覚えていますか、新型コロナが来てすぐのDX騒ぎ
「ウィズコロナ」「アフターコロナ」という単語が流行ったのは、新型コロナウイルスが日本へ上陸してすぐのこと。まだ豪華客船の上にしか新型コロナウイルスはなく、誰もが未知数の不安に怯えていた、あのころだ。
ウィズコロナも、アフターコロナも、「新型コロナウイルスなんて恐れることはない、共に強く行きていこう」と力を与えるメッセージだった。そして新型コロナウイルスと共に生きる世界にはDXの夢も多く含まれていた。
DXとオンライン結婚式
たとえば、”オンライン結婚式”はよく話題にのぼった。何から何までオンライン中継できる結婚式があれば、ゲストはハイヒールに足を痛めて会場へ向かうことはない。会場はコンパクトに、自宅からシーツやカーテンをアレンジしたウエディングドレスを身にまとうのもいい。結婚式はもっと自由でいい。
そんなアイディアが、SNSに駆け巡った。
夢あふれる恋愛・婚活DXと反発
出会いの方法も、完全DXを見込んだコメントが目立った。たとえば、デートのオンライン化。画面越しに同じゲームをプレイして楽しんだり、同じ体験授業を受けたり。遠隔でも愛は育める。愛は新型コロナに負けない。そんなメッセージをはらんだものだった。
実現しなかった結婚式のDX
だが、実際は悲惨な結果が待ち受けていた。2020年のブライダル市場は前年比で53.1%まで縮小(参考:矢野経済研究所 ブライダル市場に関する調査を実施 2021年)。
これは結婚指輪や新婚家具などを含めた数字だ。もっとも打撃を受けた結婚式市場は、新型コロナ前の48%にまで縮小している(参考:株式会社リクルート 結婚総合意識調査2021)。
日本では、多くの人が結婚式をオンライン開催しようとは思わなかった。そして、それにご祝儀を払おうとする親族や友人もいなかった。結婚式で延期を重ねに重ね、泣く泣くキャンセルした友人が周りにいた。「対面で出会えなければ、結婚式は意味がない」ものだったのだ。
結婚はDXいらず……というわけではなく
私は2015年に結婚式を挙げた。そのとき、たしかにDXを願っていた。しかしそこで願っていたのはゲスト一覧をGoogleスプレッドシートでスタッフさんへ共有することだった。会場によっては、スタッフがFAXしか受け付けてくれず、お招きするゲスト一覧を紙で送る必要があったのだ。
「ご祝儀もオンライン決済対応したほうが楽ではないか?」
「結婚式の招待状って、なんでメールじゃだめなの?」
「料理のお品書きは紙じゃなくて事前にメール連絡でよくない?」
と、たしかに私は強烈なDXを望んでいた。何でもかんでも紙で印刷する必要があり、アレルギー対応やキャンセルに伴う席次変更で、私は特急印刷屋に走った。直しを重ねた印刷代は10万円近くなり、結婚式直前で疲弊した体に、さらなる追い打ちとなった。
願った結婚式のDXは「対面をなくす」ことじゃない
そう、何もかもが紙である必要はない。ご祝儀は当日オンライン決済対応してくれたっていいじゃないか。だがそれは「対面のパーティ」ごと、根こそぎなくしたいという意味ではなかった。むしろ、社会人になってなかなか出会えなくなった友人らとは対面だからこそ、結婚式で会う意味があったのだ。
結婚式と同じように難航したDXデート
そして……オンラインデートも、そこまで流行しなかった。婚活をしていた男女の64%が、新型コロナウイルスの影響で婚活そのものを休止したからだ(参考:Pairs、「新型コロナウイルスの恋愛・結婚の価値観への影響調査」結果を発表)。ヒアリングをしていくと、20~40代の男女は大半が「オンライン出会える」ことを知っていた。
マッチングアプリをダウンロードすれば、相手候補はいくらでも見つかる。結婚相談所は、雪崩を打つようにオンライン相談を受け付けた。出会いまでの流れはすべてDX化が完了している。
恋愛のプロセスはDXで変えられても…
だが、「出会いそのものは、やっぱり対面がいい」というニーズを、変えることはできなかった。筆者も同じだ。2015年に結婚式をあげたと書いたが、その後離婚。新型コロナウイルス真っただ中の時期に、婚活をすることになった。そして、その期間「対面で出会わない婚活」なんて想定すらしなかった。
仮にオンラインデートがうまくいったとしよう。2~3回目までくらいは、それでいいかもしれない。一緒にオンライン会議システムで飲み会をしたり、陶芸キットを取り寄せてお互いの家で焼いたり。作品を見せ合いっこして楽しいね……と盛り上がって、そして、その先は?
何年も抱きしめられないかもしれない相手と、不毛なデートをくり返すことはできない。どんなに仲良くなろうとしても、その後は疎遠になってしまった。私の筆不精も原因なので、DXのせいにしようとは言えない。だが、「とりあえずご飯行きましょうよ」と言えない婚活は寂しかった。
DXで寂しさは埋めづらい
周囲でも、似た声が上がった。どうせ、婚活しても出会えないし。出会えないんだったら意味がないから、マッチングアプリはダウンロードするけど、すぐ辞めちゃうよね……と。
マッチングアプリも対策を大量に打ってくれた。たとえばビデオデート機能が、多数のアプリへ導入された。VRChatでアバターをまとい、出会う男女も出てきた。DXで恋愛が生まれなかったわけではない。ただ、一般化したとは言えなかった。大多数の人は「やっぱり、対面で会いたい」のだ。
新型コロナが終わってからの恋愛DX
以前、マーケター数名で「新型コロナウイルスが終わったら、日本人はどのような生活習慣をおくるだろうか」と話し合ったことがある。結論は、まるで何もなかったかのように、以前の生活へ戻るだろう、というものだった。
新型コロナウイルスが終わり次第、私達は現実の電車や車に揺られて出社するだろう。そして会社の飲み会に参加し、友達の結婚式に対面で参加するはずだ。
すでに世界は元の世界へ戻ろうとしている
すでに、その兆候は現れている。緊急事態宣言が解除されてから「コロナが明けたら飲もう」と交わされた約束は、すべて履行されたからだ。連続する飲み会で、私は体も心も壊した。
人と会っていなかった長い期間が、大きな反動をもたらしたのだ。みなさんも多かれ少なかれ、ひとときのコロナ無き暮らしを楽しんだのではないだろうか。そして、酔っ払いやすくなった自分に驚かされたのではないか。
こうして、新型コロナウイルスさえなければ、私達はあっという間に「元の暮らし」へ戻ろうとすることが見えてきた。オミクロン株がもしこの後、あまり脅威でないとわかったら、婚活人口は再び増えだすだろう。そして結婚式の予約も増え、かつての恋愛・結婚に戻っていくはずだ。なぜなら、出会いそのもののDX化は、現実よりも面倒だからである。
DXがもたらす「リアルな出会い」
DXは私達が「面倒くさい」と感じているプロセスをすっ飛ばしてくれる。けれども、私達が人と出会いたいという欲望を、代替するにはまだ遠い。まだオンラインで出会いの段取りを付けるよりもリアルで出会う方が楽しくて、面倒ではないからだ。
とはいえ、近い未来に私は期待している。いずれ自宅でも完全に「自分らしい」アバターで街中へ外出でき、まるで普通のお買い物のようにウィンドウショッピングできることを。そして、そこで「自然な出会い」を経験し、まるで対面デートのようにお付き合いができる日を。
そのときこそ、恋愛・結婚にDXがもたらされる時期だろう。まだDXが進んだというには早い。けれどもその可能性を少しだけ除くチャンスをいただけた……そんな2020年代だったと思いたい。
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