中小企業の営業部門は『攻殻機動隊』を参考に効率化をはかるべし

中小企業の営業部門は『攻殻機動隊』を参考に効率化をはかるべし

僕はフミコフミオ。食品会社の営業部長として働くサラリーマンだ。新型コロナ感染第6波が報道されている2022年1月に、営業という仕事がこの先どうなっていくのか憂慮しながら、この文章を書いている。

2020年からの2年間、多くの会社の営業部門が、DX(デジタルトランスフォーメーション)を本格的に導入したり、在宅勤務やオンライン商談を活用したり、効率化をはかってきている。感染症対策として人と会わない営業スタイルが求められてきたからだ。だが、感染対策の点だけでなく、営業という仕事・職種の将来を考えたとき、営業の効率化は避けられない。おそらく効率化できない営業部門は生き残れないだろう。特に中小企業の営業部門ではなおさらだ。

そこで今回は、中小企業の営業部門の効率化と『攻殻機動隊』に登場した概念が、これからの営業のあるべき姿を示しているのではないか、ということを現役営業マン目線でお話ししたいと思う。

対面営業は古いけれど強い

これまで営業は、対面営業を基本としてきた。古くから言われている「足で稼ぐ営業」はもとより「テレアポ」や「DM」といった手段も、最終到着地点はキーマンと面談して商談をする対面営業にあった。ここ2年で、営業を取り巻く環境は一変した。飛び込み営業は迷惑どころか害悪となった。対面営業は忌避される傾向が強くなった。

人との接触を減らすライフスタイルが推奨され営業にも波及して、その結果、電話営業やオンライン商談といった手法が注目された。「巣ごもり」という言葉が流行したように、世の中の「空気」が後押ししたのは間違いない。

それを推進できたのは、昨今のIT技術の発達と、「足で稼ぐ営業」をやりながらも「こんな非効率なやり方は間違っている」という歴代の営業マンたちの積もり積もった疑念怨念が土台となったからだ。

僕が若い頃にやらされたローラー飛び込み営業などは、やらされている人間も効率と効果にクエスチョンを持たざるをえなかったし、それをやらしている管理職自身、疑問をもっていて、多くの場合「精神や根性を鍛える」という謎の意味合いでやっていたからだ。だから、常識的に考えれば、遅かれ早かれ、その種の根性論に根差した非効率的な営業は滅びていただろう。コロナは非効率的な営業からの脱却を早めたにすぎないのだ。

仮に感染拡大が起きなくても、そう遠くない将来、効率化の流れは起こったはずである。それはなぜか? 効率化が当たり前の流れであると同時に、特に中小企業の営業部門にとって、効率化は生き残るための唯一の道だからだ。

ここ2年間、人との接触を減らす営業スタイルを進めてきた。あらためて感じたことがある。それは、この2年間が新しい営業のやり方に気付かされた2年間であったと同時に、世の中の流れに逆行するようだが、対面営業の強みを思い知らされた2年間でもあったということだ。

僕の場合、食品という商品を扱っているという特性上、現状、オンラインで味や食感を伝える術がないという要素もあった。対面営業で実際に相手と会い、サンプルを手に取ってもらい、説明をしながら、アクシデントを装ってわざと商品を落としたり、キズをつけたりするなどする、五感に訴えるライブ感は相手の印象に強く残るのだ。それが対面営業の強みだ。

オンライン商談は、対面営業に比べると、ライブ感では圧倒的に劣る。たとえばオンライン商談を何件か続けて受けてみるとわかるけれども、正直いって、少々話の内容が違うくらいで印象に強く残らないのだ。同業他社の営業マンのオンラインを続けざまに受けたあとで振り返ってみてもA社の営業マンの話かB社のものかわからないことは多かった。

対面営業ができる営業マンは補充できない

対面営業ができる営業マンは補充できない

人との接触を避ける営業スタイル。いっそうの効率化をはかる営業の在り方。対面営業の機会は減る一方である。だが、減るのは意味のない対面営業だけである。従来おこなわれていた「挨拶だけ」「名刺交換だけでも」「近所に来る用事がありましたので」「新しいリーフレットをお持ちしました」といった、「どうでもいい対面営業」はなくなる(すでに無くなっているかもしれないが)。

ただし、オンラインで代替できない、重要な商談やプレゼンは今後も対面でおこなわれていく。対面営業の数は少なくなり、そのぶん、難易度と重要度は上がる。今後の対面営業は絶対にしくじることのできない営業機会になる。それをこなせる営業マンが必要になってくる。

そこで必要になってくるのは、そういった重要かつ難易度の高い対面営業をこなせるレベルのスキルを持つ営業マンだ。転職サイトやスカウトサイトを観察してみればわかるが、優秀な営業マンは熾烈な取り合いだ。必然的に条件や待遇の良い大手に優秀な営業マンは集まる。

実際、僕が働いている中小企業クラスの会社で、退職者補充のために募集を各媒体でかけても、対面営業をこなせるレベルの人材は採用できなかった。というか候補者の応募すらない。あったのは、営業経験の乏しい人や営業経験のない人であった。

ネットで誰でも大手の募集・スカウトにアクセスできる時代なので、優秀な営業マンは大手一流企業やぐいぐい来ているベンチャーの総取り状態なのだ。中小企業の多くは、優秀な営業マンを補充できないのではなく、募集する段階で補充する営業マンが枯渇しているのだ。

効率化で人材不足をこえていく

発想を変えていこう。優秀な営業が辞めても、補充をあてにしない少人数で回せる体制をつくっていく。現状の人材を、チームとして一定以上のレベルまで引き上げるとともに、少人数でこれまでの仕事量を回せる体制づくりをしていくのである。

先に述べたDXや各種ツールを活用した効率化がここで役に立つ。コロナで人との接触を減らす目的で採用した各種効率化を、少人数で営業部門を回すための省人化に活用していくのだ。

充実した対面営業は求められる営業スキルが高くなる。自社商品の詳細を知り尽くしているだけでは足りない。対話の中で相手が求めるものを察知して提示していく、経験にもとづいた勘が必要だ。新人レベルでは、まず無理である。

だが、チームが少人数であれば、レベルに達していない人間を教育することもカバーできる可能性はある。グローバル企業の営業マンほどの聡明さも知識量もいらないからだ。中小企業の営業に求められるのは、自社の事業やサービスといったニッチな分野で最強であればいいのだ。スーパー営業マンは要らないのだ。そう思えば中小企業で対面営業ができるレベルの営業マンを育成するのは難しくない(個人差はあるけれど)。

実際、営業マンのスキルのレベルはまちまちだ。残念ながら中小企業には、集中的に教育する時間も体力もない。働きながら実践でレベルアップをはかるしかない。獅子が子を崖に突き落とすように厳しさをもって現場で学ばせるのが、泥臭いが確実な育成方法である。

さいわい、DXや各営業支援サービスや効率化ツールをつかえば一人で営業という仕事はできる。上司や同僚と一定の距離をもって、一人で市場調査、アプローチ、オンライン商談をこなして対面営業までこぎつける経験を積ませていけば、対面営業の出来る営業マンはつくれるようになるのではないだろうか。

これからの営業はスタンドアローンコンプレックスになる

これからの営業はスタンドアローンコンプレックスになる

個の営業マンの話が出たので、ここからは営業の将来像について話したい。個の営業マンが、各々独立して成長しながら経験を重ねてゼロから成約までの仕事をこなせるようになるのが、営業チームの理想だろう。ミーティングや会議は必要最低限になる。

ミーティングや会議は非効率なので、理想はオンラインで年に数回程度でいい。時間と場所から完全に自由になれば、中小の営業部門でも営業人材を確保できる可能性も広がる。居住地や働く時間の制約を外せばまだまだ営業人材はゼロではない。

皆さんは『攻殻機動隊』という作品をご存知だろうか。電脳化と情報ネットワークが高度に発達した近未来を舞台に公安9課こと攻殻機動隊が活躍する、士郎正宗氏のSF漫画である。漫画を原作にした映画やアニメを展開している人気作品だ。

一連の作品のなかに『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』というアニメシリーズがある。そこで攻殻機動隊が対立する敵の基盤となっている概念がスタンドアローンコンプレックスである。簡単に説明すると「独立した個が、情報ネットワークにより、全体として集団的な行動を取ること」である。個それぞれが頭脳であり手足となるのだ。

営業チームもそれぞれの営業マンが本社に集まらず時間や場所に成約されずに営業活動を展開しつつ、チームとしての目標に突き進んでいくのが理想形だろう。特に中小企業では、教育に時間もコストもかけられない。個の営業マンがそれぞれ独立して仕事をしながら成長しつつ、全体としてチームとしての目標を目指して動くようになる。

個のスキルアップをはかりつつ少人数で仕事を回せるチームが作れ、かつ、人との接触を最小限に抑えられる。まさに攻殻機動隊の「スタンドアローンコンプレックス」そのものではないか。その実現の取っ掛かりになるのは、DXをはじめとする営業の効率化だと僕は思う。個にフォーカスしてチームとしての力を高めていく手法の最終形は、上司と部下という上下関係のない組織になる。組織という概念もなくなるだろう。

攻殻機動隊に登場するタチコマのように並列的な関係性になる。そのとき営業部長である僕もヒラへ降格することになるのだろう。攻殻で降格になる。まあそのときはそのときである。ではまた。

 

 

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