DXとは「Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション」の略で、テクノロジーを使って人の生活を向上させていく、取り組み全般を指します。……と書くと、とてもふわっとした単語ですが、私達も気づかないうちに、人生でDXを取り入れています。
たとえば、音楽を聞くとき。「アレクサ、音楽をかけて」「OKグーグル、音楽を流して」と声をかけるご家庭は増えています。先進的なご家庭なら、エアコンや照明も一声かけるだけでスイッチのON・OFFをコントロールしているでしょう。
AIと対話しながら、日常を楽にしてく。これもDXです。
あるいは、手帳をオンライン化した人は結構いるのではないでしょうか。私は最近まで紙の手帳を使っていましたが、ついにGoogleカレンダーへ乗り換えました。いつでも、どこでも予定を管理できる今、紙に戻れるとは思えません。これもDXの形です。
と、こんな風に……私達とDXは、本来とても近しいところにいます。しかし、いざDXという単語を聞くと、身構える方は少なくありません。
アンケートで判明したDXへの感覚
今回、さくマガではアンケートを実施し、DXに対して人が感じていることを聞き取りました。中でも、特に縁遠いと思われがちな「会社のDX」について聞き取ってみた結果がこちらです。回答数は少ないですが、傾向は分かると思います。
DXを知らない人は20人のうち1人
まず、DXを「知らない」と答えた人は、アンケート回答者20名のうちわずか1名でした。いかにDXという単語が広まっているか、インパクトを思い知らされます。
また、過半数が「良いイメージを持っている・まあまあ良いイメージを持っている」と答えており、DXに対してポジティブな感想を抱いていることが分かりました。
会社のDXに満足している人はわずか1割
ところが、この「先」になると問題が明らかになります。
「あなたが『会社のDX』で期待することは、現在叶えられていますか?」という問いに対して、わずか1割しか「叶えられている」と回答しなかったのです。
もともと、アンケートの回答者は、どんな業務にDXを望んでいたのでしょうか。その答えはまちまちですが、大まかにバックオフィス業務の効率化を考えている方が多くいました。
「データや書類や物品の管理、申請や提案書などの一元システム化」
「決済、稟議書、契約書などの社内外のやり取り」
といった、事務作業の簡易化がDXで達成できると考えていたのです。実際、これらバックオフィス・管理業務はSaaSが多数販売されている領域でもあります。タクシーに一度乗っていただければ、この手の広告をいくらでも目にするはずです。それなのに、なぜDXが進んでいないのでしょうか。
DXを阻む「ステップの不明瞭さ」
実際に、DXが進んでいない理由について際立ったのは、「DXの重要性は分かっているが、具体的な進め方が分からない」コメントでした。中でも分類していくと、大きく3つに分かれます。
DXを進めたくても速度が遅い
DXを実行していくためには、現代に即したITシステムの導入が望まれます。たとえば、社員のヒアリングからDXツールの導入まで3年かかってしまえば、それだけでDXツールが時代遅れになってしまうリスクをはらむでしょう。
ところが、
「社員数の多いグローバル企業なので、構想から実行までに時間がかかる。会社は指針をたててはいるものの、実業務の改善はほとんどみられない」
といったコメントがアンケートに登場しました。
つまり、会社のシステム自体に迅速さがなく、DX導入を阻んでいることが見えてきます。この場合、トップダウンでDXを急いで導入しない限りは、なかなかDXが進みません。
DXを進めたいがステップが見えない
また、アンケートではこのような回答も出てきました。
「DXという言葉だけが先走っている。具体的に話を進められる人が社内にいない」
そもそも、DXのニーズが最も高い職場=最もアナログな職場では、DXの知見がある人材すらいません。著者も極端な事例では、顧客情報をバインダーで管理しているケースまで耳にしたことがあります。
このような状態で、DXを推進するのはそもそも無理があります。誰もDXを知らないのに、DXを導入するなどというのは、たとえるなら「だれも寿司を見たこともないのに、寿司を握る」ようなものです。理想的な対策は第三者をDX担当として介入させることでしょう。ただ、DXは安くありません。
筆者もDXを支援するSaaS企業からお見積りをいただいたことは何度かありますが、どれも300万円~500万円スタート。その予算をDX単体で出せる企業は、どうしても限られます。
結局、今のままのほうが楽だから、コストが安いから……と、いつまでも「紙のバインダーで顧客管理」を続けてしまうケースが少なくないのです。そうして、いつしかDXを推進しつづけてきた企業に、圧倒的なテクノロジー差で追い抜かれることとなります。
DXを進めたいが反対勢力がいる
さらに、社内人材の抵抗感についても、コメントがアンケート結果に挙がりました。
「人は何かを『変える』ことに抵抗があるから。今まで積み上がってきたものをいきなり崩すのは難しい」
「会社が努力しているのは感じるが、人間が追いついていない。社員の腰が重い。おじさん世代の理解不足、逃げ切りたい意識で覚える気がない」
たとえDXで便利になると言われても、システムをがらりと変えるには抵抗が生まれます。そう、DXを楽しめる人ばかりではないのです。こうした「DXを阻む人」がトップ層にいれば、導入はますます難しくなります。
完全なDX阻止とまではいかなくても、
「共有フォルダを作ったのに、誰も共有フォルダの使い方が分からない。結果として、各々が勝手に作ったExcelシートで管理している。そのせいで情報を収集したいときに手間がかかる」
「社員にスマホを配ったが、スマホを使いこなせる社員が少ない。結局電話でのやりとりが多く、データ管理にならない」
といった、小さなDXの壁に阻まれるケースは、誰もが経験したことでしょう。大掛かりなツールを導入するところまではうまくいっても、現場で細かな作業が結局アナログになってしまうのです。
DXを阻むのは「徹底不足」
こうして見ていくと、DXを阻むのは「徹底不足」にあることが見えてきます。トップだけが動いても、DXは進みません。逆に現場だけがDXの必要性を感じていても、DXが始まりません。
まず、トップがDX導入に積極的であること。これはDXにおける大前提です。そのうえで、DXツールを導入するならば、細部にまで使い方が徹底され、DXツールを前提として業務が進んでいかねばなりません。
単に「ツールを入れました!」だけでは、導入ツールを化石にして、「これまで通り」の業務を続ける方が楽となってしまいます。そうではなく、新しいツールでないと承認を受け付けないようにしたり、DXのプロセスでしかファイルを閲覧しないと徹底したりしなければ、導入しない言い訳ができてしまうのです。
独自アンケートによって、DX導入がいかに苦痛を伴うものか改めてクリアになりました。DXは「長期的な利益を取るために、現場が苦労して導入するもの」です。この前提を理解せず、便利だからとツールを入れても無意味でしょう。
それよりも、現場の面倒くささ、変化への恐怖を理解したうえで「それでも、なお」DXを導入するよう徹底すること。もし「徹底」がなければ、DXはただのお飾りになってしまう。その可能性が、今回のアンケートでは浮き彫りになった形となりました。