自動運転技術を活かした歩行速モビリティ「RakuRo」が目指す、ロボットのある日常

「働くロボット」が自動運転で街中を走り回る未来。SF の世界のように感じるこんな未来が、じつはもうすぐそこまで来ていることをご存じだろうか。株式会社ZMP(以下、ZMP)では自動運転技術を軸に、歩行速モビリティ「RakuRo🄬(ラクロ🄬)」をはじめとした、さまざまなロボットを手がけている。ロボタウン事業部 セールス&ビジネスデベロップメント  マネージャー 池田 慈さんに、RakuRo の特長や活用シーン、今後の展望を聞いた。

池田 慈さん(いけだ しげる)さん プロフィール

慶應義塾大学商学部卒。複数のベンチャー企業で営業を経験後、株式会社ZMP に入社。現在はロボタウン事業部にて、生活圏で活躍する 三兄弟ロボット の営業および事業開発を担当。

着目したのは「歩行速」!  自動運転技術でマーケットをひらく

ZMP は、ロボットと人が共存する街「ロボタウン」をコンセプトに、自動運転技術を活かしたロボットを開発・展開しているメーカーだ。

 

代表的なロボットは、歩行速モビリティの「RakuRo」、無人宅配ロボットの「DeliRo🄬(デリロ🄬)」、無人警備・消毒ロボットの「PATORO🄬(パトロ🄬)」の 3つ。あわせて“自動運転歩行速ロボット三兄弟”と呼ばれている。なぜ、歩く速さで自律走行するロボット開発をメインにしているのか、その理由を池田さんに聞いた。

 

「もともとは自動車での自動運転の領域に参入していて、2014年には日本で初めて自動車の自動運転の実証実験も開始していました。しかし、自動車の自動運転は法規制が厳しく、まだまだ実現まで遠い状況です。法のハードルがあるなかで、せっかく開発した自動運転技術を活かせるマーケットはないかと探し、直近で市場が開けそうな領域に事業をピポットさせていきました。そのなかで着目したのが、『時速6キロまでの低速領域』でした」

 

自動運転歩行速ロボット三兄弟の RakuRo は、電動車いすとして公道(歩道)を移動することができる新しい乗り物だ。「車いす」といっても、脚に障がいのある方だけのものではなく、若者から高齢の方までだれもが自動運転での移動を楽しむことができる。

自動運転を体験! RakuRo で公道を走ってみた

ZMPオフィスから出発する RakuRo

「実際に乗ってもらったほうがよくわかると思います」と、池田さんに RakuRo の乗車体験を案内いただいた。小石川にある ZMP から播磨坂さくら並木の坂道を登り、Uターンして帰ってくる 10分ほどのコースだ。

包み込まれるような安心感のあるシートに座る

最大時速6㎞で走る RakuRo は、人の早歩きと同じくらいのペース。となりを歩く池田さんと会話しながらゆったりと歩道を進んでいく。座っているので、目線の高さは小学生の子どもくらい。普段の街も、この目線で散歩することで新鮮さや新たな発見がありそうだ。

RakuRo 乗車時の目線の高さ

自動運転ではない乗り物の場合、乗車中にスマートフォンやカメラを操作することは危険だ。しかし、RakuRo は自動運転なので、観光客がスマートフォンで動画を取りながらお花見を楽しんだり、ゴーグルをつけて AR(拡張現実)を体験したりすることもできるという。

 

そのぶん、安全性能は抜群。赤信号は RakuRo が画像で検知し、横断歩道にはみ出ることなく歩道で停止する。

信号を待つ RakuRo

信号も自動で判断して停止できる RakuRo だが、人が飛び出してきたときはどうするのだろうか。「試しに前に立ってみてください」と促され、RakuRo を降りて、目の前で道をふさいでみる。

涙をいっぱいにためる RakuRo

すると RakuRo はすぐに停止し、涙目で「道をお譲りください」と声を発して訴えてきた。ロボット相手だとしても泣かれてしまっては申し訳ない気持ちになり、道を譲りたくなってくる。

 

ZMP代表の谷口氏は、「人との共存」をキーワードにするうえで表情や声の調整に強いこだわりを持っていて、ロボットデザインのためにわざわざ芸術大学に入りなおしたほどだという。RakuRo など ZMP製ロボットの豊かな表情は、ロボットが社会に受容されていくための機能的な側面だけでなく、遊び心もある、ユーモラスなデザインばかりだ。

兄弟ロボットのDeliRoの、さまざまま表情パターン

RakuRo の試乗体験は、まるで近未来の観光ツアーのようだった。電動車いすの見た目をしているものの、高齢の方や脚に障がいのある方だけがターゲットではない。だれにとっても「非日常」の特別な体験ができる、新しいかたちの移動手段だと強く実感した。

「非日常」の積み重ねで「日常」になる日を目指す

RakuRo を体験したユーザーからは、「感動しました」「未来を感じました」という声がよく上がる。一方で、RakuRo をはじめとしたロボットが、人と”あたりまえに”共存する未来を目指す ZMP にとっては、まだまだ目標は遠く感じるという。

 

「ロボットを使うことが『非日常体験』であるという状態では、まだイベントごとでしか活用できないんですよね。たとえば、イベントで乗るのはいいけれど、RakuRo でスーパーに買い物に行くのは心理的なハードルが高いという人はいるでしょう。また、イベントなら 1,500円払えるけれど、交通インフラになった途端に 300円も払いたくないという感情が湧く人もいるかもしれません。技術はあっても、感情論の部分でまだまだ『日常』として受け入れられていない現状があるんです。しかし、『非日常』も積み重ねていくと、多分どこかで『日常』になる日が来る。だから私たちはまずビジネスとして『非日常』を提供しながら、移動インフラのマーケットを開拓しようとしているところです」

 

とはいえ、5年後、10年後の日常を見据えて、ビル建て替えや再開発のタイミングなどに、RakuRo の導入を進める大手デベロッパーや自治体なども多い。数年後には新たなロボタウンがいくつか生まれているかもしれない。

 

一方、非日常のエンターテインメントとして、観光目的で RakuRo を導入するパターンも増加している。動物園、城、お花見スポットなどで導入され、日本人にはもちろん外国人にも目新しさがあるそうだ。

 

「初めは無償で乗れる実証実験が多かったですが、現在は利用料をいただいて、収支を算出し、費用対効果を見ていくフェーズに入った施設もあります。観光・集客目的などの非日常の領域では、利益が出るビジネスモデルだという認識が企業に浸透してきました」

 

ZMP は非日常と日常、2つの軸でいまと将来を見据えながら、ロボタウン実現に向けて着実に歩みを進めていく。

机上の空論では始まらない。DX はまず使ってみることから

池田さんは最後に、DX推進の考え方について教えてくれた。

 

「まずはサービスを試して、使いこなせるようになることが大切だと思います。机上の空論で、ロボットの絵を眺めてアイデアが降ってくるならだれも苦労しません。アイデアを具現化し使ってみることで、自社ではどうオペレーションできるのか、どんな付加価値をつけられるのかが見えてくるものだと思います。ある程度覚悟をもって、一定の時間とリソースを投下していかなければ、最終的に DX は実現できないと思いますね」

 

ZMP で RakuRo などのロボットを提案するときも、「実機で試すか試さないか」には雲泥の差があるという。

 

「実機で試すプロセスに入れば、『もっとこうしたい』『やっぱり違う』など、お客さまのほうからどんどん意見やアイデアが湧いてきます。ここまでくればもう、お客さまが自走していけるフェーズですね」

 

スマートフォンを持つことがあたりまえになったいま、機種自体だけでなく中身であるアプリケーションや機能が重視されるようになった。今後、ロボットが日常になっていけば、求められるのはその「中身」になるだろう。ロボットを売るのではなく、ロボットを使ってどう一緒にサービスをつくっていけるか。ZMP はロボットを介して、企業の DX推進や新たなサービスづくりに貢献していく。

 

株式会社ZMP