エストニアに学ぶ「長期視点で考える、デジタル社会のあるべき姿」

現在、世界各国の政府はデジタル・ガバメントへの転換を目指し、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。日本では2021年9月1日に「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をミッションとするデジタル庁が発足しました。

「行政DX」の参考事例になるのが、世界有数のデジタル国家として知られるエストニアです。エストニアでは、さまざまな公共機関のデータを連携すると同時に、民間企業にもデータをオープンにすることで、多くのイノベーションが生み出されています。

エストニア共和国大使館オリバー・アイトさんとデジタル庁の平本健二さんが日本の行政DX実現に向けて、長期的な時間軸で何が必要か議論しました。

Sansan株式会社が開催した「Sansan Evolution Week 2022」の講演内容をもとにお届けします。

 

電子国家エストニアの取り組みとは

電子国家エストニアの取り組みとは

 

オリバー・アイトさん(以下、オリバー):私は現在、エストニア大使館で商務官を務めています。エストニアは、北ヨーロッパにある小さな国です。人口は130万人しかおらず、面積は日本の九州くらいです。エストニア唯一の資源は、人と人の頭だといえます。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」そんなイメージの国だと思ってください。

法律に定められてはいませんが、エストニアにおいてインターネットアクセスは人権であり、社会の権利です。公共サービスの99%が、オンラインでおこなわれています。

これまでに国民を複雑な事務作業から開放して、価値創造できるように進めてきました。それによってビジネスしやすい環境になっています。数時間で会社設立ができますし、簡単な電子納税システムや電子投票制度などがあります。

 

デジタル庁の平本さん

 

平本 健二さん(以下、平本):デジタル庁の平本です。私はデータ戦略統括を担当しています。長期視点に立って、日本のデータ基盤をどうしていくかを考えるのが役目です。身の回りにはたくさんのデータがありますので、それを使いやすい社会を作っていくためにいろいろなプロジェクトにも参加しています。横串で全体的な足元の基盤を作っていく仕事をしています。

エストニアと、いろいろな形で情報交換していきたいと思っています。情報をもらうだけではなく、交換です。日本にも強みがあるので、そうした情報をお伝えしていきます。たとえば、IoTやロボティックス、高齢者に対するサポートなどは、エストニアで話をしても「参考になります」と言ってもらえます。

何か技術を交換しましょうというよりも、まずはナレッジを交換することです。いずれは一緒にサービス開発をして、グローバルマーケットでいろいろなサービス展開ができたら面白いと思います。

企業がマイナンバーカードを活用できる仕組みを

オリバー:日本とエストニア、お互いに学ぶことがたくさんあります。DXについても幅広い話ができると思います。エストニア人の立場から見ると、電子国家の柱がいくつかあります。エストニアでは「IDカード」があります。日本でもマイナンバーカードの保持率が上がってきていますよね。もっと自由に、もっと広く、とくに企業がマイナンバーカードを活用できるようにしてもらいたいです。それによってビジネスや生活がしやすい環境になっていきます。

 

平本:まさに民間でも活用できたほうがいいのではないか、という話があります。現在、使用範囲の拡大を検討しているところです。ただ一方で、日本の社会というのは、すごくセンシティブなんですよね。個人情報がどのように使われるのか、みなさん気にされます。まだ、情報の保護と利便性のバランスがまだ取れていないと思っています。

利便性が高ければ、みなさん使うはずです。民間のショッピングサイトには、個人情報を入れてますし、クレジットカード情報も入れているわけじゃないですか。でも、国のサイトでそれをやろうとすると、みんなが「えっ?」となるわけです。そんなに信用されてないんですかねっていうくらいです。

民間のサービスレベルと国のサービスレベルとの差がすごく出てきているので、その辺りをうまく融合したビジネスを作っていきたいと思っています。そのためには、もう少しわれわれもマインドセットを変えていかなければなりません。

エストニアの人とお話ししていると、発想が自由です。日本で打ち合わせをしていると必ず「それって大丈夫ですか?」という話になります。

そこをもう少し「みんなで良い社会にしていこうよ」というマインドセットを作っていくことが重要だと思います。

 

オリバー:エストニアでも、電子サービスの環境はすぐに完成したわけではありません。法律のベースを作るために10年以上かかりました。時間はかかると思いますが、デジタル庁がおこなおうとしていることの方向は正しいと思います。

UI・UXを意識したサービスづくり

UI・UXを意識したサービスづくり

 

オリバー:UIやUXを意識したサービスづくりは重要です。DX(デジタルトランスフォーメーション)=最新技術の話とは限りません。デジタルトランスフォーメーションという言葉の中にある「トランスフォーメーション」の部分を強調したいです。組織の改革や変化がDXの中で一番影響を与えるというのが、エストニア政府や民間企業の考え方です。

 

平本:デジタル庁もUIやUXに力を入れています。政府がサイトを作っても、だいたいセンス悪いんですよね。なかなか使いにくいサイトになってしまっていることが多いです。ユーザーの方々からしたら、別に政府のサイトを見たいわけではなくて、何かの手続きや処理をしたいわけです。なので、政府のサイトに限定せずに、民間のサイトとうまく組めないかなと考えています。

日本の強みは「おもてなし」と言われます。これからデジタル化が進んで、データも揃ってくると、おもてなしがデジタル空間の中でもできてくるはずです。そういう日本の強みをうまく活かせる形になればいいなと思っています。

そのためには、データ基盤が大事です。情報をコントロールされたうえで、必要な情報が使えるようになる。そして、ほかの機関の情報も使えるようになればと思っています。そこは、エストニアを参考にさせてもらいたいですね。

 

オリバー:エストニアでは行政サービスの効率が良くなりましたが、さらにUXに力を入れなくてはいけません。AIの活用も大事です。AppleのSiriのようにパソコンやスマホだけではなく、音声でもアクセスできる環境を作っているところです。音声であれば、高齢者や若者もさらにアクセスしやすくなります。

 

平本:これからは、デジタルサポートの時代だと思っています。キーボードを使わなくても音声でフォーム入力やチャットボットに質問できるような形にできればいいですよね。

蓄積データの活用による新しい価値の創出

蓄積データの活用による新しい価値の創出

 

平本:データをきれいに揃えることも重要ですが、そもそものデータがどこにあるのかわからないケースが多いですね。

探せばいろいろなデータがあるわけです。それをもっと見つけやすくするのと、民間が持っているデータもたくさんあります。そうしたデータを使うことで、新たなサービスが創出されるはずです。

 

オリバー:エストニアの政府と民間企業の距離は、もともとそれほど遠くありませんでした。国も小さく、みんな知り合いのような環境なので、政府と民間企業の距離は近いです。政府は政府だけではなく、民間企業と一緒に新しい社会を考えて一緒に取り組んでいました。

デジタル人材の育成とDXの進め方

オリバー:ここ10年の間にいろいろなスタートアップ企業が生まれ、デジタル人材に対してのニーズが高くなりました。エストニアでもデジタル人材が不足している状態です。民間企業はデジタル人材の育成に力を入れて、自分たちで解決しようとしています。例を挙げますと、2年くらい前に民間企業が政府と一緒に新しいプログラミング学校を作りました。

 

平本:デジタル人材の育成については、人材と環境を含めての話になります。「好奇心」を持つことと、持てる環境が大事だと思っています。「向上心を持とう」と言われると大変に感じますが、好奇心は誰でも持っているものです。好奇心をみんなで育てられる環境も大事だと思います。

 

オリバー:「自分で感じた問題を自分で解決する」という考え方は大事だと思います。いまの時代は、興味があればインターネットで情報を得られるポジティブな環境です。オンラインで学校の授業を受けることもできます。

 

平本:まさにデジタル技術がサポートしてくれていますね。好奇心にもつながりますが、民間でどのようなことをやっているのかを学んで、行政サービスに活かしていきたいです。こうしたチャレンジを「もう少し楽しくやりたいな」と僕は思っています。

公務員って、ちょっとでもミスすると怒られちゃうわけです。それによって萎縮しているところはあるのかな、と思っています。

 

オリバー:エストニアでも、長い時間をかけてデジタル化が進みました。最初は、物理的なカードからスタートしています。そこから電子化していったのです。

個人的な考えとしては、UXを意識して1つずつ前に進めることで、国民も信頼してくれるようになると思っています。

 

 

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