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キャッシュレス決済の「駅弁自動販売機」でエキナカDX

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JR大阪駅の構内に、駅弁の自販機が設置されているのをご存じだろうか。ロッカー型の冷蔵自動販売機に駅弁が収納されており、正面の液晶ディスプレイをタッチしてキャッシュレスで購入。決済が完了するとロッカーの扉が開き、お弁当を取り出せる仕組みだ。
この駅弁自動販売機は、西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本)が企画し、グループ会社の株式会社ジェイアール西日本フードサービスネット(以下、フードサービスネット)が運営している。導入の背景やエキナカ開発の取り組みついて、JR西日本 近畿統括本部の和田 美知子さんと、フードサービスネットの岸本 和夫さんに聞いた。

和田 美知子(わだみちこ)さん プロフィール(写真左)

西日本旅客鉄道株式会社 近畿統括本部 経営企画部(事業)所属。
2019年に入社し、約1年間、駅係員として改札業務などに従事。京阪神エリアにおける物販飲食事業を運営するグループ会社への出向を経て、2022年より、現部署にて駅構内店舗の開発業務等を担う。

岸本 和夫(きしもと かずお)さん プロフィール(写真右)

株式会社ジェイアール西日本フードサービスネット 店舗事業本部 リテール事業部 旅弁当グループリーダー。学生時代に駅弁配送のアルバイトをしたことがきっかけで、駅弁会社に就職。営業や店舗管理、催事運営をはじめ、他地域の駅弁会社にて製造や経理などの店舗運営業務にも携わる。関西の駅弁会社において品質管理・統括業務等を経て、2022年10月より、現部署にて弁当店舗の運営管理を担う。

初日は121個を販売!新ホーム開業の相乗効果も

JR大阪駅うめきた地下口改札内コンコースに設置された「駅弁自動販売機」

「駅弁自動販売機(以下、駅弁自販機)」がJR大阪駅構内に設置されたのは、大阪駅うめきた地下口の開業日である2023年3月18日だ。JR大阪駅では、旧梅田貨物駅があった区域である「うめきた」エリアの開発を2002年頃から進めており、 その開発の一環として、新改札「うめきた地下口」を開業。同時に関西空港や和歌山方面からの特急が停車する地下ホームが新設され、おおさか東線の乗り入れも開始した。

駅弁自販機があるのは、在来線との乗り継ぎルートとなる、うめきた地下口改札内コンコースの21・22番のりばエスカレーターの近くだ。自販機内には、「神戸のすきやきとステーキ弁当」や「あなごめし弁当」などのバラエティ豊かな駅弁が並ぶ。

販売初日は、予想を上回る反響だったと和田さんは語る。


「自販機には計18個の駅弁が収納されています。当初は2〜3回転くらいの売上を予想していたのですが、初日は121個と、想定を大きく上回る個数をご購入いただきました。新設された地下ホームを見学に来られた方が、駅弁自販機の存在に気づいてくださった影響と考えています」(和田さん)


うめきた地下ホームには、列車の乗降位置にあわせて自由に開閉する「フルスクリーンホームドア」や、先発・次発列車の案内が表示される「デジタルサイネージ」が設置されている。これまでにない近未来型の駅ホーム設備と同時に、駅弁自販機の認知度が高まったのだろう。


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「インタラクティブ空間」にマッチした自動販売機を追求

京都駅や新大阪駅など、関西エリアで見かける駅弁販売店の公式ロゴを自販機に採用

「自販機」と聞くと飲料の販売機を想像するが、この駅弁自販機には、一般的な自販機とは大きく異なる点が2つ存在する。1つは、その見た目だ。駅弁自販機は横長のロッカー型であり、取り出し口がない。支払いを済ませると、購入した弁当が入っている扉が自動的に開く仕組みだ。弁当の種類や在庫の有無は外から見えるようになっており、在庫があるロッカーは青い光で照らされている。

青くほんのりと光るロッカーに、一つずつ駅弁が収納されている

駅弁自販機のすぐ近くには、幅14m×高さ3.3mの大型プロジェクションスクリーンが設置されていて、両サイドのタッチパネルを操作すると記念撮影用の扉が画面に表示されるなど、デジタル演出を楽しむことができる。この場所は「インタラクティブ空間」と名付けられ、JR西日本が取り組む、うめきたエリアのイノベーションの1つだ。この空間に相応しい機器を導入したかったと和田さんは語る。


「うめきた地下口のコンセプトである『インタラクティブ空間』にマッチすることが前提でした。透明な窓から駅弁のパッケージを視認し、ディスプレイをタッチして購入できる革新的な仕組みが、この空間にぴったりだと考えたのです。商品詰まりのリスクがないロッカー型を候補に、冷蔵ロッカー型DX自販機を手掛ける株式会社マースウインテックにお話をうかがい、『見える駅弁自販機』の導入を決めました」(和田さん)


もう1つの違いは、購入方法だ。駅弁自販機の中央部分には大きなタッチパネルがある。そこで買いたいお弁当の写真をタッチし、クレジットカードや電子マネーなどの希望する決済方法で支払いを済ませる。すると選択した番号のロッカーが自動で開き、駅弁を受け取れるという流れだ。なお、支払い方法はキャッシュレスのみで、現金には対応していない。


「決済方法は、クレジットカード・QRコード・交通系ICカードと幅広く対応しています。完全キャッシュレスにしたのは、新しいチャレンジに対するお客さまの反応を探る目的もあります。いまのところ、現金が使えないことによるネガティブなご意見は頂戴しておらず、無人化により現金回収の手間も省くことができました」(和田さん)


コロナ過を経て、冷凍餃子など食品を扱う自販機があちこちに設置され認知度も高まりつつある。キャッシュレスでスピーディに駅弁を購入できる仕組みが、時代のニーズにも合っているのだろう。

キャッシュレス決済完了後、扉が開く仕組み

では、駅弁のラインナップはどのように選定しているのだろうか。


「近隣の駅弁から売れ筋をピックアップし、常時9種類ほど揃えています。朝食向けの軽めのお弁当から、お肉が入った食べ応えのあるもの、お酒のおつまみにも適したおかずの種類が豊富なお弁当まで、なるべく幅広いニーズに合うよう選んでいます。また、ロッカーの中に収納できるサイズであることも条件の1つです」(岸本さん)


飲料と異なり、駅弁の消費期限は当日の24時だ。食品ゆえに徹底した管理体制を敷いていると岸本さんは話す。


「消費期限を考慮して、自販機での販売は朝7時から夜の22時までとしました。また設定温度は、ご飯をおいしく味わえる15〜20度にキープするよう調整しています。そして、毎日決まった時間に補充と回収をおこない、万が一に備えて監視体制も徹底しています。このような点は有人店舗にはない部分で、スキームを構築するまで苦労しました」(岸本さん)

お客さまの利便性を考え、計画にはなかった駅弁自販機を設置

駅弁といえば、ショーケースにずらりとお弁当を並べ、店舗で対面販売するのが一般的だ。そもそもなぜこの場所に、無人の駅弁自販機を設置することになったのだろうか。


「当初は飲料の自販機のみ設置する予定でした。しかし、特急はるか・特急くろしお・おおさか東線が大阪駅へ乗り入れる時期が近づくとともに、駅弁を楽しみにされているお客さまが多いのではという声が社内から上がったのです。うめきた地下口付近には、お弁当を買えるお店が近くにありませんでした。そこで、早朝に特急列車を利用される方、在来線から乗り換えされる方の利便性を考え、駅弁を購入できる環境を急遽つくることにしました」(和田さん)


駅弁販売店舗を構えるスペースがなく、どのくらい売れるのか未知数だったことから、有人店舗ではなく無人の自動販売機を導入することになったという。京阪神地区の駅弁を含む、物販飲食を取り扱うフードサービスネットの岸本さんは、完全無人の駅弁販売についてどう思っていたのだろう。


「駅弁はお客さまにおすすめをお伝えしながら、対面販売するのが当たり前だと思っていました。本当に自動販売機でお弁当が売れるのかと半信半疑だったんです。ところが、初日から予想以上に売れて本当に驚きました。在庫状況は、パソコンやスマホでリアルタイムにモニタリングできるのですが、1日の販売個数はまったく予想できません。設置当初は現地に何度も足を運び、補充をおこないました」(岸本さん)

駅弁自販機の近くには飲料の自販機も設置されている

駅弁自販機の導入から約1年半経った現在の状況について和田さんに尋ねてみると、時間帯やタイミングによっては品切れになることもあるほど好評だという。


「一番売れる時間帯は朝の7時台です。近隣の店舗がまだ開いていない時間なので、より需要があるのだと思います。ほかにも、お昼頃や20時以降も比較的よく利用されていますね。海外・国内問わず、さまざまなお客さまにご購入いただいています」(和田さん)

「グッジョブ!」な成果を生んだ駅弁自販機

タッチして駅弁を購入できるワクワク体験は、家族連れだけでなく大人にも好評だ。物珍しさからSNSで話題になり、駅弁を購入する様子を撮影した動画がいくつも投稿されている。一方で、社内の反応はどうだったのだろうか。


「別の支社からスキームについて問い合わせがあったり、社内からも『見たよ』と報告を受けたりしました。グループ会社からも運用や売上状況について問い合わせがあり、大きな反響を実感しています」(和田さん)


関連会社からの反響だけではない。和田さんは、JR西日本ならではの文化「グッジョブカード」により、上司や同僚から成果を称えられた。これは仕事で成果を上げた個人に文字通り「グッジョブ!」という気持ちを込めてカードを渡す制度だ。


「お客さまにエキナカ空間を楽しんでいただける仕組みをつくれたこと、2024年7月末の大阪駅西口直結の新駅ビル『イノゲート大阪』をはじめとし、今後控えているうめきたエリアの新商業施設開業前に、ちょっとした立ち寄りスポットを新改札内につくれたこと、また、会社の売上に貢献できる仕組みを構築できたことを大変うれしく思います」(和田さん)


JR西日本の乗務員からも、前向きな反応が多数寄せられていると和田さんは語る。うめきた地下口の近くは、夜食を購入できる店舗がなく困っていたのだ。駅弁自販機の近くには飲料の自販機も設置され、食べ物と飲み物が1か所で手に入る便利なスポットになった。おいしい駅弁を行列に並ばず手軽に買える点も、大きなメリットといえるだろう。

JR西日本グループ全体で連携してDXを推進していきたい

駅弁自販機や顔認証ゲートなど、うめきたエリアを中心に積極的にDXを推進するJR西日本。最後に、今後の展望を聞いた。


「駅は電車に乗る場所であると同時に、自然と人が集まってくる場所です。新商業施設のオープンに伴い、うめきた地下口の利用者はますます増えていくことが予想されます。駅という限られたスペースのなかで、いかにお客さまに楽しんでいただくか、より便利にご利用いただけるかを考えるのが私たちのミッションです。今回の駅弁自販機のように、たとえば無人店舗などDXを活用した仕組みを積極的に取り入れ、グループ会社のみなさまと連携しながら、多くのお客さまに喜ばれる新しいコンテンツを企画、提供していきたいと思います」(和田さん)


2024年7月31日には、大阪駅西口改札直結の商業施設「KITTE大阪」と「イノゲート大阪」の一部が開業した。同年9月にはグラングリーン大阪の先行まちびらきを控え、うめきたエリアは以前にも増して賑わいを見せている。今後も進化をつづけるエキナカに期待したい。

西日本旅客鉄道株式会社


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執筆

香川けいこ

大阪市在住のフリーライター。暮らし・食・登山に関する執筆や取材、編集に携わる。趣味は街歩きと山登り、アニメ鑑賞。
HP:https://yoiko.site/

※『さくマガ』に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。

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