なぜトヨタは2022年の再編で「ソフト第一」にし、人材採用を変更するのか

なぜトヨタは2022年の再編で「ソフト第一」にし、人材採用を変更するのか

日本ではデジタル庁が開設され、ビジネス業界では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が時代のキーワードになりました。今や多くの会社が、デジタル化を加速させる方向で動いているのではないでしょうか。

しかし、本当にそのDXの方向は時代に合っているでしょうか。

IT業者が「外注」である時代が古くなりつつある

日本のビジネスパーソンには今や、すっかり当たり前となったキーワード「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。「DXを大胆に推進する」との掛け声で、デジタル庁も開設されました。

しかし、多くの企業のDX戦略を見ていると、今では時代遅れになってしまった日本特有のITの慣習が見えてきます。

それは、「下流工程」にプログラマーが位置する仕組みです。具体的に言うと、「上流工程」には企業のマネジメント層がいて、彼らがITコンサルタントに依頼しつつ、発注した内容のプログラミングを、「下流工程」ーー要するに外注企業である下請け業者ーーに発注するという図式です。システム開発をパートナー企業に丸投げする会社も少なくありません。

これには理由があります。

まず、日本では長いこと、ITが「下請け業」つまり、下流工程に位置すると考えられていたことです。1980年代後半、日本IBMや日本DECなどのIT系企業が新卒を大量採用した時代がありました。

ところが、当時はバブル時代。人気業界は銀行や証券会社などの金融機関やマスコミでした。

その頃、メーカーやプログラマーやシステム・エンジニアにはあまり人気がなく、それでも就職する人たちは、「システム・エンジニア35才定年説」だとか、「プログラマーは使い捨て」であるとか、随分と言われたものです。

当時はまだ「ITとは何か」をわかっている人が少数だったのです。

しかし「ITが下請け」という時代は古くなりつつあります。実際に、海外の企業と日本の企業の大きな違いに、プログラマーに対する扱いの違いがあります。

今や海外のトップ企業はほぼIT企業で占められています。世界の企業ランキングで、IT企業以外の高収益企業は少なくなりました。

高収益企業は、トップ自らがプログラマーであることが少なくありません。

Microsoftのビル・ゲイツも、Facebookのマーク・ザッカーバーグも、Googleの産みの祖となったラリー・ペイジも自らがプログラマーです。これらの企業の主役はハードウエア ではなくソフトウエアで、ほとんどの企業ではIT部門は外注ではなく中に抱えているのです。

今や世界ではソフトウエアは「脇役ではなくて主役」なのです。「ハードが主役でソフトが脇役」というのは、実は真逆の考え方なのです。

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)にあって、多くの日本企業に欠けているのが、まさにこの視点でした。

トヨタはなぜ「ソフトウエア・ファースト」になるのか

トヨタはなぜ「ソフトウエア・ファースト」になるのか

そこに気づいて、会社組織そのものを作り替えようとしているのが、トヨタ自動車です。20年3月、豊田章男社長は「ソフトウエアファースト」の開発体制に移行すると宣言しました。

「ハードの脇役だったソフトを自動車開発の主役に据え、IT企業など新興勢との競争に備える。」*1

そのための大きな転換が、人材採用方針の変更です。従来の機械工学系から、ソフトウエアに大きく舵を切るのです。

2022年の春の入社からは、技術職の新卒採用におけるソフトウェア系人材の比率を、21年春入社の約2倍に増やしていくとしています。同時に中途採用も増やしていくそうです。*2

つまりトヨタはソフトウエア企業になろうとしているのです。

伝統的に、機械工学系の学生を多く採用してきたトヨタとしては大きな転換でしょう。

21年春の場合、技術職として約300人の大学生・院生を採用したが、多くが機械系で、ソフトウェア系は約2割にとどまった。22年春は、ソフトウェア系を4~5割に高める。

(引用:【独自】トヨタ、ソフトウェア系人材の採用倍増…中途の割合を5割まで引き上げへ(読売新聞)

トヨタ自動車がソフトウエア人材の獲得に力を入れるのは、そうしないとTeslaやGoogleなどとの競争に勝てないとわかっているからかもしれません。

海外ではDX人材を巡って凄まじい獲得競争が行われています。それには、マネジメント自身が、彼らを理解し、採用する能力がないとなりません。

時代は「ソフトウエア・ファースト」になった

そうはいっても、「ソフトウエアが重要なのはわかるが、なぜ外部委託ではダメなのか」と思われる企業もあるでしょう。その理由について、かつてMicrosoftやGoogleにて開発責任者を務めた及川卓也氏は、こう説明します。

最初に考えたいのは、現時点で多くの事業会社が行っている「システム開発の外部委託」問題です。社内に情報システム担当部があっても、その部署がソフトウェア・ファーストの実行部隊としてきちんとエンジニアリングを行っているとは限りません。まずはそこから考えてみましょう。
(引用:ソフトウェア・ファーストの時代、あらゆる企業に内製化が必要な理由(ビジネス+IT)

筆者はDXの本質は、「IT活用を手の内化すること」と定義しています。要するに、できる限り開発を内製化するのが理想というのです。彼によれば、一番のメリットは開発の「スピード」です。プロダクトの企画、開発、運用に至るまでを社内でおこなうことで、スピーディーな開発が期待されます。

冷遇されてきた技術者をどうするか

冷遇されてきた技術者をどうするか

もう一つ見落とせないポイントは、技術者への敬意です。なぜか日本では文系の経営者が優遇され、理系の技術者が軽視されているとの指摘が相次いでいます。

世界的に技術者の獲得競争が厳しくなる中、なぜか開発者への敬意や尊敬が、日本企業に不足しているというのです。中国企業から高額で引き抜かれた研究者の話題がニュースになったこともありました。

東京新聞・中日新聞 科学部長である引野 肇さんが、科学技術振興機構のサイエンス・ポータルに2006年に書いた文章が印象的です。

中村修二・カリフォルニア大教授が、もといた日本のメーカーを相手に裁判を起こしたとき、「冷遇される日本の技術者を“奴隷解放”する」と宣言した。わたしがメーカーに就職した30年前から今まで、そんな技術者冷遇の状況はほとんど変わっていない。

(引用:日本の技術者は使い捨て(引野 肇 氏 / 東京新聞・中日新聞 科学部長)サイエンス・ポータル

引野さん自身も、技術者の道を諦めて、マスコミに転職してしまったのです。これはもう10年以上前の文章ですが、状況があまり変わったとは思えません。目指すべき方向はトヨタ式の「ソフトウエアファースト」と技術者の待遇改善

ーー今後の日本企業のDXの鍵となるのかもしれません。

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