いきなり物騒な話ではありますが…
世界で、どの動物が最も人を殺していると思いますか?ビル・ゲイツ氏のブログに掲載された記事が話題になったことがあります。
運動能力の高いライオン、大きな口と鋭利な歯を持つサメ、強い毒を持つサソリ…
自然界には、人間が太刀打ちできないような機能を持った動物がたくさんいて、わたしたちを脅かしています。人間は体がそう強くない分、さまざまな道具を発明して対抗してきましたが、インターネットという道具の行方はどうなるのでしょう。
小さくて凶暴な殺人者
ビル・ゲイツ氏のブログ「Gates Notes」に掲載されているのは、WHOやFAOなどの統計を元に作られた統計です。
2015年に人が殺された動物。ランキングはこんな風になっています。
(▲出典:GatesNotes「Why I’d rather cuddle with a shark than a kissing bug」)
20位:サメ 8人
19位:狼 10人
18位:クラゲ 40人
(中略)…
8位:サソリ 3,500人
7位:淡水カタツムリ 4,400人
6位:オオサシガメ 8,000人
5位:犬 17,400人
4位:サンドフライ 24,200人
3位:ヘビ 60,000人
そして、
2位:人間 580,000人
1位:蚊 830,000人
です。最も多いのはマラリアなどを媒介する蚊です。
とはいえ、人間が最も人間を殺している生き物だと感じている人は少なくないでしょう。上記の統計では、殺された580,000人のうち、409,000人は殺人によるもの、172,000人が戦争によるものと推計されています*1。
人間文明という便利で怖い存在
さて、インターネットについてお話しするこの場所でなぜこのような物騒な話題を持ち出したかについてです。ここのところインターネット、特にSNSを見ていると、コロナウイルスで多くの人がストレスを溜めているということもあるのでしょう、とても攻撃的な書き込みが目立つようになりました。
それでなくても「パンデミックよりもインフォデミックだ」と言われている中で、便利なはずのネットが「人を混乱させる場所」「怖い場所」になっている様子をよく目にします。コロナに限らず、SNSを使っていて悲しい気持ちになったり、憂鬱になったり、と傷ついた人は少なくないと思います。
人間は進化の中で道具を使うようになりました。
インターネットはその中でも最新の道具のひとつですが、気がつけば人を傷つける道具になってしまっているのです。
あるとき筆者が感じたのは、人類は歴史上、便利に生きるために発明してきたものをことごとく人を殺す道具に変えてきたのではないかということです。そこに、ついにインターネットも仲間入りする時代が来ているのかと考えてしまいました。
人類は最初、その辺にあった石で貝や木の実を割って食べていたことでしょう。やがてそれを槍などに仕立てる技術を身につけました。 しかし、最初は食料を得るための道具だったのではないかと思います。そのようにして生まれた槍や刃物などが、今度は争いや人殺しの道具に使われてきたのは、歴史を見れば明らかです。
火は人類史上とても大きな発明だったことでしょう。しかしそれも、人を殺す道具に転じてしまいました。
「言葉」というこれまた人類史上に現れた大きな文明も、いまは場合によっては人を殺してしまう強さにまで発展してしまいました。
言葉で直接人体を傷つけるわけではありませんが、暴言、いじめ、嫌がらせ、その末に命を絶つ人がいるのです。「言葉の暴力」と呼ばれるものです。
そしてインターネット時代にも、同じことが起きるようになってしまいました。
マーシャル・マクルーハンという人
さて、1970年代にすでにインターネットの登場について予言したような書籍を残したことで有名な、カナダ出身の文学者であるマーシャル・マクルーハンという人がいます。マクルーハン氏の考えは「メディア論」という領域で名を残しましたが、人間の文明の進化を「人間機能の拡張」と表現しています。
たとえばナイフが発明されたことで、人間の歯ではかみ切れなかったものを切ることができるようになったり、自動車の発明は「足」の拡張で、人間の足では行けないような遠い場所にも行けるようになったり、といった具合です。
ラジオは「耳」の拡張です。人間の耳では聞こえないような遠くの音を聞けるようになりました。テレビは「目」の拡張でしょう。
この考え方を借りれば、人間が最初に手にしたであろう木の枝は、自分の「腕の拡張」だったのでしょう。自分の腕では手が届かないところにあるものに触れられるようになりました。
マクルーハン氏の考えは、そうやって文明によって人間の行動範囲が広くなり、逆に言えば人間にとって世界が小さくなっていく、そして最終的には「グローバル・ビレッジ」ができあがるだろう、というものです。
「地球村」=地球がひとつの村であるかのように人々がつながる、メッセージのやりとりをする、ということです。
実際、私たちは地球の裏側の人と飲み会を開けるまでになりました。通信技術によって、距離と時間をあっさり超えてしまったのです。しかし、ナイフなどの刃物も、車も飛行機も、殺人の道具に転じてしまっています。
インターネットによって、人間機能の何が拡張されたでしょうか?筆者は、「コミュニケーションの拡張」ではないかと思っています。「双方向性の拡張」といっても良いでしょう。
ラジオやテレビは人間の耳や目を拡張しましたが、情報の流れは基本的に一方通行です。人類は言語のやりとりをすることが特徴といわれていますが、この「言語のやり取り」の拡張です。そうなるとインターネットは「つながり」の拡張、「コミュニティの拡張」とも言えるかもしれません。
ほかの動物も鳴き声やアクションでコミュニケーションを取っていますが、それは危険が迫っていることや、エサのありかを仲間に伝える、あるいは求愛行動という、生きるうえで便利かつ欠かせないものです。相手を殺すために使うものではないでしょう。
しかし人間は、コミュニケーションで相手を殺すことを可能にしてしまいました。とても残念なことです。
世界をひとつの村にできるのならば
そのような中でも、天才と世界にその名をとどろかせている台湾のデジタル大臣、オードリー・タン氏は、デジタルやインターネットの可能性をこのように語っています。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)というのは平和を作ると思います。世代間をまたがって」
「二酸化炭素の問題だとか、あるいはウイルスにしても、国境を越えていく蔓延性を持っていますが、世代をまたがって、国境をまたがって問題を見ることができるということ、これが DXによって解決されていくと思います」
生まれた世代も場所も越えられる、つまり時空を超えることすらできるのがインターネットです。時空を超えた悪事ができてしまうのもまたインターネットかもしれませんが、平和を望む人間が多数派であることに代わりはないでしょう。
時空を超えられるこの道具を使って何をなしえるかは、まさにわたしたち人間次第なのです。モノに罪はありません。
ちなみに、明治大学の研究グループが、デジタルで「味を再現する」ことに成功したそうです。
(参考:「味を記録して再現するという『新体験』」ナショナルジオグラフィック日本版)
インターネットで料理番組を見ながら味見をできる…そんなことも可能になりそうです。ついに私たちは「舌の拡張」まで果たしてしまいそうです。
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