さくらインターネットからLP出資をしている、ベンチャーキャピタル「THE SEED」General Partner 廣澤 太紀さんを招いて、さくらインターネット代表取締役社長 田中 邦裕と一緒に社内勉強会を開催。
おふたりに「ベンチャーキャピタルとは? スタートアップとは? さくらとスタートアップ 」というテーマで話をお聞きしました。
この社内勉強会はさくらインターネット CS戦略部 スタートアップチームが主催でおこないました。
以前におふたりが対談した、こちらの記事も合わせてご覧ください。
廣澤太紀(ひろざわ だいき)さん
1992年生まれ。2018年9月にシードVCファンド「THE SEED」を設立。現在10数社の若手起業家に投資をしている。
Twitter:@HirozawaDaiki
THE SEEDホームページ:https://theseed.vc/
ベンチャーキャピタルとは?
廣澤太紀さん(以下、廣澤):廣澤と申します。よろしくお願いします。まずは自己紹介をさせてください。出身は大阪で1992年生まれです。大学3年生のタイミングで「East Ventures」というベンチャーキャピタルで働くために上京しました。
そこからシード投資に携わらせていただいています。前職では主にスタートアップイベントを開催したりして、若い起業家を集めて実際に投資をしています。また、投資をさせてもらった会社を支援するようなことをやっていました。
そこから25歳で退職をして「THE SEED」というファンドを設立して今に至ります。 このTHE SEEDのコンセプトは「若い才能が活躍する入り口を作ろう」です。これから日本を担うような才能を発掘して、大きな挑戦の後押しをしていくことをテーマにしています。 そもそも、なぜベンチャーキャピタルファンドが投資する資金を持っているのかをお話したいと思います。
まず僕自身が大金を持っているわけではありません。そんな僕がどうして投資をできるか。それはリミテッドパートナー(LP)と呼ばれている投資家の方々が出資をしてくださるからです。出資していただいてお預かりしているお金を、投資判断基準に基づいて投資実行しています。
ベンチャーキャピタルはスタートアップに投資して、スタートアップの株式を対価として受け取ります。投資先が上場したり、他の会社に買収されたりすると、投資したときとは違った株価がつきます。その株価との差分がファンドのリターンになるので、このリターンを出資してくださった方々にお返しするという仕組みです。
スタートするタイミングでさくらインターネットから出資
廣澤:THE SEEDがスタートするタイミングで、さくらインターネットさんから出資をしていただきました。僕にとっては最大額を出資してくださって、それがある種の呼び水にもなり、他の企業さんも出資してくれたのです。
投資する会社を探すために、具体的になにをしているのかお話します。THE SEEDの場合は若い才能を発掘したい、スタートアップの入り口になりたい、という思いが強いです。なので、「ミートアップ」と呼ばれるオフラインイベントをたくさん開催しています。
写真の右側が大阪で開催したイベントです。これは、さくらインターネットさんの大阪オフィスで開催しました。こうした学生を対象にしたイベントを東京(渋谷)、大阪、京都の3拠点で開催することが多いです。
最近はコロナの影響もあり、オンライン配信でのイベント開催もしています。
若い才能を発掘することが大きなコンセプトなので、全国の学生にリーチしたいなと思っています。
関西エリアへ注目する理由
まさにさくらインターネットさんから出資をしていただいた背景の大きなところでもあると思うんですけども、若い才能を発掘するっていうことが大きなコンセプトで、そのなかでも特に関西エリアは投資家的に見て、ポテンシャルに対して資金の供給量が足りないと思っています。
実は大学生の学生人口は東京都が全体の約26%を、分かりやすかったので大阪・京都・兵庫だけを関西エリアとして計算してみると、関西は約18%の学生が密集しているエリアです。京都大学や大阪大学、関関同立といわれるような名門私立大学もあります。
そのいっぽうで、資金調達の割合を見たら、東京都に対して1割ほどの社数にとどまっています。
なので積極的に関西でイベントを開催して、スタートアップを普及することをしています。
まだ目立っていない本物の若い経営者を生み出すきっかけになりたい
最後に僕がとても好きなブログの記事を紹介させてください。
水野敬也さんが書いた「今はまだ埋もれている本物の経営者へ」というタイトルの記事です。この記事では「どういう人が本物の経営者なのか」を水野さんの解釈で書かれています。
本物の経営者ということを定義してくれたというか、なんとなくモヤモヤっと言葉にできなかった部分を書いてくれているんですね。そういう本物の経営者を生み出すきっかけになり得るのが、僕のファンドだと思って投資をしています。
僕のファンドはさくらインターネットさんや、他の事業会社などから出資していただいていて、現在5億円を運用しています。このお金が本当に意味のあるお金になるためにも、まだ見出されていない才能を見つけて、そこに投資して彼らが大きく世の中に影響を与えていくために使いたいと思っています。なので必死で投資先を探し、投資先と向き合っています。
さくらインターネットとスタートアップ
ーー廣澤さんにVCやTHE SEEDについてお話しいただきました。続いては田中さんに、スタートアップのことをどう考えていて、今後どのような世界を作っていきたいのかを聞いていきます。
田中邦裕(以下、田中):みなさん投資や出資って、特別なことだと思っていませんか? 廣澤さんには億単位の出資をして運用してもらっていますが、うちの会社ってサーバーを年間30-40億も買いますよね。廣澤さんへ出資することも、サーバーを買うことも一緒だと思ったらいいです。
自社サービスの中にも、ポートフォリオといわれるたくさんの投資先があります。クラウドだけだとクラウドがこけるとまずいし、VPSだけだとVPSがこけるとまずいし、たくさんの投資先を持っておかずに、1本足だと全部こけてしまうわけですよね。資金をどういう形で分配するかというだけの話です。
投資とか出資っていうのは自社でサーバを買うのも、ファンドに出資するのも、事業会社に出資するのも、大して変わらないと思ってください。そんなわけないだろうと思われると思いますけれども実は一緒です。
さくらインターネットのお客さんには、スタートアップ企業が多いです。スタートアップ企業のうち、もしも10社に1社しか成功しなかったとしても、その1社がサーバーを100倍・1000倍借りてくれればさくらの売上にも繋がります。スタートアップへの支援には、そうした狙いもあるんです。
最近のスタートアップってクラウドサービスやWebサービスを事業にする会社が多いですよね。そういう会社さんたちを支援して出資することで、その会社さんたちが成長すれば、サーバーのサービスが伸びていくわけです。
さらに支援している会社が上場したり、他の会社に売却されたら、それ自体でも収益が得られます。2段階でレバレッジが効いていくと非常にいいな、と考えております。
さくらインターネットもスタートアップ企業
田中:スタートアップ企業への支援について話してきましたが、さくらインターネットもスタートアップ企業なんです。10月12日で上場して15年になりました。15年もちゃんと増収を続けられるスタートアップってなかなか珍しいですよ。
さくらインターネットもスタートアップなので、事業で得られた資金を次のスタートアップのために使いたい、純粋に応援したい気持ちもあるわけなんです。応援したうえで、その人たちが成功すると、さくらのサーバーが売れ、投資もバリューアップするんですね。
また応援した会社が世の中に出した価値によって、世の中も良くなる。こういった三方よしのため、非常に重要な、そしてシンプルな手段がスタートアップへの投資だと考えております。
世の中を変えるのは「よそ者・若者・バカ者」って話がありますが、若者って年齢的に若いだけじゃなくていいと思うんですよ。精神的にだったり、考え的にだったり、とにかく新しく参入する人こそ、世界の常識を壊してくれるわけです。
だからこそ、新しい参入者を常に歓迎することが必要だと思います。
事業会社とスタートアップ
ーー廣澤さん、田中さんありがとうございました。続いてですが、廣澤さんはさくらインターネット以外にもLP出資を受けている事業会社があります。廣澤さんが思う「事業会社とスタートアップの関係性」で良いなと思った話をお聞かせください。
廣澤:さくらインターネットさん以外に、数社の事業会社から投資をしていただいています。
THE SEEDに出資していただいた会社さんに共通して言えることは、スタートアップへの理解がものすごく高い方がフロントに立ってくださっていますね。おそらくこれからもファンドだったり、起業家から選ばれる事業会社だろうなと思っています。
例えばさくらインターネットさんの場合だと、スタートアップチームの油井さんと秋元さんがフロントに立ってお話をしてくださっています。コミュニケーションの量が多いんですが、それをストレスに感じないんです。普通、出資してくれてる会社さんから連絡が来ると、なんて言うか……背筋を正してしまうと思うんです。
でもスタートアップチームのお二方とお話をさせていただいていると、さくらインターネットとしてTHE SEEDやその投資先に何ができるか活動の趣旨を正確に理解した上でのご提案ばかりです。具体的に中長期的にこの活動をすることで、会社のプラスになると思っていると言ってくれる方なんて、なかなかいないです。
そう考えると、御社の体制などがすごくしっかりできているのかなと、勝手に思っています。
他の出資してくださっている事業会社の方々も、同様にTHE SEEDの活動にご理解いただき、支援していただいております。
話をしていて「ここまでこういう形でいいから、やってもらえるとうれしいんだけど、どう思う?」という感じで、率直に言い合えるコミュニケーションをしてくれています。自社としてやってほしいこと、が定義できていることが本当に素晴らしいと思っているんです。
それができている事業会社は、スタートアップからもVCファンドからも選ばれる方々なんだろうと思います。
あとは、ファンドの結果がしっかり出て、THE SEEDを支えたのって誰だっけと振り返る時に、担当された方の名前があがり、評価されるようになるとうれしいなと思っています。
なぜTHE SEEDにLP出資を決めたのか
ーー続いては、なぜTHE SEEDに出資を決めたのかを田中さんに聞きたいと思います。
田中:大阪で活動する若者、というのが最初のきっかけです。人の繋がりって重要だと思うのですが、たまたまさくらインターネット大阪本社が入っているグランフロントにあるイノベーションハブに行ったんですね。
そこで関西経済同友会のみなさんと「どうして大阪にはベンチャーキャピタルが少ないのか」という話になりました。さくらインターネットって本社は大阪で、大阪で資金調達して、大阪で上場した、大阪の企業じゃないですか。あのときは大阪にもベンチャーキャピタルがあったんですよ。そう考えると、あらためて大阪にベンチャーキャピタルが必要だなと思いました。
そんなときに大阪でベンチャーキャピタルを立ち上げようとしている若者がいるって噂を聞いたんです。それが廣澤さんなんですけども。どこかでコンタクトを取ろうと思ったら、たまたまインフィニティ・ベンチャーズ・サミット(IVS)で登壇したときに、廣澤さんも登壇していたんです。そこで佐俣アンリさんが紹介してくれました。
そのときに「うちが一番たくさん出資します」って話をしましたね。そのときはまだ、法人からの出資がなくて実績がないんですということでしたが、実績がないんだったらやっぱり最初に一番多く出資させてもらおうと思いました。それで億単位で出資したんですよね。
THE SEEDの投資先スタートアップ
ーーさくらインターネットがLP出資をしているTHE SEEDですが、どのようなスタートアップに投資をしているのか教えてもらえますか。
廣澤:THE SEEDのストーリーにも当てはまっていて、わかりやすい投資先と思っている New Innovationsという会社をご紹介します。
この会社は中尾 渓人(なかお けいと)さんが18歳ではじめた会社です。中尾さんと出会ったときには、前職を辞めて、THE SEEDを準備してる時期でした。これから作るというときに大阪でイベントをやったのですが、そのときにスタッフとして手伝ってくれたのが中尾さんです。
中尾さんはロボカップの世界大会に2度出て、2度入賞しています。ロボカップの世界大会に参加するための費用や、いろいろなロボットを作りたくてその費用の捻出のために、受託開発をしていたんです。
和歌山から大阪に出てきたところの中尾さんは、スタートアップや起業について教えてくれる人もいない中で、自分で考えて受託開発の仕事をしていました。でも、世の中にプロダクト、会社を残したいという話を言っていたんですね。そこで「投資するから一緒にやろうよ」と言い、出資をさせていただきました。
投資から2年が経って、今はAIカフェロボット「root C」という事業を作っています。徐々に大きい会社に導入していただいていますね。
3年前は受託開発の仕事をしている和歌山の少年だったんですけど、それが資金調達をしてプロダクトを作って、トライアンドエラーをして……。 出会ってから、短期間でも大きく変化される方で、偉大な経営者に近づいていくプロセスを応援させてもらっているんだと感じます。
まさに中尾さんへの投資は「18歳のときの田中さん」に投資をしているイメージです。きっとこれが創業から10年15年たってきたら、東証一部に上場するような会社になっていくと信じています。