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『下町ロケット』が教えてくれたのは小さな組織の勝ち方ではない。
小さな組織やチームで成果をあげるにはどうすればいいのか、ずっと考えてきた。ここ二十年、中小企業の小さなチームで戦うことを強いられてきたからだ。新卒で大企業に入社して、それからいくつかの転職を経て、現在は中小規模の会社で営業職として働いている。だから、両者の良いところも悪いところもわかっているつもりだ。一時期は競合他社(大手)とバチバチに戦ったこともある。そのうえで、小さな組織は大きなライバルから徹底的に逃げるしかないという結論に達したのだ。
両者に優劣はない。テレビドラマや映画のようなフィクションだと、小さい組織が巨大な組織との戦いに挑むようなストーリーになる。『下町ロケット』のような、「中小企業の長年蓄積した技術が超巨大プロジェクトの成功につながる」という、小さくて弱いものが工夫と努力で強いものを制する話だ。個人的には、超大手企業が小さな会社を完全に蹴散らすようなストーリーも見てみたいけれども、人気を得られないだろう。『下町ロケット』はファンタジーだが、ビジネスにおけるひとつの真理をあらわしている。大企業と中小企業の間に優劣はつけられないということだ。
フィクションでは、小さく弱い組織に正義があるように描かれがちだが、大企業のほうがクリーンであったり、むしろ中小企業のほうが劣悪な環境だったり、ブラックだったりすることもあるのだから、規模では決められない。もっとも、とことん腐りきっている大きな組織がたちが悪いのは言うまでもないけど……。つまり、大きな組織と小さな組織それぞれに長所と弱点があり、規模に関係なく良い悪いが存在する。つまり両者に、優劣はないということ。どこに着眼するかによって優劣が決まるだけなのだ。両者にあるのは、役割の違いだ。
では、中小企業のような小さな組織、小さなチームはどう立ち回ればいいのか。じつはほぼ基本的なスタンスは決まっている。面白味はない。小ささを長所ととらえ、それを活用するような戦略を取る。それしかない。具体的に言えば、少人数ゆえの連帯感、決裁の速さのようなスピード感のある対応、フットワークの軽さ、といった長所を活かす。あとひとつ、誤解を恐れずに言えば「失敗してもよい」という気楽さが一番の武器になる。
しくじって倒産してしまったら元も子もないが、中小企業は一般的にマイナーで、大企業に比べれば、社会的責任と言われるものは少なく、失敗しても世の中に迷惑をかけることは少ない。たとえば、国がかかわって、多額の税金が投入されている事業に大企業が参画した場合、求められる結果とそれに伴う責任が大きいため、失敗が許されない。大きな重圧にさらされる。経営陣からの圧力も強い。
また、たとえば小さなチームなら、大きなチームではできない小さな事業に取り組める。3人のチームで売上一千万円のプロジェクトに取り組めても、10人のチームではそうはいかない。このように、小さい組織には圧力やしがらみが少なく、事業やプロジェクトに気楽に取り組める。失敗も小さい。これが小さいチームのメリットを最大に活かして戦っていくということ。反対に、大企業や大きなチームは力を持っているものしかできない仕事のやりかたを突き詰めればよい。これが役割の違いだ。
ブルーオーシャンを探し求めることがレッドオーシャンである。
一方、大きな組織と小さい組織の役割が重なるフィールドも存在する。市場規模が未成熟で売上が小さくても将来性がある場合は、大企業がテスト的に参入してくることがある。真正面から戦ったら、まず、小さいほうは勝てない。大きな組織の力に押し切られる。勝てるとしたら、少数精鋭の天才をあつめたチームくらいだ。残念ながらほとんどのチームに天才は存在しない。勝算は低い。「小さいチームでも良い企画を練り上げれば勝てる」という幻想を捨てることも大事だ。勝てるチームはゼロではないが、可能性はいちじるしく低い。そういう戦いを繰り返しているうちに小さい組織は体力を失ってしまう。戦いを避けるべきだ。
未成熟な新規のフィールドで事業を展開する、ブルーオーシャンを探し求めるという考え方もある。残念ながら、ブルーオーシャンはそう簡単に見つからない。スタートアップ企業がプレゼンでアピールしているのを見かけるけど、その多くは既存事業のバージョン違いで、ブルーオーシャンにはほど遠いものだ(だから長続きしない)。それに、ブルーオーシャンを探すこと自体が過熱競争でレッドオーシャンなのだ。勝てない。それならば既存の事業や市場でどう立ち回るかを真剣に考えたほうが効率的かつ経済的だ。小さい組織やチームにはそちらのほうが身の丈に合っている。
対大きな組織としては、大企業や大きなチームがやらない/できない規模の事業や仕事を探していけば、おのずと答えが見えてくる。たとえば、大企業は、多くの部署や工場を備えているため、それらを維持するための売上が必要となる。どれだけ営業サイドがやりたくても、売上が見込めなければできないのだ。対して、小さいチームや組織は大きなチームや組織ができない事業や仕事を受けていけばいい。言いかえれば、大きなものや強いものと戦わなければ負けることはないということ。大企業に一個人が勝つのはファンタジーなのだ。
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「戦わない」を極めることが勝つことになる。

なんだか逃げまわっているような印象を受けるかもしれないが、別ルートを通っているにすぎない。大きな組織ができないことをやることには、十分に価値があるのだ。いや、これから将来はますます小ささの強みが活きてくる時代になるはずだ。なぜなら、人口がますます減っていくからだ。労働力も減る。大きなチームを編成できなくなる。小さなチームでやりくりをすることになる。さらに大きな組織ができないような、スキマ的な仕事がより増え、さらに、ニーズの多様化が進む。個人対応に近くなるかもしれない。
多様化とは、細かくなるということ。大企業ができないような仕事や事業はいくらでも生まれてくる。そのとき活躍できるのは小さい戦場で戦ってきた小さい組織であり小さいチームだ。多様化した市場かつ事業規模の小さい仕事に対応できるかどうかの点で大きな組織が淘汰される。小さい組織、小さいチーム、中小企業の生きる道が生まれてくる。
巨大規模のプロジェクトや莫大な研究開発費をかけられる事業を追求するのはますます大企業のものになり、もし時代にあわせて彼らが小さな事業や市場に進出するなら、小さな組織を仲間に取り込む形になる。大きなチームに仕事を評価されて声をかけられ、自立した形でサポートを受けられれば、それが小さいチームにとっての勝利になる。
このように、小ささのメリットを活かして、既存の市場で大きな組織のできない仕事を進めて力をつけていくことが、もっとも効率のよい、勝利への近道になる。ミステリーで優秀な探偵の前に難易度の高い謎や好敵手があらわれるように、優秀な小さなチームには相応の誘いがあらわれる。優秀でない探偵の前にあらわれるのは普通のコソ泥だけである。捕まえてもニュースにならない。
結局のところ、大きな組織と小さな組織は上下関係ではなく補完関係なのだ。ITやDXを活用しながら小ささを武器にしていけばいい。中小企業の「チーム力」や「仕事への情熱」や「培ってきた技術」がフォーカスされていたけれども、超大手と争うことを避けて独自路線を突き進むこと、小さなチームにできることは特別なことではないことを教えてくれるのが、『下町ロケット』の名作たるゆえんだと思うのである。
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執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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