。うまくいったときは、農家さんも大喜びでした。

 

あとから調べてわかったのですが、チェーン除草も、草が抜けることを想定した方法だったんです。ただ、チェーン除草よりも、ミズニゴールのほうが圧倒的に時短になります。たとえば 1反を人が歩いてチェーン除草する場合、1時間半ぐらいかかります。単純計算ですが、ワンシーズンで田んぼのなかを およそ900分歩かなければいけません。一方で、ミズニゴールを使うと、1反あたりの平均走行時間は 1回20分。人が作業する際の 4.5分の1にあたる時間で、除草することが可能です」

 

しかし、今年はミズニゴールに使っているモーターの耐久性が低く、故障が相次いだのが反省点となった。来年に向けて耐久性の高いモーターへと、変更を予定している。

白い髭根がついた雑草が浮いてきた(写真提供:ハタケホットケ)

ミズニゴールの完全自動化で無農薬農法を当たり前にしたい

今後は GPS を搭載し、ミズニゴールを完全自動化するのが目標だという。2023年の実証実験に参加した農家のうち、除草剤 を使わない、減農薬・無農薬農法をすでに実施している農家が 6割、新たに始めたいという農家が 4割だった。日本の稲作農家のほとんどが除草剤を使っているため、無農薬農法を新たに始めたい農家がメインターゲットだ。しかし、専業農家の場合はとくに、広い農地に対してミズニゴールのラジコン操作で除草するのは現実的ではない。

 

除草剤は撒けばいいが、ミズニゴールをラジコン操作で利用するには、まだまだ労力がかかっている状態だ。無農薬農法を始めたい農家からは、作業の完全自動化が望まれている。「完全自動化できなければ、ミズニゴールによる無農薬農法スタートは難しいでしょう」と日吉さんは推測している。

 

「現在の無農薬農法は、農薬を使うより数10〜数100倍もの労力がかかるともいわれています。しかし、お米の値段には還元されていません。“無農薬米を食べたいという方に応えたい”という、農家さんの優しさに、私たち消費者は甘えているんです」

さらに見据えているのが、農薬による人体や環境への影響を防ぐことだ。ミズニゴールによって、無農薬農法を当たり前にすることで、持続可能な農業を目指している。

農薬は土のなかの微生物にも影響を与える。微生物が土に住めなくなると、水を含むことができない砂漠のような砂が広がっていくといわれている。

 

「地球上の約3分の2が砂漠化しているといわれますが、これは農薬が大きな原因として挙げられています。農薬が使われるようになったのは、70年前。地球の歴史を考えて、たった 70年でもたらした農薬の影響は大きすぎます。子どもたちが、健やかに生きていける環境を残していくために、農薬を使わない農業を広めていくことも使命だと考えています」

ミズニゴールが秘める可能性

問題が山積みであるにもかかわらず、解決の手を差し伸べられてこなかった農業。現在、草取りロボットを製品化まで到達させている企業はごくわずかだ。

「なぜか根性論で、農家さんがみんな頑張ってきた無農薬農業。それを改善する事業であれば、チャンスはたくさんあると思います」と日吉さんはいう。

実証実験を重ねて出来上がった 2023年版と、実証実験中の 2024年版に向けての試作機(写真提供:ハタケホットケ)

「“草取りが大変”という目の前の問題を共有して、さまざまな農家さんや大学教授などが手を貸してくれるんです。自分たちの小さな田んぼから始まったプロジェクトですが、いまは環境問題、国の食糧自給率まで解決できる可能性を秘めています。もともと農業の世界を知らなかった者だからこそ、既成概念にとらわれずに、改善につながる行動ができたのかもしれません」

 

困難があっても、それを当たり前と思わずに、立ち向かう。そんな行動力に希望を託されて、協力関係が広がっていくのだ。

 

株式会社ハタケホットケ

 

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※2023年9月5日追記 取材先からの申し入れにより、一部表現を改めました。

 

 

執筆

竹中 唯

長野県在住フリーライター。大学卒業後、公的保険機関と部品工場で事務職を経験し、副業からライター活動を開始。2019年からフリーライターに。サイトテキスト、パンフレット、社内発表資料、採用ページなどの企業・自治体コンテンツを担当しています。
https://taonagano.amebaownd.com/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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