さくらインターネット
さくマガ公式SNS
お問い合わせ

「営業されたくない」顧客心理に応える。営業不在のモデルハウスが住宅販売の現場を変える 

IT・デジタル関連の最新情報や企業事例をいち早くキャッチ 
>>さくマガのメールマガジンに登録する 

住宅購入を検討する消費者の行動に変化が起きている。コロナ禍以降、いわゆる住宅展示場への来場者は減少傾向にあり、「インターネットなどである程度情報を集めてからでないと、展示場やモデルハウスには行きたくない」と考える消費者が増えた。住宅購入検討者にいかにして営業をかけるかが、業界の新たな課題となっている。 

そんな消費者心理に応える形で誕生したのが、株式会社AVANTIAが展開する「スマート内見」である。これは、完全無人のモデルハウスに、リモート接客を組み合わせた新しい内見システムだ。無人と有人の”いいとこ取り”を実現したこのサービスは、2025年7月の開始以降、モデルハウスへの来場者数を前月比で3割増やすなど、着実な成果を上げている。住宅販売の現場を変えるこの取り組みについて、同社経営戦略部部長の細谷竜一さんに聞いた。 

細谷 竜一(ほそや りゅういち)さん プロフィール

株式会社AVANTIA 経営戦略部部長。1998年に東芝に入社し、ソフトウェア関連の研究開発や電力会社向けシステム開発支援に従事。2005年から中国に渡り、現地企業の立場で、日本向け開発プロジェクトの管理を6年間担当する。東日本大震災直後に帰国し、大阪ガスグループのIT子会社で、シリコンバレー企業のソフトウェア製品の販売に携わる。2016年に退職後、大学院でマーケティングを3年間学び、2019年に住宅・不動産業界へ転身。2024年にAVANTIAへ入社し、現職。 

「営業されたくない」消費者心理の変化を捉えた新サービス 

株式会社AVANTIAは、名古屋を拠点とする戸建住宅のは販売を主軸とする総合不動産企業だ。2025年に創業37周年を迎えた。近年は建売住宅の販売に注力しており、2024年には年間約1400棟を販売。東海3県(愛知・岐阜・三重)を中心に展開しつつ、首都圏、近畿・九州にも進出している。富裕層向けマンションのリノベーション販売、リフォーム、注文住宅も手がける多角的な企業だ。 

同社がスマート内見を導入したのは、注文住宅事業の再立ち上げがきっかけだった。ニーズの高い平屋で、新たに平屋専門ブランド「RAN(ラン)」を立ち上げ、2025年4月には首都圏(千葉県・神奈川県)と愛知県にモデルハウスを4か所オープンした。だが細谷さんは、モデルハウスを建てるだけでは十分ではないと考えていた。 

「現代のお客さまは、自分たちの手である程度の下調べをして、検討を進めてからでないと、モデルハウスに行かない傾向があります。言い換えると、『自分が情報武装していないときに、モデルハウスに行って営業をされたくない』という感覚をお持ちなのです」 

AVANTIAはモデルハウスを4か所に建てたが、そこに営業がいるなら行きたくないという顧客も一定数いるのではないか。細谷さんはそう考え、無人のモデルハウスというアイデアに至った。だが、ただ無人にするだけでは、顧客は見学するだけで終わってしまう。見るだけでは、他社との比較もしにくい。 

「そこで考えたのが、リビングルームに設置したテレビモニターを通じてコンシェルジュが仕様や設備の説明をし、規格型注文住宅を建てるにあたっての必要情報を解説する仕組みです。コンシェルジュがおこなうのは情報提供のみで、営業は一切しません。ですので、お客さまは安心して相談できます。スマート内見で納得してもらえたら、次は営業と対面で話す、という流れです」 

こうして誕生したスマート内見は、2025年7月からサービスをスタート。導入前の月と比べてモデルハウス来場者を約3割アップさせるなど、早々に成果を上げている。現在AVANTIAのモデルハウスでは、スマート内見と従来型の内見を並行しておこなっているが、来場者の増加数は、スマート内見の申込者の数とほぼ一致している。とくに20〜30代の若い来場者が増えており、その多くがスマート内見を利用しているという。 

ビジネスパーソンに役立つコラムを読んでスキルアップ&隙間時間を有効活用 
>>さくマガのメールマガジンに登録する 

営業しない“コンシェルジュ”が生んだ、30%超の営業引き継ぎ率 

スマート内見による成果は、来場者数の増加だけではない。営業への引き継ぎ率は、想定の25%を上回る30%超に達している。その秘訣が、コンシェルジュによるトークだ。コンシェルジュによる接客はリモートでの対応となるため、対面に比べて来場者の年齢層や表情がわかりにくい。40分から1時間の対話で、どこをゴールにするかが課題だった。 

「一方的な説明で終わってはいけないので、お客さまが困っていることや不安について傾聴し、相談役であるという認識をしてもらえるようなトークスクリプトをつくりました。一般的な営業担当者による商品説明や、『いつごろ建てたいのか』といった、お客さまに圧をかけるような話題は避けています。お客さまのネックをヒアリングして、建物を見学してもらって、気になる点を一つひとつ解決していく。そうすることで、次の課題解決をしてくれるのは営業なのだと、理解してもらえるのです」 

興味深いのは、スマート内見を担当するコンシェルジュ2名は、いずれも住宅分野における接客経験がないスタッフだったという点だ。細谷さんは、むしろそれがうまく作用したと考えている。 

「お客さまの疑問になんでもかんでも答えてしまうと、お客さまはそれで満足してしまいます。一方で、経験の浅いコンシェルジュは、ある程度のところまで行くと『これ以上は設計士や営業でないとわからない』となる。すると、『次は営業と会わないといけないんだな』とお客さまが理解してくれるのです。続きが知りたいという心理的な反応をうまく引き出せているんですね。」 

あえて答えられない状態をつくることで、顧客を次のステップへと自然に誘導する。スマート内見の成功の裏には、その仕組みの画期性に加え、営業しない“コンシェルジュ”のトークという要素があった。 

モデルハウス(RAN)内部の様子 

購買意欲の高い顧客にピンポイントでアタック。営業の効率化にも貢献 

スマート内見は、定量的な成果にとどまらず、定性的な効果も上げている。それは、営業の効率化・質の向上だ。 

「スマート内見のコンシェルジュから営業に引き継がれたお客さまは、住宅購入に向けて強い興味をお持ちです。当然、購買意欲も高くなります。そういった層に絞って営業活動ができるため、営業の効率も上がります」 

さらにスマート内見では、コンシェルジュと顧客の会話を録音・録画し、自動文字起こしする仕組みを導入している。その内容を生成AIで議事録化することで、客観的な情報による営業への報告ができるようになった。 

「お客さまとの商談は密室でおこなわれ、その報告は担当者の主観になりがちです。しかしスマート内見では、客観的な情報として記録が残ります。これは、生成AIをうまく使えた例だと思っています」 

じつは、スマート内見の導入前は、営業からは懐疑的な声も少なくなかったという。だが、定量・定性両面での成果を上げたことで、社内の信頼を獲得した。細谷さんによれば、「今後は平屋だけでなく、2階建てや集合住宅の物件にも、スマート内見を導入していきたい」とのことだ。 

取り組み開始前の課題特定と分析がDX成功の鍵 

取材の最後、DXやAI活用のコツを、細谷さんに聞いた。 

「DXに取り組むうえでは、アクションを始める前に、一つひとつの細かい課題を特定したうえで、それを解決するとどうなるか考える必要があります。どんな課題があるのかは、自社の人間が一番知っているはずです。それを言語化し、解決によって得られる効果を見極める。そして、まずは小さなサクセスを目指すことが重要です。ベンダーの謳い文句を信じてツールを導入するだけでは、効果は上がりません」 

細谷さんは、生成AIの活用についても言及した。 

「生成AIは、誰が使っても一定の効果を出せる汎用的な技術です。これからは、これを使わない企業が、生産性の面で後れをとる時代になります。情報収集をしっかりして、セキュリティなどの課題を解決しながら利用を進めましょう。そのためには、コンサルティングを活用するのも選択肢の一つです」 

顧客心理の変化を捉え、テクノロジーを活用して新しい接客体験を生み出したスマート内見。その成功の裏には、従来の内見が抱える課題を的確に捉える分析力があった。住宅業界に限らず、DXに取り組むすべての企業にとって、参考になる事例といえるだろう。 

株式会社AVANTIA 

全サービスNVIDIAのGPUを搭載。AI・ディープラーニングに最適なGPUサーバー「高火力」 
>>サービスラインアップをみる 

執筆

畑野 壮太

編集者・ライター。出版社、IT企業での勤務を経て独立。ガジェットや家電など、モノ関連の記事のほか、ビジネス系などの取材を多く手掛けている。最近の目標は、フクロウと暮らすこと。
Website:https://hatakenoweb.com/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

すべての記事を見る

関連記事

この記事を読んだ人におすすめ

おすすめのタグ

さくマガ特集

働くすべてのビジネスパーソンへ田中邦裕連載

みなさんは何のために働いていますか? この特集では、さくらインターネットの代表・田中が2021年から2022年にかけて「働くすべての人」へ向けてのメッセージをつづりました。人間関係を良好に保つためのコミュニケーションや、必要とされる人になるための考え方など、働くことが楽しくなるヒントをお伝えします。

さくらの女性エンジニア Real Voiceインタビュー特集

さくらインターネットでは、多様なバックグラウンドを持つ女性エンジニアが活躍しています。この特集では、これまでの経歴や現在の業務内容、めざすキャリア、ワークライフバランスのリアルなど、さまざまな角度から「さくらインターネットの女性エンジニア」を紐解いていきます。

転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」

さくらインターネットには、有名企業を何社も渡り歩いてきた経験豊富な社員がいます。本シリーズでは『転職組に聞く入社理由「なぜ、さくら?」』と題し、これまでのキャリアや入社理由を紐解きながら、他社を経験しているからこそわかる、さくらインターネットの魅力を探ります。

Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」

さくらインターネットには、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が次々と加わっています。本シリーズ『Welcome Talk「ようこそ、さくらへ!」』では、入社直後の社員と同じ部署の先輩による対談を通じて、これまでの経歴や転職理由、関心のある分野や取り組みたいことについてざっくばらんに語ってもらっています。新メンバーの素顔とチームの雰囲気を感じてください。

若手社員が語る「さくらで始めるキャリア」

さくらインターネットで社会人としての第一歩を踏み出した先輩たちのリアルな声を集めました。若手社員のインタビュー、インターンの体験談、入社式レポートなどを通じて、キャリアの始まりに役立つヒントや等身大のストーリーをお届けします。未来を考える学生のみなさんに、さくらのカルチャーを感じていただける特集です。