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部下への注意が菊池風磨さん調になっていた。
「契約ロストするようじゃ無理か。契約は成約まで持っていかないと」
春から動いている案件について、部下を注意した僕の言い方がたまたま菊池風磨構文になっていた。部下から指摘され「その言い方はちょっとダメージが残ります」と笑われた。なお、僕は菊池風磨構文をそのときはじめて知ったのである。
この文章がアップされるのは6月。春から新しい環境で働きはじめた人、新年度で心機一転した人など、それぞれ、ひとまず落ち着きを取り戻したり、結果が出たり、見通しがついたりしているころではないか。変化によって、疲労がたまったり、ちょっと気落ちしたり、心身の調子を崩したりする人がいて「五月病にかかった」などと言っていたが、最近はあまり言わなくなったようだ。年中調子が悪い人が増えたからだろう。
うまくいっている人とそうでない人がいる。うまくいっている人のなかでも、1ミリの狂いなく計画通りの人はごくわずかだろう。想定どおりにはいかなかった、計画とは違う方向になってしまった人もいるはず。うまくいっていない人は、新しい仕事になじめない、求められている結果が出せていないといった感じで、もうちょっとできるはずだったという予想(理想)と現実のギャップに悩んでいるといったところだろう。
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うまくいかないとき頼れるものは少ない。

うまくいっていないとき、頼りにできるものは多くない。蓄積されてきた先輩や上司の経験もあてにはならない。なぜなら過去の体験談やノウハウは「こうやればうまくいく」というものばかりで、「こうしたら失敗する」はかなり少ないからだ。当然だ。「こうやればうまくいく」というポジティブな内容のものはやる気を生み出すけれども、「こうするとうまくいかない」というネガティブなものは、触れるだけで嫌な気分になるからだ。人間は基本的に自分の見たいものを見る生き物なので、自然とネガティブなものは少なくなる。
僕は営業職だからよーくわかるけれども、営業マンという人たちは、プライドが高く負けん気が強いので、失敗談を「そのまま」保存蓄積することはない。営業日報にしくじった事案を記録するにあたって、自身では冷静に分析できていながら、多少色をつけて相手に問題があった的なストーリーをつくってしまいがちだ。僕も実際に若いころはそうだった。「自分ではベストを尽くした。しかし力不足だった。だが、それ以上に相手が望んでいるものと、会社が提供できるサービスとの間に乖離があった」みたいに仕立てるのだ。そうすることでなんとなく己の責任を薄めるのだ。このように蓄積された失敗談や失敗ノウハウは調整や脚色が入っているため、役に立たない。これは営業職にはかぎらない。
最近はDXやさまざまな営業ツールや運営支援ツールが開発されて、仕事を効率的にうまく回すような仕組みやシステムが充実している。しかしそれらは失敗を活かしているだろうか。疑問だ。というのもさきほど述べたように失敗体験、しくじり事案はインプットの際に脚色や調整が入ってしまっていることが多いと思われるため、そのデータから適切な対策は打ち出せない。技術やツールが優秀であってもデータにノイズが入っていては役に立たない。
失敗のデータ化が難しいのは僕らが人間だから。

望まれるのは成功例より失敗例の精確なデータベース化だ。そこから失敗しないための対策を生み出す形ができればいい。生成AIは正しいデータがあって役に立つのである。もちろん、失敗は記録に残したくない、他者に明かしたくないと思うのは当然だ。人間だもの。たとえば営業職の失敗は、どうしても個人のいたらなさや能力や資質や経験に起因する失敗、つまり属人的な失敗になりやすいので、「自分の責任にされたくない」と考えがちだ。だが、属人的な失敗で終わらせてしまっては、その失敗が企業の財産になることは無くなる。だからこそ、失敗したときはその失敗をそのまま客観的にデータとして残すことが必要になる。
いま、僕は営業部門の長をやっているけれども、失敗の報告について何か変なところがあるときは部下や同僚からヒアリングするようにしている。さもなければ、失敗が正しく記録されないからだ。つい先日もこんなことがあった。とある顧客へ訪問に行った部下から報告があった。「とある顧客がウチとの契約を望んでいる。前業者との契約を終わらせる。見積もりが欲しい」という内容だった。
ところが案件を進めるうちに、「いまの業者との契約を切るのではなく、将来の参考のための見積もりが欲しい」という話に変わっていた。報告だけでは、現業者との契約解除を前提に話が進んでいたのに、なぜそういう話に変わっていたのかわからなかった。部下本人に確認したら「契約を切る、切らないという話は一切出ていなかった、ただ見積もりが欲しい」という話に過ぎなかった。最初から。こうなってくると相手が態度を変えたのではなく、当初のヒアリングと報告に問題があったことになる。失敗経験が180度変わってくる。他責が自責になる。失敗の本質をつかむということは地道に向き合うことから始まるのだ。
失敗を振り返るとストレスがたまる。
しかし、上司からこんなにネチネチと聞かれるのは嫌な気分になるのが人間というものだ。お互いにストレスがたまる。僕のかつての上司のように「失敗の話は聞きたくない」という人も以前は多かった。「失敗はマイナスの資産」という認識があったからだと思われる。たしかに昔の情報処理能力では失敗を資産にすることはロスと無駄が多い。実際役に立つかどうか疑わしいし、失敗を直視するのはなかなかしんどいからだ。
ただ、現在ならストレスを覚えることなく失敗をマイナス資産からプラス資産に転化できるはずだ。生成AIなら失敗データを読み込んで的確な対策を生み出せるだろう。マイナスの資産がプラスに変えられる。失敗を直視するのは人間ではなく機械だ。失敗の振り返りというクソおもしろくない作業はAIに投げてしまえばいい。僕ら人間の仕事は、失敗を包み隠さず、失敗をそのままフレッシュな状態で記録することになる。失敗をすること、それを記録することそれがAIや機械にはできない、僕たち人間しかできない仕事なのだ。
失敗を嫌がる。あるいは失敗から目をそらそうとする。「恥の意識」から振り返りたくない、思い出したくない。それは人間らしい心の動きだ。失敗を直視するのは辛く、あまりおもしろくない作業だ。だからただ虚無になって失敗をそのまま記録して、それを直視して分析するのはコンピューターや生成AIに任せてしまおう。というのが今回の話のキモである。
成功例はあまり参考になることがない。たまたまうまくいった例外から抽出した変なものを、営業スキルみたいな形に仕立てるのをかつてよく見かけたものだ。名刺交換のときに相手が目を合わせるまで凝視しろと、営業コンサルに言われて実行したら「この人こわい」と恐怖心を植え付ける結果になったことがあった。そのほかにも変な営業テクはいくつもあった。そんな営業スキルを駆使したところで契約が取れるかといったらそんなことはなかった。
テクノロジーで失敗を武器にする。

結局のところ、営業にかぎらず仕事とは地道に進めて、トライ&エラーを重ねて勝率を高めていくしかないのだ。そして、勝率を高めつつ、顧客や件数といった母体を増やすことで仕事の成果を大きくしていくというだけの話なのである。その勝率を高めるのに必要なのは、失敗に対して真摯に付き合うことなのだ。僕は割と自分に対して期待も過剰評価もしていないので、自分の失敗を素直に見ることができた。普通の人間はなかなか難しいけれども、いまは失敗を振り返り見つめることを生成AIにやらせることによって、誰でも勝率を高められる。そうやってストレスや苦労を感じずに成功体験を増やしていってもらいたい。
「契約ロストするようじゃ無理か。契約は成約まで持っていかないと」。「菊池風磨構文」だとそんな感じになる。営業マンにとって契約は取ってなんぼだ。取れなかった契約は虚無である。その虚無からAIや技術をつかって何を生み出すか。それがこれからの仕事では重要になる。ほかの仕事に当てはめると「仕事失敗してるようじゃ無理か。仕事は成功まで持っていかないと」になる。以上。
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執筆
フミコ・フミオ
大学卒業後、営業職として働き続けるサラリーマン。
食品会社の営業部長サンという表の顔とは別に、20世紀末よりネット上に「日記」を公開して以来約20年間ウェブに文章を吐き続けている裏の顔を持つ。
現在は、はてなブログEverything you’ve
ever Dreamedを主戦場に行き恥をさらす
Everything you've ever Dreamed : https://delete-all.hatenablog.com/
2021年12月にKADOKAWAより『神・文章術』を発売。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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