最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にするようになりました。
経済産業省によると、DXは
本来、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出していくこと である、そのために、ビジネスモデルや企業文化などの変革が求められる*1
ことだそうです。要は、「デジタル技術によるビジネスの変革」という意味ですね。Amazonで注文したお米が翌日届き、ユニクロでは無人レジにカゴを置くだけで瞬時に金額が表示され、資生堂に行けば機械で肌の状態をチェックし適切な化粧品をピックアップされる。便利なサービスを提供するため、どの企業も積極的にデジタル技術を取り入れています。
しかしわたしには、そこにぼんやりとした違和感があるのです。各企業がそれぞれDXに取り組んだ結果、ユーザーは不便を強いられているのではないか? と。
「ポイントが欲しくばアプリをDLせよ」
そう思ったのは、船橋のららぽーとというショッピングセンターに行ったときのこと。前回の一時帰国中なので、2年半くらい前かな?以前なら、車のなかのカードケースにいろんなお店のポイントカードが入れてあって、到着前にららぽーとに出店しているお店のポイントカードを用意して買い物に行っていました。
イエナスローブ、アクシーズファム、ハニーズ、チュチュアンナ、ABC-MART……。
でもいまは、ポイントカードの多くはアプリに移行しています。レジには各お店のアプリのQRコードが貼ってあり、会員になりたければアプリをダウンロード、個人情報を記入、登録完了の画面を見せなければいけません。それがもう、面倒くさくて面倒くさくて!
ポイントカードだったら、普段は家に置いておけばいいじゃないですか。そのとき持っていなかったらレシートにスタンプをもらえますし、登録だって情報を書けば店員さんがやってくれます。
でもアプリだと、容量的にダウンロードできる数は限られているし、それぞれUIがちがうから登録画面を出すのも手間。で、毎回個人情報を入力しなきゃいけない。そもそもわたしは型落ちのスマホを使ってるので、愛犬の写真でもうデータ容量がいっぱいなんですよ。パケ放題でもないから、いつでも気軽にアプリをダウンロードなんてできませんし。
次いつ来るかわからないのにアプリを入れても容量食うだけだしなぁ……登録も面倒だし、通知もウザいし、会員にならなくていいかぁ~。
とまぁ、こうなったわけです。
ショッピングセンターを回るには大量のデータ容量の空きが必要
そうそう、この記事を書くなかで知ったのですが、ららぽーとは「スマホde注文」というサービスを提供しているらしく、レストランに行かずとも事前に注文して食事を受け取ることができるそうです。2年半前にはこんなサービスなかったぞ……!?
せっかくなら一度見てみようと、ららぽーとのアプリ(正確には三井ショッピングパークアプリ)をダウンロードしてみました。容量いっぱいなので他のアプリを消して……。
とはいえドイツ在住なので、あくまで「ゲスト会員」として、注文はせずにこのスマホde注文の使い勝手を見てみよう、という感じです。
ん……? それっぽい画面がないぞ……?
あっこれゲスト会員じゃ無理なのか?
これ、もしららぽーとでの買い物中だったとしたら、アクシーズでアプリをダウンロードして会員登録して、ABC-MARTでアプリをダウンロードして会員登録して、チュチュアンナのアプリをダウンロードして会員登録して、そのうえでショッピングモール自体のアプリもダウンロードしないといけない……ってことですよね。
超便利!でも使わないであろう最新DXサービス
話は変わりますが、『DX経営図鑑』(アルク)という本の中で、「DXの成功例」として挙げられているアメリカ有数の百貨店、Macy’sを紹介させてください。Macy’sにはScan&Payというシステムがあり、スマホのカメラで商品バーコードを読み取り、あとでまとめて決済できるそうです。
ショップAでかわいいスカートを見つけたら、スマホで読み取ってカートに入れる。でもショップBにもおしゃれなスカートがあった。とりあえず両方カートに入れておいて、お茶でもしながらどちらを買うか選び、最後にクロークに受け取りに行く。
そういうことが可能らしいです。すごいシステムですよね。買い物したものを抱えて百貨店を歩き回らずに済みますし、「ヨソでもっといいものがあったらどうしよう……」と購入をためらうこともなくなります。
でももし、自分が観光客としてMacy’sに行ったとしたら、どうでしょう?
わざわざサイトにアクセスして、いろいろと登録して、各商品のバーコードを読み込んで、どこにあるかわからないクロークに取りに行こう、なんて思うでしょうか? 観光客であれば、現地のWi-Fi経由で決済情報を入力するのもちょっと不安ですし……。
あとこれは個人的な意見ですが、そもそもショッピング中、スマホ片手にうろうろするのが好きじゃありません。家族や友人がいっしょならとくに。だから従来通り、欲しいものを手に取ってレジに行って買い物するんじゃないかなぁ~と思います。
で、そういった人たちに対し、Macy’sの「画期的で便利なDX」は、残念ながら完全に無力なのです。
環境次第で受けられるサービスが変わる不平等感
ららぽーともMacy’sも、どちらも「ユーザーが自前のデバイスでアクセスして各サービスに適応する」ことが前提となっています。つまりこれらのDXは、「対応するデバイスを持っているうえで会員登録し、アプリやサイトを使いこなせば便利」という条件つきなのです。
そうすると当然、サービスの不平等が生まれますよね。
ららぽーとの例でいえば、わたしはドイツ在住で、買い物に行くのは一時帰国中のみ。格安スマホでまともにアプリをダウンロードできないし、Wi-Fiがないとネットを使えない。個人情報入力とはいっても住所も電話番号も日本のものではない。
すると、「デジタル技術に依存したサービス」を使うハードルが、めちゃくちゃ高いのです。「自前のデバイス」を使い「各アプリやサイトに適応」しないと、同じお金を出しても同じサービスを受けられない。
それって、なんだかヘンじゃないですか? どんなスマホをどう使うかなんて個人の自由なのに、それにサービスが依存しているなんて。わたしがレアケースというのは事実だとしても、アプリを毎回ダウンロードして、登録して、そのアプリを使いこなさなきゃいけないのって、やっぱり負担が大きくないですか?
とはいえ、「完全に平等なサービス」なんて、なかなかないのはわかっているんですけどね。
今後求められるのは「ユーザーの手間がかからないDX」?
わたしたちは、つねにひとつの店や決まった場所で買い物するわけではありません。気分でいろんなお店に行きますし、通りがかりにふらっと入店することもあります。
そのたびに、「うちではこういうサービスを用意しています。アプリをダウンロードしてください。個人情報を登録してください。使いこなしてください」と言われると、正直「めんどくさ……」と思ってしまいます。
で、「面倒」だと思ってしまうと、DXを体験する手前で離脱してしまうんですよね。そうなると、どんな画期的なDXも無意味です。
もちろん、毎回アプリをダウンロードし、各サービスを使いこなしている人もたくさんいるのはわかっています。わたしの母がそうですし。
でも現状、「ユーザーがサービスに合わせなきゃいけないDX」って、結構いろんなところにありますよね。それってなんだかちがうんじゃないかなって。本来、「ユーザーにサービスが合わせる」のがあるべき姿だと思うから。
だからといってアプリを使わず独自サービスを展開できるか? と言われるとこれまたむずかしいのですが……。
たとえばアプリをダウンロードした段階で仮登録になってポイントを貯められて、数時間以内に本登録すればオッケーにするとか、ららぽーと内で「お客様ナンバー」を配布して、各ショップアプリの登録画面でそれを入力すれば自動的に名前や電話番号が記入されるとか、そういうふうになったらもう少し楽になるかなぁ、と思います。
というわけで、今後は「客のスマホ依存」への対策、そして「サービス利用前のフェーズをできるかぎり簡略化する」というのが、小売店のDXの課題といえるかもしれません。