さくらインターネットが10年以上お付き合いしているコーチ・エィ社との共催で、『組織の成長ストーリーの裏側 さくらインターネット田中CEOは、なぜコーチをつけ続けるのか』と題して、イベントを実施。
さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕と、担当のエグゼクティブコーチであるコーチ・エィ副社長執行役員の栗本渉氏に話を聞きました。
(写真:左)株式会社コーチ・エィ 副社長執行役員 栗本渉(くりもと わたる)氏
(写真:右)さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中邦裕(たなか くにひろ)
さくらインターネットの成長ストーリーとコーチングの関係
田中邦裕:よろしくお願いします。私は、1996年にさくらインターネットを創業したんですけれども、実はスタートアップ企業の中では珍しく、創業時から24年間、やっているビジネスが変わっていません。
実は私、2005年に上場したときに27歳だったので、日本で4番目に若く上場したのですが、2007年に最速債務超過ランキング4位のスピードで経営危機に陥るという、非常に多難な時期を過ごしてきました。
グラフを見ていただくと、創業から2005年にマザーズに上場するまで成長してきたわけですが、上場したあと、ふっと伸びたものの、2007年に伸びなくなっています。
赤い線の社員数もどんどん減っていく、売上も伸びなくなる、そういった中で、人事にアドバイスいただき、コーチ・エィさんを導入したという経緯があります。その後の成長は、グラフの通りです。
クラウドという今の我々の売上の中心を占めているサービスが始まったのは、コーチ・エィ導入の翌年からなのですが、クラウドはもっと早くやりたかったんです。
この2009年の時点で、専用サーバーというサービスは、どんどんクラウドに食われていました。ただ、さくらでは、専用サーバーがすごく売れていたこともあり、経営判断ができない。
専用サーバーがなくなると、当社は成長しなくなるということになるわけなんです。だから、専用サーバーを守るという判断をしていたのですが、私自身は、どう考えてもクラウドのほうが絶対に伸びるんじゃないかと思ってました。
そんな時に、コーチに問われ、自分自身が何をやりたいのかということを考えたときに、『専用サーバーはどうせ伸びなくなるので、ぜひVPS・クラウドやりたい』というふうな話をしてたのを覚えています。
『じゃあなぜやらないんですか?』とさらに問われて、深く考えていくと、『やらない理由はないな』ということで、クラウドを始めました。
全ての決断は自分がやっていることなんですけど、自分が『やっぱりそのほうがいいのに、でもなぁ・・・』と思っていることを、コーチングを通じて解消できたということがたびたびありました。
2014年には、役職者向けのコーチングプログラムを導入しました。
コーチングを導入した2009年から比べると、当社の売上高も3倍くらいに成長しています。
コーチングとは?
栗本渉:今日はどうぞよろしくお願いいたします。
私、田中さんのコーチングを2009年から担当させていただいておりまして、もうだいたい10年くらいのお付き合いになります。私が最初に田中さんにお会いした時は、ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、技術者という印象がすごくありました。
ただ、コーチングを通じて、マネージャーになり、リーダーになり、そして今では立派な経営者です。そういう印象を日々受けながらコーチングを続けております。
コーチングとは何か、というところを、簡単にご紹介していきたいと思います。
コーチ・エィは、エグゼクティブコーチを専門にやっている会社です。
海外に5拠点ありまして、サービス提供は23ヶ国、5言語でおこなっております。
コーチングって何? と言われれば、自分を客観視するためのもの、というのが一番わかりやすいと思います。
自分のことがわからないと、なかなか変えるきっかけも得られませんので、コーチの存在が必要となります。
もともとは、シリコンバレーで、エリック・シュミット(元Google CEO)のような経営者がコーチをつけていました。
シリコンバレーに行った時、何人くらいコーチがいるのかと聞きましたら、現地のコーチたちが4000人から5000人の間だと言っていました。コーチを取り合ってるんです。
成果をあげたいのであれば、『投資家』と『コーチ』は良い人を用意しないと駄目だという話を聞きました。
そのくらいアメリカでは、コーチングというのがホットなんです。
リーダーはリスクテイカー
なぜ経営者にコーチをつけるのか。それは、やはり経営者が持っている素質と言うのでしょうか、リーダーとしてのリスク、これがあると思います。
リーダーという言葉は、インド・ヨーロッパ語族の語源で『前進して死ぬ』という語源があるそうです。
実際、厄介な問題に囲まれながら、それでも成果を上げなければならない、リスクを負いながら毎日進む、そんな存在がリーダーです。田中さんもそうです。
ただ、経営者の方は、こういうリスクに囲まれた状態で、判断をするときに、どうしても自分の生体反応というか、正しいか間違っているか、良いか悪いか、勝つか負けるか、というふうに、白黒でジャッジをしてしまうものなんです。
そのほうが経営者としては安心できますので、こういう選択を無意識に取ってしまいます。
本当に必要なのは、「止まって観る」能力なのですが、これはなかなか自分だけではできないんです。
本当は、思い込みなどが、あるかもしれません。
あるいは、より多くの視点、いろんなステークホルダーとの議論の中で、見いだせることがあるかもしれません。短期的ではなく、長期的でみたら、違う回答が得られるかもしれないんです。
ただ、こういうことをする余裕もなく、超特急のように走っていくのが、多くの経営者の現実なんです。そこで、我々はブレーキの役割を果たします。
2、3週間に1度のペースで経営者の方とお話をして、実際はどこに行きたいのか、今どういうジャッジをしていて、本当にそれでいいのかということについて、止まって観ていただくんです。
具体的にはこんな質問をしたりします。
- あなたのリーダーの定義は何ですか? それはどこから来るのですか?
- あなたが意思決定するときのパターンは何ですか?
- あなたがリーダーシップを発揮している時とは、どういう時ですか?
- 周りはあなたのリーダーシップについてどう語るでしょうか?
- 次のリーダー候補は誰ですか? なぜその人を選ぶのですか?
特に社長に対して、あえてこういう質問をする人は、職場の中には恐らくいないのではないかと思います。
なので、我々のようなコーチがこの質問をするのです。利害関係がありませんので、安心して話すことができます。そういう意味では思考のパートナーですね。
この仕事をやってみて、すごく不思議だったのが、会社の中で一番忙しい経営幹部がコーチングの時間をキャンセルしないことです。
この時間だけは自分にとって大事な時間だということで、必ず約束通りに時間をとってくださるのです。
コーチングと他のアプローチとの違い
カウンセリングやメンタリング、コーチング、コンサルティング、トレーニングなど、色々手法がありますけれども、下記内容の中で、コーチングは何番目だと思いますか。
- 自分の専門性をもとにソリューションを提供する
- 自分の経験や専門性をもとに、相手を指導する
- 相手に気づきを与えて、潜在能力を最大化する
- カリキュラムをもとに特定のスキルを学ばせる
- 感情的・精神的な病状を治療する
1番目はコンサルティング、2番目はメンタリング、そして、コーチングは3番目です。
気づきや、潜在能力の最大化、自分の持っている能力を最大限に活用できるように引き出すために、コーチがつくんですね。
4番目はトレーニング、最後はカウンセリングになります。似て非なるものですね。
先ほど言いましたように、2、3週間に一度のペースで経営者とお会いして話すのですが、事前にインタビューをしてリサーチをして、コーチングセッションで扱い、また変化があればその変化をリサーチして、それをセッションに持ち込む、といったサイクルで基本的にやっていきます。
時々、周囲の方にインタビューをすることもあります。
ちなみにコーチングは何でもできるわけではありません。
仕組みや制度を変えたい、あるいは課題解決をしたい場合などには、おそらくコンサルがいいでしょう。ただ、仕組みや制度があっても、それを動かすのは人です。
人や関係性をより洗練させたい、課題の解決をできる人を開発したい場合には、コーチングがストライクゾーンだと思います。
コーチングのテーマ
コーチングを具体的にどんなテーマでやるかというと、だいたいこの二つです。
- 自己認識
- 対人関係・聞くスキル・共感
自分が思っている自分と、他者が思っている自分の違いというのがありますが、これが、時にリスクになったりします。
コーチングでは、自己認識を深めて、自分自身を知って、自分に直面していくんですね。田中さんにも、独特の癖があります。「コンフロンテーション」といいますが、ご自身のパターンに直面していただくということをやっていきます。
また、経営者の方は、自分でいろんなことをやってきた人たち多いので、「自分でできてしまう」とどこかで思っているのですが、ある一定の規模を超えると、これが通用しなくなります。
他者を通じて成果を上げていくために、どうやって他人を有能にしていくのかがテーマになります。経営者の方は、ここが意外に開発されていません。
ここの変化を共に作っていくのが主なテーマになります。
また、セッションの中で、経営戦略について話すことはほとんどありません。経営者自身についての話が非常に多いです。
「あなたはどういう人なのか? どういう基準で会社を運営しているのか?」
こういった話が中心になってきます。これが、我々コーチが焦点を当てている、非常にユニークなポイントだと思います。
コーチングをした後に、人としてのエンジンが大きくなっていくというのが、狙うところですね。
そういう意味ではリーダーの開発が、コーチングのテーマになっています。
田中が受けたコーチングの実体験と、その後の変化
この後、田中と栗本氏との対談セッションにより、コーチングがどのようにおこなわれているかという実体験、コーチングのメリットやコーチングで成果を出すための秘訣、コーチングによって田中自身やさくらインターネットがどう変わっていったのかなど、リアルな体験談を、深堀りしていきます。
ハローコーチングのほうで記事にしていただいておりますので、続きは下記の記事で、是非ご覧ください。
執筆
大嵜 昌子
さくらインターネット株式会社 エグゼクティブ・アシスタント。ゲーム会社やIT企業等で、経営企画兼秘書、広報兼秘書という形で秘書業務に携わり、気づいたら秘書歴10年超。現在は、さくらインターネットの社長秘書、エグゼクティブ・アシスタントとして、8年目に入りました。学ぶことが好きで、MBAやワインエキスパート等の資格を取得したり、現在は、大学で心理学を専攻。時々、MC・ナレーター、秘書ライターなども。
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
- SHARE