高専生が多く在籍し、受託開発、DXコンサルティングを手掛ける C-Style株式会社。CEO の瀬島 大生さんは、高専生を支援するためのさまざまな取り組みに情熱を注いでいます。高専3年生のときに起業を決意した瀬島さんと、同じく高専在学中に起業した田中。高専出身の起業家という共通点をもつ2人が、高専生の起業や高専生に期待すること、また、今後やりたいことなどを語り合いました。
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2人の出会い
――瀬島さんと田中さんはいつからご面識があるのでしょうか?
瀬島 大生さん(以下、瀬島):2015年の長野高専のプロコン(プログラミングコンテスト)です。そのときに、さくらインターネット賞をいただきました。そう考えると、いま田中さんに個人出資していただけているというのが非常に感慨深いです。
さくらインターネット賞をいただいたときから、本気でプログラマーになろうと決心して、当時田中さんからいただいた名刺をずっといまも大切に保管しています。
田中 邦裕(以下、田中):それはそれは……ありがとうございます。
瀬島:じつは、周りの高専生たちに「田中さんから名刺もらったぞ」と自慢していました(笑)。僕も起業して高専生を支援する立場になりましたが、田中さんのように、「この人と話したんだぞ」と自慢してもらえるような人になりたいです。
田中:ありがとうございます。高専プロコンから応援していた人が起業して、一緒に仕事をするようになるというのは、うれしいことですね。
高専生と社会の「架け橋」に
――現在、瀬島さんが CEO を務める C-Style株式会社(以下、C-Style)の事業について教えてください。
瀬島:C-Style は2020年2月に設立しました。おもな事業内容は受託開発、DXコンサルティングです。「さあ、架け橋をつくろう」をビジョンとしていて、僕たちが高専と社会をつなぐ架け橋となりたいと考えています。優秀な高専生たちがポテンシャルを十分に発揮し、社会へ大きな価値を提供し続ける環境づくりに取り組んでいます。
――瀬島さんから見て、高専生のすごいところはどういったところでしょうか?
瀬島:高専生は、中学校卒業後の早い段階である程度専門性を絞るところが1つのポイントです。技術に対する強い情熱を持っている学生が多く、デザインやプログラミングなどのコンテストにも参加しながら、日々技術を磨いています。
また、高専生はコミュニティとしても非常に強みがあると思います。たとえば、高校生の場合、「あなたは高校生なんだね」というきっかけで仲良くはならないじゃないですか。でも、高専生の場合は、「高専生」というだけで仲良くなることもあるんですよ。
ただ問題なのは、高専卒として大企業に就職し、大卒の人と同じ仕事をして高い技術力も持っているのに、短大卒扱いのために給与が低くなりがちだということです。僕たちはこの現状を打破しなければならないと考えています。
企業をはじめ、工学を駆使しているところでは、高専生が優秀であるという認知はあります。ただ、僕自身も「高専出身です」と言ったときに、「高専ってなんですか?」と聞かれる経験がいまだにあるんですよね。高専生=優秀なんだという認知をもっと高めて、C-Style が高専生の架け橋になれればいいなと思います。
高専生を支援するコミュニティ「Kloud」
瀬島:先日、自分の活動が後輩たちの刺激になればいいなと思って、母校の米子高専で講演会をしてきました。
瀬島さんの note:
お世話になっていた高専の先生に、C-Style が運営している高専生を支援するコミュニティ Kloud(クラウド) の紹介をさせてくださいとお願いしたところ、お話しする機会をいただいたんです。その場ですぐに Kloud に参加したいと言ってくれた高専生もいて、うれしかったですね。
Kloud は、高専生が能力相応の評価を受けられる仕組みづくりを目的に作りました。高専生向けにハッカソンやワークショップを月に1度くらいを目処に開催し 、スキルアップや実績作りとして役立ててもらいたいと思っています。
田中:高専生のスキルアップの話でいうと、DX教育をどう進めるかを考えたときに、シンプルに有給のインターンがいいんじゃないかと思っているんです。もっと突き詰めるなら、高専生が働きながらいろいろな開発スキルを得る。収入を得るためにアルバイトをするくらいなら、有給のインターンにすれば、勉強にもなります。さらに高専生を雇った場合は、その給与の半分を国が補助するといった仕組みがあってもいいんじゃないかと思うんですよね。
瀬島:おっしゃる通りだと思います。たとえば、学校で DX教育するとしても、学校の先生が DX を教えられるかというと、なかなか難しいですよね。
田中:あとは、高専生向けのオンラインコンテンツを作って、それを全高専生に eラーニングで見てもらい、それを単位にするとかですかね。
瀬島:そういった仕組みができればいいですよね。
高専生がアウトプットする場をどんどん提供して、アウトプットの数が単位になるような仕組みがあると、より学生たちが自分から技術を勉強するきっかけになるんじゃないかと思うんです。
高専生は技術大好き集団と見られがちですが、5年間きっかけがなくてあまり自分で勉強せずに卒業していく人もいる。とはいえ、そういった人たちも、そもそも技術が嫌いだったら多分高専には入っていないはずです。学び始めたり、挑戦し始めるきっかけがなかっただけだと思うんですよ。そういった、情報感度が低い学生たちにも、きっかけを与えられるような活動をしていきたいですね。
――きっかけというお話がでましたが、瀬島さんがプログラミングに興味を持ったのは何がきっかけだったのでしょうか。
瀬島:さきほどお話ししたプロコンです。さくらインターネット賞もいただいて、自分が一生懸命作ったものが評価されたのが初めての経験だったので、それがうれしかったですね。それからコンテスト沼にハマって、いろいろなコンテストに応募を繰り返していました。
――高専に入る方はプログラミング経験者が多いのでしょうか?
瀬島:そういう方も一定数いらっしゃいます。でも、大半は僕のように「プログラミングに興味はあるけどやったことはない」ぐらいだと思いますね。やはり、きっかけ次第です。
おそらく、あの場に僕ではなく別の人がいたら、その人がプログラミングに興味を持って勉強し始めたと思うんですよ。高専生にそういった機会を量産するのが、僕の今後の仕事なのかなと思います。みんなきっかけさえあればきちんと進むべき道に進むことができるはずなので。
高専出身の起業家として
――瀬島さんは3年生で高専を中退し、起業されたそうですが、どういった想いがあったのでしょうか。
瀬島:当時、学んだプログラミングを活かしてアウトプットする場所が欲しい、会社で働きたいと思っていろいろな会社に応募しましたが「高校生には仕事を任せられない」「週何回来られるの」と言われました。鳥取の高専にいたら、現実的に考えて東京の会社に週に何度も行けないですよね。
高専生がいくら技術を学んでも、実務の場でアウトプットできない状況はよくない、それなら自分がそういう場所を作るしかない。それで起業を決心し、3年で中退して上京しました。
――お二人とも高専出身の起業家という共通点がありますが、起業家として高専生の皆さんに伝えたいことはありますか?
田中:やりたいことがあるなら、まずはやってみたらいいんじゃないかということですね。いまスタートアップにとってはエンジニアの確保が一番難しいんですよ。でも、高専生の周りにはエンジニアがたくさんいるでしょうから、友達と一緒にやればなんとかなる。事実、さくらインターネットの2人目の社員は僕の後輩ですからね。周りに友達がいて、その友達、後輩、先輩とか、いろいろな人を巻き込んで一緒にやればなんとかなると思います。
――先ほど、瀬島さんも高専生同士の繋がりが強いとおっしゃっていましたが、瀬島さん自身はいまも繋がりはありますか?
瀬島:ありますね。高専生は Twitter が好きな人も多いようで、Twitter のプロフィールに高専の名前を書いているだけで、他校生からたくさんフォローされるんですよ。そういったつながりで仲良くなった人とチームを組んで開発するケースもあります。エンジニアの仲間を作りやすいのは高専生の強みだと思います。
――今後、高専生に期待していることありますか?
瀬島:先ほども言ったとおり、高専生は仲間を見つけやすいと思います。それに、15~6歳からプログラミングや工学的なことにチャレンジできる環境ってなかなかないですよね。情報感度を高くして仲間を見つけて、早い段階から挑戦してほしいですね。
田中:高専生は、ともすれば大企業に就職してしまいますよね。その先で、瀬島さんが言っていたように、年功序列や学歴重視の世界の中に組み込まれてしまうこともある。でも、せっかく高専に行って何かを得たのなら、それを存分に発揮できる場で活躍してほしい気がします。瀬島さんも Twitter の話をされていましたが、SNS などでも世界をいくらでも広げられるじゃないですか。限られた狭い選択肢から進路を決めるのではなく、広くいろいろな人と話をして自分の進むべき道を決めてもらえるといいと思いますね。
好きなことを続けるための起業
瀬島:最近、高専生に起業をさせようという動きがあちこちでありますよね。でも、じつは高専生にとって起業は相性が悪いのではないかと思っているんです。
高専生は技術が欲しくて、技術を学びたくて高専に入ってきているはずです。高専は、起業するにはとてもいい環境ではあると思うのですが、高専生個人を考えると、果たして彼らにとって起業することがいいことなのか。高専生自身が起業をするのではなく、CTO(最高技術責任者)のポジションに就くか、起業しようとしている人とマッチングさせるほうが相性がいいんじゃないかと思うんです。高専生なら、技術という軸でないと起業しないと思うんですよね。田中さん、高専生の起業家は今後増えると思いますか?
田中:アメリカと比較すると、日本はテック企業が少ないんだろうなという気がします。ものづくりにおいてのテック企業はありますけど、社長さんは技術者ではないケースが多いんですよね。アメリカの例で言うと、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツ、エリック・シュミットもエンジニアですよね。日本は、どうしてもエンジニアが社長にならないという傾向がある。そのカルチャーの中で、エンジニアが社長になるパターンはあまりないかもなと思います。
ただ、アメリカのようなカルチャーが日本に根付くのであれば、その中心となるのは高専生や、高専から大学編入した学生ではないかと思います。製造業の時代、日本は技術とともに国をつくってきて、代替わりして1990~2000年代になってくるとマーケティングや品質・工程管理に移っていった。本当の意味でのテック企業ではなくなっているんです。今後、日本でテック企業が生み出されるとしたら、高専生が技術を学び、技術を持ったうえで起業するのはいい選択肢かなと思います。むしろ、日本はいまそういうのを求めているんじゃないですかね。
瀬島:以前、田中さんが Twitter で、起業した理由を「サーバー屋としてずっとやっていきたかったから」とおっしゃっていましたよね。僕は、高専生が起業するとしたら、そういう軸がいいのではないかと思っています。プロダクトベースではなく、「この技術でこれを実現したい」といった技術ベースの軸で起業する高専生が増えたら、おっしゃる通りアメリカのカルチャーに近づいていくのかもしれません。
田中:全社会議で若手社員との対談をしたときに、「海底光ファイバーは売れないのか」という話が出たんですよ。なるほどなと思ってね。海底光ファイバーというのは、単なる通信の手段です。でも、「いつかやってみたいよね」という話をしました。
さくらインターネットのデータセンターも同じです。データセンターはサーバー置き場で、事業の手段でしかない。でも、その当時、さくらインターネットはデータセンターを作りたかったわけです。作るものは一緒でも、その手段に心は宿る。だから、さくらインターネットが他社と違うのは、手段へのこだわりだと思うんですよ。
自社でインターネットインフラを作っている企業は、コストダウンになるからというよりも、それをやりたい人がいたからやっているんですよね。重要なのは、やりたい技術を活かすことと、それをマネタイズして持続可能にする力。このセットだと思います。高専生の場合は技術は持っているので、あとはマネタイズが課題です。自分がやりたいことを実現するために起業するのもアリですよね。また、技術に注ぐエネルギーと経営に注ぐエネルギーのバランスが大事になるのではないかと思いますね。
瀬島:自分たちの好きなことを続けるために起業する。そういう考え方が高専生に根付いていけばいいですね。
目的ではなく手段としての受託事業
――C-Styleは受託事業をおこなっていますが、さくらインターネットも創業当初は受託をしていた時期があったと聞いています。受託に関してはどう考えていますか?
田中:受託を事業の目的にするか、手段にするか。C-Style のように、受託でビジネスをする、つまり受諾を事業の目的にするなら全然かまわないと思います。逆に、受託を事業の手段にしすぎるとよくないのではないかと考えています。
企業にはそれぞれ目的があるので、その目的のために、ときには目的以外のこともやらないといけない。さくらインターネットの場合、受託を目的にはしていなかったので、継続が難しいし、単に価格競争にしかならないんですね。もちろん売上の2~3割が受託でもいいと思いますが、C-Style のように高専生がやるという強みがない限りは、差別化がしにくいです。
瀬島:僕も創業当初は、目的から逸れてしまうし、受託はあまりやらないほうがいいと思っていました。最初は、高専生のためのプロダクトを考えてつくろうと思っていたのですが、どうしても会社のキャッシュが追いつかなくなってしまって。どうしても受託という選択を取らざるを得なくなりました。
そういったきっかけでしたが、受託の案件をこなしていくうちに、これは高専生と相性がいいかもしれないと思ったんです。高専生は、自分の手でモノを作るのが好きですし、クライアントが作ってほしいものに共感できれば、楽しく仕事ができます。若いうちに、C-Style を通して大きい会社からスタートアップまでさまざまな企業と一緒にお仕事をする。そして、そこから高専生が羽ばたいていけると考えると、蓋を開けてみればよかったなと思っています。当初の目的からもズレていないですし、受託が最終的には目的を達成するための手段の1つになりました。結果的に、C-Style にとっては受託がいい感じにハマりましたね。
田中:いい話だと思いますよ。かつ、DX教育などの新しい波が来ているなかで、そこにフィットさせていくとまったく違う成長戦略も見えてくる。単なる受託ではないと言えますよね。
瀬島:おっしゃる通りです。C-Style では、あまり経験のない高専生も案件にアサインしてみて、経験豊富で優秀な先輩と現場で働くことを通して成長する、教育的なところも目的にしています。売上も立てつつ、高専生の成長にもつながる。これが両立できているので、いい感じでフィットしているんじゃないかなと思います。
今後2人がやりたいこと
――瀬島さんと田中さんで、今後一緒にやってみたいことはありますか?
田中:さきほど触れた、高専生のインターンについては、DX人材育成という波が来ているので、高専生にはできることがたくさんあるはずです。
インターンや教育という目的のみならず、高専生を受け入れる側も一緒に仕事をするような Win-Win の関係でできればいいのではないかと思います。それを C-Style さんと一緒にやっていけるといいですね。
瀬島:ぜひよろしくお願いします。僕は、最近、高専生向けのメディアを立ち上げようかなと考えています。Twitter などで仲間を見つけられる人は、高専生の中でも情報感度が高めの学生に限られると思っているんです。そうではない高専生でも、「こういう先輩がいるんだ」「こんなに頑張っている同級生がいるんだ」といった、現役高専生にフォーカスしたメディアを立ち上げたいですね。これも、田中さんとご一緒できたらおもしろそうだなと思っています。
田中:ぜひやりましょう!