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2025年5月28日、桜美林大学新宿キャンパスに、電子マネー「エルムコイン」が利用できる完全レジレス無人売店「エルムストア」がオープンした。日本の大学施設において、ハウス電子マネーが利用可能で、レジでの精算を一切必要としない無人売店の導入は国内初1の取り組みとなる。
この先進的な無人売店は、どのような経緯で桜美林大学に導入されたのか。エルムコイン及びエルムストアの立ち上げを担った株式会社LMCU(以下、LMCU)代表取締役の石原翔太さんと、AIカメラとIoTセンサー技術を提供した株式会社Cloudpick Japan(以下、Cloudpick)社長の秦 昊さんに話を聞いた。

秦 昊(シン コウ)さん プロフィール(写真左)
株式会社Cloudpick Japan社長
2009年に中国の大学を卒業後、早稲田大学大学院でロボティクスに関する研究を専攻。新卒で入社したNTTDATAで大手金融、政府機関のシステム開発、BPO案件推進/企画に携わったのち、リクルートに転職。求人系ウェブサービスの開発ディレクションや、不動産プラットフォームSUUMOの事業戦略、営業推進、コーポレート統括などに従事。その後Cloudpickの日本法人の立ち上げに携わり、事業展開を統括している。
石原 翔太さん プロフィール(写真右)
株式会社LMCU代表取締役COO
学生時代は海外へテニス留学に行き、選手として活躍。引退後、スポーツの素晴らしさを広めるため、一般向けのテニスレッスンやプロ選手のマネージメントなどに従事。その後、2022年から株式会社LMCUに参画しスポーツ事業の責任者を経て2025年より代表取締役COOに就任。
AIとIoT技術を導入した完全レジレス無人売店

大学の入口近くにあるため、授業の合間や登下校時に立ち寄りやすい
「エルムストア」は、CloudpickのAIとIoT技術を活用し、LMCUが運営するウォークスルー型の無人売店だ。桜美林大学との産学連携プロジェクトとして実現したもので、若年層に次世代の買い物体験を提供している。
エルムストア最大の特徴は、プリペイド型電子マネー「エルムコイン」を採用しているところだ。クレジットカードを持たない学生が利用するため、現金でのチャージが可能なTOPPANデジタル株式会社のプリペイドシステムを活用した。学生はエルムコインに現金をチャージし、入店する。すると、店舗に設置されたAIカメラと重量センサーが、利用者が商品を手に取る行動を認識。ゲートから出ると自動的に精算が完了する仕組みだ。
これによりレジでの操作や待ち時間がなくなり、混雑しやすい休み時間や、昼休みにもスムーズに買い物ができると学生たちに好評だという。
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学生たちにいち早く未来の買い物体験をしてもらいたい
エルムストアを立ち上げた背景には、日本全国で深刻化する労働人口の減少問題がある。
「日本では、少子高齢化に伴い人手不足が進んでいます。とくに小売業界では、人手不足で店舗運営が困難になり、閉店を余儀なくされるケースが少なくありません」(石原さん)

この社会課題を解決するために考案したのが、エルムストアだ。これまでLMCUとCloudpickは共同で、「完全レジレス無人売店」を数多く提供してきた。エルムストアはその技術を活用したもので、エルムストア桜美林大学店は、LMCU創業者と桜美林大学の職員との繋がりで導入に至った。
「以前から、桜美林大学様とは、無人店舗の取り組みについて協議を行っており、2025年5月にようやく実現ができました。今後は労働人口の減少が進む中で、我々のシステムが活躍し、世の中に無人店舗が拡大されることが予想されます。その中で、まずリテラシーが高い学生に、近未来の購買体験をしてもらい、その経験が無人店舗利用者拡大の礎となることを期待しました」(石原さん)
「Cloudpickは日本やアメリカ、ドイツ、シンガポールなど、世界20か国で1,000店舗以上の無人店舗を展開しています。ホテルや商業施設など多様な業態に導入しているのですが、そのなかでもっとも成功しているのが大学なのです。学生たちはリテラシーが高く、新しいものに対する関心も強い。ランチタイムには売店にたくさんの人が並ぶため、ムダな待ち時間をなくすという課題解決にもつながります。Cloudpickには日本の大学との関わりがなかったので、お話をもらったときは『やった!』と思いました(笑)」(秦さん)

現金が使える無人店舗は国内唯一
既存の無人店舗の多くがクレジットカードや電子マネー決済を前提とするなか、エルムストアはクレジットカードを持たない「学生」というターゲットに合わせ、現金でチャージできるプリペイドシステムを導入した。
「現金が使えるのは、完全レジレス無人店舗では国内唯一ですね。グローバルでも例がありません。それがエルムストア最大の特徴であり強みだと考えています。一方で『現金でのチャージが少し面倒』という意見もあるため、今後は銀行口座からのチャージなどもできるようにしていきたいです」(秦さん)

もうひとつの特徴が、桜美林大学の学生とエルムストアを共同運営している点だ。学生有志のメンバーがチームを組み、商品選定やPOP作成、品出し、購入者のデータ分析などに携わっている。
「学生スタッフとは、月に2〜3回の頻度で会議をおこなっています。会議では、Z世代らしい流行りの商品や、大学生に人気の商品、値札の見せ方などの提案をもらっており、日々勉強になります」(石原さん)
学生の意見を取り入れ、韓国コスメや関西限定のスナック菓子「カール」、韓国のインスタント麺「ブルダック炒め麺」など、コンビニとは明確に異なる“学生が本当にほしいと思う商品”をピンポイントで仕入れているという。
一度体験すれば、もう戻れないと好評

手順が書かれていてわかりやすい
利用者はゲートで専用のQRコードをかざして入店。好きな商品を手に取り、そのままゲートを出れば決済が完了する。無人でレジも置かれていないため、オープン当初は「本当に万引きにならない?」と戸惑う学生もいた。
そのため、使い方の動画を店舗前でつねに流し、学生の目に留まるようにした。ほかにもPOPを工夫したり、キャンペーンを実施したりして利用を後押し。その結果、エルムストアの利用者は増加した。


「利用した学生からは『行列に並ばず手軽に買える』『授業の合間の短い時間でもすぐに買い物ができて便利』といった声が多数寄せられています」(石原さん)
「一回体験すれば、もう戻れないとよく言われます。なかには『未来の買い物だ』と表現してくださる方もいますね。まさに我々もそれを目指して技術開発しているので、見かけたらぜひ使ってみてほしい。使ってみたら『もう戻れない』理由がきっとわかります」(秦さん)
ほかの大学への導入や、人手不足が深刻な場所への展開を進めたい
エルムストアの仕組みは、大学キャンパスに留まらない。
「桜美林大学の事例をもとに、ほかの大学でも同じ取り組みを広げていきたいですね。またスーパーなどが持つ独自の電子マネーと連携させた形での展開も視野に入れています」(石原さん)
AI技術の強みを生かし、人手不足で出店が難しかった場所への展開も加速させる。
「空きスペースとネットワーク電源さえあれば、どこでも開業できます。人を雇わなくていいので、人件費も削減できる。人手不足が深刻な場所、たとえば夜間スタッフの確保が難しいリゾートホテルや、買い物難民が増加している地方などで我々のソリューションを使い、課題解決に繋げていきたいです」(秦さん)
冷蔵・冷凍庫の設置も可能で、24時間運営のニーズにも柔軟に対応できるという。このソリューションは、日本の人手不足問題に対する具体的な回答のひとつとなるだろう。「一度体験すれば戻れない」という未来の買い物が、すぐそこまで来ている。
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執筆
山本 ヨウコ
千葉県在住。働き方や生き方を丁寧に掘り下げるインタビューを軸に、Webや雑誌、企業のオウンドメディアなどで幅広く執筆中。またブックライターとして本づくりにも携わっている。対話の中で言葉にならない想いを引き出し、読者の心を動かす記事制作が得意。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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