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GPUメモリ不足の対策。AIエンジニアが実践すべき手法とは?

機械学習モデルの学習中に「CUDA out of memory」エラーで作業が中断された経験はありませんか? GPUメモリ不足は、AIエンジニアが日常的に直面する課題のひとつです。

本記事では、メモリ不足が業務に与える影響、コード最適化による即効性のある改善手法、大容量VRAMを活用したクラウドGPUでの根本的解決策、そして要件に応じた適切なGPU選定方法まで、実務で活用できる対策を体系的に解説します。限られたリソースでお悩みの方や、より効率的な開発環境の構築を検討されている方に役立つ内容です。

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1. GPUメモリ不足がAI業務に与える影響

GPUメモリ不足は学習プロセスの中断、モデル性能の制約、チーム生産性の低下という3つの主要な問題を引き起こします。

「RuntimeError: CUDA out of memory」や「torch.cuda.OutOfMemoryError」といったエラーが発生すると、数時間から数日間続いていた学習プロセスが突然停止し、それまでの計算時間がすべて無駄になってしまいます。

対処法としてバッチサイズを削減したり、モデルのパラメータ数を減らしたりすることが多いですが、これらは学習の安定性を損ない、勾配の推定精度を低下させます。とくに、GPT系モデルやStable Diffusionのような大容量VRAMを要求するモデルを諦めざるを得ない状況では、メモリ制約を回避するための非効率なワークアラウンドが常態化し、技術的負債として蓄積されます。

チーム開発では、限られたGPUリソースを複数のエンジニアで共有するため、一人がメモリを大量消費するとほかのメンバーの実験が実行できなくなり、実質的な作業時間が減少することも問題でしょう。

2. GPUメモリ不足への即効性のある最適化手法

既存のハードウェア環境でメモリ使用量を削減するには、コードレベルでの最適化が有効です。適切な手法の組み合わせにより、メモリ効率を大幅に改善できます。

2-1. バッチサイズとデータローダーの最適

Gradient Accumulation(勾配蓄積)を活用することで、メモリ制約下でも実質的に大きなバッチサイズでの学習が可能になります。この手法は、小さなバッチサイズで複数回の順伝播・逆伝播を実行し、勾配を蓄積してから一度にパラメータを更新する仕組みです。

# 例:実効バッチサイズ32を、4回の勾配蓄積で実現

accumulation_steps = 4   # 勾配を蓄積する回数

effective_batch_size = 32

actual_batch_size = effective_batch_size // accumulation_steps

for i, batch in enumerate(dataloader):

    outputs = model(batch)

    loss = outputs.loss / accumulation_steps   # 蓄積回数で損失を割る

    loss.backward()

    # 指定回数蓄積したらパラメータを更新

    if (i + 1) % accumulation_steps == 0:

        optimizer.step()

        optimizer.zero_grad()

DataLoaderの設定も重要な最適化ポイントです。num_workersを適切に設定することで、CPUでのデータ前処理を並列化し、GPUの待機時間を削減できます。

また、pin_memory=Trueを指定すると、CPUからGPUへのデータ転送が高速化されるため、全体的なパフォーマンス向上に寄与します。

dataloader = DataLoader(

    dataset,

    batch_size=actual_batch_size,

    num_workers=4,   # CPUコア数の半分程度が目安

    pin_memory=True,   # CPUからGPUへの転送を高速化

    persistent_workers=True   # ワーカープロセスを使い回してオーバーヘッド削減

)

2-2. 混合精度学習によるメモリ効率化

Mixed Precision Training(混合精度学習)は、メモリ使用量を約半分に削減しながら学習速度を向上させる手法です。この技術の背景には、数値計算における誤差制御の理論が存在します。

深層学習モデルは一般に過剰な表現力を持つため、多少の数値誤差を含んでも十分に汎化性能を維持できるとされています。混合精度学習では、32ビット浮動小数点数(FP32)と16ビット浮動小数点数(FP16)を使い分けることで、メモリ効率と計算精度のバランスを最適化します。

ただし、FP16による精度不足が勾配消失のリスクを伴うため、ロススケーリング(loss scaling)を用いることが重要です。これにより、小さな勾配値をスケールアップして精度を保ちながら、安定した学習を実現できます。PyTorchではtorch.cuda.ampを使用することで、こうした複雑な処理を簡単に導入できます。

from torch.cuda.amp import autocast, GradScaler

scaler = GradScaler()   # 自動的にロススケーリングを管理

for batch in dataloader:

    optimizer.zero_grad()

    # 順伝播でFP16を使用

    with autocast():

        outputs = model(batch)

        loss = outputs.loss

    # 損失をスケールして逆伝播

    scaler.scale(loss).backward()

    scaler.step(optimizer)    scaler.update()   # スケール値を自動調整

2-3. 勾配チェックポイントによるメモリ削減

Gradient Checkpointing(勾配チェックポイント)は、計算時間を若干犠牲にしてメモリ使用量を削減する手法です。

中間層の活性化を保存せず、逆伝播時に再計算することで、メモリ効率を向上させます。とくに深いネットワークでは効果が顕著に現れます。

# Transformersライブラリの場合

model.gradient_checkpointing_enable()

# 手動で実装する場合

from torch.utils.checkpoint import checkpoint

def forward_with_checkpoint(model, x):

    return checkpoint(model, x)

2-4. 動的バッチサイズ調整

動的バッチサイズ調整により、利用可能なメモリ量に応じてバッチサイズを自動調整できます。これにより、メモリを最大限活用しながら、メモリ不足エラーを回避できます。

def find_optimal_batch_size(model, sample_input, max_batch_size=128):

    # 最大バッチサイズから段階的に減らしてテスト

    for batch_size in range(max_batch_size, 0, -1):

        try:

            batch = sample_input[:batch_size]

            outputs = model(batch)

            loss = outputs.loss

            loss.backward()

            return batch_size   # メモリエラーが起きなかった最大サイズを返す

        except RuntimeError as e:

            if “out of memory” in str(e):

                torch.cuda.empty_cache()   # メモリキャッシュをクリア

                continue

            else:

                raise e

    return 1

2-5. メモリ使用量のモニタリング

メモリ使用量のモニタリングも重要な要素です。定期的にメモリ使用状況を確認し、リークやボトルネックを早期発見することで、安定した学習環境を維持できます。

import torch

def print_memory_usage():

    allocated = torch.cuda.memory_allocated() / 1024**3

    cached = torch.cuda.memory_reserved() / 1024**3

    print(f”GPU Memory – Allocated: {allocated:.2f}GB, Cached: {cached:.2f}GB”)

# 学習ループ内で定期的に実行

if step % 100 == 0:

    print_memory_usage()

3. 高性能クラウドGPUによるメモリ不足の根本対策

コード最適化には限界があり、大規模モデル開発には豊富な計算リソースが必要となります。クラウドGPUサービスは、初期投資を抑えながら高性能な計算環境を実現する選択肢として注目されています。

GPUクラウドについては以下の記事でくわしく解説しています。
GPUクラウドとは?研究機関・スタートアップが導入するメリットと選定ガイド

3-1. 大容量VRAMへのアクセス

80GBのVRAMを搭載した最新GPUをオンプレミスで導入する場合、ハードウェア費用だけで数百万円の投資が必要になります。さらに、電力設備の増強や冷却システムの導入なども考慮すると、総コストは想像以上に膨らむことが多いでしょう。

一方、クラウドサービスでは同等の性能を持つインスタンスを時間単位で利用でき、プロジェクトの要件に応じて柔軟にリソースを調整することが可能です。必要なときだけ高性能GPUを使用することで、コストパフォーマンスを大幅に向上させられます。

3-2. スケーラブルな計算環境の構築

小規模な実験では8GBクラスのGPUでスタートし、本格的な学習フェーズでは40GB以上の大容量GPUに移行するといった使い分けが可能です。このような段階的なスケーリングにより、開発の各フェーズに最適化されたリソース配分を実現できます。

また、複数のGPUを組み合わせた分散学習環境も容易に構築でき、単一のGPUではメモリ不足で処理できない大規模モデルにも対応可能になり、研究開発の幅が大きく広がることでしょう。

3-3. 最新GPU世代によるメモリ効率向上

新世代のGPUは同じVRAM容量でもより効率的なメモリ管理機能を搭載しており、実質的な処理能力が向上しています。クラウドサービスではこうした最新技術に随時アップグレードできるため、つねに最適なメモリ効率で開発を進めることができます。

技術の進歩に合わせて自動的に最新環境を利用できるのは、クラウドサービスならではの大きなメリットと言えるでしょう。

4. メモリ不足解消に向けたクラウドGPU導入の留意点

クラウドGPUの導入を成功させるためには、自社の要件を正確に把握し、適切なリソース選択をおこなうことが重要です。また、既存の開発環境からの移行を円滑に進めるための計画立案も欠かせません。

4-1. 自社要件に合ったVRAM容量の選定

実際のモデル開発では、モデルサイズだけでなく、バッチサイズやシーケンス長によってもメモリ要件が変動します。以下に主要なモデルタイプ別の目安を示します。

8GB〜16GBクラス

エッジAIなどでのごく限定的な推論処理に適したエントリーレベルです。BERT-Base(110Mパラメータ)の場合、バッチサイズ16で約4GB、バッチサイズ32で約6GBのVRAMが必要となります。

画像分類タスクでは、ResNet-50を224×224の画像、バッチサイズ32で学習する場合、約6GBのVRAMが必要です。このクラスは研究の初期段階やプロトタイプ開発に適しています。

24GB〜48GBクラス

より大規模なモデルや高解像度データの処理に対応できる中級クラスです。BERT-Large(340Mパラメータ)では、バッチサイズ16〜32で約8GB〜12GBが必要になります。

Meta Llama 3 70Bモデルの推論では、量子化を活用することで24GB〜48GB範囲での実行が可能です。物体検出モデルのYOLOv5では、640×640の画像サイズでバッチサイズ16の場合、約8GBが目安となります。本格的な実用開発に向いているクラスといえるでしょう。

40GB〜80GBクラス以上

最新の大規模モデルや最先端の研究に対応できる上級クラスです。H100(80GB)、H200(141GB)、B200(192GB)などの最新GPUが該当します。GPT-3クラスの言語モデルやStable Diffusion XLのような大容量モデルも快適に扱えます。

Stable Diffusion v2.1では、512×512の画像生成でバッチサイズ4の場合、約12GBが必要です。より高解像度な1024×1024での生成では、24GB以上のVRAMが推奨されます。商用レベルのAIサービス開発には、このクラスが不可欠でしょう。

容量選択の際は、モデルサイズの1.5〜2倍程度のVRAMを確保することをおすすめします。これにより、中間層の活性化や勾配情報の保存に必要なメモリを確保でき、安定した学習が可能になります。また、学習時は推論時の2〜3倍のメモリが必要になることを考慮し、余裕をもった容量選択が重要です。

4-2. データ転送最適化を踏まえた段階的クラウド移行

クラウドGPU導入時の課題のひとつが、データ転送のボトルネックです。大容量のデータセットをクラウド環境に転送する際は、ネットワーク帯域幅とレイテンシを考慮する必要があります。

データ転送コストを最適化するためには、GPUを使わない前処理をローカル環境で完了させ、学習に必要な最小限のデータのみをクラウドに転送することが効果的です。具体的には、画像のリサイズやノーマライゼーション、テキストのトークン化、データ拡張の事前適用などが挙げられます。また、データを圧縮形式で保存し、クラウド環境で展開することで、転送時間とコストを削減できます。

段階的な移行アプローチとして、まず小規模なプロトタイプや概念実証から始めることをおすすめします。限定的なデータセットと軽量なモデルで環境構築のノウハウを蓄積し、徐々に本格的な開発環境に移行していきます。

初期段階では、既存のオンプレミス環境との併用も有効な戦略となります。日常的な開発作業はオンプレミスで継続し、大規模な実験や最終的な学習処理のみクラウドを活用することで、移行リスクを最小化できるでしょう。

まとめ

GPUメモリ不足は、学習プロセスの中断やモデル性能の制約を引き起こし、AI開発の生産性を大幅に低下させる重要な課題です。Gradient AccumulationやMixed Precision Trainingなどのコード最適化手法は短期的な改善策として有効ですが、大規模モデルや複雑なデータ処理には限界があります。

根本的な解決には、大容量VRAMを搭載したクラウドGPUの活用が現実的な選択肢となります。

さくらインターネットの高火力シリーズなら、最新の高性能GPUを必要なときに必要な分だけ利用でき、初期投資を抑えながら高性能な計算環境を構築できます。

GPUメモリ不足の根本解決に向けて、ぜひクラウドGPUの導入をご検討ください。

また、研究室のGPU選びなら以下の資料が参考になります。ぜひご覧ください。
研究室のGPUリソース選定ガイド〜国産クラウドが選ばれる理由〜

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編集

さくマガ編集部

さくらインターネット株式会社が運営するオウンドメディア「さくマガ」の編集部。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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