「AI寿司」「データプリント肉」? わたしたちの食卓に迫るデジタル技術の数々

「AI寿司」「データプリント肉」? わたしたちの食卓に迫るデジタル技術の数々

 

ことし、回転寿司チェーンの「くら寿司」が、一風変わった名前の寿司を発売しました。「AI桜鯛」という商品です。「AI」は文字通り「人工知能」のAIです。そして実際、AIが作った桜鯛を寿司として提供したのです。

また、魚に限らず、肉づくりにもデジタル技術が用いられるようになりました。「3Dプリンタで作ったステーキ」。海外では、そのようなものも存在しています。

今回は、私たちの食卓に迫るデジタル技術と、その意義を見ていきましょう。

一貫110円の「AI寿司」

くら寿司が3月に発売した「【愛媛県産】AI桜鯛」は、一見すると普通の真鯛と変わりありません*1

くら寿司のAI寿司

▲出典:くら寿司

 

ではどこが「AI」なのか、その秘密は育て方にあります。AI、IoTを駆使して育てられた真鯛なのです。IoTについては「IoTの意味とは?社会が変わる技術の仕組みを簡単にわかりやすく解説」をご覧ください。

漁業には、やはり「勘と経験」が欠かせないと思う人は多いことでしょう。しかし、くら寿司は「スマート漁業」でこの真鯛を育てました。

漁師の経験や知見をAIに学習させて魚の状態をスコア化し、餌の量やタイミングを最適化することで理想的な魚を育てるというものです。漁業の将来的な人手不足を補う手法としても注目されています。

マグロの目利きもAIで

また、魚の美味しさに関するデジタル技術は、マグロの目利きにも利用されるようになりました。電通などが開発した「TUNA SCOPE」というソフトです。

市場でマグロを買い付ける人が、尾の部分の断面をじっくり眺める姿をテレビなどで目にしたことのある人はいらっしゃるでしょう。実際、マグロの尾の断面には味や食感、鮮度などの情報が詰まっています。

そこで、「尾の断面から得られる情報」をAIに学習させ、AIにマグロの品質を見極めさせるために生まれたのがこの「TUNA SCOPE」なのです。

 

TUNA SCOPE

▲出典:電通 ニュースリリース

 

魚への給餌、マグロの見極め…

これらは長らく、経験ある職人の仕事でした。

職人技を機械に任せて良いのか? そう思う人もいらっしゃるでしょう。しかし、少子高齢化でこうした職人の数が減っていく中で、AIが職人代わりになる日が来るのは、ある意味では避けられないことなのでしょう。

なお、「TUNASCOPE」を用いた目利きでは、最高ランクに判定されたマグロの約9割が、職人とAIで一致したということです*2

「美味しい肉」を3Dプリンタで出力?

また現在、地球環境保護の観点から、牛肉の飼育に厳しい目が向けられています。牛は大量の餌を食べますが、餌になる穀物を育てるにはさらに大量の水が必要になります。水資源危機の理由のひとつになっているというのが理由です。

また、餌を飼育する面積も含めると、膨大な土地が牛の飼育には使われていて、地球上の農地面積を大幅に圧迫しているのです。そこで注目されているのが植物などから肉を作る「代替肉」ですが、イスラエルでは肉を作るのにこのようなデジタル技術を導入しています。

顧客の好みに合った食感や脂分量の肉をデジタルデータ化し、3Dプリンタで出力するというものです。

 

3Dプリンタ肉

▲出典:イスラエル「Redefine Meat」社のホームページ

 

牛が食べる栄養素に類似した植物由来の材料を「インク」として使い、3Dプリンタで肉を形成していくのです。インクに含まれる穀物と豆類のたんぱく質が筋肉の質感を生み出し、脂質と各種の酸が肉汁のような風味や血液、肉の色を再現するということです*3

世界に誇るあの銘酒も

日本の有名な日本酒も、AIを駆使して作られています。海外でも高い評価を得ている「獺祭」です。

 

サザビーズに出品された「獺祭」

サザビーズに出品された「獺祭」
▲出典:旭酒造株式会社 PRTIMES 現存する世界で最も歴史のあるオークション・サザビーズに「獺祭」が初めて出品。日本酒業界としても初の出品に挑戦します

 

コンテストで優勝した生産者の山田錦で製造した限定品は2020年に「獺祭 最高を超える山田錦2019年度優勝米」という名前でサザビーズオークションに出品され、1本約84万円という高値で落札されました*4

蔵元の旭酒造では、仕込みの現場の随所にセンサーが取り付けられ、各種データを収集、管理しています。2018年には富士通と共同で、日本酒に含まれる成分の計測値を機械学習させるなどの技術で、醸造プロセスの最適化をはかる実験に乗り出しています。

旭酒造がデータによる酒造りに舵を切ったのは経営危機がきっかけでした。杜氏にかかる人件費や、杜氏の都合で冬場にしか酒を仕込めないことに疑問を感じていた桜井博志会長が、現在のやり方を考えついたのです。

人件費の大幅削減に成功したほか、プロセスが標準化されたことで、時期や人を選ばずに一定の品質を保てるのです。

「熟練者の勘」はデータの蓄積でもある

ここまで、私たちの食卓に馴染みのある食品に導入されつつあるAI・デジタル技術をご紹介してきました。

日本では特に「職人技」「熟練の勘」といったことに価値が置かれがちですが、職人や熟練者というのは、多くの経験、つまり多くのデータを持っている人であると言うこともできるのです。

少子高齢化によって幅広い分野の技術継承が課題視されています。

しかし「多くの経験=データ」を学習し、アウトプットできるという意味ではAIの導入が進むのはそう不思議なことではなく、わたしたちの食卓を支える救世主となる可能性を秘めています。