
ビジネスパーソンに役立つコラムを読んでスキルアップ&隙間時間を有効活用
>>さくマガのメールマガジンに登録する
「君は現場を知らない」と言われたことはありませんか。
「彼は現場を知らない」
先日、デスクワークをしているときにこんな言葉が聞こえてきた。声の主は現場の責任者で、「彼」はその現場のマネジメントを担当している本社スタッフらしい。僕も若いころ、同じことをよく言われたものだ。覚えているのはムカついたからだ。
「君は現場を知らない」「現場を知ったほうがいい」。そんなことを言ってくるのはきまって現場で働いているベテランや先輩社員だった。現場は、その人の関わる仕事全般を指していた。率直に言って、現場の仕事を知る必要があるのか疑問だった。お互いの仕事を知り合うのならわかるが、一方的に自分の仕事を知ってほしいというのだ。
僕の仕事は新規開発営業。契約(仕事)を取ってくるのがおもな業務だ。営業が取ってきた仕事を事業としてこなしていく、それが先輩たちの言う現場の仕事だった。「現場を知らない」と言われたが、僕の現場は営業の仕事にあった。日々の新規開発、定期訪問、企画提案、それが僕の現場だった。みんな、それぞれの現場を持っている。しかし「現場を知らない」と言ってくる先輩たちの言う「現場」は彼らの仕事だけを指していた。言いかえれば、僕の現場を認めていなかった。傲慢である。だから当時、僕はムカついて、20年以上たった今でもムカつき続けている。
ビジネスパーソンに役立つコラムを読んでスキルアップ&隙間時間を有効活用
>>さくマガのメールマガジンに登録する
「現場に来い」はマウントを取りたいだけ。

1週間、現場に赴いて業務に従事すれば経験になる。学べることもたくさんある。当たり前だ。普段している仕事とは違う仕事なのだから。すべてが目新しく、新鮮に映る。業務の進め方ややり方、その現場特有の考え方や文化も違う。現場に赴けば、実務や現状とともに課題や問題も見えてくるはずだ。現場外から来た人間は現場の人間とは異なる見方をするからだ。視点が違うので、現場では思いつかないような改善提案ができるだろう。だが、仕事も楽になって関係者全員がウインウインな改善案でも「君は現場を知らないからそんなことが言えるのだ」と門前払いされる。なぜか。
「現場を知ったほうがいい」と言う現場の人たちは、現場を知ってもらって、外部の血を入れて良くしたいのではない。自分たちが従事する仕事を相手にやらせてみて、自分の仕事の大変さを教えたいのである(もちろん、仕事を知ってもらいたいという人もいたけれども、僕の経験では少数派だった)。そして慣れない仕事で右往左往したあとで「この仕事を毎日やっているのですか。大変ですね」の言葉が欲しいのである。マウントポジションを取りたいのだ。おそらく、仕事の大変さは実際に従事してみなければ伝わらないと考えているのだろう。残念ながら、こうした現場での仕事の大変さや苦労というのも想像の範囲内であることがほとんどなのだ。
目の前の仕事をこなしていれば現場は見えてくる。

営業という仕事をしていれば、現場では働いてはいないものの、研修で現場の仕事はある程度把握している。そのうえ、企画提案などを通じて、現場がどのように稼働しているか知る機会はたくさんあるのだ。何年も普通に営業をしていれば、多少の誤差はあってもほぼ現場のリアルを理解できる。社内のシステム担当であっても、普段の仕事を通じて、現場がどういうふうに動いているのか理解している。だから、「現場を知ったほうがいい」というようなことを言われても、それが「現場の苦労を、身をもって学ばせたい」というようなくだらない理由からなら、「またの機会にお願いします」と言ってスルーしたほうがいい。
新卒で入った会社に勤務して数年経ったときに、現場を知る機会があった。研修ではない。少し前に流行った追い出し部屋のようなものだ。営業部の上司が問題を起こしたのだ。不正である。僕はそれには一切関わっていなかったが、ペナルティとして、港湾地域にある子会社の倉庫へ飛ばされ、管理業務の補助を任されたのだ。2003年、当時、倉庫業務はキツイ仕事と社内では有名だったので、そのうち音を上げて退職するだろうという見込みがあったと思われる。立派なハラスメント人事である。
倉庫に飛ばされたときに学んだこと。
前々から倉庫業務の担当者から「現場を知ったほうがいい」と執拗に言われていたこともあって、「現場とやらを知ってやろうじゃないか」と反骨精神に火がついていた。「大変ですね」なんて、相手の思うつぼのことは言わないぞと。こちとら上司がアホなことをして大変な苦労をしているのだ。
倉庫に配属されてから数日で、だいたいの業務は把握できた。実務や現状は大体想像どおりで、課題も予想の範疇。現場へ来る必要はなかった。現場の仕事は肉体労働が多いため大変であることはわかるが、大変さの大部分が業務を古い慣習のままおこなっており、アップデートしていないことに起因していた。
まず、手書きでおこなっていた荷受台帳や工程管理やシフト管理をパソコン上で行えるようにした(簡単なExcelだけど)。2000年代になっても、手書きで事務作業をおこなっていたからだ。「このほうがわかりやすい」と現場の人たちは言っていた。だが、それは従来のやり方を変えるのが面倒くさいだけだった。僕の改善策はたいしたものではなかったけれども、昭和から続いていた方法が通っていた現場には効果てきめんだった。所長格の社員が、事務作業に取られる時間が少なくなり、そのぶん現場に出られるようになったのだ。
僕が口だけで何もできなかったら誰もついてこなかったと思う。実は、大学時代に二年間、倉庫でアルバイトとして働いていた。そのときアルバイト先の会社の好意でフォークリフトや玉掛けの研修を受けさせてもらっていて、普通にフォークリフトを運転できた。ベテラン・レベルではないものの、貨物の出し入れには不自由しなかったから、みんな聞く耳を持ってくれた。そして何より、事前に予想していた倉庫業務と、実際の倉庫業務がほぼ一致していたことが大きかった。
真面目さと想像力とテクノロジーで現場を知ろう。
普通に仕事をして通常の想像力を持っていれば、自分の仕事に関わる現場の仕事はある程度想像できるのだ。いちいち実際に現場に足を運び、そこで働かなくてもいい。スペシャリストになるのは不可能だが、実情や課題は想像どおりなのだ。仮に、予想できなかった事態が起きていたら、そのときは現場に足を運べばいい。
テクノロジーを活用することで、現場に行かなくても現場を把握できる。DXや各種ツールを活用して社内各所の業務や課題をシェアできるはずだ。いちいち現場へ赴く必要はない。得るものがあっても、それ以上に無駄が多すぎる。その間穴をあけることになる本来の自分の仕事を考えると、生産性や効率面でもよろしくない。そもそも、自分の仕事の大変さでマウントを取るなんてバカバカしい。「現場に来てやってみろ」的な慣習が残っているのだとしたら、本当にやめたほうがいい。無駄を排して、より効率よく、より楽に働こう。
IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ
>>さくマガのメールマガジンに登録する
執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
- SHARE