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質屋やブランド買取は、現物の査定や目利きをする必要があることから、いわば「アナログ」な事業といえるだろう。そんな事業を手掛ける株式会社大黒屋(以下、大黒屋)は、2017年よりAI査定の確立に着手。LINE上だけで売買を完結できる「おてがるナンデモ買取」を2024年7月にリリースした。サービスの概要やAIの活用に着手した背景、今後の展望について、同社の小川 浩平 代表取締役社長に話を聞いた。

小川 浩平(おがわ こうへい)代表取締役社長 プロフィール
総合商社トーメン(現:豊田通商)に勤務したのち、コロンビア大学経済大学院修了。ゴールドマン・サックス・アンド・カンパニーでの勤務を経て、ファー・イースト・コンソーシアム・インターナショナル・リミテッドの社長に就任。2006年に株式会社大黒屋を買収し、2012年より代表取締役社長に就任。
ブランド買取に関する手続きをLINE上で完結
1947年に創業して以来、多くのブランド品や貴金属の買取、販売、質預かりをおこなっている大黒屋。2025年現在は関東から九州にかけて24店舗をかまえ、2021年には中国・上海にも進出を果たしている。
そんな同社がリリースした「おてがるナンデモ買取」は、LINE上で、ブランド品の買取に関わる登録、集荷、査定、振込を完結できるサービスだ。

ユーザーはLINEのアプリを開き、「おてがるナンデモ買取」の公式アカウントを友だち追加。チャットボットの案内に従って「写真査定」をタップし、所有しているブランド品の写真を撮影して送信をする。すると、同社のAI技術によって瞬時にブランド名とモデル、買取金額の目安が表示される。あとは、大黒屋の店舗に持ち込むか、あるいは商品を発送するだけだ。
大黒屋はユーザーの商品を受け取ったあと、専任の鑑定士が査定をおこない、ユーザーに正式な査定金額をLINEで提示。ユーザーが了承すれば、正式に買取を実行し、買取金額を支払う。その後、買取された商品は大黒屋から「Yahoo!オークション」へ自動出品され、落札された価格に応じてユーザーに追加で還元する流れだ。
「お客さまがブランド品を持って店舗に来るのは、いくらで売れるかを知りたいからです。そのオペレーションをアプリで提供しているのが『おてがるナンデモ買取』です。すぐに現金化もできるのも魅力だと思います」(小川代表取締役社長、以下同)
そんな手軽さが理由なのだろう。サービスの提供を開始してから約半年で、利用者数は約12万人(2025年2月末時点)、2025年2月以降は1日あたり約3,000人のペースで登録が増えているという。
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AI査定はこれまでの積み重ねの結晶
高い精度でブランド名とモデルを判定できるAI技術の開発の背景には、同社が長年にわたって蓄積してきた商品情報や取引情報がある。同社ではこれらのデータのクレンジング(前処理)をおこない、AIで認識しやすいようにしたうえで、機械学習をしているという。データクレンジングは、店舗で働く社員が実施。商品データをインターネットにあげる際にこの作業をおこなうことで、機械学習のモデルのトレーニングと同じような効果を得られるという。
「AIというと、都合よく何でも解決してくれる魔法のように思われることが多いですが、そう簡単なものではありません。当社は2017年以降、約50万件の商品画像と属性データのクレンジングをコツコツとおこなってきました。この作業を継続してきたからこそ、高い精度でブランド名とモデルを判別できるのです」
また、インターネットとそれによる目まぐるしい発展を目のあたりにし、実店舗よりインターネットにおける販売が伸びると判断したことも、同社をAI技術の開発に向かわせたという。
集った優秀な人材のおかげでAI技術の確立を実現
アナログなビジネスを事業とする同社はなぜ、AI技術の活用に着手し、それを実現できたのか。その背景の1つには、日本ならではの理由があった。日本で広く導入されているPOSシステムは「いつ、どの商品が、いくらで、何個売れたか」などを記録、集計し、それをもとに売上や在庫を管理するシステムだ。大黒屋ホールディングスは中国やイギリスの企業買収に乗り出した際、POSシステムが使えないという問題に直面する。それを機に、データを整理、管理し、自社でシステムを構築しはじめたという。
また、海外で進出を果たした結果、グローバルな目線かつ俗人化していない値付けの必要性も認識した。そこで需要と供給に合わせて価格を変動させるダイナミックプライシングを採用。その設定にもやはりクレンジングをしたデータが必要だったそうだ。
これらを可能にしたのは、同社に集う優秀な人材だ。海外企業の買収と同時期に、小川代表取締役社長は海外出身の現大黒屋CTOの女性に出会う。そして、小川代表取締役社長が「天才エンジニアでグローバルのトップエンド」と称する彼女を中心に、世界中からエンジニア、アナリストなどの人材を集め、チームを結成。以降、「おてがるナンデモ買取」につながるAI技術の開発を続けてきた。
「『おてがるナンデモ買取』は、彼女らがいなかったら、実現できなかった技術です。メンバーは全員優秀で、億単位を稼げるプレーヤーばかり。なぜそんな人材が当社にいるのか。それは、彼女らが自身の興味に従ってやりたいことをできる環境を提供しているからです。これは、ほかの日本の企業が取るには難しい手法だと思います」
一方で、優秀な人材とのやり取りには苦労もあるようだ。
「CTOは非常に論理的です。細かい点をいくつもいくつも確認してくる。こちらは技術的なことも含めて英語で回答しなければいけない。それは大変でしたね」
と言うものの、小川代表取締役社長の笑顔からは充足感が伝わってきた。
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他社との業務提携で循環型社会に貢献したい

「おてがるナンデモ買取」の商流は、同社内だけで完結させておらず、LINEヤフー株式会社と業務提携し、Yahoo!オークションを活用している。この背景には、資産(中古ブランド品)の即時評価により循環型の社会を促進したいという想いがある。
近年、中国が猛追を見せるが、それでも日本にはいまだ世界トップクラスのブランド中古品のホールセール市場がある。ブランド品の所有者は価値のある商品を廃棄するのではなく、売却することによって新たな商品の購入のための資金を得られ、売却された商品は新たな所有者の資産になる。「おてがるナンデモ買取」であれば、顧客の買取体験への抵抗を減らし、買取件数の増加とそれによる循環を促せる。LINEヤフーのような大規模なプラットフォームを有する企業と提携すれば、「おてがるナンデモ買取」を既存のシステムにうまく組み込み、シナジーをもたらすことで流通を促進できるという算段だ。
「インターネットの買取査定は過程と価格が不透明です。これを透明化したいという価値観もLINEヤフーと一致していました。サービスのリリース前、広告代理店からサービス名に『高額』という単語を入れる提案を受けたんです。でも、私たちがやりたことは適正な値段で売買し、循環型社会に貢献することです。そんな想いもあって、結果的にいまのサービス名に落ち着きました」
2024年12月には、株式会社メルカリのフリマアプリ「メルカリ」でのサービス提供も開始。一般ユーザーがメルカリに出品した商品に対して、メルカリ側が大黒屋の査定に基づいた金額の提示をおこなう。もちろん、ここにも大黒屋のAI査定システムが活きている。このサービスには、ユーザーは売却の選択肢を自動で増やせるというメリットがあり、大黒屋が描く循環型社会の実現にさらに近づくだろう。
「大黒屋は現在、従来のアナログな手法から、AIの活用や他社との業務提携などによって新しいビジネスモデルを構築している最中です。当社だけでなく、ほかの企業と共存、成長していくことが楽しみですね」
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執筆
増田洋子
東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。
ポートフォリオ:https://degutoichacora.link/about-works/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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