アバターが気になって仕方ない。
といっても、アバターに詳しいわけでも凝っているわけでもありません。
では、アバターの何がそんなに気になるのかというと……。
それは、アバターそのものというより、アバターのキャラクターをどう作るか、ということです。
アバターが仕事をする時代
最近、コロナ禍の影響で、就活に変化が生じています。
いくつかの大手企業がVR(仮想空間)を使った採用活動に前向きな姿勢を見せているのです。就職相談会にはじまり、会社説明会、インターンシップ、内定式、入社式にいたるまで、VR上でさまざまなイベントが開催されています。
そして、学生たちはそれらのイベントに自身の分身であるアバターで参加します。
手元のパソコンでアバターに指示を出すと、方向転換したり質問に答えたりでき、拍手や挙手、驚きや同意などの感情を表現するマークも使える。そうした動きは実際のビジネスシーンでも始まろうとしています。
マイクロソフト社はビジネス向け協業アプリ「Teams(チームズ)」に、利用者がVR「メタバース」上でアバターを使ってコミュニケーション、コラボレーション、共有をおこなえる新サービス「Mesh for Teams」を、2022年前半に導入すると発表しています。
メタバースについては「メタバースとは?やり方・始め方をわかりやすく解説」でくわしく解説しています。
ご存じの方も多いかと思いますが、メタバースとは、インターネット上に作られた3次元的な仮想空間で、VRゴーグルを装着すると、聴覚と視覚によって自分がその空間内に存在しているように感じ、他者との交流もできるというものです。
メタバース上のアバターは表情を変化させることもでき、リアリティ溢れる交流ができるといいます。であれば、アバターの担う役割が小さいはずがありません。
もしアバターが自分とは関係のない、他者を模したり架空のものだったりしたら、悩む必要などないでしょう。誰かに似せたり、そのアバターが担う役割に相応しいキャラクタを作ればいいのですから。
あるいはゲームなどでは、わざと自分とは異なる性や性格のアバターを作ることだってあるでしょう。人間の形状ではないアバターさえあると聞きます。
でも、就活や仕事の場面で使う、自分自身の分身としてのアバターだったら?そもそも、どんなキャラに設定したらいいのでしょうか。どうやったら目指すべきキャラが作れるのでしょうか。
アバターのキャラクター設定をめぐる諸々の疑問
アバターのキャラクター設定をめぐる諸々の疑問について、シーンごとに考えていきましょう。
就活の場面で
外見から考えてみましょう。
あるVR会社説明会に参加した人にきいたところ、アバターの「外見」はロボット型に近いフォルムに設定されていたとのこと。
現在はLGBTQ+の志願者に配慮して、履歴書の性別は記入が任意、名前も姓だけでいいという企業が増えてきましたが、そうした配慮の一環かもしれません。
ただ、一方で、人間の性別がわかる形のアバターの中から自分のアバターの外見を選択する場合もあるようで、そうした場合に困る人がいないだろうかと気になります。この辺は企業側の意識がはっきりあらわれるところですね。
「会話」はテキストベースでおこなわれる場合にはいいのですが、加工を施さない生の音声だと同様の問題が起こる可能性があります。
実は、日本語での口頭表現では「です・ます体」のほうが、「だ・である体」に比べて男女差が出にくいという特徴があります。
志願者は就活場面では「です・ます体」で話すのがふつうですから、テキストベースで「会話」がおこなわれている限りは大きな問題は生じないかもしれません。
では、内面の設定はどうでしょうか。
アバターは自分の分身だといっても、自分自身ではありません。「デジタルクローン」とも違います。そのことはアバターの「内面」に全く影響を与えないのでしょうか。「生身」の自分と全く同じ振る舞いになるようにアバターを操作できるものなのか、という疑問です。
例えば、リアルな感情移入にブレーキがかかるとか、逆にふだんより大胆になるとか、あるいは別の人格を演じやすくなるとか……。
また、なにか影響があるとしたら、それが採用への影響にもつながることはないのでしょうか。
この辺はまだ未知の領域で、こうした疑問に対する答えは用意されていませんが、このようなイベントが今後も続く場合、就活の在り方に変化をもたらす可能性もあり、関心は増すばかりです。
ビジネスシーンで
これがビジネスシーンともなると、さらに複雑です。
まず、既に知っている者同士と初対面がアバターというのでは事情が異なりますし、知り合い同士であってもその関係性によって微妙に異なる状況が生じるのではないでしょうか。
いずれにせよ、ビジネスシーンでは、外見上はホンモノに近いアバターに設定することが多いのではないかと推測しますが、似せるといっても限界があります。例えば、以下の図2は筆者ができるだけ自分に似せてFacebookで作ったアバターですが、知り合いは筆者だと認識できるでしょうか。
もっとも、こういったタイプのアバターは、実物との微妙なズレを楽しむものだと聞いたことがあります。ホンモノを知っていたら、ある種のコスプレのように、あえて本人とは異なるタイプの外見を設定するのもアリでしょう。その場その場で別の外見のアバターを選ぶという選択肢もありますね。
そうした場合、どの程度の遊びを許容するかは、VRの位置づけや場面、企業文化、個々人の考え方や好みによるのかもしれません。
次に、アバターの内面的なキャラクター作りについて考えてみましょう。それは何によって表されるものなのでしょうか。
実は対面のコミュニケーションでは、言葉以外の要素が多くの情報を伝達すると言われています。その場の雰囲気や身体の接触、話し手と聞き手の距離感、服装、香り、しぐさ、表情、話し方の抑揚、間の取り方、アイコンタクトや沈黙……つまり、「何を話すか」より、「どう話すか」のほうがより重要なのです。
コロナ禍でZoomなどのコミュニケーションツールを利用した経験のある方は、どうも対面コミュニケーションのようにはいかないと感じたことがあるに違いありません。それは、主にこうした非言語的な要素の欠落によるものと考えていいでしょう。
顔や上半身の一部を見ることができ、言葉を交わすことができても、対面のコミュニケーションとは決定的に異なる要素があるのです。
では、VRでは、このような事情がどの程度反映され、影響を与えるのでしょうか。それは、音声を伴うのか、テキストでのみコミュニケーションをとるのかにもよります。
そう考えると、VR上のアバター同士だからこその新たなコミュニケーションが生まれる可能性もあり、そうしたコミュニケーションの在り方が逆にホンモノの人間関係に影響を与えることもありそうです。
おわりに
現在、VRは急速に拡大し、現実世界と肩を並べる存在になりつつあります。
そうした仮想空間で私たちの分身として動くアバター。そのキャラクターをどう設定するのか、それは案外重大な意味をもつ問題ではないでしょうか。
アバターのキャラクター設定にまつわる手法や文化もこれから急速に形成されていくことになるでしょう。その動向を注視するだけでなく、そこに自ら参加して一端を担う―もうそんな時代が到来しているのです。
参考:
PRTIMES(2019)「■日本初■“アバター就活”始まる!6月1日「あさがくナビインターンシップ2021」堂々リリース!」
ポート株式会社(2021)「プレスリリース:メタバースを活用したマッチングDX事業の実証実験の開始」
三菱UFJ信託銀行株式会社(2021)「プレスリリース:バーチャルリアリティ採用イベントの開催について」
PRTIMES(2021)「三井住友海上が『cluster』を使ってメタバース内本社で内定式を開催」
読売新聞オンライン(2021)「VRで会社説明会、集まるのは『アバター』たち」
Microsoft(2021)「Mesh for Microsoft Teams が目指す、『メタバース』空間でのより楽しく、よりパーソナルなコラボレーション」
読売新聞オンライン(2021)「仮想空間で拡張する『私』…メタバース、痛みも再現[奔流デジタル]#問われる人間の尊厳<1>」
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