「そのDX、誰のため?」導入に挫折する意外な失敗の本質とは

「そのDX、誰のため?」導入に挫折する意外な失敗の本質とは

最近ビジネスシーンでよく聞く「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。

今や日本ではデジタル庁が発足し、組織のデジタル化が最優先事項となった職場もあるでしょう。DX推進室などの組織を持ち、どうやって仕事をデジタル化するかに取り組んでいるところもあるかと思います。

ところが、すべてのDXがうまくいくかというとそんなことはなく、失敗例も目立ちます。目的のないDX化は、お金をドブに捨てるようなものになってしまいます。

今回はそんな失敗例から「必要なDXと必要ないDX」について見ていきましょう。

入力が面倒すぎて誰も使わなくなったケース

DXがうまくいかない理由として、「せっかく作ったものをユーザーが使ってくれない」ケースがあるようです。なぜこんなことが起きるのでしょうか。

DXへの移行で欠かすことができないデジタル化ですが、つきものなのが「入力作業」です。そしてこの段階でよくあるのが、「入力が面倒すぎて、誰も使わなくなる」パターンです。

ある会社で、「これからはスケジュール管理の作業をデジタル化しますから、今後からデータベースにこれを入力してください」と、マニュアルが配られたことがあります。

それまでぼんやりと各自がやっていたスケジュール管理を見える化し、全体最適に活かすという触れ込みでした。

ところがメンバーは毎回、作業のたびに複数のデータベースを開いて該当欄を探し、手入力で進捗状況を入れなくてはならず、作業時間が増えてしまいます。

「やっぱり前のほうがよかった」になってしまう

現場で働いていたり、忙しい出張中のメンバーは仕事が終わってから、まとめて入力しなくてはなりません。面倒で入力しなくなってしまいましたが、気がつくと私だけではなく、いつの間にか誰も使わなくなってしまったのです。

そして結局、それまで通りメールで上司に進捗状況を報告する方式に落ち着きました。

「見える化」できるのは良いのですが、入力作業が煩雑で不便になると、「やっぱり前のほうがよかった」となることはわかりきっています。

また、せっかく労力を割いてリニューアルしたウェブが、誰も見ないものになってしまったこともありました。確かに情報は整理されスッキリしたのですが、ユーザーの多くが以前の使い勝手に慣れており、「前のほうがよかった」と思う人が多かったのです。

わかりやすいメリットがないDXには、誰もついてこないと言ってよいでしょう。

面倒すぎるインターフェースは使われない

同じことは、大きな企業でも起きています。

かつて、ソニーがアップルのiPodに対抗し、初代の「ネットワーク・ウォークマン」を作った時には、「インターフェースの面倒さ」がネックになりました。

鳴り物入りで登場した「ネットワーク・ウォークマン」は小型で高性能で、また音質が良いのが売りでした。

しかし「チェックイン・チェックアウト」という著作権管理を守る仕組みが強固に作られており、ユーザーに負担がかかる仕組みになっていたのです。結果として、当時のアップルに水を開けられる原因になってしまいました。

アップルのほうがずっと簡単に音楽ファイルを扱える仕組みだったのです。

このようにDXでは、ユーザーが「以前より使いやすい」と感じることを最低限のゴールにすべきでしょう。

マレーシアの事例

東南アジアに住んでいると、実にDX化をうまくやっているな、と思います。

例えば、私が住んでいるマレーシアではパンデミック以来、COVID-19のトラッキングを政府のアプリでおこないます。政府が作ったスマホアプリ「MySejahtera」は非常によくできていて、大抵のことはスキャン1回またはワンクリック、または3クリックくらいで完結するので、使用に抵抗がないのです。

▲出典:Kerajaan Malaysia「MySejahtera」

▲出典:Kerajaan Malaysia「MySejahtera」

 

スキャンひとつですむと、ユーザー側にも「入力している」意識がありません。非常にシンプルなインターフェースで、周囲1キロの感染者数がわかったり、最新の状況を知れたりと便利なのです。

ただ、どんなインターフェースが受け入れられるかは、年齢層や人々のスマホへの親和性によって大きく変わるでしょう。

使う人に合わせたサポートも重要になる

「使いやすさ」は対象とするユーザーが誰かによって異なります。ですから、どんな人がユーザーなのかを知ることも重要です。

自治体などでDX化を進める場合、住民が何を使っているかは重要な意味を持ちます。マレーシアでは高齢者でもスマホを使っている人が多くいますが、日本の中高年がスマートフォンやタブレットを使いこなすという前提は期待すべきではないでしょう。

令和元年の総務省の調査によると、高齢者のスマートフォン所有率は60歳代が64.7%、70歳代が33.8%、80歳代は11.0%とグッと少なくなるのです。

(参照:総務省 令和元年通信利用動向調査の結果 7ページ)

なぜ、デジタル機器を使わないのか。理由のトップは「面倒だから」です。

情報機器を利用していない高齢者が情報機器を使わない理由を第8回調査と比較してみると、「使い方が分からないので、面倒だから」(第8回 26.8%→第9回 50.3%)、「お金がかかるから」(第8 回 8.2%→第9回 21.9%)、「文字が見にくいから」(第8回 6.6%→第9回 17.5%)の割合が増加 し、「必要性を感じないから」(第8回 70.4%→第9回 49.2%)の割合は 21 ポイント減少している。

引用:内閣府 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(全体版)94ページ

 

高齢者にも配慮を

また、高齢になり、目や耳に不都合を感じている人の存在も知っておいたほうがいいでしょう。以前に雑誌を作っていたとき、高齢の筆者から「この文字の大きさでは老眼の人は読めなくて辛いと思います」と言われて、文字を大きくしたことがあります。

高齢になると、デジタル機器を使うこと自体がストレスになる人もいます。高齢のユーザーが多い領域では、その特性に十分な配慮をしない限り、大量の「DX難民」が出てきてしまうでしょう。

「やっぱりファックスや紙のほうが便利だ」と感じている人の思いをどのように反映するのか。ある意味でアナログな要素が、DX成功の鍵となることもあるのです。せっかく立派な仕組みを作っても、肝心の入力する人、活用する人がいなければ、何の意味も為しません。

誰のために何をDX化し、どのような利便性を提供するのかといった基本設計は、DX化を考える上での最初の一歩といってよいでしょう。

 

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