小泉進次郎 環境大臣が語る「企業が環境問題に取り組むべき理由」

本記事では2021年6月3日に開催されたイベント「Salesforce Live: Japan」の様子をお伝えします。小泉 進次郎 環境大臣とセールフォース・ドットコム 小出 伸一代表、そしてジャーナリストの堀 潤氏が、地球環境のために国と企業ができることを語りました。

企業の取り組みが環境問題に影響する

企業の取り組みが環境問題に影響する

セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一氏(左)、環境大臣 気候変動担当、 内閣府特命担当大臣(原子力防災)、 衆議院議員 (4期) 小泉 進次郎 氏(中央)、ジャーナリスト 堀 潤 氏(右)



堀 潤氏(以下、堀):みなさんにも「46」という数字が浸透したのではないでしょうか。去年10月、菅内閣では、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするとし、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。そして今年4月の気候変動サミットで、2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、2013年度に比べて46%減を目指すと表明しました。従来の26%削減から大きく引き上げた形です。さらにその後、「50%の高みを目指す」という総理の発言もありました。

小泉さん、この46%削減を達成していくために、何が必要でしょうか。

小泉進次郎氏

環境大臣 気候変動担当、 内閣府特命担当大臣(原子力防災)、 衆議院議員 (4期) 小泉 進次郎 氏



小泉 進次郎氏(以下、小泉):まず、46%削減自体、意欲が高い目標です。簡単に達成できる目標ではありません。ですが最大のポイントは、46%と言いながら、もう一つ「50%の高みへ挑戦をする」と総理が言ったことなんですよね。

国際社会は先進国に対して、高い目標を求めています。なぜかというと、パリ協定の目標とは、高い目標を国が掲げることによって、企業や民間の力を最大限に引き出していくことが大事だからです。

最初は私と経産省、梶山大臣とも調整をする中で、いきなり46%の削減目標が見えたわけではありません。

ただ、高い目標を目指そうと話をしながら、段々引き上げてきたんですね。46%というのは、その中で最も意欲が高いレベルのものでした。

本当にそれが実行できるのか。実行のポイントをシンプルに言えば、再生可能エネルギーが2030年までにどれだけ入るか。これこそ、企業のみなさんとも一緒になって進めなければ実現できないので、今日はそういう話ができたらなと思っています。

環境問題への取り組みが企業にとって投資の対象に

堀潤氏

ジャーナリスト 堀 潤 氏



:現在の環境下では、地球温暖化は「みんなで地球を大事にしようね」という一つのCSR的な分野の話ではなくなりました。もはや、この再生可能エネルギーを使っているか、使っていないかが、企業にとって投資の対象になるところまできています。

こういう大きな変化は、環境大臣として、ものすごく実感されているんじゃないですか。

 

小泉:私が大臣になったのは2019年9月なんですけど、そのときと現在はまったくの別世界ですよ。2年経っていない中で、まず2050年カーボンニュートラルへの挑戦が宣言されました。さらに2030年の目標がここまで高くなったわけです。

さらに私が大きいなと思ったのは、いままでだったら産業界から「そんなに高い気候変動対策は無理だ」という声があがっていたんです。それが、総理のカーボンニュートラル宣言に対しても、2030年目標に対しても、産業界がまず賛同する。むしろ再生可能エネルギーをもっと入れてくれと言っています。典型的なのは、トヨタの豊田章男社長の発言ですよね。

「再生エネルギーが進まなければ、日本の雇用100万人分が失われかねない」とおっしゃいました。この再生エネルギーと雇用がセットで語られるのは、1年前でもなかったんじゃないですかね。

 

:確かに。企業の経営者として、小出さんは46%削減、そして50%の高みについてどう思いますか?

小出 伸一氏

セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一氏



小出 伸一氏(以下、小出):2030年の目標を明確に打ち出していただいたことに関して、ほとんどの企業経営陣のみなさんが、大変敬意を表していると思います。しかも、目標設定を引き上げたわけですね。ということは、企業もその目標に向けてコミットメントしなくてはなりません。

経営の方針として入れるだけではなくて、具体的な行動に落とし込まないと、目標設定だけで終わってしまいます。結果を出す必要があるんです。その結果が出るのは、先の話です。今日、明日で変わらないんですよね。



:この課題について、デジタルはどのような役割を果たすでしょうか?



小出:日々のアクティビティは、すぐに結果として見えません。でも10年後には、大きなインパクトになることがわかっています。そこでデジタルを使いながら、その動きを可視化することが、非常に大事です。そのお手伝いがDXであり、ITの力だと思います。

変わらないときこそ、明確な目標、明確なビジョンを持ち、それを行動に落としていく。それが、われわれ企業人としての役割だと再認識しました。

再生可能エネルギーによる経済圏

小泉:民間が主導して変える。これが世界で起きていることですよね。「ノンステートアクター」の役割が大事です。「ノンステートアクター」とは、非国家主体という意味です。自治体や企業、NGO、NPO、一人ひとりの国民もそうです。

企業の取り組みによって気候変動対策がすごく進んだのは、じつはトランプ政権下のアメリカもそうなんですよ。トランプ政権下のアメリカって、気候変動対策に後ろ向きなイメージがあるじゃないですか。とんでもないです!

知事や州政府が、トランプ政権の意向に関係なく、突っ走っています。カリフォルニアは、もうガソリンスタンドを作らないですし、EVの導入も率先してやっています。企業も同じです。アップルといったアメリカを代表する企業は、世界の中でも率先して「2030年までに再生エネルギー100%にします」と発表しています。

iPhoneに対して部品を供給している日本の中小企業にさえ、「もう再生可能エネルギーじゃなければ、ビジネスしませんよ」って言っているんです。これがまさに、先ほどご紹介した豊田章男社長が言った「再生エネルギーが進まなければ、日本の雇用が守れない」現象ですよね。

世界は再生可能エネルギーによる経済圏ができています。こういった企業とビジネスをしている日本の企業が、この状況の変化に気づかないうちに、自分のビジネスが減ってしまう。政治家の立場としては、このような機会損失にならないように、日本国内も変えていかなければなりません。

産業の次世代化。これこそが、再生可能エネルギーの意義を伝えている一つの理由です。

 

:46%削減、さらに高みの50%削減。これは、やらない限り日本経済の維持、発展はないと考えてもいい数字といえますね。

 

小泉:そうなんです。削減目標といっても、多くの方は国の目標だと思われているのではないでしょうか。違います。ビジネスの土台が変わってきています。消費者が変わってきています。ESGやSDGsを考えない企業は、消費者から選ばれなくなるんです。これは国として伝えたいことですね。

環境問題のために企業は何をすればいいのか?

環境問題のために企業は何をすればいいのか?



:ここまでで、危機の共有ができたと思います。次に目標を達成するための課題を洗い出したうえで、何をしていくのかをうかがいたいです。



小泉:意思決定に関わるみなさんに、ぜひ会社でやってほしいことがあります。一つ目が電力契約の確認です。どのような会社と電力契約をしているか。そしてその電力は何か。もちろん、再生可能エネルギーにしてもらいたいです。環境省も2030年までに、使用する電力を100%再生可能エネルギーにすると決めています。

二つ目は、これから自動車を買い換える際には電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を考えてください。国から補助金を出す施策もおこなっています。



:私はよくESG投資やSDGsなどの切り口で、起業家の方とのイベントでファシリテーションを任されることが多いんですけれども、大概出ていらっしゃる方はCSR部門の方や新しく新設したSDGs部門の方々です。

みなさん口を揃えておっしゃるのは「担当になって初めてこの重要性を知りました」ということです。そして「自分の部署を一歩出て、社内に号令をかけると、『なんでそんなことをやらなきゃいけないんだ』『それがどう会社の利益に繋がるんだ』と言われ、意識改革をするのが大変」という、まさに切実な声を聞くんですよね。

こういう状況の中で、企業に文化を浸透させるためには何が必要ですか。

文化を浸透させるために何が必要か?

小泉:身近に存在するプレイヤーが、それを示すことだと思います。たとえば、さきほどトヨタの話をしましたよね。誰もが知っているトヨタが、再生エネルギーがないとビジネスができないと言いました。みなさんスマートフォンを使っていますけど、アップルも再生エネルギーじゃないとビジネスしませんよと言いました。無印良品もペットボトルをやめて、アルミに変えますと言いました。

ほかにも、食品ロスを減らすことは、気候変動対策にもなります。ロイヤルホストとデニーズが環境省と連携をして、食べ残したものは持ち帰る取り組みをはじめました。新しく「mottECO(もってこ)」という言葉を作ったんです。これは、民間のみなさんからの公募で名前が決まりました。「mottECO(もってこ)」には「もっとエコ」「持って帰ろう」というメッセージが込められています。

mottECO

(出典:環境省 mottECOのロゴ。食べ残しを持ち帰ると、美味しくて笑顔、無駄が無くて笑顔、自分もエコに貢献できたことに笑顔、と、人々が笑顔になることを表現したデザイン)



こうした取り組みが進むと、自分たちが当たり前に過ごしてきた日々の中で、見ていた景色が変わりますよね。なんか世の中変わってきたぞ、と。それを企業との連携などで、環境省がやっているんです。



小出:おっしゃる通りですね。環境問題は長期戦になりますので、一人ひとりの行動にいかに落とし込めるかが大事です。日常生活の中で、マインドセットが変わっていく。これの繰り返しだと思うんですよね。

日本が環境先進国になるために

日本が環境先進国になるために



:4月に打ち出された46%の削減に対して、具体的な施策もそろそろ固まって発表される頃になってくるのかなと思いますけれども、現状はどうですか。



小泉:エネルギー政策をまず変える。再生可能エネルギーの導入を一気に増やしていくのは間違いありません。さらに地方自治体との連携を進めます。やはり地方の自治体が一緒に脱炭素の取り組みを進めなければ、これは進まないですから。さらに企業のみなさんとも連携ができるようにしていきます。

最近、環境省はファッション業界とも連携しているんですね。じつは私たちが着ている服の98%が輸入なんです。服を作る中で、大量の水を使う。そして服を輸送するときに大量のエネルギーを使います。さらに、輸入したのに着られないものが半分です。いわゆるファッションロスですね。こういったところに危機感を覚えて、ファッション業界が変わりたいと声を上げているんです。

環境省がタスクフォースを作って勉強会を開催したり、指標作りをしています。こういうことを一つひとつ積み重ねて、日本が国のレベル、自治体のレベル、企業のレベル、個人のレベル、それぞれについて間違いなく経済社会の形が変わってきたといえるよう、進めていきたいと思っています。



:面白いですね。メディアの責任かなと思うのは、脱炭素の話をするときに、指標が非常に乏しいです。お話を聞いていてファッション業界で比率はこうだよねとか、その他の分野ではこういう計算が成り立つよねとか、複合的な指標がある中で目標を出していかなければなりません。これは、まさにデジタルが果たす一番大きな役割のポイントじゃないですか。



小出:デジタルがサポートして、すべてのデータを見える化して、それで進捗を管理していくという原点ですよね。いままでの日本のデジタル化は、何のためにデータを持ってるかというと、何かあったときの記録のためなんですね。つまり”活用”が非常に欠如してるんですね。



小泉:攻めじゃないですよね。



小出:そうなんです。守りのためですよ。そうじゃなくて、世界をリードしてる人たちはデータを”活用”してるんですね。その領域に入っていかなきゃいけない。これがこれからの日本のチャレンジだと思うんです。

私はデジタルの世界に40年近くいます。しかも外資系の会社です。その中で働いていて、日本が環境先進国になるために良い要素がたくさんあると思っています。一つは「状況対応能力」です。戦後の復興も早かったですし、リーマンショックのリカバリーも早かった。東日本大震災からの復興も素晴らしいです。難局を迎えて、それに立ち向かって対応していく能力は、圧倒的に諸外国よりも優れています。

もう一つは「相手を思いやる気持ち」です。この気持ちがないと、環境問題は自分の問題として捉えられません。日本には「思いやる文化」があります。こういう日本の国民性を活かせば、必ず環境先進国になれると思います。



小泉:最近、子どもが生まれて、いま1歳になります。次世代がいまのわれわれが当たり前に享受できているものを享受できるかというと、残念ながら失われるものが見えてしまっています。

私は横須賀という海に囲まれた町が地元なんですけど、気候変動の対策がうまくいかなければ、今世紀中に8-9割の砂浜が日本からなくなると言われています。

将来、子ども世代や孫世代が、砂浜のない横須賀を見る。まさにそれが見えてしまっているんです。全部を防ぎきれないとしても、そのために行動をとったのか取らなかったのか。これが問われると思うんですね。



:未来を作るために、いま動かなければいけないということですね。



小泉:一つ行動を変えると、その次にまた行動を変えるきっかけが生まれます。みなさんも何か一つでも良いので、今日から行動を変えませんか? 

 

イベント:「Salesforce Live: Japan」 主催:株式会社セールスフォース・ドットコム

 

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