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DXがうまくいかないのは、新しい商売を考えるより、電子化を先にやってるから

DXがうまくいかないのは、新しい商売を考えるより、電子化を先にやってるから

 

あらためて言うまでもなく「デジタル」の本来の意味は、webやコンピュータとは関係なく存在しています。

「日本国語大辞典」によれば、デジタルとは

データを有限桁の数値で表現する方法、連続量で表現するアナログに対して用いる

とあります。定義からして、デジタルとは、データの表現方法に過ぎません。

では昨今登場する、「業務のデジタル化」や「デジタルトランスフォーメーションの推進」といった文脈でつかわれる際の「デジタル」とはいったい何を示すのでしょうか。

 

業務で使うデータをデジタル化しましょう、という意味でとらえるのが本来の意味だと思いますが、おそらくこれは多くの場合、「人の力」に対して「デジタル」という意味で用いられることが多いでしょう。

この場合のデジタルは、冒頭のデジタルの定義とは異なり、「コンピュータ」という意味で使われることが多いと思います。つまり、業務を人の手で進めるのではなく、コンピューターを使って進める。そのために業務改革をおこなう。

そういう意味では「デジタル化」というのは、新しい概念ではなく、「IT化」やら「ERP」やあるいは、「電子化」やらで、もう数十年も前からある概念だと言えるでしょう。

ただし、DXは電子化の先にあるわけではない

ビジネスモデルの変更を伴うようなDXは更に難易度が高い

 

しかしこれは広義での「デジタルトランスフォーメーション」の目指すところではありません。というより、電子化の先にDXがある、という考え方のほうが、間違っています。なぜそう言えるのでしょう。

考えてみれば、単純です。「DXの目的は何?」と聞かれたとき、貴社であれば、なんと答えるでしょうか。

「業務改善?」

「ペーパーレス?」

それとも「人減らし」?

いずれも間違いではないですが、それは従来の、「電子化」と何ら変わりません。わざわざDX、と呼称するまでもないはずです。わざわざ、従来の言い方と異なる「DX」という単語を使うのは、もっと別の目的があるはずです。

それは何か。

 

おそらく途中を省略して、身もふたもない言い方をすれば、「Google」や「Amazon」、あるいは「Microsoft」「Netflix」のような、デジタル化そのものが、会社の競争力を生み出す仕組みを作りたい、という話ではないでしょうか。

そもそも、以前の記事でも紹介しましたが、経済産業省によれば、DXの定義は

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

引用:経済産業省「DX 推進指標」とそのガイダンス p.1

だとすると、多くの会社でDXプロジェクトが難航している理由もわかります。ある人は単なる「電子化」の延長だと捉え、ある人は「Googleのような会社に生まれ変わる」ことを目指し、またある人は「人減らしの口実」だと捉え、更にある人は「目先の業務改善」だと捉える。

だから、DXはまず、目的を統一することが非常に難しいのです。

ビジネスモデルの変更を伴うようなDXは更に難易度が高い

ビジネスモデルの変更を伴うようなDXは更に難易度が高い

 

仮に「DX」の本来の目的に、組織の意思が統一されたとしても、経産省の推進する「ビジネスモデルの変更を伴うようなDX」を実現するのは、更に困難が伴います。というのも、会社には目の前の仕事を回さなければならない、という制約があるからです。

現場は目の前のミスを減らし、品質を保つことが第一であり、海のものとも山のものともつかない、DX推進にほとんどの人が懐疑的であり、一度作り上げてしまった、業務の流れや、現場の価値観を覆すのは、ゼロから構築するよりも更に難しいでしょう。

また、そもそも、「新しいビジネスモデル」とは何なのか。それを示せている経営者はほとんどいません。

 

私が半年ほど前にお邪魔した会社では、ちょうど「DX」を推進しており、その一環で、コンテンツマーケティングを導入しようとしていました。

DXの目的は、「デジタル化で、競争力を高めること」でしたが、結局やっていることは旧来の商売とかわらず、単に「webからの問い合わせを増やす」ことを、DXと呼称している状態でした。

残念ながら、それはDXの一部ではありますが、DXそのものとは異なります。それは、「電子化」と変わらないレベルでの業務改善にとどまってしまいます。

しかしながら、経営陣からは「DXを進めよ」という指示は出ているのです。これでは、現場は途方に暮れてしまうでしょう。

本来のDXと、現実の乖離

しかし、本来のDXの進め方は、そんな難しい話ではありません。とてもシンプルに表現すれば、

新しい事業を示す

現在やっていることの差異を示す

必要に応じてデジタル化をすすめる

検証する

というこれだけの話です。でも、難しいのは、「新しい事業を示す」のところです。日本の大手企業の経営者は、ほとんどがサラリーマン経営者で、起業経験や、事業創造の経験もありません。

「既存事業を伸ばす」「顧客を開拓する」「社内調整する」ということには優れていますが、「新規事業を立ち上げる」「顧客を変える」「改革を断行する」は苦手な人が多い。

しかも、日本において特徴的なメンバーシップ経営の中心である「合意形成」に長けたタイプが多く、多少の反対意見は無視してDXを推進する力もありません。そのため、「新しい事業とはなにか?」を作ることをせず、目先の業務をデジタル化することで、お茶を濁そうとしているケースも多いのです。

 

DXが持つ本来の意味において、DXを推進したいのであれば、従来の「ボトムアップ」ではなく、強力なトップダウンのもと、血を流しながらビジネスの変更をおこなうか、全く新しい会社を作り、スタートアップのように経営していくことです。

そうでなければ「DX」は単なる「電子化」と何ら変わるところはありません。DXがうまくいかないのは、新しい商売を考えるより、電子化を先にやってるからです。

真剣に取り組むなら、順番は、間逆なのです。

執筆

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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