より大きなソーシャルインパクトの創出へ。ボーダレス・ジャパンが育む「起業エコシステム」

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事業をとおした社会課題の解決に挑む「ソーシャルビジネス」は、現在スタートアップや大企業の新規事業などで注目されつつある。しかし、その道義性とは裏腹に、ビジネスモデルの策定や事業を軌道に乗せることは容易ではない。

そんななか、ソーシャルビジネスを専業とし、数々の事業やスタートアップを自走させる組織へと成長させてきた企業がある。株式会社ボーダレス・ジャパンだ。ソーシャルビジネスにいち早く取り組み、グループ内外で事業創出のエコシステムをつくり上げる同社のあり方について、同社が運営するソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」の代表を務める半澤節さんに聞いた。

半澤 節(はんざわ たかし)さん プロフィール

1990年生まれ、宮城県出身。2013年、株式会社ボーダレス・ジャパンに入社。

ミャンマー農家の貧困問題を解決する AMOMA、バングラデシュの児童労働をなくすアパレル事業「Corva」で事業運営に携わったあと、シリア難民に安定した仕事と居場所をつくるためトルコで起業。帰国後は社会起業家の黒字化支援の起業家バディ、採用人事を経験。その後、社会起業家を増やすため、ソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」代表として活動。

「社会の課題を、みんなの希望へ変えていく。」

ボーダレス・ジャパンが2023年に策定したパーパス(提供:ボーダレス・ジャパン)

「ソーシャルビジネス」とは、事業の目的を社会課題の解決に定めるビジネスを指す。ボランティア活動のように寄付で活動資金を得るのではなく、事業で収益を得ることで、経済的な独立性を確保しながら持続的な支援をおこなうのが特徴だ。

ボーダレス・ジャパンは2007年、現在代表取締役社長を務める田口 一成さんと同副社長の鈴木 雅剛さんが共同創業した。現在、同社はソーシャルビジネスの事業創出・起業支援を手がけ、13か国51社を育成してきた。以前さくマガで紹介したピープルポート株式会社も、この支援を受けた事例の1つだ。

>>廃棄パソコン・電子機器が社会課題を解決する。ピープルポートが描く未来

 

「当社が初めて手がけた事業は不動産事業で、売上の1%を NPOに寄付するかたちをとっていました。しかし、当時不動産事業を営むなかで、日本に来た外国人が賃貸住宅の入居拒否の問題があることを知りました。(外国人は)ルールを守らない、うるさい、保証人が立てられない。そういった理由から入居を断られてしまうという事態が起こっていたんです。

 

そこで、シェアハウス事業を立ち上げました。私たちが物件を借り上げて、責任を持って運営することで留学生の入居問題を解決しつつ、日常的に文化交流ができるようにしたんです。このシェアハウス事業から、私たちは事業そのものが社会問題の解決に貢献できると知ることになりました」

 

半澤さんが説明するように、ボーダレス・ジャパンの設立当初は、事業利益の一部を還元することで社会課題の解決を目指していた。どのような経緯で現在のような業態になったのだろうか。

 

「先ほどの通り、当初は売上の一部を寄付することで社会課題の解決に寄与するモデルにしていたと田口から聞いています。しかし、売上のなかから寄付をしても大きなインパクトを生み出すことはできませんでした。一方で、シェアハウス事業をやってみると、ビジネスそのものでダイレクトに社会課題を解決できるという実感があった。『そうであれば、社会課題の解決を事業目的に定めて注力していくほうにシフトしていくべきだ』と舵を切ったそうです」

 

以来、同社では事業創出を主軸とするビジネスモデルへと転換していく。しかし、現在では起業家の育成にも注力している。そこにはどのような背景があるのだろうか。

 

「私が新卒で入社したときから、田口は『このままではインパクトが小さい』と話していました。つまり、自社で1つの事業を立ち上げると、短くても数年間を費やします。50年で創出できる事業はせいぜい10~20個程度。これで満足はできないと思っています。

 

『ピンチはチャンス』とよく田口は言いますが、私自身はいろんな社会課題や社会起業家に触れさせてもらう中で、『課題があるということは、伸びしろがあるということでもある」と感じています。社会問題の多くはビジネスの現場で起きていますが、それは経済合理性が合わないからであり、ちゃんとそこに、効率の追求ではなく人の体感が感じる新しい価値を創出できれば、社会課題の解決とビジネスは両立できると考えています。

 

今年に入り、ボーダレス・ジャパンはリブランディングをおこない、新しいパーパスを『SWITCH to HOPE ー 社会の課題を、みんなの希望へ変えていく。』としました。この言葉のとおり、より多くの人が力を合わせて、より多くの希望を見出していくためにも、私たちは事業創出や起業支援に舵を切ることにしたんです」

 

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目指すのは「ソーシャルビジネス版 吉本興業」

ボーダレス・ジャパンでは、支援によって立ち上がった事業や起業のうち、同社グループとして参画する企業を「ボーダレス・カンパニオ」と呼ぶ。カンパニオとは企業(カンパニー)の語源となったラテン語で、「パンを分かち合う仲間」を意味する。カンパニオは、各分野の社会課題に挑戦する起業家同士がつながり、より大きな社会的インパクトを生み出すための相互的な支援やノウハウを共有し合う仕組みだ。

一方で、半澤さんが代表を務めるボーダレスアカデミーは、同社のノウハウを外部に公開している。アカデミー出身者がボーダレス・カンパニオに加わるのは必須ではなく、純粋に「日本から社会起業家が誕生する」仕組みづくりを目指している組織なのだ。社内にボーダレス・カンパニオという存在があるなかで、なぜ社外での社会起業家育成に注力するのだろうか。

 

「ボーダレス・カンパニオは『社会起業家のプラットフォーム』という位置付けです。私たちは創業から16年で50以上の事業を立ち上げてきましたが、さきほど話したように、社会を変えていくためには満足できる数ではないと考えています。

 

社会課題は依然として存在し、着手すべきことも多い。そうであれば、ボーダレス・ジャパンの内外に関係なく、日本から社会起業家を輩出する社会の仕組みをつくる必要があるという発想から、2018年10月にボーダレスアカデミーを設立しました」

 

半澤さんが説明するように、ボーダレスアカデミーでは同社が培った事業創出のノウハウをプログラムとして提供している。プログラムには、ボーダレス・ジャパンの社会起業メソッドを学ぶワークショップ形式の「集中講座」と、 3か月でビジネスプランを完成させる「社会起業家伴走プログラム」の2つを用意。前述のとおり、受講生はボーダレス・ジャパンのカンパニオに加わる必要はなく、卒業生の9割はつくったビジネスプランを起業や新規事業の創出に役立てているという。

「私たちが目指すのは『ソーシャルビジネス版吉本興業』です。いまでは多くの芸人の方々が活躍していて、多彩なネタを披露しています。このような世界をつくり上げたのは、吉本興業の芸人養成学校『NSC』の存在が大きいでしょう。

以前は芸人になろうと思ったら、大御所芸人の付き人になるなどの方法しかなく、芸人になれるかもわからない状態からトライせざるを得なかったと思います。しかし、現在では芸人になりたいと思ったらまずNSCに通い、相方や仲間と切磋琢磨し、自身がどれだけ通用するのかチャレンジできます。機会や場を設けることで多くの人が挑戦し、結果としてすばらしいお笑い芸人が連続して生まれるエコシステムになっているんです。起業においても、そのような仕組みが必要だと思っています。

 

社会課題を解決するために起業したいと思ったら、まずはアカデミーに通ってみる。学びながら何度もビジネスプランを練ってみて、そのなかで同期や同じ気持ちでがんばれる仲間を見つけて、『これだ』と思うプランができたら起業し、難しいと思えば違う道を選ぶこともできる。このように安心のステップを設けつつ、試行と失敗を許容する場があることは、社会起業家を創出するエコシステムにも重要だと考えています」

 

ソーシャルビジネスは社会課題の解決を第一にするからこそ、ビジネスプランの策定が難しい。そのため、ボーダレスアカデミーの社会起業家伴走プログラムでは、3か月のうち最初の1か月は徹底的に解決すべき課題を深掘りしていく。自身が解決すべき社会課題は、「誰のどのような問題なのか」を多面的に分析しなければ、根本的な解決に結びつかず、事業としても頓挫しやすいからだ。

 

「結果的に社会課題の解決にも貢献できたね、ではなく、明確にその目の前の社会課題を解決しにいく、それが重要だと思っています。私たちはそれを『ソーシャルインパクト』と呼び追っていますが、そんなソーシャルビジネスの立案のためには、適切に助言をもらえる環境や伴走支援も重要だと感じています。

 

ボーダレスアカデミーは、さまざまなソーシャルビジネスのあり方を応援しています。カンパニオにはより大きなソーシャルインパクトを求め起業家が集ってくる一方で、まずは身近な一人ひとりの顔が見える範囲からアプローチしていく手段もあります。私はこのようなアプローチもまたすばらしいと考えていて、両方が増えていくことでもより大きな変化が起こせると思っています」

共創によるソーシャルインパクト拡大を加速

ボーダレスアカデミーの創設から5年が過ぎ、14期生のプログラムが始まっている(2024年1月現在)。今後のボーダレスアカデミーの展望をどのように見据えているのだろうか。

 

「社会起業家の誕生に協力してくださるメンターのみなさまや、サポーター・卒業生の方々のご尽力もあり、ボーダレスアカデミーは最高のプログラムをつくり上げてきたと自負しています。

 

よいプログラムができたからこそ、これからは日本だけでなく世界中にこのプログラムを届けていきたいです。社会起業家の数が増えるごとに、解決される社会問題の数も増えていく。とてもシンプルですが、これがソーシャルインパクトの本質だと思っています。

 

最近ではさまざまな企業や自治体のみなさまとお話しする機会が増え、社会起業の萌芽を感じています。このうねりをしっかり盛り上げていきたいので、『社会問題解決に力を使いたい』という方は、ぜひアカデミーの門を叩いていただきたいですね」

 

半澤さんが語るように、現在では起業を目指す個人だけでなく、企業の次世代リーダー育成や社内研修、自治体によるソーシャルビジネスの創出支援という観点でも、ボーダレスアカデミーの注目度や問い合わせ数も増えている。また、ボーダレス・ジャパンでも共創によるソーシャルインパクトの拡大を見据えた取り組みを加速させているという。

 

「一例として、ボーダレス・ジャパンでは現在、実践型の次世代リーダー育成出向プログラム『HOPE』を実施しています。これは大企業の次世代を担う人材を対象に、自社に在籍したまま、13か国51社を展開するボーダレス・ジャパンで働き、ソーシャルビジネスの現場で事業開発をおこなっていただくものです。

 

また、企業に限らず自治体やNPOのみなさまとともに、社会事業・ソーシャルベンチャーが生まれる仕組みを育める場として、福岡本社には『ソーシャルベンチャーPARK福岡』を立ち上げました。

 

ボーダレスアカデミーやインキュベーションプログラムに加えて、上記のような取り組みを加速させていくことによって、中長期的に社会起業家の誕生を日本中・世界中で伴走できればと考えています」

 

最後に、ボーダレスアカデミーの代表として半澤さんが抱く、ソーシャルビジネスの事業創出・起業支援への想いや、読者に向けてのメッセージを聞いた。

 

「ソーシャルビジネスの事業創出・起業支援を続けてきて、ある程度の実績も出せるようになってきました。しかし、先ほども話したように、本当にソーシャルインパクトを出せているかというと、不十分であると考えています。

日本全国で、社会起業家が誕生する社会の仕組みへの期待が高まっているのを感じています。

それにこたえられるように、現在、採用(事業開発職企画・マーケティング職)も強化しています。

 

社会課題に対して、強い想いを持っている方が増えてきているのを実感しています。

 

みんなの想いやアイデアは、やがて大きな社会的インパクトを持つ可能性を持っています。その想いを実現するアクションは、ある方にとっては起業だったり、いま働いている会社の新規事業でソーシャルビジネスを立ち上げることだったり、さまざまでしょう。

もし実現したい未来があるのに、なかなかアクションを起こせずにいる方は、その熱量を内に留めて終わるのではなく、私たちと一歩を踏み出していただきたいです。ぜひ一緒にがんばりましょう!」

 

ボーダレス・ジャパン

 

(撮影:ナカムラヨシノーブ)

 

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