一人暮らしで自営業、独身女性の食事といえば、相当な確率で「Uber Eats(ウーバーイーツ)」が挙がるだろう。
3,000軒以上のレストランや小売店の商品を、朝から晩まで注文可能。数百円の配送手数料で自宅まで届けてくれるとなれば、このサービスを使わない手はない。
身支度のめんどくささ
たとえば朝起きて「ちょっとスタバでも…」となった時、通常の流れはこうだ。
- 顔を洗う、歯を磨く、髪の毛を整える
- 部屋着から外出着に着替える
- コンタクトをつける
- スタバへと出発
このような工程を踏むわけで、家を出るまでに10分、いや20分ほどかかる。とくに私の場合、使い捨てコンタクトを使用しているため、一度装着したら夜外すまでは同じコンタクトで過ごすこととなる。
湿度が低い冬場に長時間コンタクトを着けていると、当然ながら角膜が乾燥する。このような理由からも、できるだけ装着時間を減らしたい私は、必要以上にコンタクトに頼ることを避けている。つまり、朝からスタバへコーヒーを買いに行くという行為は、私にとっては極力避けるべき選択肢なのだ。
さらに女子たるもの、赤の他人とはいえ誰かの目に触れるとなれば、多少なりとも見た目の美しさを意識するもの。ヨレヨレのジャージに毛玉だらけのフリースを羽織り、サンダルで背中を丸めてスタバのドアをくぐるなど、できるはずもない。
ということで、ちょっと考えてみよう。
「ここまでして私は、スタバのコーヒーが飲みたいのか?」
そして熟考した結果、カフェインよりも身支度のめんどくささが先行するズボラ女子は、スタバのコーヒーを飲み損ねるのだ。
――とまぁ、これが通常の展開だろう。しかしここでUber Eatsを利用したならば、これらの煩わしさをカネで解決できる。商品の金額は店頭価格の1.5倍、さらにサービス料と配送手数料が入り、トータルコストは本来の価格プラス500円~1,000円といったところ。
だが再考してもらいたいのは、たとえばお目当ての店舗までバスやタクシーを使ったとして、その費用はいくらになるだろうか。そして身支度を含む往復に要する時間が、いったい何時間かかるのだろうか。それが500円程度で済むのならば、Uber Eatsを選択しない理由がないのだ。
サブスクリプションサービス「Eats パス」の開始
さらに追い討ちをかけるようにUber Eatsは、恐るべき媚薬を突きつけてきた。それは1,200円以上の注文をすれば配送手数料が0円となる、サブスクリプションサービスなるものだ。2020年の開始当初は月額980円だったものが、2021年12月からは月額498円と半額に値下げをし、より多くの日本人を骨抜きにする作戦に出た。
こうして私はサブスク開始当初からこのサービスを利用し、朝一のスタバを満喫するという贅沢を手に入れた。このサービスが私にフィットする理由として、総額1,200円以上という金額が挙げられる。
なぜなら私はカフェにおける一回の注文で、コーヒーを4杯頼むのがデフォルト。つまり、金額的にも常に1,200円を超えることが確定しており、まさに私のために誕生したサービスといえる。とはいえ、店頭ならばもっと安く購入できるコーヒーに抵抗がないわけではない。しかしそのような懐疑心が現れるたびに、自分自身へこう言い聞かせている。
(身支度とスタバまでの往復時間を、カネで買ったと思えば安いもんだ!)
以上の流れにより、私の1日はUber Eatsによってスタートを切ることとなった。
コロナが後押しした、Uber Eats依存
自営業の私は外出せずとも仕事はできる。だが、急な呼び出しや面談希望に対応するためにも、かねてからカフェで作業することが多かった。最近のカフェはWi-Fi完備だったり電源の利用ができたりと、長時間の作業が許される環境が整っている。そこでカフェ巡りを兼ねて、サテライトオフィス(自称)で仕事に没頭する日々を送っていた。
ところが新型コロナの影響により、飲食店の時短営業や客席数の削減がおこなわれた結果、カフェで座席を確保することが困難になった。それと同時にクライアントから呼び出しを受ける機会も圧倒的に減り、そのほとんどがオンラインでのやり取りに変わっていった。
(こんなことなら、わざわざカフェに出向く必要はないな…)
そう感じ始めた私は、いつしか自宅から一歩も出なくなった。言い換えれば、外出の必要性がないことにようやく気付いたのだ。なぜなら私にはUber Eatsがあるのだから!
*
こうして私は時間的な無駄を省くべく、効率的に仕事を進めるべく、食事の時間すらもカネで買うようになった。元から自炊するタイプではなかったことも幸いし、いや、災いし、
「食材を買いに行く手間と時間を考えたら、割高でも出来上がった食事を届けてもらうほうが効率的。ましてや、料理のYouTubeを見ながら調理をするくらいならば、その時間すらも仕事や休息に充てたほうがウェルビーイングの向上につながる」
などと、屁理屈にしか聞こえない怠け方を強引に正当化した。朝は優雅にコーヒーを嗜み、昼はその日の気分で食べ物を選び、3時のおやつは流行りのスイーツに舌鼓を打ち、夜になればガッツリと夕飯を注文。たまに夜中に小腹が減れば、ラーメンやタコ焼きなどちょっとしたスナックを手配することも。
クレジットカード明細に背筋が凍る
――こうして1か月が過ぎたある日、クレジットカードの明細を見た私は背筋が凍った。
上から下までUber Eatsの表記で埋め尽くされた、長い長い明細表。さらに毎回、気前よく配達員へチップを支払っていたため、注文時の料金よりも高額な支払いとなっていたことを初めて知る。その総額は、なんと破格の28万円。
(や、家賃よりも高い…)
一瞬、他人の注文が混じっているのではないかと疑うも、この1か月を思い返せばそんなはずがないことは明白。サブスクを発動させるために毎回1,200円の注文がノルマの私は、どうせならあれもこれもと余分な注文を繰り返した記憶がある。
(抹茶味と紅茶味、どっちにしようかな。どうせなら両方にしよう! 配送手数料は無料だし、そのぶんを商品に充てたと思えば同じことだ)
このような勘違いの発想に支配された私は、毎日毎日大量の食事を頼み、高額な料金を支払っていたのだ。それでも商品を受け取った後には、
「ご注文ありがとうございました!」
「チップをありがとうございます!」
などとお礼のメッセージが届くので悪い気はしない。決してカネに余裕があるわけではないが、自分も満足した上で誰かに感謝されるのならば、
「また明日も注文しよう!」
という気になってしまうあたり、お人好しというか単細胞というか。こうして、1か月の食費に28万円を費やした私は、サブスクを解除したのであった。
Uber Eats依存のその後
あの幸せな日々は、今やマボロシ。そんな私は自炊を試みている。自炊といっても料理が得意なわけではないので、サツマイモやトウモロコシなどの食材を、そのままレンジで加熱するだけのこと。しかしこの「清貧生活」を送る中で、感じることや学ぶことは多い。
「サツマイモって、味付けしなくてもこんなに美味いんだ」
「トウモロコシは皮ごとレンチンしたほうが、うまく加熱できる」
「オレンジやグレープフルーツは、焼いたほうがジューシー」
かつて、Uber Eatsに加盟する焼き芋専門店で「熟成やきいも」を好んで注文していた私。あの焼き芋は、たしか握りこぶし大で1個450円だった。ところがスーパーで買ったサツマイモは、同じくらいのサイズが4本入って450円。それをオーブンに入れて1時間待てば、ホクホクで甘〜い焼き芋が出来上がる。
こんな当たり前のことに感動できるのも、Uber Eatsに心酔した過去があるからこそ。言うまでもないが、便利は悪ではない。だが身の丈に合った生活を送ることこそが、最も大切で必要な生活環境だということに異論はないはず。必要な時に必要なぶんだけサービスを利用するからこそ、私たちの生活も潤うわけで。
そんな「当たり前」を噛みしめながら、ふとスマホに届いた通知を見る。Uber Eatsからだ。
「あなたへ500円割引のプロモーションが発行されました」
執筆
URABE(ウラベ)
早稲田卒。学生時代は雀荘のアルバイトに精を出しすぎて留年。生業はライターと社労士。ブラジリアン柔術茶帯、クレー射撃元日本代表。
URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。
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