前回は異動を経験した社員に話を聞きました「異動した社員に聞く。異動を打診されたときの心境は?」。
今回は、”異動を受け入れた側”のES部(人事)担当、矢野理恵に話を聞きました。みなさんは「異動」にどのような印象をお持ちでしょうか?
株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、人事異動に対する意識は管理職に比べて一般社員のほうが多少否定的なものが多いようです。しかし、一般社員と管理職のいずれも、肯定的な印象の選択率は50%を超えていて否定的な印象は50%を下回っています。
「会社都合による人事異動は受け入れたくない」といった否定的な印象は一部あります。しかし「新しい仕事に携わるチャンス」「新しい人間関係を築くチャンス」という肯定的な印象もあるとわかります。
矢野 理恵 プロフィール
2018年7月にさくらインターネット入社。印刷会社でディレクターを経験後、人事にジョブチェンジ。前職はITベンチャー企業で新卒・中途採用業務を経験。現在は異動、出向を担当している。人事業務歴は約6年半。
「異動」はあくまで手段のひとつ
ーー前回、異動した社員に話を聞いて今回は異動を受け入れる側の矢野さんに話を聞いています。「異動」についてどう思いますか?
必ずしも必要とは思いません。最終的な目標は、ES(エンプロイーサクセス)の実現であり、そのひとつの手段が異動です。
変化を望んでいる方やキャリアに悩んでいる方にとって、チャレンジするきっかけになればいいと思います。
私は転職して人事になりましたが、ジョブチェンジの転職活動はかなり苦労しました。
中途採用って大半が即戦力の募集じゃないですか。その中で未経験で募集している会社はとても少なかったですし、ポテンシャル採用していただける年齢ではなかったので、条件に合う会社が中々見つからず時間がかかりました。
そういった意味では社内でジョブチェンジできるのはいい制度だと思いますね。
ジョブチェンジでなくても、たとえば自身のコアスキルの補強になるような関連性のある部署への異動もいい経験が積めるのではないでしょうか。
新しい環境に身を置くことでスキルの幅が広がり、異動したことで結果的に「キャリアが切り開けてよかった」と言ってもらえたらうれしいですね。
”満足”ではなく”成功”をサポートする
ーー「ES(エンプロイーサクセス)」について、くわしく教えてほしいです。よく聞く、従業員満足度を意味する「ES(エンプロイーサティスファクション)」とは違うのでしょうか?
おっしゃる通り、多くの会社では「ES=エンプロイーサティスファクション」を指すと思います。でも、さくらインターネットでは「ES=エンプロイーサクセス」だ、と声を大にして言いたいです!
エンプロイーサクセスは社員の”満足度” ではなく、”成功”に導くための考えです。
社員にとっての成功は人それぞれ違うので定義が難しいですが、社員が継続的に成果を出し、成果を出すことで成長を実感できること。また、最大限のパフォーマンスを発揮し、働きがいを感じる状態を目指しています。
そのために、社員が成功できる環境を整えたいです。具体的には成長できる仕組みや、キャリア相談を気軽にできる環境づくりです。
ーーES部でも異動を受け入れることなりましたが、どのような流れで決まったのでしょうか?
部内で退職される方がいたので、上長から確定事項として「新しい方が異動してくる」と聞きました。
正直、戸惑いましたね。最近では社内で異動や出向が多くありますが、2年前の当時は活発ではなかったです。
また、本人希望の異動ではないようだったので、モチベーションはどうなのだろう? と気になっていました。一方で人事は職種柄あまり人の入れ替わりが多くないので、組織が活性化されるんじゃないかと期待もありました。
異動を受け入れる側にも価値がある
ーー異動してきた社員へどのようなサポートをしたのでしょうか。
当時は中途採用の担当だったので採用の勉強会を開催したり、OJTを実施しました。
中途採用とは? といった基本的なことから、求人公開までの流れや採用手法選定など、実務の詳細までお伝えしています。異動してきた方へのサポートを目的としていますが、自分自身も勉強になりました。
勉強会の資料を作成する際に、未経験の方がこの説明を聞いてどう感じるか、どんなところに疑問を持つのかを考えながら作りました。採用って結果が見えにくい分、どうすればモチベーション維持してもらえるかなども考えましたね。一方的に説明するのではなく、理解して動いてもらうまでがゴールなので試行錯誤しました。
また、自分の中で曖昧だったことを調べ直したり、理解不足な点を明らかにして復習できるので、業務理解が深まりました。
ーー異動を受け入れる側にもいい点があるのですね。
はい。ずっと一人で中途採用を担当していたので属人的な業務の進め方をしている部分が多かったのですが、新しく異動してくる方に情報をシェアすることで標準化されます。
「これは何のためにやっているのでしょうか?」と質問されることも多く「あっ、いまはこのやり方じゃなくていいかも」って業務改善にもつながりました。
標準化されたら、自分も新しい業務にチャレンジする時間ができて仕事の幅が広がりました。
具体的にはFFS(Five Factors & Stress)理論※の講師の資格を取ることができ、チームで分担して社内で合計380名の方に相互理解のワークショップを実施しました。
※FFS理論とは、人の思考行動特性を5つの因子(凝縮性・受容性・弁別性・拡散性・保全性)とストレス値で定量化するもの。これを把握することで、最大限に能力を発揮する手がかりをつかめます。
導入後すぐにチーム内でワークショップを実施しました。こういったツールをうまく活用することで、相手を知るきっかけになりコミュニケーションの改善に取り組むことができました。
しっかりコミュニケーションを取っておいたほうが、意思疎通がうまくいくので結果的に効率もよくなると学びました。
ーー受け入れるときに「こうすればよかった」という反省点はありませんか?
異動って本人も受け入れ側もパワーが必要ですよね。当時の私はコミュニケーションを充分に取らずに、業務のインプットを最優先しました。業務に追われ、早く仕事を覚えてもらわなければと焦ったあまり、業務外の会話をおろそかにしてしまいました。その結果ピリピリしていましたし、良好な関係性を築くまでに時間がかかってしまいました。
異動してくる方は不安を抱えていると思うので、もっと密にコミュニケーションを取るようにしたほうがよかったなと反省しています。
私に限らず異動者を受け入れる部署のみなさんも、仕事に追われてバタバタしていると思いますが、是非このようなツールを活用してもらいたいと思いました。
今後は異動する方がいたら是非ともワークショップを受講いただきたいと思います。
ES(エンプロイーサクセス)実現のために、今後進めていくこと
まずは仕組みを整えたいです。いまはルールがあるようでない状態なので、正規ルートを作って、もう少し変化を望んでいる社員が手を挙げやすくなる環境を整えたいと思います。
最近人材情報管理ツールを活用して、前職でおこなってきたことやどのようなスキルがあるかを書いてもらう取り組みをはじめました。
この取り組みによって採用教育をはじめ、新規事業の立ち上げや新規プロジェクトがあった際に特定のスキルのある社員を全社横断的に探せます。
また社員にとっても、担当業務の拡大や活躍のチャンスが増えるメリットがあります。
今後、上長との1on1ミーティングでキャリアの相談をできる仕組みを整えたり、ES(エンプロイーサクセス)の成功事例を増やしていきたいと考えてます。