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さくらインターネットは2024年9月、「さくらのクラウド検定」の第1回試験を実施。この検定は、AI・デジタル分野を中心とした教育プログラムを開発、提供する株式会社zero to one(以下、zero to one)との協業により実現しました。
本記事では、第1回試験終了直後の2024年10月におこなわれたEDIX関西でのトークセッション「さくらのクラウド検定誕生!デジタル教育の挑戦」の内容を抜粋してお送りします。
zero to one 代表取締役CEOの竹川 隆司さんとさくらインターネット テクニカルソリューション本部 本部長 松田 貴志が、検定が生まれた過程とその裏話、そして日本のデジタル・AI教育における課題について語りました。ぜひご覧ください。
竹川 隆司(たけかわ たかし)さん プロフィール
株式会社 zero to one 代表取締役CEO、東北大学共創戦略センター 特任教授(客員)
国際基督教大学教養学部卒。野村證券株式会社にて支店営業・人事採用に従事ののち、野村ロンドン、フィルモア・アドバイザリー執行役員を経て、2011年4月、米国ニューヨークにてAsahi Net International, Inc.を設立、高等教育機関向け教育支援システム事業のグローバル化を推進。2016年仙台市にzero to oneを創業、AIなど高度IT分野の人材育成をオンライン中心に推進中。 2006年ハーバード・ビジネス・スクールMBA。
経済産業省「デジタルスキル標準検討会」委員(2021年度)
一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA) 理事、人材育成委員
一般社団法人AIビジネス推進コンソーシアム(AIBPC) 理事、教育育成WG長 など兼務。
松田 貴志(まつだ たかし) プロフィール
さくらインターネット株式会社 テクニカルソリューション本部 本部長
2003年にメーカー系SIerに入社し、官公庁案件に携わる。2015年、さくらインターネットに入社。インフラエンジニア、セールスエンジニアを経て、2019年にテクニカルソリューション部部長、2023年には本部長に。ビットスター社外取締役、小学生向けプログラミング教室 KidsVentureの講師も務める。
「検定をつくる」ということ
――日本ディープラーニング協会(JDLA)の理事でもある竹川さんに、同協会が実施しているG検定、E資格についてお聞きします。このような検定制度がつくられた経緯について教えてください。
私自身、JDLA創設時から関わらせてもらっていますが、その当時(2016-17年ごろ)から、日本でデジタル・AI人材が必要であるということはいわれ始めていて、JDLAもそんな最中に東京大学の松尾豊先生を理事長に設立されました。
ただ、実際にどのようにデジタル・AI人材を育てるということにおいては、まだ日本の大学でもAI関係の授業も少なかったですし、海外にある教材を日本にそのまま取り入れるにも限界があり、大きな課題でした。
実際に、ユーザー(育成したい人たち)の立場で考えると、日本の場合、たとえば履歴書に「どこの大学を卒業した」ぐらいは書きますが、採用担当は資格を見ることが多いですよね。簿記やTOEICのスコアなど、人に認められやすいものは、誰がスタンプしたか(認めたか)ということになると思うんです。
近い将来、企業の人事部が研修などで利用することも考えたとき、なにか“お墨つき”があったほうが、規模を活かした人材教育につながるのではないか。そのように松尾先生はじめJDLAにて話しまして、新しい検定・資格の制度設計からみんなで作っていきました。
――検定や学ぶ環境を一からつくっていくのはかなり苦労されたと思いますが、どのように進めたのでしょうか。
まず、シラバスづくりが重要です。実際G検定やE資格もそこからはじめました。より具体的には、G検定・E資格の定義、ペルソナ(検定・資格の対象者)の設計、そしてその人たちが社会で活躍するために必要なスキルセット・知識はどういうものかを検討して、シラバスとしてまとめる作業です。
アメリカで多くの人が受講している機械学習・ディープラーニングのコースのシラバス、日本の有識者や産業界の声を集約しつつ、必要な項目を洗い出していきました。
シラバスづくりの次は教材です。G検定の場合はジェネラリストとしての知識を得てもらうべく、それを整理した公式テキストをJDLA監修で作りました。一方、E資格はエンジニア向けですから、プログラミングの要素を盛り込む必要がありますし、その能力をしっかりと確認しないといけない。そこで参考にしたのが、じつは自動車運転免許なんです。
自動車運転免許は、自動車学校で必要なカリキュラムを受講して、自動車学校内のコースで実際に運転の練習をして、仮免許をとったら試験を受けられるという仕組みじゃないですか。それを参考にして、座学もプログラミングも誰かが伴走しながら教えてくれて、ちゃんとスキルも責任を持ってチェックして、そこでOKということになれば試験が受けられるという形にしました。
E資格にはJDLAが認定しているプログラム(JDLA認定プログラム)があり、zero to oneのコースもそのうちの1つです。この認定プログラムを修了した人はE資格の受検資格を得られて、さらに試験に合格するとE資格を得られるという仕組みになっています。
このように、世の中のありとあらゆる資格・検定・免許などを調べて、そのなかでいいものを参考にして出来上がったのがG検定であり、E資格でした。
――さくらインターネットも2024年4月に「さくらのクラウド検定」の実施を発表しました。なぜ、検定制度をつくったのでしょうか。
当社の「さくらのクラウド」(IaaS型クラウドサービス)が、2023年11月に条件付きでガバメントクラウドに認定されたことが理由の1つです。「条件付き」ということで、要件としていくつか足りないものを2026年3月までに満たす必要があります。そのなかで、クラウドに関するトレーニング制度を整えるというものがありまして、それが検定制度をつくるに至ったきっかけの1つですね。
また近年、日本のデジタル競争力が低下しているといわれていて、当社もそれを非常に懸念しております。
日本のIT企業として、日本のデジタル技術力向上のためにできることはないか、ずっと考えていました。教育はさくらインターネットが以前から注力している活動の1つでもあったので、このような検定制度と教材をつくって、それを世に広めて、日本のデジタル技術力の向上に貢献できればと思っています。
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zero to one x さくらインターネットとの協業
――zero to oneとさくらインターネットが協業することになった理由は何だったのでしょうか。
はじめて竹川さんとお会いしたのは、2023年11月です。そのころ、とりあえずクラウド検定のシラバスを作ったほうがいいだろうということで、社内のメンバーで作成して、ほぼいまの形のものが出来あがっていました。
ただ、このあとどうすればいいのかと悩んでいたときに、たまたま知人に相談したところ、竹川さんをご紹介いただいたんです。それで実際にお会いして、zero to oneの事業についてお聞きして、非常に濃密なミーティングをさせていただきました。あのときに私は「うまくいくかもしれない!」と思いました(笑)。
――竹川さんは、検定をつくりたいと相談されてどのような印象を受けたのでしょうか。
いや……正直「何いってるのかな」って(笑)。最初は「どこまで本気なのかな?」というところもあったのですが、かなりしっかりとタイムラインを定められていましたし、「やらなければならない」という本気度が伝わってきたんです。それならば、一緒にやらせていただこうと思いました。
――松田さんの熱量が伝わったわけですね。協業をスタートしてから、一番思い出深かったことをお聞かせいただけますか?
竹川さんとお話をして、シラバスはできているから教材を作ろうということになったんです。検定作成のデッドラインもお伝えしました。
そういったなかで、当社のメンバーが作った教育コンテンツ、パワーポイント1,500枚分ぐらいあるものをすべて動画コンテンツに落とし込む作業をお願いしたところ、「2週間でできます」とおっしゃっていただいて。「そうですか、助かります」と思いつつ、「いや、2週間は無理だろう」と思っていたんですね(笑)。
でも、実際に2週間で動画コンテンツを完成させてくださったんですよ。zero to oneさんの開発力や技術力、パフォーマンスには非常に驚きましたね。
ありがとうございます。私が印象に残っているのは、最近のことなんですが、第1回目の試験(2024年9月27日、28日)がシステム上もなんの問題もなく、無事に終わったことです。
さくらのクラウド検定は、zero to oneのシステムを使ってオンラインで実施しました。じつは当初、受検者が3桁いけばよい結果といえそうだと考えていたのですが、予想を上回る300名以上の方から受検のお申し込みがありました。
多くの方に受検いただく以上、裏ではしっかりとシステムを動かさないといけない。私もzero to oneの社長として不安がなかったわけではありませんでした。でも、いざ始まってみたら問い合わせが1件もなかったんですよ。受検者全員が問題なくログインできて、滞りなく試験ができて、無事に終えることができて本当によかったです。さくらインターネットさんも事前にいろいろなテストをしていただくなど、これまでの準備の積み重ねのおかげだと思います。
デジタルスキル教育の課題と未来
私が以前、アメリカで最大の教育テクノロジーに関するカンファレンスで聞いた話なのですが、アメリカの大学の学長と大企業の社長に、新卒の社員がテクノロジーのスキルを十分持っていると思うかと質問をしたそうです。すると、大学の学長の多くはイエスと答えるのですが、企業のCFO・CEOのうち、イエスと答える人はかなり少なかったそうなんです。つまり、産学でスキル認識にギャップがあるということなんですね。私がこの話を聞いたのは10年ほど前で、当時と比べるとアメリカでは産学の認識ギャップを埋めるための仕組みが出来あがってきています。
いまの日本においても、産学のギャップは存在していると思います。われわれのようなプレイヤー(IT企業)やJDLA、そしてさくらのクラウド検定がそのギャップを埋めていければと考えています。
そのためには、何を勉強したらいいのかを示す必要があると思うんですよね。日本でも、経済産業省からデジタルスキル標準やDXリテラシー標準といったものが策定され、それをベースに少しずつコンテンツも増えてきています。
さくらのクラウド検定についても、第1章はデジタルリテラシー標準、DXリテラシー標準に基づいて作られている。 ようやく武器が揃ってきたということで、教育の裾野は広がってきていると思います。あとはそれをどう活かすかですね。
さくらインターネットとしても、日本のデジタル競争力をなんとか底上げしたいという想いがあり、デジタル教育に関する活動に以前から力を入れています。その一環としておこなっているのが、高専で授業をするという取り組みです。さくらのクラウド検定の教材は、この授業で利用していた資料も参考にしているんですよ。
>>さくらインターネットと高専機構が包括連携協定を締結 記者発表会レポート
高専の教員のみなさまにお話をうかがったところ、高専ではプログラミングなどのいわゆるレイヤーの高い分野の授業は充実しているんですね。ただ、サーバー、ファイアウォール、ルーターといったITインフラに関する授業をおこなっていない学校もあります。やりたいけれどもカリキュラムがない、そもそもITインフラの分野にくわしい教員が少ない。そういった現状にあるなかで、高専機構からご相談いただいたのがきっかけです。
いまは各高専に、さくらインターネットがITインフラの授業ができるということをお伝えし、要望のあった高専にお伺いしています。このような活動を広げていくことで、将来の日本をもっと明るいものにしていきたいですね。
zero to one x さくらインターネットの「教育」に対する思い
期待を込めていうと、おそらく日本のデジタル・AI分野の教育は、これから一気に伸びるはずです。実際にG検定の受検者数は年々増えていて、最近、大きな企業でも取り入れる動きが広がってきています。さくらのクラウド検定も初動はすごくいいので、同じようにこれからぐんと伸びていくものの1つになるのではないでしょうか。
個人個人に目を向けると、私も含めて学び続けることが大切です。アメリカでは、いま自分の業務に必要なスキルセットが得られているかと考えたとき、それは国や会社のせいではなく、自分の責任だと考える人が圧倒的に多いんです。私の個人的な感覚ですが、日本だとそういう人は少ないのではないでしょうか。事実、一般的なオンライン教材を企業で導入しても、1/3から1/5ぐらいしかアクセスしないといわれています。ひとり一人が、自分の責任として学び続ける。このマインドセットが重要になってくると思います。
さくらのクラウド検定の第1回を無事に終えて、zero to oneさんのおかげでこの1年は非常に順調でした。今後も、デジタル技術に関する知識をもっとみなさんに得てもらって、さらに向上してもらうために、さくらのクラウド検定に興味をもっていただける方をどんどん増やしていく活動を続けていきたいですね。
たとえば、さくらのクラウド検定はいま一種類しかないので、上級者向けや、生成AI向けのクラウドサービスに特化したものなど、もっとバリエーションを増やすことも検討したいと思っています。
G検定の受講者がどんどん増えていると竹川さんがおっしゃっていましたが、さくらのクラウド検定ももっと受検してくださる方、勉強してくださる方が増えてくれたらうれしいです。そして、さくらのクラウド検定が日本のデジタル技術力向上の一翼を担うことができればと考えています。