DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、テクノロジーを通じて人の生活を豊かにしていくこと。ひとつの部署の取り組みだけでなく、社会全体の変革まで含めた大きな概念で、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンによって提唱されました。
古くはメールで郵送のやりとりを省いたのもDXですし、今なら在宅勤務の勤怠管理もDXの一部といえます。
DXの概念は一気に広まり、最近ではタクシー広告で「人事評価制度を可視化」「在宅勤務を見える化」といったCMでおなじみとなりました。
ところが、「DXを阻む人」というのが、社内にはいるものです。
あなたの身近にいるDXを阻む人
業務で「もっと、こうだったらいいのに!」
と、願ったことはないでしょうか。
- 通勤をなるべく減らして、自宅から会議へ参加できたらいいのに
- 会議の出欠連絡も、クリックひとつでできたらいいのに
- 自分が考えている時間も業務時間として認定されたらいいのに
こういった願いを叶えてくれるのがDXです。この手の人事系SaaSは特に人気で、多くの企業が採用しつつあります。
しかし、DXの実現を阻むのが「使い方がわからない」「そのサービス、何? 本当に必要なの?」と言って阻んでくる社員です。お偉方にこういう社員が一人でもいると、DXはピタリと止まってしまいます。
DX推進派のわたしが「阻む人」になった事例
こうして偉そうに語っている私ですが、実はDXを阻んでしまったことがあります。とある予定管理アプリの移行を阻んでしまったのです。
私は、かつて市場を席巻した予定管理アプリの有料ユーザーです。大量の予定を無料で管理できるうえ、メモ同士にリンクを貼れたり、外部共有も簡単だったりと便利でした。そのため、チームでも共通でアプリを活用し、議事録やスケジュール管理に使っていました。
ところが、近年そのアプリがサービス内容を改定。使い勝手が悪化したことから、メンバーは移行先を探し、新たな議事録管理サービスを教えてくれました。しかし、私は移行をためらいました。というのも、これまでのデータを引っ越しするのが面倒だったからです。
「そこまでするほど不便かなあ」
という、私の一言でチームのDXを半年遅らせる結果を招いてしまったのでした。
DXを「阻む人」の理屈が正しいときもある
私のケースでは100%私が間違っていて、移行先のアプリで便利さを味わってから大変後悔しました。ただ、ここから先は言い訳ですが、DXが「必ずしも正しい」とは言い切れません。それなのに、DXありきで話が進むのも、おかしな話なのです。
DXが「目的」になっていないか?
たとえば、DXのCMでは何かと「見える化、可視化」を強調します。
ですが、社員の一挙一動を把握することは正しいでしょうか。そんな風に在宅勤務の社員を管理したら、監視されているように感じないでしょうか。
過度な業務の可視化は、社員の離職率を上げてしまいかねません。DXさえすれば、業務は改善するのだと思い込んでいるようなとき、古参社員はストップをかけます。
DXのせいで長期的にもコストがかかりすぎていないか?
DXにつながる素晴らしいツールが導入できるとしても、長期的な視野でコストが売上を上回るなら、導入をしてはいけません。
近年、「DXだから採用しましょう!」と、コスト度外視で提案書を持ってくる社員が少なくないのが事実です。果たしてDXには1年後、3年後、5年後にどういうメリットがあるのでしょうか。
数字で概算を立ててからDX推進を目指さないと、道具に振り回されるだけのDXとなってしまいます。
推進したDXの実現は視野に入っているか?
DXにつながるツールを入れて「さあ、みなさん使ってください」とアナウンスしただけでは、道具は広まりません。
誰もが使うシステムとしてDXを達成するには、時に年単位のアフターケアが必要です。Xツールの導入をゴールにしてしまい、習慣化する構造がなければ、単なる無駄金になってしまうことでしょう。
DXは効率化の手段でしかない
もちろん、DXをすることで明らかに業務が効率化するケースもあります。そういった場合、古参社員がDXを阻むのは「それ以外の心理的なハードル」にほかなりません。
DXを社内で実現するうえで、社員にどういったハードルが実際に存在するかを見ていきましょう。
DXを阻む人のバリアはどこにあるか
DXを阻む人に見られる心理的ハードルは「変化への恐怖」「変化に払うコストの面倒さ」そして「変化を受け入れるメリットの少なさ」です。
これら3点の要素を、それぞれ深堀りしていきます。
変化が怖い
人は変化を恐れる生き物です。社員がこれまでの方法でうまくいっていたなら、なおさら変化を嫌がります。
たとえば、「戻る」ボタンでウェブページを遡る人は、かたくなに「Back Space」キーで戻ろうとは考えません。こういった「クセ」から脱するのは怖いことなのです。
対策:
- どんなにPC操作が苦手な人でも簡単にわかるマニュアルを準備する
- マニュアルは電子ではなく紙でプリントするなど「相手が心理的に受け入れやすい」フォーマットでお届けする
- 十分すぎるほどの研修を準備し、置いてけぼりになる人材がいないよう配慮する
変化が面倒くさい
変化は、怖いだけでなく面倒なものです。たとえば、私の常駐先でスケジュール管理アプリがGoogle社のものから、一斉にMicrosoft社のアプリへ変更されたことがありました。
それによって便利になったサービスもあったのですが、社員の移行には実に数年かかりました。というのも、これまでのデータを移行させるのがシンプルに「面倒すぎた」からです。
対策:
- データのバックアップなど、手間のかかる作業は外注するなどして社員の手続きを減らす
- インポートやエクスポートが簡単なサービスを選ぶ
変化を受け入れるメリットがない
たとえば、売上へ直接繋がるDXがあれば、比較的導入は早く進むでしょう。ですが、もしDXが自分の部署やノルマに対して直接関係ないとすれば、抵抗する人も出るはずです。
むしろ、DXのせいで業務が増えて残業に繋がるような場合、DXの達成には大きな抵抗を覚悟せねばならないでしょう。
対策:
- 社全体で見たときにどれほど売上アップや離職率ダウンなど「自分にも得する数字へ繋がるか」を強調する
- 社内で生まれるストレスをへらすために、トラブルが起きたときのお問い合わせマニュアルを作る
- IT部門からDX推進担当者を決め、トラブルが起きた部署へ派遣できる体制を整える
DXを阻む人を説得する「ちょっとだけ」論法
ここまで、心理的ハードルごとにDXが乗り越えるべきハードルと対策をご案内してきました。最後に、DXを実現する上で必要なのは「スモールスタート」の精神です。
DXというと壮大な投資で社内の空気をガラリと変える改革を想像しがちです。しかし、私は大金を払ったツールが化石のように打ち捨てられる事例を、これまで大量に見てきました。
- 社内で本当に使ってもらえるのか
- 導入後、社員はメリットを感じてくれるのか
- 導入時にどのようなトラブルが考えられるか
といった想定を立てるためにも、まずはスモールスタート(小規模なテスト)でDXにつながるツールを導入しましょう。DXは目的ではなく、社内にメリットをもたらす手段でしかありません。目的に叶うサービスを導入できるよう、担当者のみなさまを応援しています。