DXさえあれば、じゃんじゃん儲かる?
デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めれば仕事は効率的になり、儲かる……そんなサービスが世にどんどん出てきた。売上アップにつながるDX。新型コロナウイルス流行下、最も増えたのがECだろう。
地元の農家直送便から手作り雑貨まで、世には多くのECショップが生まれた。誰でもECショップをかんたんに作れるシステム「BASE」や「STORES」を提供する企業は成長し、ブツ撮り(商品撮影)が得意なフォトグラファーは予約でいっぱいだ。
かくいう私も、いくつかの企業でECショップの制作支援をしてきた。商品写真すらまともにないところから撮影、カテゴリ分け、ショップデザインと全体を統括し、売上アップへ貢献できた会社もある。
だが……ECショップの成功事例の裏には、数多の売れないお店が残った事も伝えておきたい。山奥に告知もせず蕎麦屋を作っても売れないように、知名度がないショップで商品は買われないのだ。
「DXをすれば儲かりますよ、あなたが寝ている間も商品が売れますよ」
と、大げさな表現でECやサブスクリプション、オンラインサロンなどDX導入を勧める自称・コンサルタントは跡を絶たない。
そこで、今回はDXと同時並行で考えるべき、マーケティングの話をしたい。
DXは「導入すれば売れる」ツールではない
前提として、DXは導入さえすれば売れる魔法ではない。たとえば、ECショップを作れば秋田県から沖縄県へだって商品を発想できる。検索によって、海外のお客様すら範疇に入れられるのは事実だ。だが、それは「お客様から探しに来てくれた場合」である。
よほど尖った商品を展開しているのでもない限り、普通はお客様からわざわざ自社製品を検索し、探しに来てくれるケースは少ないだろう。だからECショップを設置した「だけ」では売上は上がらない。
これはものを売るECショップだけでなく、オンラインサロンでも同じである。どんなに良質なコンテンツを提供するオンラインサロンでも、知られなければ会員は増えない。日本でおそらく、最も儲かっているキングコング西野さんのオンラインサロンが売れた最初の理由は、西野さんがよく知られた芸能人だったからだ。
さらに会員数が増えたのは、西野さんが1日5,000文字という驚異的なペースのコンテンツを更新し続けたからである。ちなみにこの数字は、ライターの私でもおいそれと達成できない。たまには休みたいと思うのが人情だからだ。
売れる商品には、それなりの理由がある。商品やサービスのDXはするに越したことはないが、それだけで黙っていても商品が売れる世界ではない。
それでもDXをすべき理由は?
それでも、多くの業界でDXは始めたほうがいい。なぜなら、DXなき商売がどんどん限られていくからだ。たとえば、私の住んでいた地方は少子高齢化が進み、結婚式場がどんどん葬儀場へ変わっていく。
こういった場合、葬儀場はDXをしなくてもいいだろう。そうしなくても顧客……というと聞こえが悪いが、案件はやってくる。このように地元の消費が減れば、全国・全世界へサービスや商品を提供できないと、いつかは食いっぱぐれる日がくる。
その前にECショップなり、オンラインセミナーなりで集客を考えておかないと、過疎地でひっそりと商売を畳むことになりかねない。DXは「やれば儲かるもの」というより「これからやらないと商売が成り立たないもの」なのである。
これからはオフライン+オンラインでものを売る必要があるだけだ。発送手続きやサービスのアップロードを考えれば、労力はむしろ「増える」ことを前提に考えるべきだろう。
ECやオンラインサービスでも考えたい「DXにふさわしい差別化」
そして、差別化競争はDX導入後の世界ではより激しくなる。これまでは地元に「ある」だけで重宝されてきたスーパーも、オンラインで食材を送るとなれば「地元の名産品を鮮度No.1でお届け」「真空パックで1ヶ月賞味期限」など、全国区でも戦える差別化ポイントを見いださねばならない。
私が担当させていただいた仏壇ブランド「ぎやまん郷」も、当初は「なんでもガラスで作ります」という、ふわっとしたコミュニケーションでリーフレットを配っていた。しかし、なんでも作れるとは、何も作れないと言っているのと同じである。
「国語、算数、理科、体育、スポーツ、家庭科が得意」な人と「家庭科がよくできて一人で着物を縫える人」が並んでいたら、あなたは後者しか覚えられないはずだ。このように、尖った訴求を考えることが必要になる。しかもECやオンラインサロンでは、それが全国のユーザーへ届くくらい、尖っていないと厳しい。
デジタルツールを導入した世界には、それにふさわしいレベルの差別化が求められる。例外は、本当にその1社でしか生産できない製品がある場合のみとなる。もし競合がある程度同じものを作れるのならば、「何が消費者にとって違うのか」を、言葉に書き起こさねばならない。
デジタルツールを最大化する「差別化」のポイント
では、あなたの製品はどう差別化できるだろうか。性能では差がない商品が多いかもしれないが、「どんな気持ちを呼び起こすか」では、差別化可能だ。
先述の仏壇ブランドでは、「月命日の日に乾杯したくなるほど、親近感のある仏壇」という差別化を目指した。もともとデザインが一般のインテリアに見えるほど仏壇らしからぬ設計だったからだ。
「新しい仏壇」といっても何が新しいかはわからない。そこで、消費者の心情を聞いてみた。そうすると、大事な人の位牌を抱える家族は、月命日の日に故人へ語りかけているのだという。そこで、家族のように身近な存在として親近感を持ってもらう……というコンセプトが生まれた。
さらに「ひとつずつ手作り」という機能面での特徴も入れ込み、「大切な日に、献杯。ガラス作家たちが作るお仏壇、オルター」というキャッチコピーとなった。命日から大切な日へ変更したのは、誕生日や正月などにも語りかける家族がいるからだ。
このように、慎重に言葉を選びながら「気持ちの面で」何が他社と違うのかをキャッチコピーに沿える。リーフレットやYouTube動画など、他の媒体でもコピーを統一するのも重要だ。人はひとつのブランドについて、多数の複雑な情報を受け止められないからである。
デジタルでものを売ると決めたらまず考えたい「POME」
では、どうやってデジタルツールを導入しながらコピーを作っていけばいいか。まずは「POME(Point of Market Entry=消費者が初めてその商品カテゴリについて思いをはせるタイミング)」をとらえよう。
たとえば、仏壇のPOMEは「親から位牌を譲られたが、仰々しい仏壇まで引き継ぎたくはない。だが、マンションサイズの家に収まるいい仏壇がない」というものだ。こうやって消費者の課題を書き出すと、どんなメッセージを考えればいいか自ずと浮かんでくる。ものごとは大抵が『イシュー(課題)から始めよ』なのである。
あなたの製品カテゴリをお客様がはじめに思いつくPOMEはどこにあるだろうか。そこでお客様をとらえる差別化ポイントを考えよう。そして、各所でメッセージを統一して宣伝していこう。
デジタルツールは、新しい売り方の「始まり」でしかない。これから先は、膨大な販管費をデジタルツールへ導入する前に「売る」ための総予算として、デジタルツールの導入費用と広告宣伝費の配分を考えていただけると嬉しい。
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