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2020年代になって、広く一般化した電子契約。電子契約の登場によって、書類のやり取りなどの手間や、印紙代のコストを省いて契約を締結できるようになった。
そんな電子契約を国内で広めてきたのが、弁護士ドットコム株式会社(以下、弁護士ドットコム)の運営するサービス・クラウドサインだ。2015年10月のリリース以降、着々と顧客を増やし、現在では三菱地所株式会社や東京海上日動火災保険株式会社、ソフトバンク株式会社など、名だたる大企業が利用するサービスに成長している。その進歩と国内での電子契約普及の裏側について、クラウドサインの製品責任者を務める安藤 陽介さんに聞いた。
電子契約の普及は、日本の商慣行を変える挑戦
2005年に創業した弁護士ドットコムは、法律の専門家である弁護士の力を、それを必要としている人々に届けることを生業にしてきた。成長を続け、2014年に上場を果たした同社が、次のビジネスとして目をつけたのが電子契約だ。
多くのビジネスパーソンが直面してきたであろう、契約業務のわずらわしさ。それを電子化できれば、押印や製本、書類のやりとりといった手間を削減できるため、生産性アップは間違いない。だが、専門家の力なくしては難しい取り組みだった。同社のメンバーはそこに自らの役割があると考え、まだ電子契約が一般的ではない時代に、クラウドサインを立ち上げた。
「電子契約の普及は日本に根付いた商慣行を変えていく取り組みで、さまざまな苦労がありましたが、サービスは順調に成長を続け、来年2025年にリリース10年目を迎えます。リリース当初のクラウドサインは、電子契約を締結できるだけのサービスでしたが、現在では契約情報の管理やAIによる契約書面のレビューなど、機能を拡充しています」
いまでは、三菱地所株式会社や東京海上日動火災保険株式会社、ソフトバンク株式会社など、多種多様な大企業がクラウドサインを導入している。導入先の企業・自治体の数は250万以上に及び、契約書の送信件数は2023年に2,000万件を超えた。商慣行の変革という同社の挑戦は、成功しているといえよう。そして、その挑戦は現在も進行中だ。
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熱心な電子契約の普及活動で、国が動いた
クラウドサインの歴史のなかで、もっとも大きな変化があったのは2020年のことだった。コロナ禍真っ只中のこの年、同社の活動は国をも動かしたのだ。
クラウドサインは、契約者がクラウド上でおこなった電子署名を、弁護士ドットコムが国の認証局に代わって付与・認証する「事業者署名型」の方式をとっている。これは海外では主流な電子署名の流れだが、サービスリリース当時の日本の電子署名法に準拠しておらず、いわばグレーゾーンなやり方であった。
「従来、電子署名法に準じた形の電子署名をするには、契約者自らが電子署名を契約書に付与しなければなりませんでした。第三者の認証局による認証を経なければならないなど、膨大な労力と、専門的知識が要求されました。クラウドサインが採用している方式を取り入れることで、その手間は省くことができますが、企業によっては電子署名法に準拠していないという点は導入のハードルになることもありました」
コロナ禍で電子契約の必要性が高まるなか、国でも動きがあった。同社は電子契約サービスのトップベンダーとして意見交換を続け、その取り組みは結実。2020年、総務省、法務省、経済産業省の連名で、法解釈を変更するとの発表がなされた。クラウドサインは、電子署名法に準拠した電子契約サービスとなったのだ。
かくして電子契約普及のボトルネックは解消され、クラウドサインは大きな成長を遂げた。導入した企業・自治体の満足度は高く、契約における手間の削減やコストカットに加え、契約書を紛失する恐れがなくなったことなどを喜ぶ声が多いという。
契約業務をもっとシンプルかつ安全に
安藤さんはクラウドサインの今後について、「契約に関する業務のすべてを電子化できるサービスにしたい」という。現在クラウドサインが電子化しているのは契約書に限られており、契約に紐づいて発生するその他の書類まで網羅できていないからだ。
「電子契約は、いまでは当たり前の存在になりました。これからの課題は、稟議書や請求書など、契約に関係するその他の書類との連携です。より多くの企業・自治体に電子契約を導入してもらうには、それらの書類を発行するシステムとの連携が必要不可欠になります。契約は、あくまで1つの取引の形にすぎません。契約をする前後の業務も、クラウドサインでまとめて管理できるように、開発を進めていきたいと考えています。それを通して、契約という業務を、もっとシンプルかつ安全なものにしていきます」
安藤さんが思い描く未来の契約の形は、書面によるものだけにとどまらない。口頭での合意や、書面にまとまっていないデータについても、改ざんできない記録として内容を保証し、契約を完了できるような仕組みをつくれないかと考えているという。筆者も1人の仕事人として、生産性アップにつながるであろう、商慣行のさらなる変革に期待せずにいられない。
デジタル化のコツは、目的意識と失敗を恐れない勇気
取材の終わりに、デジタル化において大切なことは何か、安藤さんに聞いた。すると、デジタル化にあたって大切な、意識の持ち方について教えてくれた。
「デジタル化の推進にあたって、大切なことは2つあります。まずは、目的意識を持つことです。何を目的としてデジタル化をするのか。業務の効率化や、顧客満足度の向上など、具体的な目標を設定する必要があります。デジタル化そのものを目的化してはいけません、もう1つは、失敗を恐れないこと。デジタルツールの導入は物理的な設備投資ではないので、失敗のリスクは高くありません。また、さまざまなデジタルツールを試してみることで、学べることはたくさんあります。勇気を持って、最初の一歩を早めに踏み出すことをおすすめします」
クラウドサインは、契約業務を効率化するという、大きな目的を持って生まれたサービスだ。来年でリリースから10年目を迎え、多くの企業や自治体からの支持を集められているのは、開発陣がその目的をブレることなく追求してきたからにほかならない。
また、クラウドサインは最初の一歩を踏み出すのも早かった。電子契約が一般的ではない時代に、他社に先駆けてサービスを立ち上げたからこそ、業界をリードする存在にまで成長できたのだ。クラウドサインのこれまでの軌跡には、あらゆるデジタル化に通底する真髄が隠れている。
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執筆
畑野 壮太
編集者・ライター。出版社、IT企業での勤務を経て独立。ガジェットや家電など、モノ関連の記事のほか、ビジネス系などの取材を多く手掛けている。最近の目標は、フクロウと暮らすこと。
Website:https://hatakenoweb.com/
※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。
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