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クレーンゲーム景品の発注・割り振りをAIにより自動化。GENDA×GiGOのDX施策「プロジェクトPAO」

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街中やショッピングモール内にあるゲームセンター。数あるゲームのなかでも人気を集めるのが、クレーンゲームだ。この景品(プライズ)の仕入れや在庫管理は、Excelの活用などによる人力が業界の常識だという。しかし、全国各地に店舗を有する会社が、各店舗に最適な仕入れをおこなうのは簡単な話ではない。

そうした課題をAIによる自動化で解決したのが、株式会社GENDA(以下、GENDA)のデータチームと、株式会社GENDA GiGO Entertainment(以下、GiGO)のマーケティングチームが手を組んで進めたプロジェクト「プロジェクトPAO(Prize Allocation Optimizer)」だ。本プロジェクトを立ち上げた松沼さんに、プライズ業界の課題と成果について話を聞いた。

松沼 雄祐(まつぬま ゆうすけ)さん プロフィール

GENDA BizDev & Analysis マネージャー。GENDA GiGO Entertainment マーケティング部長
2012年、株式会社サイバーエージェントに入社。セールス・広告商品開発を経て、2016年株式会社AbemaTVに出向し広告事業の立ち上げを経験。2017年、ウォルト・ディズニー・ジャパンに入社。”Manager – Analysis DTC”として、Disney+のAPAC領域の戦略・分析を担当。2023年、株式会社GENDAに入社。グループ会社の事業開発・データ分析組織の立ち上げに従事し、2024年よりGENDA GiGO EntertainmentにてR&Dマーケティング本部マーケティング部長を兼任。

クレーンゲームが抱える課題のうち、まずは川下の「発注・割り振り」業務に着目

GENDAは2018年設立、2023年に上場したM&Aを戦略とした企業だ。アミューズメントやカラオケをはじめ、エンターテイメント分野において幅広い事業を展開している。同社のグループ会社のうちの1つが、ゲームセンターでおなじみのGiGO。今回、GiGOで景品の仕入れ、在庫管理課題の解決を目指した「プロジェクトPAO」を立ち上げた松沼さんは、GENDAに籍を置き、出向先のGiGOで腕を振るった形だ。

松沼さんがGiGOにやってきたのは2024年2月。まずは課題の抽出に取り掛かった松沼さんが目を付けたのが、ゲームセンター部門の売上の7割を占めるというクレーンゲームだった。

「店舗に景品が届くまでには、いくつかのステップがあります。まずは、そもそもどの景品を買うのかという選択の話。そこから、どれだけの数を買うのかという量の話。さらに、GiGOのように多店舗展開している会社の場合、どの店舗にいくつずつ送るのかという割り振りの話。そして、物流です」

このなかで着手しやすいのは、川下にあたる割り振りだという。川上にあたる商品選定の工程は変数が多く、すぐに解決するのは難しい。

「景品は、発注から入荷までのリードタイムが4か月ほどあるんです。そのため、アニメキャラクターなど、クレーンゲームで人気を集める景品は流行りの波を見極めるのが難しい。4か月後に人気が落ち着いてしまうこともありますし、逆にアニメ化が決まって急に人気が出るものもあるんです。それに比べれば、割り振りは変数が少ないため、短期間で成果を出せると考えました。店舗にある機械の種類と数、売上実績を見れば計算可能かなと」

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従来の発注業務は4人×丸2日間で実施。Excelの行数は3万だった

これまで、GiGOでは景品の割り振りを専任のスタッフ4名でおこなってきた。割り振りは、商品数を店舗数で割ればいいという単純な話ではない。各店舗にある機械の種類とそれぞれの数に合わせた形で、品切れや余剰在庫が出ないよう考慮しなければならない。その作業はExcelでおこなわれており、行数は3万行にも及ぶ。毎月4名が丸2日かかりっきりになって、ようやく終えられる業務量だ。

「A店舗から1カートンを削って、B店舗に付けて、ここは1.5にしてと、『よく人力でここまでやっていたな』と感心するレベルでがんばってくれていました。ただ、データサイエンスの力を借りれば、もっと極められて効率化できるなと思ったんです」

「もっと極められる」内容の1つが、店舗の特性を考慮した割り振りだ。GiGOは、秋葉原や池袋といった都市部の目立つところにある店舗、地域の街中にある小規模な路面店、ショッピングモール内にある店舗と、さまざまなタイプの店がある。

店舗ごとに顧客の目的は異なり、都市部の店舗にはお目当てのキャラクターグッズを取りたいという明確な目的を持った人が多いが、ショッピングモール内の店舗には、買い物途中の待ち時間にちょっと遊びたいといった人も見られる。訪れる顧客のニーズやタイプは、どの景品が人気なのかというところにも表れるという。そこまで加味した割り振りを人力でやるのは困難だ。しかし、それもAIで自動化すれば可能となる。

現場を知るメンバーにも話を聞くことで「現場に価値のある」要件定義を実現

「プロジェクトPAO」を立ち上げた松沼さんがまずおこなったのは、本プロジェクトをともに進めたテックチームの戸松真太朗さんに声をかけること、そして現場へのヒアリングだ。GENDAのデータチームでデータサイエンティストとして働く戸松さんは統計学やAIに強く、松沼さんから持ち掛けられた話に関心を示してくれたという。そこから、店長経験のあるメンバーをチームに加えた。懇意にしている店長にもヒアリングをし、要件定義を進めていった。

「現場の実情を無視すると、かえって仕事を増やしてしまう結果につながるおそれがあるため、きちんと話を聞きたかったんです。話を聞いていくことで、どんどん現場のニーズが見えてきました」と松沼さんは語る。そのうちの1つが、入荷する景品の過不足によって起きていた機会損失と不良在庫だ。

「景品が届きすぎた結果、不良在庫が増え、廃棄コストがかかっている店がある一方、本来必要だった量の7割ほどしか仕入れられておらず、もっと入れていれば売上を伸ばせた、つまり機会損失を起こしている店との2パターンがあったのです。このどちらのロスも少なくするため、でこぼこを調整することが重要だと感じました」

早期に完売してしまった場合、他店から輸送することはできる。ただし、倉庫から一斉に送るときと比べ、店舗間での輸送は配送代が上がってしまうため、初めから適正量を割り振れていれば、輸送コストの削減も目指せる。

Excel作業での発注業務を担ってきた社員も巻き込み、これまでどのような思考を経て発注、割り振りを考えてきたのか、ケースごとの判断を書き出していった松沼さん。そこから、戸松さんが中心となり、機械でそれを再現し、かつ店長から聞き出した現場ニーズを満たせるロジックを作っていった。

キックオフから2か月で導入開始。バリュー「Speed is King」を体現したプロジェクトに

「プロジェクトPAO」は、2024年3月に戸松さんを加えて始動し、2か月後の5月には本導入を果たしている。この「2か月」という期間は、松沼さんが掲げていたスパンだという。

「戸松さんには『なかなか厳しいですね』と言われましたが、反対はされませんでした。というのも、当社には『Speed is King』というバリューがあるんですよ。このバリューは、社内Slackのスタンプにもなっているほど、全社的に浸透している考え方なんです。そういった風土もあったからこそ、戸松さんを含め、プロジェクトメンバーみんなでスピーディーな導入に向けて取り組めたのだと思います。巻き込む人数を増やしすぎると動きが鈍化するため、中心メンバーで動けたのも大きかったです」

2か月でできる限りのロジックを作り、導入。その成果は上々だという。店長からは「こんなシステムを待っていた」と喜びの声が寄せられた。たとえば、小型機械がメインの店舗には、大きい景品よりも小さめの景品が多く届くようになり、機会損失と余剰在庫との両方の削減につながった。また、予算を少し残した発注しかできていない店舗が多かったところ、無駄なく使いきれるようになった点も成果だ。

さらに、一般消費者にうれしい成果もある。カートン単位の商品を0.25単位まで細かく割り振れるようになり、複数種類がセットになったアソート品を、小さな地域の店舗に入れられるようになったのだ。

「都市部の大型店舗にしか入荷されていなかったような人気景品を、小規模店にも届けられるようになりました。これは、ロジスティクスのメンバーが詰め替えてパッキングする作業をがんばってくれているからこそでもあります。『近所の店にはどうせ入荷しないだろう』と思われてきた方たちに、『ぜひお店に行ってみてください』とお伝えしたいですね」

プロジェクトによる成果は、それだけではない。大きいのは、割り振りを担当していた4名の社員の負担軽減だ。4名が丸2日、つまり単純計算して60時間を割り振り業務に費やしていたが、これを丸ごと削減できたのだ。

「彼らにとって、この仕事をする期間は『鬼門』だったようで、業務から解放されてうきうきしていましたよ(笑)。売れ筋の研究や探求など、もっとクリエイティブな仕事に時間を割けるようになり、私もうれしく思っています」

変革は始まったばかり。今後もゲームセンターの課題解決を目指す

2か月での導入というハイスピードについて、「まずは結果を出して、会社への貢献を示さなければ誰もついてきてくれないという想いもあった」という松沼さん。ゴールしたわけではなく、あくまでも本システム導入は通過点。改善の余地はあり、すでにブラッシュアップに取り組んでいる。

「数か月経ち、さらに精度が上がってきました。かなり手ごたえがあります。ここからは、川上部分を攻めていきます。景品の需要予測で重要なデータと技術は既に見当がついています」

早期に成果を出せたことで、より大きな開発を進めやすくなった松沼さん。今回のプロジェクトを振り返り、次のように語る。

「今回声をかけた戸松さんの所属するテックチームは、普段はインフラ寄りの仕事がメインです。保守運用に近い仕事で、なくてはならない仕事ではあるのですが、利益での貢献度がわかりづらいところがあるんですね。そのため、事業貢献につながる今回の仕事に興味を持ってくれたのだと思っています。今回の事例は、専門性のあるエンジニアと、私のようなBizDevの人間がタッグを組むことで、短期間に成果を出せた好事例になったといえるでしょう。

GENDAは、楽しいことすべてをエンタメと捉え、エンタメ産業で結果を出す仕事をしています。私がGiGOに出向してこのプロジェクトに挑んだように、さまざまなグループ会社の中に入って自分事として挑戦できるのがGENDAの良さ。挑戦にもつながるので、私の事例を見て気になった方は、ぜひ一緒に働きましょうと伝えたいですね」

現在、全国に約300店舗あるGiGO。ゲームセンターの変革は、まだ始まったばかりだ。

「今後もゲームセンター好きのみなさんに『何か変わったな』『良くなった』と思っていただけるようがんばりたいですね。これからのゲームセンターの変革に、ぜひご期待ください。そして、もし今後『あれ、何か変わったな』と感じられたとき、その裏側には私たちがいることがこの記事で伝わってくれたらうれしいです」

株式会社GENDA

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執筆

卯岡 若菜

さいたま市在住フリーライター。企業HP掲載用の社員インタビュー記事、顧客事例インタビュー記事を始めとしたWEB用の記事制作を多く手掛ける。取材先はベンチャー・大企業・自治体や教育機関など多岐に渡る。温泉・サウナ・岩盤浴好き。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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